（生）林檎博'08～10周年記念祭～「浴室」の一解釈

youtubeで浴室関係の動画を鑑賞した際、
こちらのパフォーマンスが大変理解の助けになったのです。
それで、
（舞台装置や他の演者なども重要とは分かっていますが、
そこまですると頭がまた混乱するので（苦笑））
今回は椎名林檎さんのパフォーマンスのみを読み解くことで
理解の助けにしたいと思います。

※この解釈は私個人のものであって、
他の皆様にはもっと別の解釈があると思います。
不快にさせてしまった場合はお詫びいたします！

〈前奏〉
（登場。リンゴ数個、まな板、包丁が用意された
小さいテーブル？の前でうつむいて歌い出しを待つ。）

新宿のカメラ屋さんの階段を下りた茶店は
ジッポの油とクリームあんたの台詞が香った
（以上うつむき目を閉じて歌う。）

云ったでしょ？「俺を殺して」
（おもむろに包丁を取り出し物凄い速度で正確にリンゴを刻む。）

〈間奏〉
（顔の近くで包丁をぶらぶらさせる。）

今日は特別に笑ってばかりのあたしは丁度
さっき 一度夢で死んだあんたを仕方無く愛す
（包丁をぶらぶらさせた後、まな板の上でかまえる。）

どうか 見捨てたりしないで
（再び物凄い速度で正確にリンゴを刻む。）

洗って 切って 水の中
呼吸器官は冒される
あたしが完全に乾くのいまきちんと見届けて
磨いて 裂いて 水の中
無重力に委される
あたしが完全に溶けたらすぐきちんと召し上がれ
（極めてゆっくり包丁を持ったまま手だけひら、ひらと動かす。
（踊らせる？）
召し上がれ、の後すぐにリンゴに包丁を突き刺す。）

〈間奏〉
（荒い息で包丁の刺さったリンゴを見つめる。）
　
あんたが目の前で絶えて嗚咽を止められなかった
なんだか浮世の全てが恋しくて堪らなかった
（多分リンゴを刺した包丁をそのまま握っている。
泣き出しそうな表情でオーバーアクト気味に歌う。）

あんな夢を見させないで
（大きくふりかぶってリンゴに切りつけ、
物凄い速度で正確にリンゴを刻む。）

甘い匂いに汚された
お留守になっていた守備部隊
あたしが完全に乾くのいまきちんと見届けて
赤い嘘に汚された
自分で吐いて傷を見た
あたしが完全に溶けたらすぐきちんと召し上がれ
（顔の近く、主に首元で包丁を持って、小さく動かす。
顔や髪が切れるんじゃないか、と心配になるくらい
顔の近くに包丁を持ってきている。
召し上がれ、の後おもむろにリンゴを皮をむきはじめる。）

〈間奏〉
（ハイテンポで上手に皮をむき続ける。
金管隊が入る？
（ラッパの音？本当に音楽が分かってなくてすみません。）
と同時に持っていたリンゴをまな板に置いて切り始める。
最初はくし切りとかだったのが
だんだん曲が高まるにつれて荒くなっていき、
最後は片手で持った包丁をリンゴに何度も叩きつける。
リンゴは粉々に飛び散る。）

洗って 切って 水の中
呼吸器官は冒される
あたしが完全に乾くのいまきちんと見届けて
磨いて 裂いて 水の中
無重力に委される
あたしが完全に溶けたらすぐきちんと召し上がれ
（笑顔で歌いあげる。
極めてゆっくり包丁を持ったまま手だけひら、ひらと動かす。
（踊らせる？）
召し上がれ、の後すぐに包丁を取り落とす。）

退屈なんか恐れていない
どうして二人は出逢った？

退屈なんか恐れていない
どうして二人は出逢った？
（椎名林檎さん本人は口を閉じている。
録音された音声が場内に響く。ボリュームは小さめ。
切なそうな表情。）

〈暗転〉

椎名林檎さんのファッションもパフォーマンスの一つでしょう。
ヘアスタイルですが、
右はロングヘア、左はショートヘアに切り分けてありました。
どちらから見るかで印象がまるで違うことになります。
（正面からの図はアシンメトリで不安定な印象でした。）
衣装はごくシンプルなノースリーブワンピでしたが、
前が全面白、後ろが全面黒になっていました。
ただそのまま考えたら二面性の表現ですけど、
もっといい考えがあったら知りたいです。

