ざりがにの うたにっき

小さいざりがにが日々の事をだらだらと、
時に頭にお花を満開にさせて綴っています。
温かい心でお読み下さいませ。

ありえない朝 8

2016-03-14 07:48:09 | ありえない朝(お遊び小説)
ありえない朝 7





触れる唇、指先、名前を囁く吐息さえもが愛おしく感じる。



「好き。ずっと好きだったの」


智大が優しい眼差しで受け止めてくれる。

お互いの気持ちを確かめるように、
2人の唇は少しずつ深く重なっていく。

甘くて溶けてしまいそうな口づけ。

智大のキスは私をワガママにしていく。

もっと、智大を感じたい。
もっと、もっと。



「智大」

「はいタイムアップー」


重なった2人の声のトーンは、かなり違った。


「え…?」

「オレもう店に行く準備しないとなんない」


壁に掛けてある時計を顎でクイっと指した。

間もなく9時になるところ。
今日は土曜日。
私は休みでも智大のお店はお休みではない。

行き場を無くした私のワガママには触れずに、私の頭をクシャっとすると、
シャワーを浴びに行ってしまった。


その智大を見送りながら、乱れた髪の毛を直す。

さっきまでの甘いキスの時間に酔っていたのは私だけだったの?

放心状態でシャワーの音を聞いてると、
段々と恥ずかしさが込み上げてくる。


「はぁぁ…パンツ穿こう…」


よろよろと立ち上がってパンツを探す。


「あれ?また無いの?」


辺りを見渡しても、毛布を持ち上げてもパンツは出てこない。


「もう!パンツ穿きたいだけなのに何なのよ~」

「あー、オレ持ってってた」


バスタオルで頭を拭きながら、
智大がパンツを投げて寄越した。


「何で持ってくのよ⁉︎」

「つい癖で。ンハハハ」


楽しそうに笑う智大のお腹にパンチをしてやろうと思ったのに、
フワリと抱き寄せられて未遂に終わる。

ホカホカの智大の身体から、ボディーソープの香りがした。


「みのりも入ったら?」

「んー、でも着替えも何も準備無いしなぁ」

「そのままだよ、全部」


そう言うと、智大はスルリと身体を離してクローゼットを開けた。

クローゼットの中も2年前のまま。
左側の私用の白いケースも同じ所にあった。

泊まりに来る機会が増えた頃に、
智大が用意してくれたスペース。

蓋を開けると、部屋着も下着や化粧品も、そのまんまだった。


「化粧品はちょっと怖いから取り替えなきゃなぁ」

「いっそのこと、全部持ってきちゃう、とか?」

「全部?何の全部?」

「全部っつったら全部じゃん」


出掛ける準備のためにウロウロしている智大をとらえようと振り返ったとき、
私の箱の中に見慣れないモノが見えた気がした。

もう一度、目を元の位置に戻して確認をする。


「コレ…は?」

「あー…石けん?ふふ」


智大が私から取り上げた白い箱。
少し角が潰れている。

サイズは確かに石けんだけど、
もっと軽くて、シルバーのリボンがかけられていた。


「コレも取り替えた方が良いよ」

「見せて?だって私の箱に入ってたよ?」


智大はバツが悪そうに箱をカタカタさせた。


「んー…、まあ、見たくなるよねぇ、そりゃ…」


視線を上にしたり下にしたり、モゴモゴと話す智大の手から箱を受け取る。

大事にそっとリボンを解いて箱を開けると、
ネックレスが入っていた。
ハートから雫が溢れるようにダイヤが揺れている。



「智大がハートを選んでくれたの?」

「超恥ずかしかった。ふふ」


後ろからフワリと抱き寄せられ、頬と頬をくっ付けた。


「ホントはさ、指輪を買おうと思ったの。
でもサイズちゃんと分かんないし、みのりの指に入んなかったらカッコ悪いしなぁって思ってさ、コレを選んだの」


私の手からネックレスを取ると、ゆらゆらと目の前で揺らして小さく笑い出した。


「そしたら居なくなっちゃったからさ。
1回床に投げ付けちゃったんだよね、コレ」

「ゴメン…」


ハムっと耳を甘噛みされて、顎に手が添えられ、
フワッと優しさでいっぱいになるようなキスをされた。


「床に投げちゃったんだけどさ。
なんかねぇ、みのりもだけど、その内にコレも可愛く見えてきちゃったんだよね。ふふ。
だから何か捨てらんなくて、みのりの所に入れてたんだけど。
賞味期限もう切れてるよ。ンフフフ」


