「不老長寿」の扉を開くカギは、
腹七分目、ほどよい運動。
長寿遺伝子とテロメア
「いつまでも歳をとらずに、長生きしたい」―。そんな不老長寿への夢が、必ずしも夢ではなくなってきました。最近の研究で、老化を遅らせ、寿命を延ばす「長寿遺伝子」の存在が明らかになったためです。この遺伝子は誰もが持っており、上手に働かせれば寿命が延びる可能性も秘めています。この遺伝子のスイッチをオンにするには、私たちの生き方が重要なカギを握っているといっても過言ではありません。延び続ける人間の寿命。最新の生命科学への期待は高まるばかりです。老化と長寿研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(55)と山田英生・山田養蜂場代表(56)が、長寿遺伝子の秘密や人間の寿命などについて語り合いました。
夢でない不老長寿
山田 最近、テレビや新聞、雑誌などで「長寿遺伝子」が話題になっていますが、この遺伝子は、どんなもので、どんな働きをしていますか。
白澤 長寿遺伝子とは、一言でいうと、「操作をすれば、老化を遅らせ、寿命を延ばす遺伝子のこと」です。人の細胞の中には、老化や寿命をつかさどる長寿遺伝子が50個から100個ぐらいはあるといわれています。この長寿遺伝子は、普段は眠っていて働いていませんが、そのスイッチをオンにすると、老化のスピードが緩やかになり、寿命を延ばす働きがあります。
山田 長寿遺伝子は、人間なら誰でも持っているのでしょうか。
白澤 皆、持っています。人間だけでなく、酵母菌、ハエ、サルなど地球上のほとんどの生物が持っているといってもよいでしょう。長寿遺伝子の研究は以前から行われていましたが、今テレビなどで取り上げられ、話題になっているのが「サーチュイン(Sirtuin)遺伝子」です。この遺伝子の中で、最初に発見されたのが、「サーツー(Sir2)」と呼ばれる遺伝子で、米国・マサチューセッツ工科大学のレオナルド・ガレンテ教授が8年の歳月をかけて2003年に酵母菌の中から発見しました。Sirとは、「サイレント・インフォメーション・レギュレーター」の略で、「静かなる情報を規定するもの」という意味です。ガレンテ教授は、サーツー遺伝子を取り除くと、酵母が早死にし、逆に増やすと長生きすることを解明しました。
山田 ガレンテ教授の動物を使った実験では、遺伝子操作によって実際、どのくらい寿命が延びたのですか。
老化の進行にも関与
白澤 ショウジョウバエで約30%、線虫では約50%寿命が延びました。さらに、ガレンテ教授は、マウスにも、人の体の中にもサーチュイン遺伝子があることを発見しています。この遺伝子は、寿命だけでなく、老化の進行にも関与していることがわかっています。老化をもたらす要因としては「活性酸素による酸化ストレス」や「免疫細胞の暴走」などが考えられますが、サーチュイン遺伝子が活性化すれば、こうした老化の要因を抑え、進行を遅らせることができるようになります。
山田 老化は、人間が生きている限り避けられませんが、サーチュイン遺伝子によって進行を遅らせ、長生きにつながれば、これほど画期的なことはないでしょう。
白澤 サーチュイン遺伝子には、3つの特徴があります。1つ目は「暖かい環境では活動しない」、2つ目は「取り除くと早く死に、増やすと長生きする」。そして3つ目は、「活性化しないと効果がない」というものです。特に、寿命を延ばすためには、活性化、つまりサーチュイン遺伝子のスイッチをオンにしてやることが必要になりますね。
山田 サーチュイン遺伝子は、普段はスイッチオフの状態になっていますが、これをオンにするにはどうすればよろしいのですか。
白澤 カロリー制限、つまり摂取カロリーを減らすことですね。これによって長寿遺伝子は活性化します。以前、この対談でアカゲザルを使ってカロリー制限が寿命にどのような影響を与えるかを追跡調査した米国・ウィスコンシン大学の研究の話をしたことがあるかと思います。この調査では、エサを7割に制限したグループのほうが通常のエサを与えたグループより生存率が高く、毛並みにツヤがあり、全体的に若々しかった、との結果が出ました。この調査によって、カロリー制限をするだけでも寿命や見た目などに大きな影響が出ることがわかったのです。
カロリー制限でオン
