読書の森

松本清張 『砂の器』 続き



閑話休題、松本清張の数多い名作の中で私の一押しは『砂の器』である。

不自然さが全くない展開なのに、ワクワク出来て、思いもよらぬトリックが続出する。

私が一番惹きつけられたのは殺しの理由である。
現在栄光を浴びた男性、容姿も才能も申し分ない。犯人の名前は物語を読み終えて了解していただきたい。
犯人もどきの多い作品なのだ。

彼には絶対知られたくない哀しい過去がある。

殺された人々の共通点は彼の禁忌の過去を知っている事、彼の私的な弱点を知っている事なのだ。
理不尽で許されない殺人の裏には、理不尽に課せられた彼の宿命がある。

それは人に忌み嫌われ目を背けられる業病だった。
彼の父親がその病いに罹った事から、彼と父との人目を逃れる流浪が始まった。
この屈辱の自分を変える為に彼は文字通り別人になりすます。

それでも過去は悪魔のように彼を追いかけて来た。
知られたくないばかりに、過去の恩人である善良な人々を次々と殺していくのだ。

旅好きな清張ならではの日本各地の風情が織り込まれ、しかも昭和30年代の世情が生き生きと描かれている傑作である。

結末は、逃避の為、まさに国際便に乗ろうとしている犯人が空港内で逮捕される場面で終わる。
文学として見ても完璧に思える。



これを読むとフィクションは現実を超えて現実に迫っていると思う。

下世話さや皮相な見方など一気に吹き飛ばす力をフィクションは持っていると。

そんな惚れ惚れするフィクションを書ける松本清張が、どれほどの過去を持とうとどれほどの外見を持とうと、全く問題外だと私は思う。

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