ダークなジャケット、哲学者のような物憂げな表情、ブルーでディープなカントリー・ボイスとプリミティブなサウンド。これで6位にチャートイン。痛快。
既にソングライターとしては多くの実績と、なによりジョージ・ストレイト(Geroge Strait)に提供(Bill Andersonらと共作)した"Give It Away"で2007年のCMA アワードを獲得しているJamey Johnsonのセカンド・アルバムです。写真を見る限り、イケメンも多いカントリー・フィールドにあっては「!?」と思っちゃう(失礼)垢抜けないルックスとむさくるしく伸びたあごひげ。それでもメジャー・デビューしたのは、その魅力ある一級のカントリー・ボイスがあってこそです。そしてサウンドの方も、現在のメインストリームのカントリー・フィールドへの挑戦状とも感じ取れる、とても志のある音作りと感じました。
ここで繰り広げられる音楽は、Jamey自身もラスト曲"Between Jennings And Jones"(ナッシュビルへ来て以降の自叙伝)で告白しているとおり、トラディショナルなホンキー・トンク(George Jones)~エレクトリックなアウトロー・カントリー(Waylon Jennings)が根底にある素晴らしいもの。しかしそこにはカントリー・ミュージックのステレオタイプである、カラッと乾いた軽快な雰囲気はなく、深く沈みこむようで、そしてネットリとした熱気がジワジワと溢れ、時に引きずるようなヘヴィネスもまとわり着く、見事なダウンホーム・サウンドが繰り広げられているのです。そしてその音は(今の大方のポップカントリーがそうであるような)厳密に構築・加工されたような類のものではなく、ジャムセッションのようなライブ感で、各楽器の音がクリアに響いているのです。プロデューサーのクレジットには”The Kent Hardly Playboys”とあり、何者?と思ったら今作に参加したサポート・ミュージシャン達のこと。つまり彼らのセッションから自然発生的に生まれてきたサウンドでこのアルバムが出来たってことでしょう。以前、Loretta Lynnの「Van Lear Rose」でナッシュビルのカントリー・サウンドとLorettaが活用したオルタナティブ・カントリーの関係を取り上げましたが、ここでナッシュビルの”The Kent Hardly Playboys”は真っ向からそのオルタナ・サウンドに取り組んで、戦後ゴールデンエイジのカントリー・サウンドを21世紀に進化させてしまった、って感じです。
その一方で、コンセプト・アルバム的な仕掛けも随所に散りばめられており、ここらもカントリーでは珍しい事。オープニングでは、Johnson氏が刑務所から釈放される音のシークエンス"Released"でスタート、その後の、薬物に手を出して(南部バプティスト教会の駐車場でマリファナを吸う・・・)平凡な生活や家族を失う男を歌った"High Cost of Living"につなげます。テーマも重い、ミディアムのロッキン・カントリーです。Jameyの声の説得力がスゴイ。さらにペースを落としてブルース・ロック的に迫る"Mowin' Down the Roses"は、「お前が俺達の庭に植えたバラを、俺はなぎ倒してるんだ。お前が愛したものはここらあたりでは育たない事は、もうハッキリするさ」と、とても破滅的。Jameyは、こういった社会的な課題(薬物、D.V.)を正面きって取り上げ、戒めているのです。これも、カントリー・ミュージックの重要な機能の一つ。一方で、ライターにJames Ottoも名を連ねる"リード・シングルIn Color"は、ドラマティックでほのかにノスタルジック、とても感動的なカントリー・バラード。Bill Andersonにインスパイアされて出来たんだとか。お爺さんが孫に、古い白黒写真を見せながら当時の思い出を語ります。大恐慌の時代、戦争、そして結婚。「写真は千の言葉にも匹敵するけど、お前には灰色の影が隠しているものが何かは見えないよね。~これは私のお気に入りなんだ。お婆さんと誓いを交わしたあの夏の日、私はとても誇り高かったんだよ。~もしそこに写っている我々が、お互いを助けようしている子供のように死に脅えているみたいに見えるなら、お前はそれをカラーで見るべきなんだろうね」コーラスが美しいです。
