あるスーフィー巡礼者の日記

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マスメディアの情報操作 「ためしてガッテン」における伝統医学の歪曲

2010年10月22日 | メディア社会を生きる
【誇張や演出が強くなったNHK】

いい加減な情報を垂れ流す健康情報番組が氾濫する中で、「ためしてガッテン」は公共放送製作だけあって比較的まともであると言える。だが、「ためしてガッテン」でも時々嘘や誇張が混じるので鵜呑みにしてはいけない。近年NHKの番組は、昔より面白く成って来たと評判だが、その代わりに誇張や演出が強くなったと言えるだろう。

【権威を誤用して嘘を信じ込ませる番組】

先日「夏冷え解消!しょうが 使い方が間違ってた!」とタイトルを冠した番組で、明らかな間違いが含まれていたので注意を喚起しておきたい。

生薬の専門家を3人も出演させ、漢方の古典の一部を引用してもっともらしい解説をしていたが、明らかな情報操作が行われていた。

【生のショウガは体を冷やす?】

番組では、生のショウガは「手足など末梢は温めるが体の深部は冷やす」と説明がなされ、最後のまとめでは、「乾かしたショウガは体を温めるが、生のショウガは体を冷やす正反対の作用がある」という誤解を抱いたゲスト(山瀬まみ)の勘違いを敢えて訂正しなかった。その方が意外性に満ちてセンセーショナルな印象を与えるとディレクターが判断したからだろう。

【ショウガの働きは熱の偏りの解消である】

確かに、乾かしたショウガの方が体を温める作用が強い。そして、生のショウガは全身を冷やすのではなく血行を促進することにより熱の滞り(偏在)を解消する。冷え症の人の多くは、血行障害により体の深部に熱がたまり末梢が冷えているから、血の巡りを良くすることによって、体の深部の余分な熱が末梢に移動し、熱の偏在が解消されるのである。

もし体の深部が冷え過ぎそうになった場合は、末梢の熱が血液とともに深部に移動し深部が冷え過ぎないように調整がなされる。だから、基本的に血の巡りを良くすることで、末梢が温まり体の深部が冷える「内寒外熱」という状態は生じるはずがない。実験で被験者の深部体温が下がったのは、その人は血の巡りが悪かったので深部に熱がこもっている状態にあったのではないかと思われる。

【冷え症の主原因は熱の滞り】

生薬の専門家を自称する方々も、「生のショウガは深部体温を下げるので冷え症の改善には効果がない」かのような言い方をしていた。ろくに医学知識がないのに知ったかぶりをしていたか、番組のディレクターに言われてわざと誤解を与える表現をしたのかのどちらかであろう。いずれにせよ、専門家としては極めて無責任な態度である。

甲状腺機能低下症など代謝の全体的低下による「冷え症」も確かに存在する。その場合は生姜(しょうきょう)で血行を促したり中等度に代謝を高めるだけでは冷え症が解消されないこともある。その時は、代謝亢進作用がより大きく温める力が強い乾姜(かんきょう)を使うことが必要になる。

だが、現代人が抱える「冷え症」のほとんどは、血虚(組織をかん流する血液の不足:貧血とは限らない)や瘀血(血流障害)で四肢末端の血流が不足することから生じる熱の滞りにより起きる病態である。

血流が体内の熱の配分に重要な役割を果たしている事は西洋医学でも常識とされている。血の滞りにより熱の滞りが起きる事は、東西両医学が共通して認める人体の基本的な生理現象である。

生のショウガにより血行が促進され熱の偏在が解消されれば冷え症が改善されるのは当たり前の話である。末梢の体温と深部体温をばらばらに取り上げ部分ごとの個々の数値の変化に囚われ病態の全体像と本質を捉えていないからそのような初歩的な間違いを犯すのである。

