19時にはぴゅーんとビルを出ました。
小雨もなんのその、地下鉄の駅まで小走りに、千代田線と銀座線を乗り継ぎ
外苑前駅に着いたのは予約の10分前。
これで間に合う、と安心したのもつかの間。
神宮球場での試合が開催されているのか、周辺の店頭では焼きそばや鳥のから揚げなど
お弁当のたぐいがたんと積み上げられ、多くの人が列をなして歩いています。
そう、私は方向音痴で、すぐに人の後をついていく癖があります。
5分ほど歩いて見上げた先にはこうこうとともる照明。
はい、道を間違えました。
目指すル ゴロワは、一筋道が違いました。
取って返して駅前に戻り、もう一本の道へ向かいます。
あと2分。
走るわ走る。革靴をカンカン言わして、ゆれるジャケットに振り回されそうになりながら、
外苑西通りの上り坂を駆けていく私でした。
そして約2分遅れで店についた私、いつもの暖かい光が迎えてくれる
見通しのいいオープンキッチンのこの店には、すでに彼女が座っていました。
ごめんなさいと言いつつ、春の夜に少々汗ばんだ体をガス入りの水で沈めて、
21回目の結婚記念日を寿ぎます。
仕事帰りといいながら、ふわっとした黒いドレスに身を包んだ彼女は軽やかに微笑んでくれたりして。
ちょっと恥ずかしくなって、メニューに目を落とすのであります。
こちらのコースはタップリしています。
メインが一品のゴロワコースにしたのですが、
アミューズに続いて前菜から一品、スープを一品、メインそしてデザート。
そう、スープが入ってくるので、私たちにはメイン2品のシェフお任せコースにはお腹が至りません。
さらに、前菜とメインは7~8品から選びますし、スープは人参、ポロねぎ、ジャガイモの3種があります。
今回私は、前菜にルゴロワ風サラダ、スープは人参、メインは北海道の牛 炭火焼。
彼女は、前菜にパリッと焼いたガレットを載せたサラダ、スープはポロねぎ、メインは鴨のコンフィ オレンジソースをチョイス。
いつ行ってもあきません。
それに、お皿に載る付け合せの野菜が、もう「合わせ」を超えて、堂々と並び立ちます。
メインなら、肉料理と野菜料理の両雄が並び立つ、という感じです。
肉汁とアミノ酸をかみ締めながら、野菜の滋味をいただく快感は得もいわれません。
おいしく、楽しく、タップリと。
目を輝かせながら料理を運んでくれる女性スタッフは愛らしいし、
お久しぶりですと暖かく迎えてくれるマダムは、この良識ある店の象徴です。
あ、それにこれまでは別料金だったバターが、今回はパンと一緒に出てきました。
日高乳業さんのものだというバターが、フレッシュで後味さわやかの印象、気に入りました。
来月には北海道に農園を開くために出かけるというマダムの話なども聞きながら、
居心地のよい店で、21年一緒にいてもなお愛らしい彼女とともに過ごす2時間は、
非の打ち所無く祝いの時に満ちて、
ドアまで送ってくれたマダムとだんな様のシェフに見送られたあとも
なぜか弾むような足取りが続き、小一時間かけて自宅まで歩いて戻ることになったのでした。