私は智大の腕の中で身体の向きを変え、
思いっきり抱き付いた。
智大も答えてくれるように、ピッタリと抱き締めてくれる。


「付けて?」

「コレ?違うの一緒に買いに行っても良いんじゃない?」

「コレが良いの。
可愛い彼女がコレが良いって言ってるのに、
智大は叶えてくれないの?」


智大を見上げながら言うと、
おでこにキスをひとつくれた。

正面から首を伸ばしながら留め金をとめると、
そっとハートのチャームに触れてきた。


「うん、似合う」


囁くように言うと、唇が徐々に近付いてきた。

智大の熱い吐息を感じ、何度目かの甘いキスの予想をして静かに目を閉じる。

「ふふ」


キスされる筈のタイミングで聞こえた智大の小さな笑い声。


「え…?」


薄っすら目を開けると、まつ毛が触れそうな程の距離の智大が囁く。


「可愛い」

「もう!ともっ」

「今日の夜、楽しみだな」


私の文句も消し去るように、熱いキスに唇が塞がれた。
そしてハートのチャームに触れ、
服の上から腕の赤い痣の場所に口づける。


「あーもう、チェーだなーもー」


智大は頭を掻きながら悔しそうに大きな声を出して、


「みのり!待ってろよ!」


私をビシっと指差しながら告げると、
バタバタと玄関に向かった。


「ダッシュで帰ってくるから」


もどかし気に靴を履く智大を見送る。


「うん、待ってる」


手のひらと手のひらを合わせて、
触れるだけのキスを交わす。


「行ってらっしゃい」

「行ってきます。
あぁ、みのりの靴、冷蔵庫に隠してたんだった。戻しといてぇ」


カギを開けながら、サラリと言われ足元を見れば、
確かに私のパンプスが無い。


「ちゃんと袋に入れてから入れたから。ンハハ」

「え?冷蔵庫?えぇ?」


智大は、驚く私にクシャっとした笑顔を残して出掛けて行った。


「んもぅ…。ふふふ」


こうして私の幸せな朝は始まった。










おしまい





******************





終わったーー


大した山も谷も無く。。。
起承転結で言うところの、転結はなし崩し的な?な?

そして加奈子ちゃん、漢字も合ってたか確かめる事もしないくらい、
彼女は今何処。。。

でも、楽しく書けましたー

だから、コレで良しにしちゃう

ありえない朝 7(仮タイトル)

2016-03-08 00:22:23 | ありえない朝(お遊び小説)

