ストレングスコーチの個人的なトレーニング日誌&読書感想文

トレーニングについて感じたこと、また定期的に読んでいる専門誌の記事についてのコメントなども書いていこうと思います。

下肢における機能的筋力の(イン)バランス

2007年01月25日 | Weblog
Determination of Functional Strength Imbalance of the Lower Extremities

Robert U. Newton, Mimee Gerber, Sophia Nimphius, Kae K. Shim, Brandon K. Doran, Mike RObertson, David R. Pearson, Bruce W. Craig, Keijo Hakkinen, and William Kraemer. Journal of Strength and Conditioning Research, 2006, 20(4), 971-977



要約

この研究は左右、もしくは利き足とそうでない足の間で有意な筋力差があるか?そして、様々なユニラテラル(1本足で行う)、バイラテラル(2本足で同時に行う)なクローズチェーンエクササイズのテストと、今まで行われてきた実験室的なアイソキネティックマシンによるテストとの相関性を調べるものである。
けがのリスクを減らし、スポーツにおけるパフォーマンスを高めるためには主導筋と拮抗筋の筋力バランスだけでなく、左右の筋力差を知ることは重要な要素である。以前から主導筋と拮抗筋のバランスの研究は多くされてきたが、研究からけがをしているアスリートの多くは左右の筋力差が顕著であるという結果が出ている。したがって、左右の筋力差についての研究を行うことは今まであまり行われてきていなかったが非常に有用であると考えられる。しかし、論理的なバランスとけがの関係はまだ完全に解明されているわけではない。また、関谷などが行った研究などから5ホップテストなどのフィールドテストが筋力との相関があるとも言われている。
これらの背景にのっとって、この研究では
バックスクワット時の左右の足における出力差(最大、平均)、2本足および1本足の垂直とびにおける出力差(最大、平均)を測定し、左右の差、利き足とそうでないほうの足における差、それぞれの統計を取った。
また、5ホップテスト、バックスクワット、垂直とび、とアイソキネティックマシンにおける主導筋及び拮抗筋の左右差、そして、主動筋/拮抗筋の筋力費の左右差を測定し、それぞれの相関性を測定した。

バックスクワット、垂直とびの実験ほとんどにおいて、利き足と、そうでないほうの足に有意な筋力差があった。また、アイソキネティックマシンの脚伸展力、脚屈曲力にも利き足と、そうでないほうの有意な筋力差があった。しかし、脚伸展力、屈曲力の比率に関しては左右、利き足で有意差はなかった。60度/秒の脚屈曲力とスクワットの筋力、240度/秒の脚屈曲力と垂直とびに有意な関係が見られた。

感想

この実験は高いレベルの女子ソフトボール選手に対して行われたものであるが、非常に興味深い内容であった。以前から色々な研究で筋力の左右差によるけがの可能性について議論されてきているが、今回も利き側とそうでないほうでほとんどの実験項目で有意な差が生まれた。それに対して、以前言われた、屈曲群と、伸筋群の比率については優位な差が見られなかった部分も興味深かった。おそらく、ファンクショナルな筋力の差は単純な単関節の筋力の関係だけでは測れないからであると思われる。また、バックスクワット、両足垂直とびなどのバイラテラルな種目においての左右差が見られる点も、興味深い。結局利き足に加重がよってしまう現象は現場でも良くみられる。そして、それが関節の問題の原因になりやすいこともまた、事実であると考える。
このリサーチをみて思ったのは、やはりパフォーマンス、けが低減両方の見地から、左右の機能的な能力差(絶対的な数値より)をスクリーニングの材料として、バランスの良い機能向上を選手に指導する必要があるし、あまりにも差が激しい場合にはけがが起こる前からトレーナーによるリハビリテーションを行う必要性を強く感じました。




サバイバルストラテジー:努力性熱射病の応急的処置

2007年01月06日 | Weblog
Survival Strategy: Acute Treatment of Exertional Heat Stroke

Douglas J. Casa, Jeffery M. Anderson, Lawrence E. Armstrong, and Carl M. Maresh

Journal of Strength and Conditioning Research, 2006, 20(3), 462



要約

コーチやメディカルスタッフがどれだけ努力しても努力性熱射病(EHS)を完全に避けることは出来ない。EHSの評価は中枢神経の機能不全と(コア)体温の測定という2つのパートがある。体温の正確な測定は直腸において行う必要がある。昨今の研究では直腸以外の測定部位ではアスリートが活動している際の体温を正確に知ることが出来ないということがわかっている。
EHSの処置としては1.冷やす、2.搬送のプライオリティーをつける必要がある。もし、メディカルスタッフがその場にいるならば彼らによる迅速なその場での措置が求められる。メディカルスタッフはまずはアスリートの体温を39度までは下げる努力をすべきである。そして、それから搬送を行うべきである。体温を下げるのに最も早く効果的なのは冷水に選手をつけることである(CWI)水温は7度から14度の間に保たれるべきである。この際、頭は水につけるべきではない。おおよそのCWIによる冷却速度は0.2℃/分であるので直腸温度を測り続けることが出来ない場合、これを参考にCWI前の温度から冷却時間を設定すればよい。
EHSのリスクは高温下での運動をするアスリートには避けられないリスクではあるが、適切な処置をすることによって、EHSによる死を免れることが出来る。





感想
日本のスポーツ現場ではまだまだ熱中症についての対処が甘い気がする。特に高温多湿の日本の環境においては熱中症にかかるリスクは高いと考えられる。実際にスポーツの現場でプレーできている選手に対して直腸の温度を測ることは厳しい(熱中症の症状がない場合)のでいかにその前兆、すなわち中枢神経の機能不全を見破るかがキーとなると考える。また、夏場の練習においては練習場の近くにアイスバスを作っておく必要を強く感じた。特に、屋内スポーツでは湿度が上がりやすいため、その必要性が高いと考えられる。一般的にアスリートをすぐに(着衣のまま)アイスバスに入れることには抵抗がある場合も多いが、それらについて、コーチングスタッフはメディカルスタッフと事前に(EHSが起こる前に)協議しておく必要があると考えられる。


皆さんはどのように思われますか??