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国際連帯税シンポ報告(2):寺島実郎氏の基調講演

2008-12-04 | 「国際連帯税」東京シンポジウム2008
            <「過剰流動性は縮まっていない」と話す寺島実郎さん>

寺島実郎氏((財)日本総合研究所会長(株)三井物産戦略研究所所長)の基調講演(要旨)を送ります。文責は、「国際連帯税」東京シンポジウム2008実行委員会にあります。

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【以下、寺島さんの講演です】

私と国際連帯税のかかわりから話したい。

洞爺湖サミットの時、首相を取り巻く温暖化懇談会(正式名は「地球温暖化問題に関する懇談会」)の委員が選ばれた。トヨタの奥田さんなどと、それに加わった。

2点私は強調した。メディアは排出税取引や中長期目標の設定などに集中していたが、私は、①国際連帯税と、②(食料)自給率を高めることによってエネルギーと環境対策とすること、を強調した。

自給率が低いと輸送にかかわる、エネルギー消費とCO2が多くなる。日本は戦後、食料とエネルギーは海外から買った方が早いとして産業構造を築いてきた。一人あたりGDP1000ドルを超えたのが1966年(途上国段階を突破したとされる基準)、1981年には10倍の1万ドルを超した。2回の石油危機がありながら奇跡の成長を遂げた。その一方で1965年食料自給率が73%だったのが、1981年に5割を割り、今は40%である。

人口1965年4分の1が第一次産業についていた。これが1980年には10%となり、今は4%で、この6割が65才以上である。ここに補助金ばらまいても自給率は上がらない。何とかカロリーベースで自給率5割に戻そう、と主張した。

環境問題のような国境を越えた問題について新しい発想が必要である。国境を越えた問題には国境を越えたシステムを考えなければならない。国民国家を越えた問題を国民国家の力関係でやるのは無理。それを越えた発想が必要であるとして、国際連帯税を主張した。

(温暖化懇談会では)初めは、何を言ってるのかという雰囲気だったが段々理解されてきた。

連帯税について福田ヴィジョン(正式名は「『低炭素社会・日本』をめざして」)にも1行入った。9月26日に、福田さんが置きみやげのようにリーディング・グループ(正式名は、「開発資金についての連帯税に関するリーディング・グループ」と言い、2006年3月に設立されたが日本はずっとオブザーバー参加だった)に55ヶ国目に入った。ここには各党を越えた議員連盟(正式名は「国際連帯税創設を求める議員連盟」)の後押しもあった。

本日のシンポジウムをやってるNPO、学者の皆さんとも知り合う機会があり、本日の講演に至った。

今、世界をゆるがしている、①世界金融危機、②環境の2つの課題の解決を考えていかなければならない。

11月5日オバマ新大統領が選ばれ、11月15日G20金融サミットの会議、まだギニアのコナクリで国際連帯税の会議(第5回連帯税に関するリーディング・グループ総会)が行われた。

今世界の不安の大きな震源地がアメリカ。ブッシュ政権8年に対する疲れと失望があり、脱ブッシュに踏み出した。私自身、定点観測のために数ヶ月おきにアメリカに行っているが、本当にアメリカが疲れている。こんなアメリカを見た事がない。

イラクで死んだ米兵4187人、アフガン621人合わせて4808人。この人達に10人くらいは肉親などがいたであろう。時代を読む資質は数字に対する感受性である。イラク人犠牲者は、少ない推計で6万5千、多い推計では16万人が亡くなっている21世紀初頭血みどろの世界になってしまった。

ジョセフ・スティグリッツが「3兆ドルの戦争」を書いた。半年前「戦争経済」というタイトルで翻訳された(邦訳出版名『世界を不幸にするアメリカの戦争経済 イラク戦費3兆ドルの衝撃』徳間書店刊)。これによるとイラク・アフガニスタンでアメリカ人5千人死亡、7万人負傷、5万五5人精神的ストレス障害になった。

既にこれで1兆ドルの戦費負担である。

サブプライムローンに突っ込むべき規模が1兆ドル。

「ウォールストリートで食い散らした人をどうして税金が助けなければいけないのか」という人がいるのでそこで減税案も抱き合わせ、合計1兆1千億ドルの負担となった。

新自由主義の総本山であるアメリカが、中国も真っ青のやり方で、新自由主義の総本山とも言えるウォールストリートに公的資金を突っ込むというブラックジョークのようなことが起きている。