山田 寿命が延びたアカゲザルは、カロリー制限によって長寿遺伝子のスイッチがオンになった、ということですね。このようなケースは動物だけでなく、人間にも当てはまるでしょう。やはり、食事は「食べたいから」といって食べたい分だけ食べるのではなく、腹七分目か八分目に抑えておくことが大切ですね。
白澤 それと、赤ワインに含まれるポリフェノールの一種、「レスベラトロール」が長寿遺伝子を活性化させ、老化を防ぐ働きのあることもわかりました。実験を行ったのは、ハーバード大学准教授のデービッド・シンクレア博士。博士は、カロリー制限をしていないマウスにレスベラトロールを投与したところ、サーチュイン遺伝子が活性化され、寿命が延びたといいます。レスベラトロールは赤ワインの原料に使われるブドウの皮や種子のほか、最近では御社でも研究されているインドネシアの植物「メリンジョ」にも含まれていることがわかり、注目されています。
山田 肉などの動物性脂肪を多く摂っていながら、フランス人に心臓病が少ないのは赤ワインを通じてレスベラトロールを日常的に摂取しているから、といわれていますが。
テロメアは細胞寿命
白澤 そういわれていますね。これまでの実験結果などから、サーチュイン遺伝子がオンになると多くの老化要因を抑え、肌、血管、脳などが若く保たれ、寿命が延びると考えられています。メタボリックシンドロームなどの治療にも有効との指摘もあります。
「テロメア」という言葉をお聞きになったことがあると思いますが、ギリシャ語で「末端の部分」を意味し、染色体の末端にキャップのようにくっついていて、DNAを守る役目を果たしています。今、医学や生命科学に携わる研究者らが健康長寿のカギを握るものとして、注目しているのがこのテロメアなんです。テロメアは赤ちゃんの時が最も長く、加齢とともに短くなっていきます。
山田 なぜ、テロメアが健康長寿と関係あるのですか。
白澤 ご存知のように、私たちの体は、細胞が分裂し、新しく生まれ変わることによって正常な機能を維持しています。しかし、細胞が分裂できる回数には限度があり、50回~70回くらい分裂すると、それ以上は分裂できなくなるといわれています。これは、テロメアがすり減っていくためで、細胞分裂を繰り返すたびにテロメアは短くなり、ある一定の長さまでいくと、細胞分裂ができなくなってしまいます。そんな性質から、テロメアは細胞の寿命を示す「寿命の回数券」とか「老化時計」などと呼ばれています。
山田 テロメアの回数券がなくなると、細胞が分裂できなくなり、若い細胞が生まれなくなってしまいますね。
見た目の若さも重要
白澤 これまでテロメアは、「すり減れば再生は不可能」と考えられてきました。しかし、最近の研究では、サーチュイン遺伝子にテロメアがすり減るのを抑える働きがあることがわかってきました。たとえば、顔の皮膚。テロメアの回数券を使いきってしまうと、老化がどんどん進み、顔にシワやタルミ、シミなどができて老け顔になってしまいます。ところが、サーチュイン遺伝子が働いて、テロメアがすり減るのを抑えれば細胞分裂も可能になり、見た目の若さをキープすることが可能になります。
山田 そうしますと、テロメアの長い人ほど若々しく、短い人ほど老けて見えるということでしょうか。
白澤 その通りです。見た目の年齢差は、そのまま内臓や血管などの年齢差でもあるからです。顔の老け具合を見れば、その人の寿命がわかります。その意味からも、テロメアは「寿命のバイオマーカー」といってもよいでしょう。テロメアの長さを検査し、長寿になれる可能性が高いか、低いかを調べ、もし低かったら、自分の生活習慣のどんな点が悪いのか、足りない部分は何なのかをつかみ、それに合わせて自分の生活習慣を変えていけばよいのです。
山田 では、テロメアが短い人というのは、どんな人ですか。
白澤 まず、肥満の人ですね。2005年にイギリスの医学雑誌「ランセット」に「テロメアは生活習慣によって変わる」という趣旨の論文が掲載されました。それによると、ロンドンに住む18歳~76歳の女性1,122人のテロメアを調べたところ、肥満の人はそうでない人に比べテロメアが8年分、短かったそうです。また、タバコを1日に1パック、10年間吸っている人は、吸わない人に比べ2年分もテロメアが短いことがわかりました。それと、運動不足ですね。運動していない人は、している人よりもテロメアが短いことが明らかになっています。
山田 であれば、肥満を解消し、タバコをやめ、運動を積極的に行うことによってテロメアの長さを保ち、いつまでも若々しく健康でいたいものです。
腹七分目、ほどよい運動。
