フランスの詩

宮之森享太 翻訳

しゃがんだ姿勢

2010-06-29 | Weblog

        しゃがんだ姿勢

とても遅くて、胃のむかつきを感じるとき、
修道士ミロテュスは、片目を天窓に向けると、
そこは太陽が、磨かれた鍋のように明るく、
彼に頭痛を放ち、目をくらませているが、
シーツの下では坊主腹を移動させている。

彼は灰色の毛布の下で動き回り
降りる。揺れる腹に両膝をよせ、
タバコをのみこんだ年寄りのように度を失って。
というのは、白いおまるの取っ手を握って
腰まで寝巻きをたっぷりまくらねばならないから!

さて、彼はしゃがんだ姿勢でいる、寒そうに、
足の指を折りたたみ、明るい太陽に震えて。それは
紙を貼った窓に丸形パンの黄色を張りつけている。
そして奴の鼻は、漆が光り、肉のポリプ母体の
ようで、光のなかで洟をすすっている。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

奴はとろ火で煮えている、両腕をねじ曲げ、厚い
下唇を腹によせて。腿が火のなかに滑り落ち、
股引が焦げ、パイプが消えるのを、彼は感じている。
鳥のような何かが少し動いている、
臓物の山のような静かな腹のところで。

まわりでは、乱雑でばかな家具たちが眠っている、
垢だらけのぼろ着、汚い腹に向かって。
変なひき蛙である、いくつかの踏み台は暗い隅々で
身を寄せている。食器棚には聖歌隊の口々があり、
恐ろしい食欲に満ちた眠気が少し開けている。

胸がむかつく暑さは狭い部屋に満ちている。
奴の脳はぼろ切れでいっぱいだ。
彼の湿った皮膚から毛が生えるのを、彼は聞いている。
そして時には、強く重々しく滑稽なしゃっくりをして
逃げる、座りが悪い踏み台を揺らしながら. . .

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そして晩、尻のまわりに
光のにじみをつくる月光を浴び、
細部までわかるひとつの影がしゃがんでいる、
立葵のような薔薇色の雪を背景に. . .
気まぐれだ、鼻がウェヌスを追っている、深い空で。


パリの戦いの歌

2010-06-24 | Weblog

         パリの戦いの歌

春なのは明らかだ、というのは
緑の所有地の中心から、
盗っ人のティエールとピカールが、どでかく開いた
見事なことをやってくれてるから!

     ¯¯¯¯¯¯¯¯
おお、五月! 馬鹿げた尻だし者どもめが! 
セーヴル、ムードン、バニュー、アニエール、
聞きなよ、歓迎される奴らが
春向きの物をまいている!

     ¯¯¯¯¯¯¯¯
奴らには筒型軍帽、サーベル、タムタムはあるが
古いろうそく箱はないんだ、
ボートはぜんぜん、ぜんぜん. . . だが、
湖をかき分けてくる、赤くなった湖水をだ!

     ¯¯¯¯¯¯¯¯
ぼくらはかつてなく騒いでる、
そのときは隠れ家に、
黄色い宝石が崩れてくる、
風変わりな明け方に!

     ¯¯¯¯¯¯¯¯
ティエールとピカールはエロ
だ、向日性植物の剥奪者だ、
石油で奴らはコローを描いてる、見ろ
奴らの部隊は無秩序だ. . .

     ¯¯¯¯¯¯¯¯
奴らはいかさま王と仲良しだ!. . .
それでグラジオラスのなかで横になり、
ファーヴルはまばたきしては空涙、
胡椒によって洟すすり!

     ¯¯¯¯¯¯¯¯
この偉大な都市の舗石は熱いぜ、
おまえらの石油のシャワーにもかかわらずだ、
それで決意した、ぼくらはきみらの役目において
きみらを揺り動かさなければならないのだ. . .

     ¯¯¯¯¯¯¯¯
そして田舎の者ら、彼らは
長い間うずくまってくつろいで
いたが、小枝たちが折れるのを聞くのだ
かすかな赤いざわめきのなかで!



サールブリュクの輝かしい勝利

2010-06-21 | Weblog
    
      サールブリュクの輝かしい勝利
皇帝万歳の叫びとともに勝ち取られた! 極彩色のベルギー
の版画、シャルルロワでは35サンチームで売られている。


中央で、ブルーとイエローの最高潮のなかにいる
皇帝陛下はご退場、しゃちほこばって、派手なお馬にまた
がって、とてもご満悦、―すべてが薔薇色に見える
から、ゼウスのように容赦なく、パパのように甘いのだ。

下方では、善良な歩兵たちは、金色の太鼓や
赤い大砲のそばで昼寝をしていたが、
行儀よく立ち上がっている。ピトゥは上着を着て、
陛下の方に向きを変え、偉大な名前に酔っている!