さて、リンゴは何の象徴でしょうか？
・椎名林檎
・あんた
・あたし
・あんたとあたし
・罪（≒二人の間にある何らかの問題「赤い嘘」）
・以上全て
・もっと広義に愛し合う恋人たち全て

私は５番目の以上全てを採ります。
本当に椎名林檎さん本人も含めるのか？と思いましたが
この曲に限らずアルバム全体の解説（電脳ＲＡＴ）を見ると、
この時期の歌詞の作り方は私小説風というか、
生の自分を多分に出した曲なんだなぁと思ったので
５番目にしました。

そして、包丁は何の象徴でしょうか？
・攻撃性
・死に向かう意思
・性衝動
・以上全て

これも以上全てを採ります。
流れの解釈は今までのＡ～Ｅのものと同じですが、
特に、今回は

「俺を殺して」という台詞について考えてみたいと思います。

Ａにおいて私は、
・夢の中で言われた言葉
・情交の際に言われた言葉
という可能性を示しましたが、今まで読み解いてきて、
・素であんたが言った
という可能性も見えてきました。
だってこの彼もけっこうエキセントリックですよ。
ですので、ここではリアルの場合とアンリアルの場合で
考えてみます。

〈リアルver.〉
あたしが夢を見る（死の世界にとらわれる）のは
あんたが「俺を殺して」と頼んだから、となります。
あんたの発言のきっかけとしては「赤い嘘」が考えられるでしょう。
（もっとシンプルに厭世感とかかもしれませんが。）
あんたに惚れており、逆らえないあたしは
殺す夢まで見てしまい、不安定になるが、
情交によって安定を取り戻し、更にその上の融合を目指す。

〈アンリアルver.〉
あたしが見た夢の中で「俺を殺して」と言われたということは、
心の奥底であんたを殺したいと思っているとなります。
ここで「殺して」と言わせたのは、
愛ゆえの征服欲、独占欲、破壊衝動ではないでしょうか。
なぜ、直接的に「あんたを殺したい」とならないかというと、
心の表層（ちょっとこの表現では変？）では
そう思っていないからです。
「あんな夢を見させないで」って言うくらいですから。
連続殺人犯を逮捕したら、
「隣の家の犬がやれって言ったから。」
と言ったのと同じ感じ。
ただ、あたしはメンヘラではないので夢と現実の区別がつきます。
でも夢をひきずってしまう。
この死に傾いたあたしの考えが、情交によって生に戻り、
さらにカニバリズムにおける同族食人のように
情交を超えた融合を目指す。
そもそもあたしが夢を見た（死の世界にとらわれた）のは
究極の愛の形を求めての一過程（Ｅ参照）であると
考えることもできます。

私はアンリアルver.を推します。
なぜかと言うと、そっちが面白いから（笑）と、
この歌、一度も「愛」や「好き」って言葉が出てこない。
一回だけ「愛す」は出てくるけれど、
それは明らかに性交渉を表してますし。
「嬉しい感情を表現するのに
直接「嬉しい」という単語を出すのは下手な文章書きなんですよ。」
というのは小学生で習うことですが、
それを入れて考えても、出てこなさすぎる。
それは、あたしのあんたへの気持ちが、
単純な「愛」「好き」では表現できない屈折したものだから
ではないでしょうか。
この屈折ぶりから、
リアルver.のようなシンプルな話ではなかろう……と思うのです。

ちなみに、リンゴを剥く、切る、叩き壊すという行為は、

剥く：
・あんたがあたし≒椎名林檎を丸裸にする（精神的にも）
・椎名林檎があたしを丸裸にする

切る：
・あたしによるあんたへの破壊衝動
・あたしの今の二人の関係を壊したいという気持ち

叩き壊す：
性愛によるカタルシス
・あたしが今の状況を打破するブレイクスルーを得たという象徴
・「親殺し」みたいに「あんた殺し」をする
（深層心理学における親殺しの変化球というか……。
だとすると、性交渉を通過儀礼とすることができますね。）
　
という意味があるのではないでしょうか。

最後、包丁を取り落とすのは、
・攻撃性
・死に向かう意思
・性衝動
以上全てからの脱却と考えましたがいかがでしょうか。

今日も長くて申し訳ありません。
実はあと２回続きます。
読んで頂けると嬉しいです。
ではでは！