長寿遺伝子とテロメア
「いつまでも歳をとらずに、長生きしたい」―。そんな不老長寿への夢が、必ずしも夢ではなくなってきました。最近の研究で、老化を遅らせ、寿命を延ばす「長寿遺伝子」の存在が明らかになったためです。この遺伝子は誰もが持っており、上手に働かせれば寿命が延びる可能性も秘めています。この遺伝子のスイッチをオンにするには、私たちの生き方が重要なカギを握っているといっても過言ではありません。延び続ける人間の寿命。最新の生命科学への期待は高まるばかりです。老化と長寿研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(55)と山田英生・山田養蜂場代表(56)が、長寿遺伝子の秘密や人間の寿命などについて語り合いました。
夢でない不老長寿
山田 最近、テレビや新聞、雑誌などで「長寿遺伝子」が話題になっていますが、この遺伝子は、どんなもので、どんな働きをしていますか。
白澤 長寿遺伝子とは、一言でいうと、「操作をすれば、老化を遅らせ、寿命を延ばす遺伝子のこと」です。人の細胞の中には、老化や寿命をつかさどる長寿遺伝子が50個から100個ぐらいはあるといわれています。この長寿遺伝子は、普段は眠っていて働いていませんが、そのスイッチをオンにすると、老化のスピードが緩やかになり、寿命を延ばす働きがあります。
山田 長寿遺伝子は、人間なら誰でも持っているのでしょうか。
白澤 皆、持っています。人間だけでなく、酵母菌、ハエ、サルなど地球上のほとんどの生物が持っているといってもよいでしょう。長寿遺伝子の研究は以前から行われていましたが、今テレビなどで取り上げられ、話題になっているのが「サーチュイン(Sirtuin)遺伝子」です。この遺伝子の中で、最初に発見されたのが、「サーツー(Sir2)」と呼ばれる遺伝子で、米国・マサチューセッツ工科大学のレオナルド・ガレンテ教授が8年の歳月をかけて2003年に酵母菌の中から発見しました。Sirとは、「サイレント・インフォメーション・レギュレーター」の略で、「静かなる情報を規定するもの」という意味です。ガレンテ教授は、サーツー遺伝子を取り除くと、酵母が早死にし、逆に増やすと長生きすることを解明しました。
山田 ガレンテ教授の動物を使った実験では、遺伝子操作によって実際、どのくらい寿命が延びたのですか。
老化の進行にも関与
白澤 ショウジョウバエで約30%、線虫では約50%寿命が延びました。さらに、ガレンテ教授は、マウスにも、人の体の中にもサーチュイン遺伝子があることを発見しています。この遺伝子は、寿命だけでなく、老化の進行にも関与していることがわかっています。老化をもたらす要因としては「活性酸素による酸化ストレス」や「免疫細胞の暴走」などが考えられますが、サーチュイン遺伝子が活性化すれば、こうした老化の要因を抑え、進行を遅らせることができるようになります。
山田 老化は、人間が生きている限り避けられませんが、サーチュイン遺伝子によって進行を遅らせ、長生きにつながれば、これほど画期的なことはないでしょう。
白澤 サーチュイン遺伝子には、3つの特徴があります。1つ目は「暖かい環境では活動しない」、2つ目は「取り除くと早く死に、増やすと長生きする」。そして3つ目は、「活性化しないと効果がない」というものです。特に、寿命を延ばすためには、活性化、つまりサーチュイン遺伝子のスイッチをオンにしてやることが必要になりますね。
山田 サーチュイン遺伝子は、普段はスイッチオフの状態になっていますが、これをオンにするにはどうすればよろしいのですか。
白澤 カロリー制限、つまり摂取カロリーを減らすことですね。これによって長寿遺伝子は活性化します。以前、この対談でアカゲザルを使ってカロリー制限が寿命にどのような影響を与えるかを追跡調査した米国・ウィスコンシン大学の研究の話をしたことがあるかと思います。この調査では、エサを7割に制限したグループのほうが通常のエサを与えたグループより生存率が高く、毛並みにツヤがあり、全体的に若々しかった、との結果が出ました。この調査によって、カロリー制限をするだけでも寿命や見た目などに大きな影響が出ることがわかったのです。
カロリー制限でオン
山田 寿命が延びたアカゲザルは、カロリー制限によって長寿遺伝子のスイッチがオンになった、ということですね。このようなケースは動物だけでなく、人間にも当てはまるでしょう。やはり、食事は「食べたいから」といって食べたい分だけ食べるのではなく、腹七分目か八分目に抑えておくことが大切ですね。