ありえない朝 6



***************




「みのりも同じだったって思うのは、自惚れなのか?」


智大の瞳が探るように私を見つめる。



私もアチコチで智大を思い出していた。

それは同じ。

でも私はそんな自分が嫌だった。

智大から離れようと決めたのは私なのに、
すぐに智大を思い出しては苦しくなってしまう事が嫌だった。

すれ違った人が一瞬でも智大に見えてしまった時に、泣きそうになる自分も嫌で仕方が無かった。

だから極力そうならないように、
智大を思い出してしまっても気付かない振りをして、すぐ違うことに切り替えるようにしてきた。

だから智大と私は違う。


「…同じじゃない」

「んふふ。そんな顔で言われてもなぁ」


穏やかな声が聞こえた時には、智大の腕に包まれていた。


「そんな顔って何よ?」


自分の声が智大の身体に響いて返ってくる。


「ん?こうやって抱きしめてやりたくなる顔」

「なにそれ」

「なあ?そんな顔をさせてるのは、俺だよね?」

「え…?」


智大の腕に少し力が入ったような気がした。


「みのりが、そんな顔をするのは俺だからだよね?
それも、違う?」


小さな子供に問いかけるように、
優しい目が覗き込んできた。


「だって…」

「ん?」

「また、なっちゃうかもしれない…」

「何に?」


智大が更に顔を覗き込んでくるのが分かって、条件反射のように視線が逃げの体勢に入る。


「智大の、邪魔とか…」

「邪魔?」


外したはずの智大の目にあっさり捕まってしまった。


「…携帯…とか…」

「ああ、アレね」

「携帯って言うか…いや、携帯もだけど…
…智大は仕事してた、だけなのに…私、邪魔しちゃったし」

「アレはぁ、そもそも俺が悪いでしょ?」

「だからって携帯…だけじゃないけど…携帯もだけど…」

「ンフフフ。何回携帯って言ってんの」


智大は笑いながら下を向くと、ハーっと大きなため息をついた。


「携帯は、バックアップがあるんだから大丈夫。
みのりが居なくなっちゃう事に比べたら、全然大した話じゃない」

「…また、なんかしちゃうかもしれない」

「携帯でも何でも変わんない。
ダメになったらなっただし、どうとでもなるもん。
だけど、みのりはみのりだけだから」


智大は少し寒くなったのか、私ごと毛布にくるまった。
そしてゆっくり、話を続ける。


「あの頃はさ、俺ばっかりがみのりに甘えてたんだよね。
みのりなら許してくれるだろうって言うか、大丈夫って思い込んでた」


「私も、大丈夫って思ってたの」


「だけど、我慢してたんだよね?我慢してることも言えないくらい。
みのりがずっと我慢してたんだって気付いたの、居なくなっちゃった後なんだもん。
酷いヤツだよな、俺…。ごめんな?」


首を横に振るのが精一杯で、うまく言葉が出て来ない。


もう一度ごめんと小さな呟きが聞こえて、
私のおでこに智大のおでこがコツンとくっついた。


「俺、ホントに酷いヤツなんだよ、今も。
みのりは怖いって言ってるのに、もう離したくないって思ってる」


何度目かの瞼へのキス。
そっと触れてきた智大の唇は微かに震えているようにも思えた。


「ずっと仕方が無いって諦めてたけど、もう無理だよ。
だって今、目の前にみのりが居るんだもん。
なのに、またみのりが居ない時間には戻りたくない」


苦しくなるほどに膨れ上がった智大への気持ちは、
気付かない内に弾けて、ポロポロと涙になって溢れていた。


「ンフフフ。口がへの字になってる。
みのりのこと泣かしたのに、俺。
また可愛いって思ってんの。
やっぱ酷いヤツだな?」


ふざけ半分に言っておきながら、
背中に回された腕が痛いくらいに抱き締めてくる。


「だけどさ。
酷いヤツなんだけど、もう居なくならないで?」


囁く智大の唇が髪に触れる。
涙が滲む目尻、頬、そして、


「みのり」


熱い吐息に導かれるように、智大と私の唇が重なった。






つづく


***************




みのりちゃん、動かないコねぇ



ありえない朝 6(仮タイトル)

2016-02-12 00:16:02 | ありえない朝(お遊び小説)

ありえない朝5(仮タイトル)


***************

「みのり」


智大に名前を囁かれるのに呼応するように、
無理矢理萎ませていた気持ちが元に戻ろうと、
どんどん膨らんでいく。
その勢いに怖くなってくる。

2年前の時のように、智大のことで自分で自分を制御することが出来なくなったら?


「智大、お願い、もう、や…」


智大の唇が右耳からスッと離れて、
再び私の頭の上に顎を乗せて話し出した。


「な?堪んないだろ?」


私を落ち着かせるように、背中をポンポンとしてくれても、落ち着くどころか逆効果でしかない。


「俺が話をしようとしたら、お前がフラってよろけるから。
腕かどっか掴んで支えたら、今俺がしたみたいにさ、俺のこと呼びながら抱き付いてくんだもん。
ガマン出来ないよ、そんなの」