私は以前から「勝つかどうかはともかく、時代が呼んでいるのはオバマだ」と言っていた。ベトナムシンドロームでのたうち回っていた時は癒しのカーターが必要だった。アメリカの残している数少ないいい所のポイントがオバマである。「黒人であるオバマを選んだアメリカは凄い」「アメリカをよみがえらせる時、これが非常に重要な要素となる」と、フランシス・フクヤマというネオコン・共和党右派がオバマ支持を表明した。ニューディールのフランクリン・ルーズベルトと似た形で出てきた。

1933年銀行と証券を分離する法律(正式名『グラス・スティーガル法』)の廃止など、アメリカは行き過ぎたマネーゲームに踏み込んだ。まずこれ(銀行と証券の分離)をやるだろう。もう一つは新産業政策の展開である。グリーンリカバリー(景気回復)戦略、すなわち環境とエネルギー政策に力を入れてくるだろう。

 金融資本主義が行き過ぎたところまで来てしまった。歴史の中で我々はどういう時代に生きているのかを意識しないと国際連帯税のことがわからない。これを3題話のようにして語ろうと思う。

3題話の1つめ。80年代はウォールストリートのヒーローにマイケル・ミルケンがおり世界にある2万軒のマクドナルドの利益よりも大きかった。「ジャンク・ボンドの帝王」と呼ばれる。映画「ウォールストリート」(監督は「プラトーン」のオリヴァー・ストーン、1987年製作)でマイケル・ダグラスがやっていた役のモデルである。「マネーゲームであって、社会に何らの利益ももたらしていない」という文を私は書いた。
 
今、振り返るとサブプライムローンに比べればマイケル・ミルケンの方がはるかにまともに思える。マイケル・ミルケンのおかげでマイクロソフトなどに金が回った。その頃の日本の銀行・金融は土地を担保に金を貸すことしか思いつかなかった。彼はベンチャー企業にも金が回る仕組みを作った。後に日本に現れたホリエモン(元ライブドア社長の堀江貴文氏のこと)・村上ファンド(元通商産業省官僚の村上世彰氏が率いるファンド)はマイケル・ミルケンのまねであり、エピ・ゴーネンである。

3題話の2つめ。冷戦崩壊で資本主義が社会主義に勝ったと驕りをもった。社会主義は非効率によって自壊しただけ。ここでジョージ・ソロスが出た。マハティールが名指しで罵倒した。ソロスは評価の難しい男だ。一方で世界一の投機家、「ヘッジファンドの帝王」であえい、他方で世界中の福祉・民主化に力を入れている。90年代ソロス批判をたくさん私は書いたものだが。サブプライム問題を目の当たりにすると、ソロスはまともだったとさえ思う。彼によって金融が利益をもたらす仕組みが変わったのだが。

当時、理工系の7割が軍需産業に雇われていた。1990年代冷戦が終わり、軍民転換が行われ、アメリカは軍事予算の3割をカットした。日本では金融が合従連衡していたが、アメリカは軍需セクターの合従連衡が起こった。軍需セクターは属している人さえ吐き出しており、新しい人なんか雇えない。そういう中で金融が理工系を雇い、IT(情報通信)とFT(金融技術)の合体が図られた。この中でデリバティブなど金融ビジネスモデルなどの変化が起こったのである。

3題話の最後に、ではサブプライムって何だ、いうことについて。これは恐ろしい誘惑で、仮に私に対してビルのオフィスをつけて、MBA(経営学修士)卒を部下につけるとする。アメリカは100万人の弁護士がいる世界だが、私に100人くらいの税理士・法律家をつけるとして、「これで濡れ手に粟のビジネスモデルを作れ」と私が言ったとする。それでできたのがサブプライム(の制度設計)と考えるとわかりやすい。

アメリカの住宅が高くなり続けるという前提がサブプライム成立の元である。

これは段ボールまんじゅう(豚肉の代わりに使用済み段ボール紙を詰めた肉まんのこと)みたいなもの。リスクについては一応書いてはあるがよくわからない。リスクの為の保険がAIGにあり、ここに公金を突っ込まないとドミノ倒しが起きる。「金融工学の進化とは」「本来金貸してはいけない人にどうやって金貸すかの技術」と言って間違いない。

額に汗せずに儲ける方法を頭でっかちに考えた人の行きつく先がサブプライムローン。グローバル化だけ言って適正な制御を考えないのは実に危険である。移動しやすい財(典型がお金)と移動しにくい財(労働力など)がある。ここで格差が生まれる。

