alternativemedicine

Studies about acupuncture and moxibustion and Massage.

痛経とDysmenorrhea

2012-12-25 | 女性と中医学

 月経困難症(Dysmenorrhea:ディスメノリア)は、月経期間中に月経に随伴して起こる病的症状を言います。
 「経痛(menorrhagia:メノレジア)」は、大多数の若い女性が経験することが知られています。月経困難症は、機能性月経困難症器質性月経困難症に分類されます。

(1)機能性月経困難症(原発性月経困難症)
(2)器質性月経困難症(続発性月経困難症)

 思春期の月経困難症のほとんどが(1)機能性月経困難症といわれており、(2)器質性月経困難症は子宮内膜症や子宮筋腫に続発するものが多いです。

【月経困難症の疫学】
 疫学調査としては、以下のPDFファイルが大変、役に立ちます。

働く女性の身体と心を考える委員会
働く女性の健康に関する実態調査結果 働く女性の身体と心を考える委員会報告書」財団法人 女性労働協会 2004:21-22(PDF

 月経痛は「かなりひどい(服薬しても会社を休む)」は2.8%、「ひどい(服薬すれば仕事ができる)」25.8%で、あわせて28.6%の女性が強い月経痛を訴えています。25歳未満では43.1%が強い月経痛を訴え、年齢が高くなるにつれて月経痛の程度は軽くなります。

【月経困難症の病態生理】
(1)機能性月経困難症(原発性月経困難症)の病態と機序
月経困難症の女性は子宮内膜より産生されるプロスタグランジンが多いことが報告されており、プロスタグランジンは子宮の筋肉を収縮させ、血管の攣縮や子宮筋の虚血を生じると考えられている。

(2)器質性月経困難症の分類
 子宮内膜症、子宮筋腫、子宮腺筋症、骨盤内うっ血、性器奇形、癒着による牽引痛など。

【月経困難症の西洋医学的治療と管理】
 機能性月経困難症の場合、1鎮痛薬、2排卵抑制剤、3抗不安薬、4漢方薬など。カウンセリング(心理療法)

1鎮痛薬としてポンタール(メフェナム酸)、ロキソニン、ボルタレン、インダシン(インドメタシン)など。

2排卵抑制剤としてプラノバール、ドオルトンなど。

3抗不安薬としてソラナックス、デパス、セルシンなど。

4漢方薬として桂枝茯苓丸桃核承気湯当帰芍薬散など。
当帰芍薬散は補血活血・健脾利水・調経止痛。
桂枝茯苓丸は活血化オ、消チョウ。
桃核承気湯は清熱瀉下通便、活血化オ。
加味逍遥散は疏肝解欝・健脾補血・清熱涼血。

【教科書の痛経の弁証論治】
 月経困難症の月経痛は、中医学の「痛経(つうけい)」の概念に含まれます。以下は、教科書である『鍼灸学・臨床篇』335-337ページを抜粋です。

《病因》
(1)寒湿凝滞による痛経
(2)肝鬱による痛経
(3)肝腎虚損による痛経

《弁証論治》
(1)寒湿凝滞による痛経
少腹部の冷痛、拒按、温めると痛みは軽減、暗紫色で血塊。薄白苔、脈沈緊。
治則は散寒利湿、通経止痛
処方は中極、水道、地機。

(2)肝鬱による痛経
痛みより張りが強い、拒按、血塊、胸脇脹痛、乳房脹痛、弦脈。
治則は疏肝解鬱、理気調経
処方は気海、太衝、三陰交。

(3)肝腎虚損による痛経
隠痛、喜按、淡色の経色。頭暈、顔色蒼白、精神倦怠。細脈。
治則は補益肝腎、調補衝任。
処方は肝兪、腎兪、関元、足三里、照海。

症状による中医診断と治療(下巻)』(中医症状鑑別診断学)では、
(1)肝欝気滞
(2)血オ
(3)湿熱
(4)寒湿
(5)衝任虚寒
(6)肝腎陰虚
(7)気血両虚
の7つの弁証類型に分類しています。

 以上が教科書的な記述ですが、本当に臨床に役に立たない(笑)。
 清代の古典『医宗金鑑』の「気によりて血の滞るは脹満多し、血により気の滞るは疼痛多し。さらにまさにその滞して脹痛をなすの故を疑いて、あるいはによりによりによりによるを審(つまび)らかにしてこれを分治するなり」という記述は参考にはなりますが。
 わたしなら、『医宗金鑑』の言う通り寒・熱・虚・実は鑑別します。温めると月経痛がマシになるケースがあり、虚証や寒証はあります。一方で温めると悪化する血熱タイプもあります。
 気血津液弁証で気滞・オ血・水滞は鑑別したほうが良いと思います。あとは経絡を切診していきます(経絡弁証)。