ウェイロン・ジェニングスのカバー"The Doors Is Always Open"や、オリジナルのタイトル曲"That Lonesome Song"は、ストレートにアウトロー・カントリー風で、特に後者ではJameyの声もウェイロンを髣髴とさせます。ウェイロンのカバーはもう1曲、必殺のカントリー・バラード"Dreaming My Dreams"。ここでのJameyのささやくようなボーカルが、本当に美しく心に刻まれます。
各曲間には、枯れたスティール・ギターの爪弾きや、時折意味ありげな効果音が挿入され、アルバムのコンセプチュアルな空気を盛り上げます。このような、ヒット・カントリーとしては常識外れのような作風のアルバムがトップ10に座ったと言うところに、現在のアメリカ本国のカントリー・ファンが望んでいるものを感じ取ってしまうのです。
アラバマ州はMontgomery~つまりハンク・ウイリアムスの故郷~で育ち、そのハンクやアラバマの音楽に親しみました。10歳のときに初めてギターを手にし、おじさんにアラバマの"My Home's in Alabama"を教わったそう。せっせとお小遣いをためてやっと買ったエピフォンのギターをOld Mapleと名付け、土曜の夜にそのギターを携えて友人とハンク・ウィリアムスのお墓に行っては、ビールを飲んでハンクの名曲をジャムっていました。ある日、うっかりそのOld Mapleをハンクの墓石に落としてしまい、ボトムが壊れてしまいます。そのギターは今もその状態で”大切に保存”されているそうです。JameyはMontgomeryのクラブで活動を開始しますが1994年に突然学校をやめ、その後8年間は海兵隊の予備隊に勤務、この期間で彼は自身の歌唱スタイルを完成させるのです。彼が除隊した同じ週、残った部隊はイラク行きを命ぜられます。
ナッシュビルに来たのは2000年の1月1日。看板会社のセールスマンを皮切りに、業務用ポンプメーカや建築会社の経営をサポートするなど様々な仕事をこなして生活していました。音楽活動では多くのソングライター達と出会い、彼らが出版契約を得るたびにJasonをデモ・シンガーとして雇い、当時同じくデモ・シンガーだったグレッチェン・ウィルソンとのデュエットを皮切りにレコーディングを重ねます。そして、プロデューサーBuddy Cannonに才能をみとめられ、Buddyプロデュースによる数々のデモ・レコーディングの甲斐もあり、7回目となったRCA Recordsでのオーディションで見事メジャー・ディールを獲得するのです。
スワンピー系の昔のロックを今も大切に聴いてる”大人のロック”のファンの皆様。青春の思い出もあると思いますが、是非、コレを聴いてみて欲しい。我が国の今の課題も少し心の隅に置きながら(相撲部屋で、マリファナを吸う・・・)。
●JameyのMySpaceサイトはコチラ●
こんなのを聴きたかったのです!
まさに今のカントリーでありながら、メインストリームとは違う気骨ある音。
個人的には今年一番のヒットです。いいものを教えていただき、ありがとうございます。
いろいろ参考にさせていただいています。今後ともよろしくお願いいたします。
Jameyの紹介には、かなり気合が入りました。私も2008年のトップだと思います。Sugarlandの新作が最高!と思っていたら、すぐにコレに取って代られました。今の日本のカントリー・ファンの嗜好を思うと、このアルバムを紹介できるのは、ココしかない!なんて生意気な思い入れをこめましたので、なおさらtorldorさんのお言葉は嬉しかったです。
これからも宜しくお願いします。
大変素晴らしい解説ありがとうございます。
今年の5月、フォートワーストのビリーボブスで彼のライブを聞いたとき、体を突き抜けるような衝撃を受けたのを今でもはっきり覚えています。
ホンキートンクの騒めきの中でのライブでしたが、、まるで彼がステージから一対一で歌を投げ掛けるように、しかし、淡々と歌っていた姿は忘れられません。
日本ではあまり知っている人がいないように思えていましたが、本当に嬉しいです。
また伺います。ありがとうございます。
コチラこそ初めまして。お褒めの言葉を頂き、恐縮です。
フォートワースにお住まいなのでしょうか?ビリーボブズでジェイミーをご覧になるなんて、とてもうらやましいです。
イケメン志向の我が国ではなかなかとっつき難い人かもしれませんが、耳のイイ方は分かってくれると思います。
今後ともよろしくお願いいたします。
私は日本に住んでいます。
私が行ったときの今年のグランドオールオープリーには、スティーブ マーティンが出演していました。
私はディビッド ボールのファンでもあります。
大変詳しい記事を毎回書かれていますね。
素敵なブログにたどり着けてとても幸せです。
今後ともどうぞ宜しくお願いいたします。