alternativemedicine

Studies about acupuncture and moxibustion and Massage.

オーストリア・グラーツ医科大学Gerhard LitscherさんのHigh Tech Acupuncture

2012-10-31 | 西洋医学的鍼

 学院の気功サークルでは、井穴にテイ鍼をして肩こりをとるという『霊枢・根結篇』の根結療法を皆でやっています。ふだん現代科学とかけ離れたことをしているからこそ、こういう研究は、楽しく思えます。わたしが西洋の現代医学に求めているのは、自分が絶対に出来ない発想です。Gerhard  Litscherさんは、その代表です。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21981870

リンク先はPUBMED。
オーストリア・グラーツ医科大学Gerhard  Litscherさんの
レーザー鍼に関する論文

「顔面での血液環流について、合谷への金属の鍼とレーザー鍼の比較
(Comparison of acupuncturing Hegu (LI4) by metal or laser needle on facial blood perfusion using laser speckle technique.)」

 金属の鍼では、鼻と左右の前頭部のバイザーの域に即座の血流の増加があったが、口の領域では顕著ではなかった。
 レーザー鍼では、鼻と左右のバイザーの域での増加があったが、違いは顕著ではなかった。
結論として、手の鍼は経絡につながっている遠隔の場所の顔面の血流に影響できる(Hand acupuncture can influence FBP in remote places connected by meridians)としています。

 このGerhard  Litscherさんのレーザー鍼と手技鍼はともに経絡現象を起こすという論文はGerhard  Litscherさんの特徴が出ていると思います。
 Gerhard  Litscherさんは、ハイテクノロジーを用いての鍼の研究をしています。サーモグラフィーで、経絡そっくりの温度変化を測ったり、特殊なヘルメットを開発して、脳血流を測っている。超音波とレーザー鍼、fMRIやNIRSを使った測定などハイテク志向が強いです。

http://www.litscher.info/English%20version/index_e.html

 このホームページは左のAcu-Labというボタンをぜひclickして欲しいです。Gerhard  Litscherさんのハイテク志向が凄く理解できます。

 現在のGerhard  Litscherさんの関心は、オーストリアでデータを測りながら、中国の人に鍼をするというテレアキュパンクチャー(遠隔鍼)です。西洋医学の遠隔手術やロボット手術を鍼でもしようとするものです。
 おそらく、日本伝統鍼灸をやっている先生は、嫌悪感を感じるかもしれません。自分も最初、そうでした。自分の手で触診しないで、何やっているんだ!と思いました。
 しかし、テレアキュパンクチャーは自分の中からは、発想が逆立ちしても出てこないです。そして、いまGerhard  Litscherさんについて、Pubmedで見つけた全ての論文のABSTRACTを読んでみたところ、Gerhard  Litscherさんの鍼はかなり深いものを見ていることに気づきました。

 マルティン・ハイデガーは「技術」について語りました。世界は生成変化します。うまく訳せないのですが、ヴィトゲンシュタインは「論理哲学論考」で「世界が時間の経過とともに、降り注ぐ」ようなイメージ(Die Welt ist alles, was der Fall ist .英語ならThe world is all,it fallsになるのでしょうか?)を提示しています。結局、原子力発電も核兵器もまた、世界の生成変化の結果なのだと思います。
 わたし自身は、原子力発電や核兵器、あるいはレーザー・アキュパンクチャーやハイテク・アキュパンクチャー、テレアキュパンクチャーなどハイテクと関わることは無いでしょう。わたしは人間の五感や潜在能力を追求したい。
 しかし、一方で、テクノロジーは21世紀を生きる以上、目をそらせないものなのだと思います。


カナダのChann Gunnさんのインタビュー

2012-10-31 | 西洋医学的鍼

 ウエスタン・メディカル・アキュパンクチャーの歴史を見ると、どの文献にもカナダ、バンクーバーのDr Chan Gunnによる貢献がエポックメイキングな出来事として書かれています。

 わたし自身、最初に読んだウエスタン・メディカル・アキュパンクチャーの文献は、チャン・グンさんが書いた『筋筋膜痛の鍼治療』(克誠堂出版、1995)です。

 ウエスタン・メディカル・アキュパンクチャーの歴史はジャネット・トラベル(Janet Travell)のトリガーポイント研究に始まり、チャン・グンさんが注射による「ウエット・ニードリング」に対して、鍼を用いた「ドライ・ニードリング(dry needring)」を提唱し、IMS(Intramuscular Stimulation:筋肉内刺激)という概念をつくったことで始ったとよく言われます。英語のウィキペディアのドライ・ニードリングの項目に、トリガーポイントは、いわゆる阿是穴(so-called 'a-shi' points )と書かれていますが、本当にその通りだと個人的には考えています。『霊枢・経筋篇』の「痛をもって輸となす、圧痛点を治療する」という経筋治療です。