智大は今度は私の左耳に唇を寄せてくる。


「みのり。
ずっと会いたかった、ずっと」



ゆっくり囁く智大の声が私の心を走り回る。
膨らむ気持ちを抑えようとしても、
その勢いは加速するばかり。


「昨日、みのりの寝顔を見ながら、
これが夢だったらどうしようって思ってた。
でも、夢じゃないんだな」


ずっとこの気持ちに、
気付かない振り、忘れた振りをして過ごしてきたのに。

どうやってその「振り」を続けてきたのかを思い出そうとしても、


「みのり」


名前を囁かれる、
たったそれだけのことで、全てが2年前のふりだしに戻ってしまう。

怖い。

膨らむ気持ちと、
それとは全く逆の押し潰されてしまうような感覚と、
二つの気持ちに挟まれる。


「怖いっ」


私はギュっと目をつぶり、咄嗟に目の前に居る智大に抱き付いていた。


「怖い?」


智大は、突然抱き付いた私を包み込むように、
しっかり抱きしめ返してくれる。


「みのり?」


智大の身体と、私の身体の凹凸が、ちょうどピッタリ合わさるようなこの感覚。

こうして智大に抱き締められながら名前を呼んでもらうのが好きだった。


「何が怖いんだ?みのり?」


どんなに「振り」をしていても、
忘れられる訳が無かった。

こうして抱きしめられて名前を呼ばれる時の安心感。
囁きながら残してくれる腕の赤い痣。


「んふふ」


智大が小さく笑った。
こんな風に笑ってる時の智大は、周りの空気を丸く柔らかに変化させる。



トクン、トクン、トクン

規則正しい智大の鼓動も、優しく響く声も、
智大の全部が好き。

けれど、好きであればあるほど、
智大の携帯を水没させた時のチクチクした胸の痛みも思い出してしまう。

すべての繋がりを絶ったピーチティーだって、
あれから飲めなくなってしまった。



「みのりが怖がってるのに悪いんだけどさ」


おでこに智大の口づけを感じた。


「と、」


智大、そう名前を呼んで、私はその後はどうするつもりだったのだろう。

智大に右手の親指で唇をそっと抑えられて、


「シー…。
いいから聞いて?逃げないで?」


親指を唇にあてたまま、頬を包まれ、
視線を合わせるように智大の顔が近付いてくる。


「俺ね、みのりが可愛くて仕方が無い。
今のみのりも、昨日のみのりも可愛いし」


言われてる私も恥ずかしくなるようなセリフ。

言った本人も相当恥ずかしいようで、逃げるなと言ったくせに、


「見んなよ」


そうぶっきらぼうに言って、
照れ隠しなのか私の鼻の頭を甘噛みしてくる。


「みのりが居なくなった後も、アチコチでお前を思い出してさ。
んで、やっぱり可愛いなぁって」


唇にあてられた親指が、形を確かめるように、ゆっくりなぞっていく。


「なんで、居ないのかなぁって。
みのりがこんなに好きで可愛くて仕方が無いのに。
ずっとそれは変わらないのに。
なんで、みのりは居ないのかなぁって、すげー、寂しかった」


ゆっくり動いていた親指が止まる。


「みのりも、俺と同じ気持ちで居てくれたんじゃないのか?」




つづく




***************



あれ?
もしや何も展開してない…?

