読書の森

追いかけられて その2



ピチピチとした若い時期はあっという間に過ぎた。
弟はちゃっかり結婚して、両親が若すぎる死を遂げた今、ミヤは40歳を超えた。

分別も金も恋人もいない40歳って惨めと苦笑しながら、ミヤはちょっと余裕の表情になった。
毎日地下鉄に乗って通勤する身の上になったのである。
出版とは縁も所縁も無い仕事場ではあるが。

ミヤの達筆を買われて、賞状書きのアルバイトをしているのだ。
下町の小さな事務所で所長のおじいさんと二人で手作業をしている。

表彰会場作りのプランも提供するので、少額ではあるが小遣いになった。
長続きする仕事かどうか心細いが、仕事があるのは有難いと思っている。



最近、ちょっと鬱陶しい事がある。
地下鉄の中でミヤは誰かに付けられているような気がしてならない。
それにSNSの中身を別の人から覗かれる感じだ。

スマホの位置情報は何かあった時便利なのでオンにしている。
これがいけないのかと思う。
しかし、ミヤのような中年に差し掛かった女性を付ける人などいるだろうか?
彼女は本気になっている。
かってミヤに熱を上げてくれた男は何人かいたから、今でもまんざらでも無いと思う様になった。


「さっき後ろに居た男性は変な目つきで私を見た」
とミヤは鬱陶しくなる。
そんな事の繰り返しが続いた。

ある日、最寄り駅で降り、家路を急ぐミヤの耳に鈍く響く靴の音が聞こえる。
あれは、男の靴だ。

「キャ~」ミヤは声を上げた。
折角平安に戻った心がぐらっと揺れて抑制が効かない。
近所のおばさんが好奇心いっぱいで見る目が腹立たしい。
「見ないで下さい。見せ物じゃないんだ」
叫んでから仕舞ったとミヤは思う。

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