白澤 それと、赤ワインに含まれるポリフェノールの一種、「レスベラトロール」が長寿遺伝子を活性化させ、老化を防ぐ働きのあることもわかりました。実験を行ったのは、ハーバード大学准教授のデービッド・シンクレア博士。博士は、カロリー制限をしていないマウスにレスベラトロールを投与したところ、サーチュイン遺伝子が活性化され、寿命が延びたといいます。レスベラトロールは赤ワインの原料に使われるブドウの皮や種子のほか、最近では御社でも研究されているインドネシアの植物「メリンジョ」にも含まれていることがわかり、注目されています。
山田 肉などの動物性脂肪を多く摂っていながら、フランス人に心臓病が少ないのは赤ワインを通じてレスベラトロールを日常的に摂取しているから、といわれていますが。
テロメアは細胞寿命
白澤 そういわれていますね。これまでの実験結果などから、サーチュイン遺伝子がオンになると多くの老化要因を抑え、肌、血管、脳などが若く保たれ、寿命が延びると考えられています。メタボリックシンドロームなどの治療にも有効との指摘もあります。
「テロメア」という言葉をお聞きになったことがあると思いますが、ギリシャ語で「末端の部分」を意味し、染色体の末端にキャップのようにくっついていて、DNAを守る役目を果たしています。今、医学や生命科学に携わる研究者らが健康長寿のカギを握るものとして、注目しているのがこのテロメアなんです。テロメアは赤ちゃんの時が最も長く、加齢とともに短くなっていきます。
山田 なぜ、テロメアが健康長寿と関係あるのですか。
白澤 ご存知のように、私たちの体は、細胞が分裂し、新しく生まれ変わることによって正常な機能を維持しています。しかし、細胞が分裂できる回数には限度があり、50回~70回くらい分裂すると、それ以上は分裂できなくなるといわれています。これは、テロメアがすり減っていくためで、細胞分裂を繰り返すたびにテロメアは短くなり、ある一定の長さまでいくと、細胞分裂ができなくなってしまいます。そんな性質から、テロメアは細胞の寿命を示す「寿命の回数券」とか「老化時計」などと呼ばれています。
山田 テロメアの回数券がなくなると、細胞が分裂できなくなり、若い細胞が生まれなくなってしまいますね。
見た目の若さも重要
白澤 これまでテロメアは、「すり減れば再生は不可能」と考えられてきました。しかし、最近の研究では、サーチュイン遺伝子にテロメアがすり減るのを抑える働きがあることがわかってきました。たとえば、顔の皮膚。テロメアの回数券を使いきってしまうと、老化がどんどん進み、顔にシワやタルミ、シミなどができて老け顔になってしまいます。ところが、サーチュイン遺伝子が働いて、テロメアがすり減るのを抑えれば細胞分裂も可能になり、見た目の若さをキープすることが可能になります。
山田 そうしますと、テロメアの長い人ほど若々しく、短い人ほど老けて見えるということでしょうか。
白澤 その通りです。見た目の年齢差は、そのまま内臓や血管などの年齢差でもあるからです。顔の老け具合を見れば、その人の寿命がわかります。その意味からも、テロメアは「寿命のバイオマーカー」といってもよいでしょう。テロメアの長さを検査し、長寿になれる可能性が高いか、低いかを調べ、もし低かったら、自分の生活習慣のどんな点が悪いのか、足りない部分は何なのかをつかみ、それに合わせて自分の生活習慣を変えていけばよいのです。
山田 では、テロメアが短い人というのは、どんな人ですか。
白澤 まず、肥満の人ですね。2005年にイギリスの医学雑誌「ランセット」に「テロメアは生活習慣によって変わる」という趣旨の論文が掲載されました。それによると、ロンドンに住む18歳~76歳の女性1,122人のテロメアを調べたところ、肥満の人はそうでない人に比べテロメアが8年分、短かったそうです。また、タバコを1日に1パック、10年間吸っている人は、吸わない人に比べ2年分もテロメアが短いことがわかりました。それと、運動不足ですね。運動していない人は、している人よりもテロメアが短いことが明らかになっています。
山田 であれば、肥満を解消し、タバコをやめ、運動を積極的に行うことによってテロメアの長さを保ち、いつまでも若々しく健康でいたいものです。
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