なーがーいぃーー


でも、完結させたいから頑張ろう。。。


ありえない朝(仮タイトル)5

2016-01-31 01:28:48 | ありえない朝(お遊び小説)
ありえない朝(仮タイトル)1

ありえない朝(仮タイトル)2

ありえない朝(仮タイトル)3

ありえない朝(仮タイトル)4


***************




トク、トク、トク
すー、すー、すー


智大に抱き締められる形で、
彼の規則正しい心臓の音と寝息を感じながら、
私の頭の中はフル回転していた。

最悪のこの状況を立て直すには、
何とかして智大の腕の中から抜け出さなければならない。


でも私が少しでも動くと、
智大の心臓と寝息が一瞬止まったように乱れて、
さっきよりも抱き締める力が強くなるのだ。


それならば。
諦めた振りをしてパンツを返してもらってから、
智大がトイレに行った隙とかに逃げるしかないか。



「諦めが悪いな、お前」



抱き締める腕を緩めて身体を起こした智大に、掠れた声で図星を指された。



「ちゃんと話が終わるまでパンツは返さねえよ。
大体、オレは朝もシタかったのに何でサッサと服着ちゃってんだよ」


「な、な、何を言ってるの⁉︎
智大ってそんな軽い男だったんだね!」



決定的な事実を告げられて、カッと頭に血が昇る。
上から下まで見られてる気がして、
スカートの中の心もとない感覚も更に恥ずかしさを助長させた。



「酔っ払ってる元カノにそういう事しちゃう人だなんて思わなかった!」

「オレも驚いてる。だけどさ」

「驚いてるじゃないでしょう⁉︎
かっ、彼に顔向け出来ないような事されたのよ?」

「いや、みのりも彼はいないだろ?
俺も久しぶりだったけど、シタ感じ、みのりも久しぶりな感じしたもん。
って、おわっ!」


智大が言い終わるか終わらないかで、咄嗟に掴んだ枕で思いっきりぶん殴っていた。


「さっきから最低発言ばっかり!
さっさとパンツ返してよ!」

「悪かったよ、いてーって!」


智大は私の枕攻撃をサラリとかわし、ガバッと抱きすくめてきた。
そして宥めるように背中をポンポンとしながら耳元で囁く。


「悪かったよ。
そんな泣きそうな顔するなよ」

「じゃあパンツ返して!」

「ふふふ。パンツパンツってうるせーな。
まだ話が終わってないからダメー」

「もう!」


いい加減にして欲しいと文句を言おうと顔を上げると、
智大は昔と変わらない優しい顔をして笑っていた。
寝顔も寝起きの悪さも、この顔も変わっていない。

2年の歳月をかけて小さくしたはずなのに、
その時間は何だったのだろう?


「どうした?」

首を傾げる角度すら同じ。


「何でもない。
智大こそ何で笑ってるのよ?」

「笑みがこぼれちゃってる?ふふふ」


智大は再び私の背中をポンポンとしながら、
今度は私の頭に顎を乗せて話し出す。


「パンツ持っといて大正解だったなぁって思って。
じゃないと話も出来ないまま、またみのりに逃げられちゃってたかもしんないじゃん?」

「話なんてしてないんでしょ?
だってそんなの覚えてないもん」


智大は頭の上から顎を下ろして私の顔を覗き込んできた。

「そんなのも何も、みのりは昨日の夜のこと全然覚えてないんだろ?
すげー酔っ払ってたもん。
今も結構な酒臭さだぜ?」

女子会の後からの記憶がスッポリ抜けている私の弱々しいパンチは、
智大にダメージを加えられるわけも無かった。


智大の説明によれば。

女子会でワインを飲みすぎて千鳥足の私に、
「何度か会ったことがある毒舌ハムスターのアキコちゃん」が付き添ってタクシーを捕まえようとしていたところに遭遇し、
「これ幸いとばかりに託された」らしい。
私の家がどこなのか、智大に分かるわけも無く、


「話もしたかったし、俺の家に連れて帰ってきたってわけ」


説明されても一向に記憶が戻って来ない。


「だから、話ってなんだったの?
話をしたかったのに、何で私は何にも着ていないコトになるわけ⁉︎
パンツ人質みたいにされるし」

「それは悪かったって。
だけどお前だって悪いんだぜ?」


困り顔をしたかと思うと、私の右耳に唇を寄せて、


「みのり」


熱い吐息と共に私を呼ぶ声が、頭の中をこだまする。


「みのり、ゴメンな。
でも俺、ずっと会いたかった」

熱く、低く囁くように、
私を呼ぶこだまがいつまでも離れない。


「智大、や、やめて」


逃げようともがいても、
智大の吐息交じりの声が追いかけてくる。


「みのり」


逃げられない、と言うより、
私を呼ぶ智大から離れられない。

胸の奥のチリチリしたモノは、どんどん大きく膨らんで、苦しさは増すばかり。

その苦しさは、まだ智大を好きだという事実を焼き付けるように主張しているようだった。



つづく



***************


切りどころを作るって難しい。

書いてるのは面白いけど、
ダラダラ間延びしちゃうから、
読みにくいこと読みにくいこと


スキー場に荷物番で付いて行って暇な時間を費やして、
ひっさしぶりに続きを書いた~。

書き始めたのも、昨シーズンのスキー場でクレープ食べながらで。

今日はシュークリーム。

1人で甘いモノを食べながら、
暇そうに携帯弄ってるオバちゃんの頭の中は、
パンツ奪還作戦のお話って、なんか、なんかだわね

ありえない朝4(仮タイトル)