右手では、デュマネは、シャスポの銃床に寄りかかって
いたが、ブラシのような首筋が震えるのを感じている。
そして、《皇帝万歳!!》― 彼の隣は唖然としたまま. . .

筒型軍帽が出現する、黒い太陽のように. . . ― 真ん中では、
赤と青のボキヨンは、とても無邪気に、腹を突き出し
立っていて、― 彼のおいどを見せながら―、《何か?. . . 》


皇帝の激怒

2010-06-18 | Weblog
          皇帝の激怒

青ざめた男は、花の咲く芝生に沿って、歩いている、
黒い燕尾服を着て、歯に葉巻をくわえて。
青ざめた男は、チュイルリー宮の花たちを思い返している
― 時おりくすんだ彼の目は、燃え上がる眼差しになって. . .

というのも皇帝は二十年の大饗宴に飽き飽きしたからだ!
彼は心に思っていた、《 自由を吹き消してやる、
そっと上手に、ろうそくと同様にだ!》
自由は復活した! 彼はへとへとに疲れたと感じている!

彼は囚われている、― おお!誰の名が無言の彼の唇に
わななくのか? どんな冷酷な悔いが彼を噛むのか?
誰にもそれはわからないだろう。皇帝の眼は死んでいる。

彼はおそらく眼鏡をかけた相棒を思い返している. . .
― そして火のついた葉巻から、サンークルーでの
夜々のように、青く細い煙がのびるのを見ている。



[九二年と九三年の死者たちよ. . . ]

2010-06-17 | Weblog

     [九二年と九三年の死者たちよ. . . ]

《. . .七〇年のフランス人たちよ、帝政主義者も共和主義者も、
九二年等々における諸君の父祖たちを、お忘れないように. . .
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
               ポール ドゥ カサニャック
               ― 祖国 ―(注:反動新聞)


九二年と九三年の死者たちよ、
君たちは、自由の力強い接吻に青ざめて、
平然と、君たちの木靴の下で、軛を砕いた、
それは全人類の魂と額に重くのしかかるものだ。

動乱のなかにあっても恍惚にして偉大なる人々よ、
君たちの心はぼろ着の下で愛に跳ねていた。
おお、兵士らよ、君たちを死神、高貴なる恋人は
あらゆる古い畝溝に播種した、再生するために。

君たちの血は汚されたすべての偉大さを洗い清めていた、
ヴァルミーの、フルーリュスの、イタリアの戦死者たちよ、
おお、暗く優しい目の、無数のキリストたちよ。

ぼくたちは君たちを共和国とともに眠るがままにしていた、
ぼくたちは棍棒の下にいるように、王たちに服従してきた。
―カサニャックらが、君たちについて再び述べているとは!

マザスでの作、1870年9月3日


おびえた子たち

2010-06-15 | Weblog
         おびえた子たち

黒たち、雪のなかや霧のなかにいる、
明かりが灯る大きな採光窓で、
    それらのお尻が輪になり、

膝をついて、五人の男の子たちは、―ああ!―
見つめているのだ、黄金色の重いパンを
    パン屋が作るのを. . .

彼らは白く強い腕を見ている、それは
灰色の生地をひっくり返し、それを明るい
    焼き窯の穴に入れている。

彼らはおいしいパンが焼けるのを聞いている。
太ったパン屋は微笑んで
    古い曲を歌っている。

彼らは体をすり寄せ、ひとりも身動きしない、
赤い採光窓からくる、乳房のように温かい
    微風に向かって。

そして午前零時の鐘がなる間、
焼き上がり、きらきらして、黄色くなった
    パンが出てくるとき、

すすけた色の梁の下で、
香ばしいパンの皮とコオロギたちが
    歌うとき、

その熱い穴が命を吹きかけるときも、
ぼろ着の下で、彼らの心はとても
    大喜びする、

彼らはよく生きていることを強く感じる、
哀れなチビたちよ、霜に降られている!
    ― そこにいる全員が、

小さなピンクの鼻面を金網に
押しあて、穴の間で、ある事を
    歌いながら、

でも、とても低く、― 祈りのよう. . .
再び開かれた天のその光の方に
    うずくまりながら、

― とても度が過ぎたので、キュロットが裂け、
― 白いおむつが冬の風に
    かすかに震えている. . .



水から現れるウェヌス

2010-06-13 | Weblog

      水から現れるウェヌス

ブリキでできた緑の棺から出てきたような女の
頭は、褐色の髪でしっかりとポマードで固められ
古い浴槽から現れる、ゆっくりと愚かしく、
かなりひどく繕われたために欠陥だらけだ。

そして首、太って灰色だ、突き出る広い
肩甲骨、戻りそして浮き出る短い背中、
そして腰の丸みは大発展しているようだ。
皮下脂肪は平らな葉々のように見える。

背筋は少し赤く、すべてが嫌味で異様な
感じがする。とりわけよく見るのは
奇妙なところ、それは虫眼鏡で見なければ. . .