 漢方の処方から月経困難症の弁証を類推はできます。桂枝茯苓丸は下焦のオ血、加味逍遥散は熱証に近い肝鬱気滞・肝脾不和、当帰芍薬散は虚寒証で水滞や脾虚があり温めてラクになるタイプかな~、などなど。李世珍先生のように、穴性から配穴をつくることもできますし、それはそれで意味があると思います。

 しかし、教科書の配穴や弁証を丸暗記するのは、あまりに意味の無い作業だと思われます。


透熱灸と温筒灸

2012-12-25 | 西洋医学的鍼

「鍼灸刺激が自律神経に及ぼす影響 鍼通電・透熱灸・温筒灸による違い」
中村幹佑、赤松篤、大貫麻里、宮川亜矢子、大久保淳子、會澤重勝
『全日本鍼灸学会雑誌』58巻3号 465 2008年

 上記の研究の考察で下腿への「鍼通電と透熱灸では、HF(R-R間隔変動の高周波成分)、心拍数、皮膚血流量が一過性に減少し、刺激後に増加する動きが見られ、刺激により交感神経β系の抑制、交感神経α系の亢進が示唆された。温筒灸では刺激時にHFが増加、迷走神経亢進が考えられた」

 さらに結語では、「鍼通電と透熱灸は同様の反応パターンを示し、温筒灸とはパターンが異なった同じ灸でも透熱灸と温筒灸ではその影響が異なることが示唆された。こうした差は刺激によって賦活される感覚受容器の違いによるものと思われる」とおっしゃっている。

 この研究は、変形性膝関節症に鍼通電と透熱灸が使われることへの1つの考え方を示唆してくれる。

 透熱灸と温筒灸、隔物灸などの本質的違いとは何なのか?これは探求していきたい。


日本の灸研究 透熱灸による皮膚温度の変化

2012-12-25 | 西洋医学的鍼

「皮膚組織に及ぼす施灸の影響 -施灸による皮膚の温度変化ー」
會澤重勝、大槻 彰、宇佐美研一、坂本浩二
『全日本鍼灸学会雑誌』35巻2号 105-110 1985年

 昭和大学医学部の會澤重勝先生の研究は、透熱灸の研究をする際に、まず学ばなければならない。マウスに1壮または連続3壮、20壮施灸を行い、表皮、真皮下の温度を同時に測定されている。施灸部は毛刈りをして、麻酔下で施灸を行った。艾柱重量は0.5、1、2、5ミリグラム。10ミリグラムで1壮施灸。

1壮施灸:0.5~10ミリグラム。
表皮下:57.4-125.9℃。
真皮下:33.7―61.3℃。

連続施灸。表皮下、真皮下では1壮では低く、壮数を重ねるごとに上昇し、表皮では5壮、真皮下では7壮以後は一定値に近づいた。

 會澤重勝先生以外にも菅田良仁先生や山下仁先生、アーサー・ヤング氏など多くの研究者が透熱灸が表皮下・真皮下に及ぼす皮膚温度の変化を研究されている。


スペインの鍼研究 変形性膝関節症に最適な鍼の探求

2012-12-19 | 西洋医学的鍼

Evidence from RCTs on optimal acupuncture treatment for knee osteoarthritis--an exploratory review.
Vas J, White A.  Acupunct Med. 2007 Jun;25(1-2):29-35.

 スペインの研究者Jorge Vasさんとブリティッシュ・メディカル・ジャーナルのアキュパンクチャー・イン・メディシンの編集長アドリアン・ホワイトさんの論文。
 変形性膝関節症に最適な鍼として「手技鍼よりも電気鍼、そして、刺鍼している場所の筋肉への強い電気刺激(electroacupuncture rather than manual acupuncture, and particularly, strong electrical stimulation to needles placed in muscle)」が13件のランダム化比較試験(RCT)の分析の結果、示唆されている。 

 一方で、宮本直先生の一連の「浅い鍼(3mm程度)」と「深い鍼(10-20mm程度)」による変形性膝関節症への比較試験では、どちらも改善しているのだが、浅い鍼のほうが痛みと運動機能でより改善を認めている。