ここで少しは懲りて変化が出るかと思ったら間違える。今、各国がやっているのは、金融緩和。流動性不安を起こしてはいけないとして、爆弾回しゲームのようになっている。過剰流動性は縮まっていない。そして食料・石油の価格が乱高下している。石油の5割以上はマネーゲーム的要素ではね上がっている

WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)はヒューストン地域のローカルな原油に過ぎない。全世界の石油の生産は1年で8600万バーレルなのに、WTIは一日あたり3億バーレルも取り引きされている。素朴な疑問にたちかえってみれば、WTIの実需は年間70万バーレルしかないのに、また全世界でも年間で8600万バーレルしか生産していないのに、どうして1日3億バーレルも取引する必要があるのか。

実需給ではなくマネーゲームで石油が乱高下している。これが新たな不安を生んでいる。

新しい縛りをかける手法はないのか、過剰連動性の制御が必要である。ここで必要になってくるのが国際連帯税のようなシステムである。

ヘッジファンドの発想はタックスヘイブンに行って責任を共有しようとしないというものだ。国際連帯税については「技術的に難しい」という議論が必ず出てくるが、超えなければいけない。国境を超えた問題について、人類が問われている新たな知恵である。

北極、南極は誰が責任を持つのか、宇宙開発技術、環境など新しい方法論で対応しなければいけないという壁に人類がぶつかる。

G20で10兆円出すと日本は言っている。一方、欧州は脱ブレトンウッズのしくみを作ろうとしている。知恵を出したのはブラウン(英首相)、突出して主張しているのはサルコジ(仏大統領)だ。

欧州の知恵というのは中々面白い。ブレトンウッズ体制は戦後英国からアメリカに覇権が移ったことの象徴のような体制である。ケインズ案とホワイト案が激しくぶつかる中、圧倒的に金保有しているワシントンの天下のような形でできあがった。これは、ワシントン・コンセンサス、つまり、ワシントンの利害を考えてできたような体制である。

欧州に本部がある国際機関はこういうものと全く世界観が異なる。欧州本部の国際機関を考えるとパリにOECDなど、スイスに15の国際機関がある。アメリカにとっては思うようにならない。

日本は戦後アメリカを通じてしか世界を見ていない。日本の官公庁の中核はIMF(国際通貨基金、本部ワシントン)などに出向した人であり、「欧州が見えない」というのが日本の弱点。国際連帯税に注目することは欧州を見ることにつながる。

かつて平沼内閣が欧州を理解できずに倒れた(日独軍事同盟の締結交渉を進めていたが、1939年8月にドイツがソビエト連邦と独ソ不可侵条約を締結したため、「欧州情勢は複雑怪奇」との言葉を残して同月末に内閣総辞職)。

アメリカの資本主義とヨーロッパ流の資本主義とは大分異なる。アメリカは株主への利益、株価や配当を優先する。欧州は「アメリカを資本主義ファンダメンタリスト」と見ている。欧州では、イギリスは労働党が、ドイツは連立に社民党が入っている、というように資本主義の中にも社民主義が加わり、株主だけでなく労働者も、そして環境も重視する。日本は1980年代「日本的経営」に胸を張っていたが、アメリカ型資本主義に舵を切った。これが構造改革路線である。

こういう中で国際連帯税のような仕組みを見ていくことは極めて意義深い。

これからは嫌でも日米中のトライアングルについて考えなければならない。ここでも欧州が重要である。日本が中国をWTOに引き込んだことにどれだけ利益があったかを考えなければならない。WTOの本部はスイスにある。ここに中国人観光客が来て嬉しそうに記念写真を撮っている。中国にとっては、日本が国連に入ったときのような晴れがましさを感じている。中国の反日デモを止めたのは実は欧州である。欧州が重要カードになる。

戦後の日本はますます視野が狭くなっている。アメリカを通じてしか世界を見ていない。典型例が「表日本」「裏日本」という言い方だ。アメリカに面する太平洋側が表、日本海側
が裏という発想だ。日本の若者くらいアメリカ文化に骨の髄まで影響されているのは世界広しといえど少ない。食・衣料・文化などすべてに及ぶ。

ところが、日本にとって日本の黒字のうち、対米貿易は14%。ユーラシアは7割になった。人・物・技術の連携はこれからますますユーラシアが主体になっていく。

そういう中で国際連帯税というテーマで活動しておられる皆さんの活動が重要な位置付けを持つだろうということをお話して終わりたいと思います。

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