カラダを科学する本格的整体ブログ

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連続動作の不思議な秘密

2009-07-08 14:41:46 | Weblog
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今回も、わたしたち人類の姿勢保持能力の神秘をたずねて、筋肉の遠心性(エキセントリック)収縮の意味を深めてみることにしましょう。

さて、普通、多くの人は、腕立て伏せをする時に、上げ下げの動作を連続的におこなうと思います。深く考えることなく、10回なら10回を切れ目のない連続動作としておこなうはずです。

ではもしこの上げ下げの動作の間に1つ1つ休憩を挟んでゆっくりおこなってみるとどうでしょう。ぜひ、実際にやってみて下さい。腕立て伏せができない方は、足腰の屈伸動作でも結構です。5回の屈伸動作を切れ目のない連続動作としておこなうのと、上げ下げの間に小休止を挟んでおこなうのとです。

いかがですか? やってみるとわかりますが、小休止を挟むと思いのほか動作が苦しくなります。実際の仕事量としては変わらないはずなのに、身体としてはかなり大きな負荷を感じます。じつはここにも、遠心収縮特有のすぐれた特性が表れているのです。




わたしたちの筋肉は、引き伸ばされると収縮しようとする反射をおこします。これを「伸張反射」といいます。生まれつきすべての筋肉がもっている仕組みです。腕立て伏せや足腰の屈伸動作では、身体を持ち上げる時に強い負荷を感じますが、あらかじめ筋肉に伸張反射を起こさせた上でパワーを発揮すれば、同じ動作をかなりラクにこなすことができるのです。

たとえば垂直跳びの時、誰もが一度重心を下げて、跳躍のための筋肉を引き伸ばします。この時、引き伸ばされた大腿四頭筋や下腿三頭筋には、伸張反射による強い筋放電がおこります。この瞬間を逃さずにジャンプすれば、思いのほかラクに身体を上方に押し出すことができるのです。





あらかじめ遠心性(エキセントリック)収縮を起こさせることで、その後にくる求心性(コンセントリック)収縮のパワーを高めることができるというわけなのです。連続動作の腕立て伏せや足腰の屈伸がラクなのは、遠心性収縮によって伸張反射のエネルギーを利用できるからなのです。

たとえば金槌を使う時、あるいは野球やゴルフのクラブを振る時、みなさんは何気なくバックスイングをおこなうと思います。そうすることによって、じつは遠心性収縮による効率のよい動作を無意識に利用しているのです。こうしてみると、遠心性(エキセントリック)収縮が、さまざまな場面でわたしたちの日常生活を支えてくれていることを実感できると思います。

でも、驚くのはこの先です。筋電計のデータで見ると、一回きりのジャンプでは、伸張反射によってパワーアップされた求心性(コンセントリック)収縮が重要な役割をはたしているのがわかるのですが、同じジャンプを連続して繰り返していると、筋肉は遠心性(エキセントリック)収縮しかおこさなくなるのです。

つまり荷重を受けとめて引き伸ばされる瞬間には仕事をしますが、本来、パワーを必要とする跳躍の瞬間には、まったく働かなくなってしまうのです。誤解しないで下さい。求心性(コンセントリック)収縮は起こさないのですが、跳躍力が落ちるわけではないのです。

たとえば、三段跳びとエキセントリック、コンセントリックの筋収縮の関係をまとめて見ると、次のようになります。(参照:宮下充正監修、深代千之編著『跳ぶ科学』大修館書店、スポーツ科学ライブラリー4)



上にあるように、三段跳びの「ステップ」や「ジャンプ」では、求心性(コンセントリック)収縮なしで、わたしたちは高々と自分の身体を上方に投げあげてしまうという訳なのです。こうなると、驚きというよりも神秘という言葉の方がぴったりくるかも知れません。




この話、ただの奇妙なスポーツオタクの話としてすましてしまうには、あまりにもったいない話です。なぜなら、わたしたち生物がどのように地球の重力をうまく味方につけてきたかという、進化の深淵ともいうべきスリリングなテーマが含まれているからです。

本当の意味で、姿勢や運動を考えるなら、避けては通れない話題といってもよいでしょう。次回はこの点を深めてゆくことにしましょう。

(つづく)

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