 宗田大先生の名著『膝痛 知る・診る・治す』では、膝の細かい靭帯など非常に浅層の組織が膝痛の原因であることが示唆されており、「痛点ストレッチ」という治療法を提案されている。わたしのつたない経験でも、浅い刺激のほうが運動機能については改善されたことがある。多くのベテラン鍼灸師が膝痛治療における知熱灸・透熱灸の必要性を説かれている。知熱灸は皮膚表層の刺激である。
 しかし、一方で、大腿四頭筋から大腿骨近くまで深刺して、はじめて効いた慢性の膝痛もあるし、膝痛にパルス鍼が有効であることも実感している。

 1つは、知熱灸(八分灸)の適応は何かということを考えている。変形性膝関節症は、オ血や痰湿が背景にあることが多い。細絡があったり、膝に水がたまって肥満があり胖大舌がある。こういった場合、知熱灸は適応と考えられる。変形性膝関節症の場合は、パルス鍼や灸頭鍼も効きやすいイメージがある。
 しかし、一方で、親類の変形性膝関節症の高齢者で階段を昇れないという方に対して、置鍼せずに浅い手技鍼のみで膝周囲の筋肉の圧痛点を速刺速抜して、直後に2階にのぼれるようになったというのを経験しているので、浅い手技鍼でもかなりの重症に効果があることもわかる。
 中医学的には、変形性膝関節症は、オ血・痰湿なので、去湿作用もあり血の病や慢性病に効果がある灸法を使うべきというので、きれいに説明できる。結局、オ血や痰湿がベースにあって、オ血・痰湿が原因の気滞があるので、浅い手技鍼で理気すれば痛みはとれるし、深い筋内への刺入をしてパルス鍼すれば、さらに理気活血して鎮痛作用が強くなる。

 ただ、西洋医学アタマで考えると、「知熱灸(八分灸)」を変形性膝関節症に使う理由が難しい。深刺するパルス鍼でいいじゃないという話になりそう。 


オ血・血熱と精神症状

2012-12-18 | 東洋医学
 葉天士の衛気営血弁証、呉鞠通の三焦弁証などの経絡に基づく温病の理論は、オ血あるいは血分病を理解するのに、非常に便利です。
 邵輝先生によれば、『傷寒論』では、傷寒、風寒中心なので、太陽経・少陽経・陽明経の三陽経では熱証となりますが、太陰経・少陰経・厥陰経の陰経では寒証となります。
 温病では、口鼻から入り、手太陰肺経衛分証:肺衛)→手少陽三焦経気分証:肺の気分・胃・大腸・胆・三焦)と手を伝わり、表裏する手厥陰心包経に入ると、イライラ不眠動悸などの精神症状出血などの血熱の症状が出てきます。営分証です。血熱によって、陰血を損傷すると肝腎陰虚の症状が出てきます。風熱の邪気は手厥陰心包経や足厥陰肝経に最終的に入り、意識不明やケイレンなどの症状を起こします。
 
 日本では、風熱ではなく、湿熱の病が多く、食事由来の湿邪は胃経や脾経を損傷します。脾は生痰の源、肺は貯痰の器であり、脾で発生した痰湿は肺にたまります。喘息やアトピー性皮膚炎、花粉症の原因となります。
 三焦は水液の通路であり、少陽三焦の湿が加熱すると表裏する厥陰心包に移熱します。例えば、アトピー性皮膚炎の患者さんは、体内に寒湿や湿熱がたまって、寒証と熱証という矛盾した症状があり、精神的にも「うつ症状」などを併発していることが多いです。夜になるとイライラして、痒くなります。これは血熱証です。アトピー性皮膚炎の患者さんは、色素沈着や局所の循環不全などオ血証の症状もあります。刺絡や強力な理気作用のあるパルス鍼、あるいは囲み灸などで改善する場合もあります(補中益気湯が著効するアトピー性皮膚炎もあり、これは中医学では気虚です。全てのアトピー性皮膚炎が三焦心包の湿熱とは思いません)。刺絡は活血作用、パルス鍼は強力な理気活血作用、囲み灸も活血作用があります。血熱がさらに進行すると、陰虚症状や肝腎の症状も出てきます。このような三焦・心包からの血熱・オ血という分析ができるのは、温病学がある中医学のメリットです。


