はなナ

二度目の冬眠から覚めました。投稿も復活します。
日本画、水墨画、本、散歩、旅行など自分用の乱文備忘録です。

●山種美術館 江戸絵画への視線ー岩佐又兵衛から江戸琳派へー

2016-07-11 | Art

山種美術館 江戸絵画への視線ー岩佐又兵衛から江戸琳派へー

2016.7.2~8.21

 

所蔵品の中から、最近人気の江戸時代の絵画を展示していました。

◆この日の目的のひとつは、まず山本梅逸。三点。

「花虫図」は、太湖石が異彩を放っている。ドクロのように見えたり。体的なS字ライン。虻もいます。とげまで描かれたバラ、百合、花はとても繊細に描かれていました。反対に、バックの枝は、さらさらと線だけ。一気呵成に描いたような集中ぶり。

私がこの人を好きになったツボのひとつは、木の足元の雑草。今回もやはり見過ごさないで、魅力的に描かれていました。

同じく太湖石の描かれた似た絵が、静岡県立美術館にありました。

《花卉竹石図》(51歳の時の作です)

 

「桃花源図」は、文人画の様相ですが、むしろ「絵画」。どことなく現代風。遠近を感じる奥への広がりは、西洋風な感じ。梅逸は、題は伝統的なものを描いても、どこか独特なまなざしが前面に出ているように感じます。

「白衣観音」には驚きました。堂々たる、71歳の作。墨だけで描かれています。岸壁に腰掛ける観音様の後光が透けている。波が荒々しく、岩までも激しく描かれている。反対に、波に目を落とす観音様のお顔は静かで、百衣がまぶしいくらい。ひだを薄墨で描いたり、周りから薄墨を入れたり、墨絵の魅力満載。

たまに美術展で2~3点だけ姿を現す、幻の希少動物みたいな山本梅逸。観るたびに、新たな魅力を発見してしまいます。回顧展があるといいなあ~~。

 

◆目的の二つ目は、椿椿山(1801~1854)。

「久能山真景図」1837


穏やかな情景。僧の丸っこい背中と、おつきの者の背中がどことなくほほえましく。でも少し寂し気でもあり。

椿山は、渡辺崋山が最も親しくした弟子。崋山のことはこのブログでも時々書きましたが、椿山は崋山の肖像を残しています(今回の展示ではありません)

「渡辺崋山像」1853

崋山の死後12年経ってから描かれたもの。椿山は、もとは崋山とは谷文晁のもとで学ぶ同門の弟子どおし。でも崋山を慕い、崋山の弟子となります。崋山も椿山を信頼し、ドナルドキーンさんの「渡辺崋山」では、蟄居中に崋山が自害するまで、椿山に送った手紙がいくつも載っています。

この本には崋山の描いた肖像画が多く乗っていますが、時にぞくっとしそうな影のある人物画。対して、椿山の肖像画はとても穏やかで、ほっとします。久能山真景図もそうですが、椿山の誠実で穏やかな人柄を想像します。

今は亡き先生への思慕が描きだされている。架けた指先は、いつも崋山がこんなふうにしていたのでしょうか。ふと、この手に華山の無念が込められているような気がしました。

 

 三つめの目的は、岩佐又兵衛「官女観菊図」。源氏物語の六条の御息所とその娘の斎宮。

 

 車の四角い骨格は黒く大きいのに、重くない。不思議と人物に視線が凝集される。丸と四角が額のように、中の女性たちを特別なものにしているよう。細密に墨で描き分けるのは、チャレンジでもあり、自信でもあり、ということなのかな。

 又兵衛は源氏物語では、横浜そごうの福井美術館展で見た「浮舟」も描いています。

 やはり又兵衛らしい豊頬長頭と黒髪。

 又兵衛の絵を見ていると、いつも小学校でノートの端に漫画ばっかり描いていた男の子を想像します。描くのが大好きで自然で。

 それにしても又兵衛の絵の幅の広さには驚きます。こんな雅びな絵を描く一方で、残虐でセンセーショナルな絵も。荒木村重の子として生まれ、父の謀反により、二歳で、母や兄弟一族郎党は処刑。当の父だけ逃げ延びる。そんな生い立ちは関係あるでしょうか。

 「官女観菊図」はもともと12図からなる屏風絵の一図。

 又兵衛が20年を暮らした福井で、ちょうどこの夏、散逸していたこの屏風絵が集まります。

 「岩佐又兵衛展 7月22日-8月28日福井移住400年記念 岩佐又兵衛展ーこの夏、謎の天才絵師、福井に帰るー」。危険な闇と多面性を見せる又兵衛に迫れそう。見に行きたい・・。

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他に心に残った作品

◆この日の会場に入ってすぐの一枚は、伊藤若冲の「伏見人形」でした。

こちらに向かって歩いてくる感じ。

前から思っていたのだけど、こちらに進んで来る感が、このたらこCMを思い出す・・。

https://www.youtube.com/watch?v=w62tMuadfUo

 伏見人形って、この布袋さんの人形だけかと思ったら、干支から福を呼ぶモチーフまで、様々。京都の方は当たり前のようにご存知なのかな?。江戸後期ぐらいまでは京都で多くの窯元があったそうですが、今は1750年頃創業の「丹嘉」さんのみということ。若冲の布袋さんの絵とは少し違う感じですが、丹嘉さんのサイトの商品はどれもかわいいです。