Chan Gunnさんのインタビューをyoutubeでみつけました。



 

 

 


Kathleen Huiさんの実験の動画

2012-10-30 | 西洋医学的鍼

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3149981/

リンク先は、2010年「ジャーナル・オブ・ヴィジュアライズド・エクスペリメント」に掲載されたハーバード・メディカル・スクールのKathleen Huiさんの
fMRIによる人間の脳への鍼の影響のモニタリング
(Monitoring Acupuncture Effects on Human Brain by fMRI)」
の9分間の実験の動画。

 ハーバード・メディカル・スクールにおいて、合谷・足三里・太衝に鍼を刺して中医鍼灸の得気(とっき)の手技をした場合とタッピング刺激をした際の差異をfMRIで観察している実験をそのまま見ることが出来ます。

 これは、現代医学による鍼研究の最先端です!fMRIで観察すると、Default Mode Network (DMN)といわれる部分の活動に変化が起きています。Default Mode Network (DMN)は、アクティブな活動中には鎮静化しており、休息時に活発に興奮するという神経細胞群で、2001年に発見され、21世紀最初の脳科学の発見と言われました。とりとめのない、内省的な思考をする際に、後部帯状回などのDMNの活動が活性化します。
 統合失調症ではDMNは過活動となり、自閉症ではDMNは阻害され、アルツハイマー病など認知症ではDMNの機能低下が起こっています。

 Kathleen HuiさんがBrainReseach 2009に発表した論文では、「Default Mode Network (DMN)の機能障害が含まれると報告されている精神疾患の数は増えており、多動症(Hyperactivity)、大うつ病(Major Depression)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、注意欠陥多動障害(ADHD)、自閉症アルツハイマー病が議論されている。我々の実験結果は、ストレスや痛み、その他の不快な刺激による過剰な神経活動やまたは強化された機能不全など脳神経のインタラクションをが動員することを示唆している(Our results suggest that acupuncture may mobilize the interactions between major limbic structures to enhance deactivation or suppress neuronal activation by stress,pain or other negative stimuli.)」と論じています。
Acupuncture mobilizes the brain's default mode and its anti-correlated network in healthy subjects.)
 このKathleen Huiさんの研究の深さというのは、いままでの欧米の鍼研究にはあまり感じられなかったレベルだと思います。

 それにしても、これらの論文のPDFファイルも、実験の動画も全てフリーで容易に手に入るというのは、とんでもない時代だと思います。


Kathleen Huiさんの講演

2012-10-30 | 西洋医学的鍼

http://www3.mdanderson.org/streams/FullVideoPlayer.cfm?xml=integrativeMed%2Fconfig%2FAcupunctureAndBrain-954_cfg

 テキサス大学アンダーソンがんセンターにおけるKathleen Huiさんの57分の講演会。たどたどしい英語がわたしには聞きやすい。
 ジャーナル・オブ・ヴィジュアライズド・エクスペリメントの動画もそうだが、ハーバード・メディカル・スクールの最先端の研究者の実験風景や研究者向け講演まで見れるなんて、凄すぎるわ。

 

 

 


或中の配穴理由

2012-10-30 | 西洋医学的鍼

http://www.deepdyve.com/lp/mary-ann-liebert/a-unique-application-of-ki-26-yu-zhong-acupuncture-point-for-the-f73u08AGC0

『メディカル・アキュパンクチャー』2012年9月号のアン・ジェフレス(Anne Jeffres)さんが書いた論文。

A Unique Application of KI 26 (Yu Zhong) Acupuncture Point for the Treatment of Anxiety

が、中医学的に面白すぎる。著者のアンさんはニューヨーク、コロンビア大学の癌センターに所属しています。

 不安症状に腎経のツボ「或中(いくちゅうKI26)」を使ったら成功したという症例。『鍼灸大成』或中は「咳逆喘息、不能食、胸脇支満」が主治なので、不安に効くというのはアンさんの新学説!

 症例は、オレゴン州からニューヨークに引っ越したの33歳の女性でビジネスをしている。不安とストレスで来院。不眠、月経不順、緊張型頭痛で不安な気分がある。
 肝気鬱滞と弁証して、合谷ー太衝(四関穴four gate)と足三里、内関、神門に刺鍼。一回の治療で不安はかなり軽減して、一週間後の治療で上の配穴に或中を加えたところ、劇的に改善し、次回の来院時にはもう一度、そこに刺すように患者から言われたという症例。

 アンさんは中国の上海にも留学している。なぜ、或中が効いたのか?を考察している。

  アンさんによれば、古代中国医学では、憂は肺臓、恐(Y0U=りっしんべんに尤)は腎臓と関連しており、或中(YU Zhong)の(YOU)は、憂や恐を治療できるという意味で名付けられたのでは無いかと推測している。或中(YU Zhong)と郁証(鬱証:Yu zheng)の音が似ているから取穴したらしい。

これは自分の臨床経験から、教科書レベルの中医学の理論で説明できない現象を、中医学古典やツボの名前の起源を考えて考察しており、ユニークで読んでいて楽しかった。


アイスマン!