【古典の記述の歪曲】

自分たちの主張の裏付けとして引用した古典の記述の解釈にも明らかな情報操作が行われていた。

「除…熱」

番組では、本草綱目(漢方の最も重要な薬学書)の中の一文を紹介しながら、「乾姜(かんきょう)は寒冷腹痛を止め、中(ちゅう)[消化器:筆者註]を温める作用があるが、生姜(しょうきょう)には解熱作用がある。両者は全く別物だった。」と言う解説がなされる。それに対して、司会の志の輔は「真逆なんですか!」と驚いて見せる。

それは全くの勘違いであるにも関わらず、誰もそのことを訂正しなかったのである。

生姜(しょうきょう)は「生のショウガ」、乾姜(かんきょう)は「ショウガを乾かしたもの」である(ただし、「生のショウガを乾かしたもの」すなわち乾生姜を「生姜(しょうきょう)」と呼んだり、「蒸したショウガを乾かしたもの」を乾姜(かんきょう)と呼ぶこともある)。

いずれにせよ、同じショウガが原料である。確かに、乾姜(かんきょう)の方が生姜(しょうきょう)よりも温める力は強いとされているが、基本的な作用はほぼ同じであり、決して「真逆」なのではない。

生姜(しょうきょう)について記した本草綱目の原文をもう一度よく読んでみよう。そこには、次のように記述されている。

除風邪寒熱

これは、「風邪(ふうじゃ)と寒熱〔の偏り〕を取り除く」つまり、「風邪を治し、血の滞りから生じる熱の滞りを解消する」という意味である。

だが、番組では、「除」と「熱」の二つの文字を赤丸で囲み、あたかも「熱を除く」(解熱)が生姜(しょうきょう)の作用であるかのような錯覚を抱かせていたのである。

ショウガには、体を温める、(温めることで)発汗を促す、血流を促進する、胃腸の働きを整える、といった多彩な作用によって「寒邪」を追い出し主として表寒証の風邪の治癒を促す働きがある。その結果として解熱がもたらされることはある。だが、それはあくまで間接的な効果であり、本草綱目に「解熱作用がある」と記載されているというのは間違いである。

「ためしてガッテン」のホームページでは、「生のショウガには解熱作用がある」以外の発言は文章化されていない。さすがに嘘八百を文字に残すことは気がひけたのか、あるいは放送された情報操作の証拠を残さないためであろうか。興味のある方は、以下のサイトにて確かめてもらいたい。

http://cgi4.nhk.or.jp/gatten/archive/program.cgi?p_id=P20100825

「ためしてガッテン」は、情報操作はどのようにして行われるかについての典型的なパターンの一つを私たちに教えてくれる。

それは、自分に都合のいい情報の一部だけを取り出してそれを繋ぎ合わせて編集し、そこに真実とかけ離れた新しい解釈をつけ加える。そのことで、あたかも自分が提示した解釈こそが真実であると相手に思い込ませるのである。

そして、恐ろしいことに、この「ためしてガッテン」の放送内容を鵜呑みにした視聴者が、ブログなどでこれらの間違った知識を複製している。「生のショウガは体を冷やすので冷え症には効果がない」という間違った知識が日本中に広まってしまったようである。誠に公共放送の責任は重いと言うべきであろう。

【マスコミは常に情報の歪曲を行うと考えるべきである】

市場原理主義が支配する資本主義社会においては、マスコミは視聴率を稼ぐことを至上命題とし、公正な報道や正しい知識の普及は二の次とされざるを得ないのが現実である。受信料によって運営しているNHKも資本主義経済に深く組み込まれているからもちろんその例外ではない。

NHKも含めたマスコミが真実の情報の普及よりも企業としての成功や保身を優先していることはこの番組からも明らかである。

近年マスコミは目先の利得を優先することによって良識的な一般国民の信頼を急速に失いつつある。マスコミがこのまま自己反省なく情報操作体質を続けるならば、今後マスコミは急速に衰退して行き、ネットメディアなど新しいメディアにその地位を取って代わられることになるだろう。

健康情報だけでなく、マスメディアが繰り返し報道する政治経済に関する報道も本当に公正な真実を伝えたものであるかどうか、まず根底から疑ってかかることをお奨めしたい。