 このような営分・血分証と手厥陰心包経から、「なぜ、オ血では、精神症状が出るのか?」は東洋医学的には説明できると思います。

オ血の疑問点

2012-12-17 | 東洋医学

 少し、オ血について調べたが、これは、現在の自分の能力を完全に超えていることがわかりました(笑)。あと20年たってから、もうちょっと自分がレベルアップしたら再挑戦ですね。

 まず、矢数道明先生の以下の論文は、オ血について総説的な論文となっています。

矢数道明
オ血をめぐって」(PDF)
『日本東洋医学会雑誌』25巻、165-185 1974年

 湯本求真先生のオ血概念に対する間中喜雄先生の詳細な批判と、その後、矢数道明先生も狭義のオ血(血滞)と広義のオ血(毒血)による分類を提唱などの論争史、さらに工藤訓正先生のような刺絡家によるオ血概念なども含めて論じるなど、最も広範囲にオ血を論じた論文と言えます。
 わたしの問題意識とピッタリ合うのは、この矢数道明先生の論文です。膨大な参考文献リストも勉強になります。1974年に提示された問題がまだ、解決されていないということです。

 現代においては、寺澤捷年先生の「オ血スコア」が、最もきちんとした診断基準だと思います。

寺澤捷年
オ血証の症候解析と診断基準の提唱」(PDF)
『日本東洋医学雑誌』34巻、1-17 1983年

寺澤捷年
オ血病態の科学的解明」(PDF)
『日本東洋医学雑誌』48巻4号、409-436 1998年

 日本東洋医学会では、この他にもオ血病態に関する多くの論文が発表されています。
 鍼灸分野では、『北米東洋医学誌』Vol17、48、の「オ血特集」における間中喜雄先生や大塚敬節先生、池田政一先生、児玉亨先生の議論は参考になります。また、『医道の日本』では2005年5月号で「オ血」が特集されています。
 漢方・鍼灸業界のビッグネームが激論をかわしていて結論が出ていないのです、「オ血」について安易に語るなんて、現状での自分の浅学をさらけだすようなものになります。(まあ、それでも、臨床では自分なりの個人的結論を出していかないといけませんが)

 わたしの問題意識としては、漢方家の言う「オ血」と鍼灸師の扱う「オ血」は違う気がすることです。
 これは5年以上前に寺沢捷年先生の「オ血スコア」を研究してから、湧いてきた疑問なのです。確かに、目の下にクマがあり、シミ・ソバカスが目立ち、臍傍圧痛点があり、舌や歯肉が暗紫色で、細絡があり、生理痛があり・・・という病態は間違いなく、「オ血」です。寺澤捷年先生の「オ血」研究は上記の論文を読んでも、明らかに現時点で最も論拠が明確です。漢方の場合は、桃核承気湯や桂枝茯苓丸、補陽還五湯や活血の動物生薬が効果があれば、オ血という方証相対による議論だってできそうです。

 鍼灸の場合は、「刺絡が効けばオ血か?」というと、そういうわけではないです。また、よく冷えとオ血の関係が語られていますが、わたしの経験では、明らかに血熱タイプの「オ血証」がたくさんいます。血海の瀉法や膈兪の瀉法、あるいは大椎・肩井の刺絡吸玉が効くタイプです。鍼灸分野では、やはり中医学の血寒血熱という概念を導入したほうがきめ細かく分析できます。

 松本岐子先生の一連の古傷治療が、最も鍼灸分野のオ血研究として、ベーシックな気がします。松本岐子先生は、外傷や手術痕を受けて以降、うつ症状や不定愁訴を訴える患者さんに対して、古傷を治療することで、うつ症状や不定愁訴が劇的に改善する症例を多数、報告されています。

 鍼灸師がオ血を扱う場合、このような古傷治療やムチウチ損傷が最も多いと感じています。ムチウチ損傷では、頚部に細絡がありますが、紫舌や歯肉の暗紫色や渋脈は出ません。もちろん、臍傍圧痛点も少腹急結もありません。指標となるのは、頚部の細絡と、外傷後の精神症状、自律神経失調症状です。しかし、頚部の治療を行えば、頚部の痛みや精神症状は改善されます。しかし、皮膚表面の細絡は薄くなっても、完全に消えないことも多いです。つまり、鍼灸師の扱う「オ血」病態は、「オ血スコア」では、診断できないのです。生理痛だったら、「オ血スコア」で診断できるとは思うのですが。
 漢方分野では、「オ血」について、かなり論理的に説明できるのですが、鍼灸分野になると、非常に説明しづらくなります。