2012-10-30 | 西洋医学的鍼

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/m/pubmed/23096483/?i=5&from=acupuncture

The musculoskeletal abnormalities of the Simulaun Iceman ("ÖTZI"): clues to chronic pain and possible treatments.

カナダ、マクマスター大学の楽しい研究。1991年のイタリアで、5300年前のアイスマンが発見された。その身体にいれた刺青がツボと一致していると話題になった。たしか2000年に全日本鍼灸学会でも取り上げられている。このアイスマンは冠状動脈疾患とライム病を患っていたそうだ。

エルンストの鍼の批判

2012-10-29 | 西洋医学的鍼

http://edzardernst.com/2012/10/acupuncture-for-chronic-pain-almost-certainly-not/

↑ 『代替医療のトリック』『鍼治療の科学的根拠』のエツアート・エルンストがブログで Acupuncture for chronic pain? Almost certainly not! という批評を2012年10月23日に書いています。彼の批評は、現代の科学のパラダイムからは、だいたい妥当だと思います。現状では、真鍼と偽鍼は、無治療群に比べると改善するものの、真鍼と偽鍼の違いは出ていません。また、個人的には、fMRIによる真鍼と偽鍼の違いが帯状回に出ているという研究や得気の研究に注目していますが、これは臨床家として臨床的に応用できるかという一点に興味があるからであり、科学的証拠としては弱すぎます。実際には、fMRIでもプラセボの際に活動する部位と鍼の際に活動する部位はほぼ一致しています。現代の科学パラダイムの中にいる限り、エルンストの批判は正当ですし、代替医療のためにも、彼のような辛らつな批評家が必要だと思っています。

 ただ、個人的には「鍼の研究に一生を捧げたのに、鍼というものを全く理解できていない」ということに愕然として、他山の石としたいと感じるだけですが。

 


香港の鍼研究 足跟痛の遠隔取穴

2012-10-29 | 西洋医学的鍼

 http://www.hindawi.com/journals/ecam/2011/154108/

『エビデンス・ベースド・コンプリメンタリー・オルタナティブ・メディシン』2011年発表の香港の鍼研究。
 
Acupuncture Treatment for Plantar Fasciitis: A Randomized Controlled Trial with Six Months Follow-Up
 
これも面白かったです。遠隔治療マニアの私ですが、足跟痛に大陵は毎回ファーストチョイスで試して、効いた経験が無いのです。他の膝痛を肘で取るなどの交差取穴や対側の巨刺は、凄い頻度で使って結果を出しているのに、我ながら不思議です。耳鍼の踵では効いた経験があるのですが。
 
この研究では足跟痛に対して大陵と合谷を比較して、足跟痛には大陵のほうが、効果があったとする単穴の遠隔取穴をテーマにした珍しい論文です。
 
 
 

イギリスの鍼研究 足跟痛のシステマティックレビュー

2012-10-28 | 西洋医学的鍼

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/m/pubmed/23099290/?i=1&from=acupuncture

リンク先はpubmed。
イギリスの鍼研究。ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル、アキュパンクチャー・イン・メディシンに2012年10月25日に掲載の論文
 

「足跟痛の鍼の効果、システマティックレビュー(The effectiveness of acupuncture for plantar heel pain: a systematic review)」

 
鍼が足跟痛に効果があるのは経験的にわかりますが、臨床では難治のものもあり、スッキリしない感じもあります。ただ、システマティックレビューで、鍼の効果でかなりポジティブな結果が出たのは、経験的には納得しました。
 

Kathleen Huiさんの得気のfMRI研究

2012-10-28 | 西洋医学的鍼

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/m/pubmed/16046146/
リンク先はpubmed.

ハーバード大学の得気のfMRI研究は、ヴィタリー・ナパドウさんが中心と思いこんでいたら、読み進めるうちにKathleen Kin song Huiさんだと判明しました。このNeuroimage に2005年9月に発表された以下の論文は、まだ、理解しきれていないけど、読んでいて、興奮させらました。

The integrated response of the human cerebro-cerebellar and limbic systems to acupuncture stimulation at ST 36 as evidenced by fMRI.

基礎研究と臨床家の実感がピッタリ一致することはまず、無いです。だからこそ、私は新鮮な驚きを求めて基礎研究を読みます。しかし、この論文は、驚きながらも自分の臨床経験と非常に一致することが多いです。この研究が表現しているパラドックスは、まさに臨床家が感じているもので、凄い哲学的深みを感じました。