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ようこそ劇場へ! Welcome to the Theatre!

熟年オジサンの映画・観劇・読書の感想です。タイトルは『イヴの総て』のミュージカル化『アプローズ』の中の挿入歌です。

バンテージ・ポイント

2008-03-26 | 映画
物事の真相を解明するには、一つの視線だけでは十分ではない。もし、見晴らしのきく地点(『バンテージ・ポイント』)を与えられたら可能かもしれないが、それでも複数のアングルが不可欠である。
そこで、8人の視点を重複させながら、興奮の90分間のサスペンス・アクションに仕上げたのが本作で、パニック物にしなかったのは賢明な策である。
こう言えば、芥川龍之介の『藪の中』(映画化は黒澤明の『羅生門』)を想像するかも知れないが、本作では関係者の証言がすべて食い違うことはなく、「真相は藪の中」になる訳ではない。全ての視点は、真相という一点へ導かれ、そこでスッキリと収まる。
ただ、スッキリとしないのは、誰かさんの犠牲になって死んだ人。

テロ撲滅の国際サミットに出席するためにスペインを訪れたアメリカ大統領(ウィリアム・ハート)が、広場での演説中に狙撃され、さらに爆発も発生するる前後23分間が、8つの視点で繰り返し繰り返し、シツコイくらい巻き戻して映し出される。
中継していたTVクルー(シガーニー・ウィーヴァー他)のモニター画像を介した視点、大統領護衛のSP(デニス・クエイド)のプロの視線、”影なき狙撃者”から早い時点で姿を見せるテロリストとその仲間の動向、市長警護の地元警察官(エドゥアルド・ノリエガ)の危惧、ソニー・ハンディカムを持った旅行者(フォレスト・ウィテカー)の不安など、その場所にいた複数の人間の視点と映像がシンクロして、その都度、新たな真実が小出しで付加されてゆく。
ひとつの視点が終わると、テープをリワインドするように映像が逆回転してスタート地点へと戻り、次の視点へ移ってゆく。
また、大統領自身の意外な秘密まで明かされる構成力と、周辺での反米デモ隊や広場の群衆の処理は巧い。

難点をあげれば、甘口にしてしまった小さな女の子の扱いと、テロリストにリアリティーが無かったこと。
最初に言ったようにスッキリしていることは確かだが、大統領が「報復では何も解決しない」というブッシュとは正反対の姿勢だっただけに、イデオロギーを排除した、単なる悪の象徴としてのテロリストでは説得力がない。
90分間という最短時間で、最大効果を上げることに成功しているのは、脚本の内容よりも、ひとえに題材の見せ方、構成力のお蔭だと言える。


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2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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さすがポイントが違う! (hermann-mccartney)
2008-04-08 19:48:26
butlerさま
ご覧いただけましたか、『バンテージ・ポイント』♪
たしかに“ホン”というより、正確に言えば“構成力”ですね。
同時に“カメラワーク”が結構よかったと思いますよ。
これは『チームバチスタの栄光』に似ていて、お互い構成力がいい作品ですが、後者は“カメラワーク”が最悪でリアリティが殺がれてしまっています。さすがハリウッド、というところでしょうか。
さらに、テレビドラマ『LOST』で頼りになる主人公を演じている彼の今回の役どころに“ハハーン”と妙に納得してしまいました。見どころですよね。

遅くなっても『接吻』は拝見します。

『バンテージ・ポイント』、、、そういえば、最近では脅威のロングランですねー。
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反復手法 (butler)
2008-04-08 21:38:45
>hermann-mccartneyさん、

筒井康隆の新作『ダンシング・ヴァニティ』を読んだところですが、しつこく反復記述が繰り返されます。
映画と違うところは、反復しながら微妙に変化してしてゆくところ。さすが筒井康隆はスゴイ!

『LOST』は、姉がツタヤのレンタルで夢中になって観ていました。


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