2015-09-12 00:37:41 | ありえない朝(お遊び小説)
ありえない朝1(仮タイトル)

ありえない朝2(仮タイトル)

ありえない朝3(借りタイトル)





智大の家を出てすぐには家に帰る気になれず、
遅い時間まで開いている本屋にフラフラ入った。
あても無く雑誌コーナー、話題の小説のコーナーやマンガコーナーを見て回る。
見て回るというよりは、ただ歩き回っていた。


「やっぱり居たっ」


パッと視界に入ってきた智大の額には、うっすら汗がにじんでいる。


「良かった、会えて。
みのり、ここに居るんじゃないかと思ったから家に行く前に寄ってみたんだ」


落ち着いていた涙腺が、また騒ぎ始める。
下唇の端を噛んで鎮めようとすると、左の頬に智大の手がそっとあてられた。


「そうやって我慢しないでさ。ちゃんと文句、言ってみて?
俺は、みのりの思ってることを聞きたい。ちゃんと話してよ」


智大も泣きそうな顔をしているように見えた。
促されるままに、併設されているカフェスペースでコーヒーを片手に向かい合う。


「嫌な思いをさせちゃって、ごめんな。
だけど加奈子ちゃんとは、みのりが思ってるような事は無い。
それは分かって欲しい。
今、加奈子ちゃんのお店とコラボしたパンを考案中だから、
連絡を取り合うことが多くなってるけど…
でも、俺にはみのりだけだし…」


その言葉に嘘がないことは分かっている。
加奈子ちゃんが智大のことをどう思っているかも、そんなに関係無い。

智大が、私のことを想ってくれているかの方が大事で、
今の言葉の通りに、きっと大事に思ってくれてるんだろう。

それなのに、だ。

私は自分でも驚いていた。
智大と加奈子ちゃんが電話中なのにもかかわらず、
私はそれを途中で取り上げた上に水没させたのだ。

智大との時間が少なくなってしまっても、
加奈子ちゃんとの連絡が頻繁になっても、
それら全ては智大が仕事を頑張っているから。

何も力にはなれないけど、そんな智大を応援したかった。
だから私は我慢しなくちゃならないし、我慢できると思っていた。
それなのに、我慢どころかあんな形でほころびが出てしまうなんて……。

ずっと黙っているだけの私に、智大は再び謝る。


「ごめんな?
みのりがそんなに嫌だと思ってたのに、俺、全然気が付かなくて…。
これからは我慢なんてしなくて良いから、話してくれないかな?」


普段の智大は、こんな話し方はしない。
そうさせたのは、間違いなくさっきの私で、今の私だ。


「ねえ、智大?……もう、やめよう」


自然に言葉が出てきた。


「いや、みのりが溜め込んでることとか、思ってることとか、この機会にちゃんと聞きたい」


初めて言葉を発した私に安心したように、智大は軽く身を乗り出してきた。
私は少し冷めたコーヒーに砂糖を一袋全部入れてかき混ぜる。


「だから、もうやめたいって思ってる。
こうして二人で会ったり、電話したりメールしたりするのを、やめたい」


視線をコーヒーに向けたままでも、智大が戸惑っている気配を感じた。


「え…?やめるって、別れるってこと?俺たちが…?」

「うん」


もう涙腺は寝てしまったようで、騒ぐ気配は無い。
私はコーヒーを手に持つと、ゆっくり顔を上げた。


「いや、全然分かんない。
俺は、みのりが今まで我慢していたことを聞いて、
これから気を付けようって思ってるわけだよ?
2人で居る時は加奈子ちゃんからの電話は出ないとかさ?
それが何で別れる話になるのか、全然分かんないんだけど…」