  

素焼きのあと、胡粉で下塗りし、その上に絵付けして完了。釉薬なしなので、適度にざらっとした感触のままかと。その質感、若冲も表現したかったところでしょう。

若冲は伏見人形を40年にわたり描いていますが、今回のは83歳、亡くなる一年前の作。すっかりお友達みたいだけれど、最初の一枚はどんなふうだったかのかな。(長くなるのでいずれ別ページで)

 

◆俵屋宗達絵 本阿弥光悦書「鹿下絵新古今和歌巻断簡」

宗達の下絵の上に、本阿弥光悦の書。ちょっと寂しげな鹿の周りに、字が遊んでくれているよう。言葉に言霊があるように、字にも「字霊」が?。文字がリズムになり、立体空間になり。

 

平成20年の琳派展で見た五島美術館蔵の「鹿下絵新古今和歌巻断簡」では、つがいの鹿でした。

二頭のまわりの文字は、上の独りの鹿の文字に比べ、線が細く。その分、二頭の鹿のおりなす会話のよう。

光悦と宗達、お互いの仕事に対するリスペクトがあったのでしょう。

光悦は若い宗達を見出だし、大きな仕事のチャンスを与えた。宗達は、光悦がいなければ今の自分は・・と語っていたそうです。二人の絵と書のコラボは、改めて画集を見ると、蓮、鶴などいろいろ。詩情あふれています。(二人の仕事については、また別のページに。)

 

◆酒井抱一が6点、展示されていましたが、何度見ても「秋草鶉図」は、心がはずむ

 

月はぷっくりした形で、同体形のうずらは月からこぼれ落ちたみたい。つゆ草がかわいい。

月は、銀が黒く変色したのではなく、もともとの色とのこと。このぴんぴんはねたススキの穂と葉のリズムに乗っていると、黒くしたのもわかる気がします。

抱一は「銀や漆黒を用いて月光の表現を試みた」と解説に。出光美術館の「紅白梅図」は、神秘的で空気の冷たさまで感じる銀の月光でしたが、この絵は、戯れるように踊るように、月のほのあたたかさ。抱一の月光は、気持ちがあるようです。

抱一では「宇津の山図」もおもしろい。

山と岩のモクモクで表現する山深さが独特。松の葉の定型ぶりも、都の延長のようだけれど。

よく題材になる東下りの一場面。女への手紙を、たまたま出会った知り合いの僧に託します。畠山美術館の「禊図」でも思いましたが、抱一の在原業平の目線がなんとも微妙で、くすぐられる。そして僧は後ろ姿で、これがまた表情が気になってしまうのです。

「月梅図」も、白と交じった紅梅が美しい。枝が書のようだと思いました。

 

◆鈴木 其一も三点。「伊勢物語図 高安の女」は、以前も見ましたが、つまり「ごはん大盛り図」。

「牡丹図」も以前にも見ましたが、やはり足が次に行かなくなってしまう。再び、白、紅、ピンクの配置に感嘆。どこまでも狂いのない筆致にも見とれました。そしてこの日は特に違和感が。花は、生き生きというよりも、異次元を形成しているように感じました。千葉市美術館で見たときに近い感覚です。

牡丹図とうって変わって太く大胆な輪郭なのが「四季花鳥図」のひまわり。(この展覧会では屏風4点は撮影可でした。)

大きな黄色と、分散された赤色。

 

随所に青やピンクが入っているのも、発見が楽しい。

 

撫子が楚々と。

生け花のように人工的な構図。自然の情景というよりは、どこにもない異空間的な。でも蔦の葉は外へと延び、他の葉先からも外への広がりも感じる。

不思議な鈴木其一の世界。

 

伝土佐光吉 「松秋草図」は切箔が美しかった。

 

りんどうかな

 

◆池大雅の「指頭山水図」

「若冲」を読んでから、人柄に急に親しみがわいて。22歳にして、すでにこの域に。新鮮さがありながら、老成したかのように無駄な力が入抜けている気が。

 

◆中林竹渓「松嶺図」:竹渓は、中林竹洞の息子で、山本梅逸の弟子。点描は西洋画のよう。西洋画も取り入れた丸山応挙の影響も受けたそうです。

◆岡本秋き「孔雀図」:いつも見とれてしまう。しゅうきも崋山や椿山とも親しく交流していたと解説に。これも激しい波。孔雀は迫力あります。雄はいままさに岸に降り立ったよう。「動」の世界。

 

第二会場で近代の日本画が数点。

 ◆小林古径の「猫」1946

目線も微笑みも、女性でいえばドレスを来た女優です。エジプトの影響もあるかな?

 

◆奥村土牛「三彩鑑賞」1966:77歳の作。土牛が東京国立博物館で鑑賞した三彩を、ケースの中の展示のままに。形を楽しみ、色を楽しんだ気持ちが伝わった気が。

 

いつも時間がなくてすぐとんぼ返りですが、この日は少しだけ椿カフェで一休み。

楽しい時間でした。



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