オ血への疑問

2012-12-15 | 中医学

 いま、研究会のために、月経困難症や子宮内膜症、子宮筋腫と鍼灸について調べているが、次から次へと疑問がでてくる。

 まず、「オ血」の概念について、『霊枢』などでも「悪血」という表現が出ているし、『難経』でも積聚や「チョウカ」の概念がある。『金匱要略』でも「オ血」に関して、多くの記述がある。一般的には、唐宗海の『血証論』や王清任の『医林改錯』でのオ血学説やあるいは葉天士の衛気営血弁証における「オ血理論」あたりが、中医学におけるオ血理論のスタンダードだと思う。

 一方で日本では湯本求真先生の提唱する「オ血」理論があり、現在では日本東洋医学会の「オ血スコア」のようなオ血の概念がある。日本の「オ血」概念については、『北米東洋医学誌』で、湯本求真先生を批判するような形での間中喜雄先生の論文など「オ血」特集が詳しい。

 また、日本の松本岐子先生の古傷治療のような形での「オ血」概念や長野潔先生の「オ血」処置のような「オ血」概念もある。
 刺絡と吸角が必要な、ムチウチ損傷のようなオ血概念もある。

 自分は、中医学の『中医診断学ノート』の「オ血」概念がもっとも簡便なので、学生時代から愛用してきた。「固定性の刺痛(夜間痛)、出血、腫瘤、チアノーゼ」はシンプルだし、気滞との違いがわかりやすい。

 しかし、日本の「オ血スコア」や主に『金匱要略』の桃核承気湯のような「オ血」概念を知りながら、まったく自分の中では、それらをナチュラルに融合して使ってしまっていた。つまり、交通事故後のムチウチ損傷でのオ血も、左腸骨窩における少腹急結のようなオ血もゴチャゴチャに使ってきた気がする。

 これらの概念は、そろそろ、自分のなかで整理する時期だと感じている。


ヤリイカ

2012-12-13 | 西洋医学的鍼

 松本元(まつもと・げん)先生のことをはじめて知ったのは、高校生か大学生の頃だったと思う。田原総一郎の『生命戦争-脳・老化・バイオ文明』(文春文庫)を読んだときのこと。
 松本先生は、脳神経を応用したバイオ・コンピューターの研究をしようと初め考えた。脳神経を研究する際に、最も有髄の神経細胞の太いのは、ヤリイカ!ということで、ヤリイカの培養から初めた!!!ところが、ヤリイカは動物学の泰斗、コンラート・ローレンツが「人工的飼育が不可能な唯一の動物」と言ったほど、人口飼育が難しい。3年間半の苦闘で、ヤリイカの飼育に成功!世界中から、ローレンツをはじめとする動物学者が見学に来たらしい(笑)。その後、ヤリイカの神経細胞の研究によって、神経分野で世界的な業績を挙げて、理化学研究所に移った。口癖は、「脳を活性化するのは愛です」。著書に『愛は脳を活性化する』(岩波書店)もある。

http://www.goipeace.or.jp/japanese/activities/news/1999/09.html

 青年期のわたしに決定的な影響を与えたのは、松本元先生の「バイオ・コンピューターの開発のために、ヤリイカの飼育を3年半研究する」という方法論(笑)。『黄帝内経』の研究のために、『史記』『漢書』『後漢書』『三国志』など史書や中国哲学書を読むことからはじめたり(笑)、現代哲学を理解するために、古代ギリシャ哲学から始めたりする困った癖は、ここから始まった。いまも、「ウエスタン・メディカル・アキュパンクチャー」を理解するために、1970年代初めのニクソン訪中後の鍼麻酔研究から勉強しはじめている(笑)。古代ギリシャから現代のハイデガーやアルチュセールまで到達するのには10年ぐらいかかったし、『史記』扁鵲倉公列伝から『温病条弁』や『鍼灸大成』『医学衷中参西録』に到達するのは、20年かかってしまった・・・。まあ、面白かったから、いいか。


皮膚は考える

2012-12-12 | 西洋医学的鍼

 昨日、疲れて帰宅して、お風呂に長時間入ろうと思って、買っただけで読まずに積んでいた本から取ったのが傳田光洋(でんだ・みつひろ)さんの『皮膚は考える』(岩波科学ライブラリー)!

 TRPV1受容体やP2X3受容体のことが、そのまま書いてある!!!
しかも、以下の文章なんて、そのまんまじゃないか!