戸惑いと苛立ちが混ざった視線を浴びて、私の気持ちは更にかたまっていった。


「私ね?確かに我慢してた。
でもそれは、加奈子ちゃんに嫉妬って言うよりも…まぁゼロでは無かったけど…。
智大との時間が少なくなるのは、それだけ智大が頑張ってるってことだから、
応援してたし、それはこの先も変わらないつもり」

「だったら今まで通りにさ」

「今まで通りには、…もうならないよ。智大は私に気を使うもん」

「使わないよ」

「使う。さっきも言ってたじゃない?
2人の時は加奈子ちゃんの電話に出ないとか。
そんな風に気を使われて、応援してるも何も無いじゃない」

「じゃあ2人の時でも電話に出る」

「電話に出る、出ないが問題じゃない。分かってるでしょ?
私があんな風に携帯取り上げるとか、あんな事をした時点で、
もう今まで通りにはならないのよ」


私はすっかり冷めてしまったコーヒーをゆっくり飲んだ。
前のめりだった智大の身体が、ソファーに深く沈んでいく。

左手を額にあてながら、眉間に皺を寄せて目を閉じる姿は絵になるなぁと、
どこかで別な自分が見ているように、ぼんやり眺めていた。


「みのりの言いたいことは分かった。
分かったけどさ、俺は納得できないしさ。
ちょっとさ、お互い…ちょっと考えよう?
さっきのさっきで、突然別れるって結論を出すのは急ぎ過ぎだよ」

「……ちょっとって、どれくらい?」

「んー…、じゃあ2週間。
2週間それぞれで冷静に考えて…、それからでも良いだろう?」

「…分かった」


家まで送るという智大の申し出を丁重に断った私は、
2週間で新しいアパートの契約を決めて引っ越しをして、
持っていた携帯を飲みかけのピーチティの中に沈めて、
智大との繋がりを全て断ち切った。







あの頃のこと、とりわけあの夜のことは今でも胸の奥がチクチクする。

この2年で、せっかく気にならない位まで小さくなっていたのに、
振り出しに戻ることは避けたい。

早くこの部屋から出なくては。

再び規則正しい寝息を立てている智大と、その手の下にあるパンツと対峙する。

最初のチャレンジのように、ツンツン引っ張るだけでは時間が掛かりそうだ。
ここは方針転換して、一気に引き抜くつもりで、
思いっきりグンっと引っ張ってみよう。
ただ、その勢いの分だけ智大が目を覚ます可能性が高くなる。

それならばと、私は静かに身支度を始めた。
ブラウスのボタンを留めながらシュミレーションをしてみる。

一か八かになるかもしれないけれど、
見事にパンツを奪還できたら、サッと穿いてダッシュで部屋から出る。
智大は何も着ていないから、その状態で部屋を出ることは出来ないはず。
どれだけダッシュ出来るかが鍵になる。

手元にある衣服は全て身に纏った。パンツ以外は完璧。

それなのに、スカートの中、お尻のスースー具合のせいで、
何も着ていなかった状態の時よりも戦闘力が劣っているようで、
やたら緊張感が高まる。
智大の呼吸の感覚が少し変わるだけでもドキっとして、
パンツまでの距離は同じはずなのに、目標地点に到達するまでが遠く感じられた。

ようやくパンツに手が届いて、再び息を止める。

智大の様子を最終確認をしようとすると、
神様も見方をしてくれているのかもしれない。

智大が眉間にうっすら皺を寄せながら、頭の位置を動かした。
私のパンツにかかる重さが、少し軽くなったのだ。

千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない。
私は胸が高鳴るのに比例するように手に力を込めて、
グンッと一気にパンツを引っ張った。

少しの抵抗を感じながら、枕側の半分が引っ張り出され、
続いて智大の手の下の半分が姿を現そうとした、まさにその時。

智大の目がカッと見開かれ、左手にギュッと力が込められ、
私のパンツ奪還作戦は失敗に終わった。

そればかりか、


「待って。逃げんな」


寝起きの掠れ声の智大に手首をギュッと掴まれ、
あっという間も無く、彼の腕の中に抱き締められて身動きが出来ない状態になっていた。







続く









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