gooブログはじめました!

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

ぱっと顔を上げて心配そうに

2013-09-14 14:41:19 | 日記
せて雲宮の奥へ乗りつけ、産屋が建つ庭の前で鞍から降りると、待ち構えていた事代たちがとりついて詫びた。

「この大事な時にあなたにお知らせすることができず、申し訳ありませんでした。しかし――!」

「出雲中の精霊がこの産屋を囲んで、あなたの御子を覗こうと、それはもう大きな覆いをつくって――雲をつくってしまったのです。それに阻まれて、あなたに声を届けることができず……」

「もういい。おれはもうここにいるんだから」

 早足で庭を横切って、高比古は産屋を目指した。

 産屋の主の夫の到着を待って、中にいた侍女たちはすべて産屋の前に並び、頭を垂れていた。そこにできた路を通って薦をくぐり、中に入ると――。

 狭霧が、高比古を迎えた。
http://www.cd57834.com

「おかえり、高比古」

「……ただいま」

 狭霧は寝着ではなく、ふだん通りの衣装を身にまとっていた。寝床は片づけられていて、中はすっきりとしている。

 胸に抱いた赤子を見下ろして、狭霧は話しかけた。

「ほら、とうさまよ。よかったね、やっと会えたね。会いたかったよね」

「とうさま……? おれが?」

 高比古が空耳を聞いたかのように反芻するので、狭霧はくすっと笑った。

「とうさまでしょう? ――お願い、高比古」

「お願いって、なにを」通販 服


 狭霧は、赤子を掲げるように腕を差し出す。手渡されようとしているのは、生まれたばかりの赤子。それなのに、高比古はまるで刃を向けられたように後ずさりをした。

 掲げていた我が子を胸元に戻して、狭霧は苦笑した。

「困ったとうさまね。こっちへ来て、高比古」

「あ、ああ――」

「座って。腕を出して」

 高比古は、赤子の抱き方を知らなかった。そばにあぐらをかいて、いわれるがままに両腕を差し出すと、狭霧は、その腕の上へ赤子を下ろしていく。

 温かなものがそろそろと下りてくるのを息もせずに凝視しつつ、温かさが腕に触れると、高比古は狭霧にすがった。

「怖い」
女性 時計
「なにも怖くないわよ。赤ちゃんよ」

「でも――」

 度胸試しをもちかけるように、狭霧は高比古の腕の上に赤子を置いてしまった。

 手の上に乗った小さな赤ん坊の顔をまじまじと見下ろして、高比古は唇をへんなふうに歪める。

「―――軽い。柔らかいし――壊れそうだ」

 ぎこちない手つきで赤ん坊を抱く高比古を眺めて、狭霧はくすくすと笑った。

「輪郭や眉や鼻や口もとは、高比古に似てると思うの。でも、目はわたしっていうか……とうさまにそっくり」

「おれにも似てる?」

「そうよ。高比古の子だもの」

「おれの、子……?」

「そうよ。あなたの子。あなたの子に名前をつけてあげて」

 高比古は、ぱっと顔を上げて心配そうに狭霧を見つめた。

「――おれが? いいのか?」

「いいのかって、あなたの子よ? あなたの命を継いでいく子なんだから」

「あ、ああ」

 うなずいたものの、高比古はしばらく黙った。それから、つむじを曲げた。

「名前って、どうやってつけるんだ?」

「知らないわよ。わたしだってはじめてだもの」

 そういって、狭霧は困ったように笑う。

「わたしの名は、とうさまがつけてくれたんだって。天と地の狭間に留まる霧みたいに、低い場所から俯瞰して、雲宮にかかる白霧のように大地を見渡す……そういう娘になれるようにって――。高比古の名も、高貴な存在になるようにって彦名様がつけてくれたんだよね」

「――忘れてた。名前って、意味があったんだな。ただの呼び名だと思ってた」

「本当ね。こうして名前を付ける立場にならないと、深く考えないのかもしれないね

コメントを投稿