大きな展覧会は3月始まりが多く、2月ははざまな感じですが、情報誌で見かけたこちらの展覧会が気になったので、大阪・中之島にある国立国際美術館に行ってきました。
基本的には美しい風景や造形、色彩が見たくて美術館に行くので、今回のような哲学的・思索的な印象が強い現代芸術は今まであまり観たことがありません。「エッケホモ」は美術館の所蔵品を中心に「第二次大戦以降の人間描写の展開を見直す」という趣旨の展覧会で、美を愛でるというよりは、負の側面も含めて人間そのものを見つめるという作品が多かったです。
絵画は題材が搾取や暴動だったりするし、三次元のものは文字通り人間を腑分けした頭蓋骨だったり、体のパーツが並べられていたり、はたまた義足をつけた女性の映像だったりと、受け取るものが必ずしも心地いいものとは限りません。大きな戦争と科学の発達が世界を複雑にし、人間は賢くなったけれども、ものごとをどんどん解体・観察せずにはいられなくなって、それが具象から抽象へと進んで行ってしまった原因なのかなと思ったりしました。思索を深めることは大事だと思いますが、あまりに事象を切り刻んでいく行為は自家中毒になりそうで、進化なのか退化なのかわからなくなってしまいます。
ではつまらなかったかというと全然そんなことはなくて、作品に対峙した時に、内側を大きくゆすぶられるものはありました。
特に印象に残ったのは、中東系の軍人(もちろん人形です)が壁にうがたれた小さな穴を覗いている作品。その人形のリアルさも凄いのですが、壁の反対側から覗けるようになっていて、鑑賞者と人形の視線が合うようになっています。悲惨な戦争を描写した絵を鑑賞するのとはまったく違う、五感+肉体にじかに受ける衝動があって、自分とはまったく違う環境、心情で暮らしている人間が存在しているのだととてもリアルに感じることができました。この情動をどう解釈していいのかはわかりませんが、確かに自分の中に残るものがあります。こうやって人間の根幹を揺さぶることが、現代美術の一つの意義なのかなと思います。
このほかにも常設展示があって、こちらも良かったです。極限までそぎ落とされた美しさというのを感じました。真実はシンプルですね。
ちなみに私の好きな千住博さんの「ウォーターフォール」がありました。とても近くで見られるので、絵の具の流れるさまとかドリッピングの後をじっくりと鑑賞できて嬉しかったです。
そもそもは万博時の万国博美術館を活用してできたものが平成入ってから現在の場所に移転したとのことで、建物もユニークです。
常設展示の床も足音がしないように工夫され、かつアーティスティックなデザインでとても素敵でした。
「エッケホモ」は3月21日まで開催中です。