腰には二語の彫り物がある、「輝ける ウェヌス」。
― そしてすべてのその身体が動き、大きな尻を
差し出す、醜悪に美しい、おできがアヌスにあって。




ニーナの即答

2010-06-09 | Weblog
         ニーナの即答

. . . . . . . . . . . . . . . . . . . .

彼 ― きみの胸をぼくの胸につけて、
      そう? ぼくらは行くだろう、
   鼻孔いっぱいに空気を吸って、
      昼間のワインできみらを浸す

   快適な青い午前の
      さわやかな光のなかへ?. . .
   森のすべてが震え
      恋して無言になり

   どの枝からも、緑のしずくをたらし、
      明るい芽々から血を出すとき、
   開放された物のなかに
      肉の震えを感じる。

   きみはウマゴヤシのなかに
      白い部屋着を沈めるだろう、
   きみの黒い大きな目を取り巻く
      その青を、外気でバラ色にしながら、

   きみは田舎に夢中、
      あちこちに撒き散らすのは、
   シャンパンの泡のような
      きみの浮かれた笑い声さ。

   酔った荒くれ者のぼくに笑い、
      ぼくはきみを捕まえるだろう、
   こんな風に、―きれいな三つ編みをね
      おお!―ぼくは飲んでしまうだろう

   きみの木苺と苺の味をさ、
      おお、花からなる肉体よ!
   盗人のようにきみにキスする
      風に笑ってる、

   気持ちよくきみを退屈させる
      野薔薇にも、
   おお、浮かれ頭よ、とりわけきみの
      恋人に笑ってる!. . .
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .

   ― きみの胸をぼくの胸につけて、
      ぼくらの声をまぜあわせ、
   ゆっくり、小さな峡谷にたどり着くだろう、
      それから大きな森に!. . .

   それから、小さな死者のように、
      心は気絶しかけて、
   きみはぼくに、わたしを運んでと言うだろう、
      半ば目を閉じて. . .

   ぼくはドキドキしたきみを運ぶだろう、
      小道のなかをね。
   鳥はハシバミの曲のアンダンテを
      歌い続けるだろう. . .

   ぼくはきみの口のなかに話すだろう、
      ぼくは行くだろう、きみの体を
   抱きしめながら、寝かしつける幼児のように、
      血に酔いしれて

   それは青く流れている、バラ色のきみの
      白い肌の下で、
   そしてきみに話している、露骨な言葉を. . .
      へえ!. . . ― きみも知ってるんだ. . .

   ぼくらの大きな森は樹液の匂いがするだろう
      そして太陽は
   そこでの緑と真紅の大きな夢に
      純金の砂を吹きつけるだろう
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .

   夕暮れは?. . . ぼくらは長く延びる
      白い街道を再びたどるだろう
   ぶらぶら歩いて、草を食む家畜の群れのように、
      あたり一面には

   青い草が生えるよい果樹園がある、
      曲がったりんごの木々だ!
   なんとまる一里は匂っている
      それらの強い香りが!

   ぼくらは村に帰るだろう
      空は半分暗い、
   すると乳の匂いがするだろう
      夕暮れの微風のなかで。

   牛小屋のにおいがするだろう、あたたかい
      厩肥がいっぱいあり、
   ゆるやかな呼吸のリズムと大きな
      背であふれ
   
   なにかの明かりに白く浮かんでいて、
      ずっと向こうでは、
   一頭の雌牛が糞をしているだろう、誇らしく、
      一足ごとに. . .

   ― おばあさんの眼鏡と長い鼻は
      祈祷書のなかに
   突っ込まれている。ビールのジョッキは
      鉛で縁取られ、

   大きなパイプたちの間で泡立っている、
      それらは、威勢よく、
   煙を出している。ぞっとさせる厚い下唇は
      煙を出しながら、

   フォークでハムをぱくりと食べる
      たくさん、たくさん、それ以上。
   暖炉はいくつもの寝台や食器棚を
      明るくしている。

   太った子はつやのある
      肉づきのいい尻をして
   ひざまずき、茶碗のなかに、
      白い鼻面を突っ込んでいると

   ある鼻先が近づいてきて
      優しい調子でうなり
   いとしいその子の丸い顔を
      なめまわす. . .
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .

   おまえ、なんとぼくらはいろんなものが
      見えるのか、あれらのあばら屋にも、
   炎が灰色の窓ガラスを照らし、
      明るくするときは!. . .

   ― それから、いとしいすべての雛たちは
      黒く涼しいリラ林のなかにいる。
   隠されたその窓ガラスは、
      あそこで笑っている. . .

   きみは来るんだ、きみは来るんだ、愛してる!
      きっと素晴らしいよ。
   きみは来るんだよね、そしてまた. . .

彼女―で、私の仕事場は?