JA CPA Journal

to the next stage ...

政府紙幣と無利子非課税国債

2009年02月13日 | ニュース
政府紙幣やら無利子非課税国債やらの議論が一部学者や国会議員より出ているようで。

発行するとしたら相続税免除の無利子国債というのが可能性としてはあるようですけれど、いまいちピンと来ないですね。

個人的には、この無利子非課税国債なりの話というのは、日銀法の改正が困難な中で、強制的な国債の日銀引受けを実施することであったり、政府が日銀のB/Sを毀損させる政策をとることで、強制的に信用緩和の状況を作り出そうとする話なのではないかと思ったりするわけですが。


読売にまとめたような記事がありました。「相続税かからない「無利子非課税国債」構想とは」

富裕層のタンス預金を吸い上げて財政支出の原資にしようとするもの。それだけでは金持ち優遇とはいえないと思いますし、政府による所得の再分配であるに過ぎないでしょう。しかしまず実行の前提として、富裕層のタンス預金を吸い上げることは可能なのでしょうか。

例えば相続税課税対象となる現金を4億円持っていたとします。基礎控除額等は全て無視して50%の税率が適用されるとすると相続税として相続時に2億円の納付が必要となります。
それに対して無利子非課税国債を額面で2億円購入すれば、将来の相続税が免税されるわけです。要するに単なる相続税の前払いに過ぎません。

しかし現金の保有者が将来のインフレ期待を持っているのであれば別かもしれませんが、デフレ懸念が広がる中、現時点で相続税を前払いするインセンティブに乏しいのではないでしょうか。
また、タンス預金への対応を銘打っていますが、全く動かない金融資産のほとんどは預金になっていると考えられます。預金には利子も付くわけですし、実質金利が高いような状況下で預金を取り崩して無利子非課税国債を買おうとするでしょうか。

そうすると、無利子非課税国債の販売にあたっては、購入側へもう少しインセンティブを付与する必要がありそうですが、考えられるとすれば額面2億円のところ1億8千万円で売り渡すというようなことでしょう。でもそうなると割引国債のわけですから、無利子非課税国債とは名ばかりで、実質的に利付き個人向け国債と変わらなくなってしまいます。しかも販売時にどの程度割り引けばいいかは、購入者の余命がどの程度かに依ると思われるので、一律に発行しようとするとなかなか難しいように思います。
さらにこうなると赤字国債の発行とその一部の富裕層減税と実質的には同様なわけで、途端に金持ち優遇が現実味を帯びてくるのではないでしょうか。

なので、国会議員が政府紙幣はナンセンスだけれど無利子非課税国債は検討に値すると考えるのは意味が分からず、どっちか選べというのなら政府紙幣の方だろうと思うわけですが、どうせある意味ヘリコプターマネーのようなことをするのであれば、エコカー買い替え限定の商品券とかそんなんでいいのに、と思ったり。


まぁそんな話は置いておき、やはり政府紙幣や無利子非課税国債への批判は、日銀の白川総裁による記者会見でのコメントhttp://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-36264120090203に集約されるのではないでしょうか。

(引用開始)

「政府紙幣の発行は、その仕組み如何によって、実質的には将来の返済が必要な資金調達である国債の市中発行と同じことなのか、あるいは通貨の信認を損なうほど大きな弊害を伴う無利息の永久国債の日銀による引き受けということと同じなのか、そのいずれかになるというふうに思う。政府紙幣が現在の貨幣、コインと同じ仕組みで発行されるケースを仮定して考えると、次のようなことになる。現在の貨幣、コインは市中から日銀に還流してきた段階で、政府においてこれを回収するための財源が必要となるという仕組みなので、政府紙幣もこれと同じになる。したがって、この場合、政府紙幣の発行は結局は、政府紙幣が戻ってきた段階で資金調達が必要になるという意味で、これは国債の発行と実体的に変りないと思う」

 「他方、政府紙幣が市中から日銀に還流してきたときにも、仮に政府がこれを解消せず、日銀に保有させ続けるという形で政府紙幣が発行されるというケースを仮想的に考えてみると、この場合、確かに政府は回収のための財源を必要としないことになる。しかし、この仕組みも日銀に無利息かつ償還期限の無い政府の債務を保有させる点で、これは無利息の永久国債を日銀に引き受けさせるということに等しく、これは大きな弊害が生じる。弊害の中味だが、日銀券の裏づけとなる日銀の資産として、無利息かつ転売不能な資産を保有することになり、円滑な金融調節が阻害されたり、日銀の財務の健全性が損なわれることへの懸念を通じて、通貨に対する信認が害される恐れがある。また政府が、日銀による国債の直接引き受けと同じ仕組みにより、恒久的な資金調達を行うことが、国の債務返済にかかる能力や意志に対する市場の懸念を惹起して、長期金利の上昇を招く恐れがある。政府紙幣の発行については政府が判断する事項ではあるが、以上言った点を踏まえると、非常に慎重な考慮を要すると考えられる」

(引用終了)


要するに出口政策として何を想定するのかということでしょう。

政府紙幣を最終的に政府が回収するのであれば、発行した分だけ将来の国債発行が必要になります。無利子非課税国債を買う必要のない(相続税の課税対象になるような資産を保有していない)普通の人々にとっては、現時点では財政支出の恩恵を受けられるかもしれませんが、結局将来的に国が借金をするわけですから、将来への付けまわしに過ぎず、であれば現時点で赤字国債を発行することで財政支出を実行してもらうことと何ら変わらなくなりますね。

で、政府紙幣を政府が永久に回収しないのであれば、日銀が無利子永久国債を資産として持つことに変わりはないのですから、長期金利の上昇をどの程度招くかは分かりませんが、2月10日付日経新聞の経済教室で深尾氏が指摘するように、日銀の収益条件は悪化するでしょう。

また、国民が政府紙幣にどの程度の信認を与えるのかは分かりませんが、国民が政府紙幣を受け取った場合、すぐに日本銀行券に両替してしまうのではないでしょうか。2千円券じゃないですけど、使い勝手が悪そうですしね。そうすると政府が配った政府紙幣はすぐに日銀に還流されてきてしまうわけで、日銀が政府紙幣という名の無利子永久国債を保有する状況があっという間にできあがりそうです。

財政支出の規模を大きくしようとすれば政府紙幣の発行額が多額となるわけですが、その場合、日銀における実質的な無利子永久国債の保有割合がかなり高まることが予想されます。そうなれば白川総裁のいう円滑な金融調節が阻害されるようなこと等により、通貨の信認が害される可能性が高まるのではないでしょうか。
一方で、その懸念を低くするため政府紙幣の発行額を少額とするのであれば、景気に与える影響は非常に小さく、敢えて発行する意味はなくなるでしょう。


というわけで、政府紙幣も無利子非課税国債も、国民に混乱を与える弊害と将来の出口政策の不確実性を考えれば、やらない方がまだマシということになりそうな気がします。

コメントを投稿