お灸による温度刺激は、表皮中にあるイオンチャンネル受容体TRPVを経て、やはり電気信号として神経に作用するでしょう。お灸にもいろいろあって、皮膚に直接モグサをのせて火をつけるものから、モグサと皮膚の間にショウガやニンニクの薄切りをはさんでほんのり温めるものもあります。直接モグサをのせて火をつける場合に、表皮で応答するのは43度以上で応答するTRPV1、あるいは神経末梢にある52度以上で応答するTRPV2かと思います。ほんのり温いお灸に応答するのは37度あたりで応答するTRPV3、4でしょう。」

 最近、わたしは富永真琴先生の論文を見つけて読んでいたのだが、当然、富永真琴先生にも触れられている。富永真琴先生が、TRPV1受容体の発見に関わったということも初めて知った。

 実は、傳田光洋(でんだ・みつひろ)先生は、松田博公先生が対談をされているのを読んで、興味を持って、本を買って、そのまま放ったらかしだった・・・。対談の中で、傳田先生が「自分が病気になったとき、治療してもらった鍼灸師の方は、金の棒で体をこする治療法だった」というニュアンスのことをおっしゃっていて(ウロ覚え・・・)、「傳田先生が受けた治療って、ひょっとして、ごしんじょう療法?」と思ったこと以外に覚えていなかった、他に記憶が無かった・・・。自分の記憶力の無さとバカさ加減にあきれかえる。(ところで「超医療、ごしんじょう療法」の帯文を書いているのは、理学博士の松本元先生!わたしもプリコジンの自己組織化理論に大学時代にハマったので驚き!ごしんじょう療法も金属とイオンの関連がありそう!)

 1997年にカリフォルニア大学サンフランシスコ校のJulius博士のグループが物理的な刺激(温度)や化学刺激(カプサイシン)に伴う痛みにイオンチャネル内臓型受容体が関わっていることを明らかにし、TRPV1と名づけられた。さらに「痛みを感じる受容体が他にもあることが、ちょうど世紀を超える年に発見されました。それはATPがくっつくとカチオンチャネルが開くP2X3という受容体です」(前掲書48ページ)。「さらに驚くべきことに、このP2X3もやはり表皮ケラチノサイトにも存在することを私たちは見だしたのです。これらのことから、皮膚感覚の最初の受容機構をケラチノサイトが担っている可能性がさらに強くなってきました。これは触覚、痛覚、掻痒感などのみならず、外部からの刺激に対し、体内の免疫系・内分泌系を作動させる役割も含んでいると考えられます」(51ページ)。

 以前、書いたMoxafricaのマリーン・ヤングさんの透熱灸とTRPV1受容体の考察、イギリスのブライアン・キングさんの熱刺激によるTRPV受容体とP2X3受容体の関わった痛みのブロック、川喜田健司先生グループの灸の受容体の実験論文、渡邉勝之先生・篠原昭二先生の灸頭鍼・灸とTRPV受容体とP2X3受容体の研究など、一連の研究をまとめて、アタマの中で整理しなおさないと・・・。なにより、TRPV受容体とP2X3受容体に関して、まとまった日本語の論文で一から勉強する必要性を感じる。


介護予防運動

2012-12-11 | 東洋医学

 先週は介護支援専門員(ケアマネージャー)としてボランティアで毎月おこなっている介護予防教室に行ってきました。
 最初は足首回し、目をつぶっての足の回転、片足立ち。
次に、左右に交互に重心をかける。
斜め左に両手を出す。斜め右に両手を出す。
からだをひねり、お盆のように回す。めまいの防止。
鳥の気功。
 いずれも転倒予防のために、歩行や体重移動を意識的に学習するもので、非常に合理的・科学的な方法です。PNF(神経促通手技)的な考え方です。高齢者の方でも簡単に繰り返しできるように工夫されています。

 その次は、体幹の側屈、回旋、後屈と前屈をしながら骨盤を前傾・後傾させます。これは督脈を通じさせる運動です。亀蛇気功に似ています。大雁功の中に腎経を通じさせる動きと意念、蓮花功に心包経を通じさせる動きがありますが、いつか、こういった経絡と運動法もまとめないといけないと思います。
 督脈を通じさせてから、鶴の気功・亀の気功・ボール気功・静功をやりました。初参加の方にも「からだが芯から温かくなりました」とおっしゃっていただきました。全部で90分程度です。
 
1人、親指を握れないという女性がいらっしゃったのですが、円皮針3本で痛みが10→0となったので、同じ圧痛点にせんねん灸を続けるようにお伝えしました。