はなナ

二度目の冬眠から覚めました。投稿も復活します。
日本画、水墨画、本、散歩、旅行など自分用の乱文備忘録です。

●刀剣博物館「花鳥絢爛刀装 石黒派の世界」

2016-09-29 | Art

刀剣博物館 http://www.touken.or.jp/museum/

特別展「花鳥絢爛刀装 石黒派の世界」2016.7.26~10.30

 日本刀に興味があるわけではないけれど、企画展の間だけ展示されている、岡本秋暉の「四季花鳥図」を見たくて訪問。それが、すっかり刀の美にはまってしまった。

刃の奥深さを知るところにはまだ至らないけれど、柄やさやの小さなところに、こんなに美しく超絶な世界が展開されていたとは。

 

石黒派は、江戸後期の装剣金工の流派。花鳥画を得意とし、絢爛たる特性をもって武用を芸術に昇華させ一流を成す。(解説から)

石黒派の祖の石黒政常以降、五人の作が展示されていました。

(ここに岡本秋暉の掛け軸が展示されているのは、石黒派隆盛期を築いた三代目の政美の息子だから。岡本家に養子に出され絵師となる。父や兄に絵柄も提供していたよう。)

 

柄の「鐔(つば)」、「縁頭(ふちがしら)」、「目貫(めぬき)」、柄に差す「小柄」のセット、または単品の展示。

 名称、用途については、いただいた解説↓ から初めて知ったことばかり。

 

◆政常(1746~1828)   石黒派の祖(写真はチラシから)

限られたスペースにうまく配しているもの。余白とってあるのもいいな。

「菊に軍鶏図大小」のセットの鐔(つば)の部分。

小さな限られたスペースにうまく配置するもの。肉眼で見えないくらいなところまで超絶技巧。裏にも菊が配置してあった。

 

「鷹図目貫」は迫力。目貫は3センチ弱くらい。ピンバッジのよう。この細かさ、眼光の鋭さ。

 

 写真がないのが残念だけど、他にも見とれるものが多かった。

黒々と荒々しい波の「四季波濤図揃金具」は、この狭いスペースに、屏風絵のような広がり。

竹林の間からぎょろりと虎の目だけの「竹虎図縁頭・目貫」は、眼だけに金が使われ、本当に光っていて迫力。

「蛸鯉図縁頭」は、タコ足の伸ばし方もぬらり、むにゅっと怒った顔。浮世絵の影響もあるのでしょうか。

他にも、親子のキジ、神亀、からす、さぎ、鯉など、意匠も多彩。さぎにはわびしさ、竹の葉のなびく様子は風を感じたりする。

小さくとも一つ一つが詩情をかもしだしていて、完全な絵。初代の美意識に感じ入る。

 

◆二代 政常(初代政常の子)

初代より金を多用し、赤銅、緋色銅を組み合わせ、色彩も多様化してきた感が。

「親子熊図縁頭」は竹の間に親子のほのぼの感。武具に親子の情をあしらうのもありなんですね。

「牡丹金鶏図鍔」は、表に牡丹、金鶏、裏には鶯と梅。水流も。金鶏も生き生きしており、動きが。

 

◆政明(初代政常の門人、1813~)三代目の政美と並び、名工と言われているそう。

鷹の目貫。

雉子図揃金具の中の小柄。刀に、実はこんなものがセッティングされていたとは知らなかった。紙やひもを切るなど日常生活に使用されるものとか。

たんぽぽが咲いている^^。

「梅樹鷹図小柄」は梅のつぼみもふっくら。まだ固いつぼみも。

 

◆政美(1774~三代目、石黒派の繁栄させ、薩摩藩のおかかえとなったこともあったそう)

政美の作は、より膨らみ、立体感が増していた。ストーリーも複雑化し、絵柄が壮麗だった。

「波濤に岩上鷹千鳥図大小鍔」は、政常の継承でもあるが、波濤の迫力、雄々しい鷹におわれる千鳥は三羽も。波しぶきの泡が金の点で星のように散らされ、もはや宇宙。大胆で大きな構成をよくこの小さいスペースに入れ込めるなあと。

「兎図三所物」は、二羽のウサギが菊の間で跳ねていた。

猿もいました♪。「猿猴図鍔」は、お猿が水流の上の岩場に腰掛け、山の上の月を眺めている。その目線まではっきり感じ取れる。子ザルもいた♪。表面は松が描かれていて、その幹には花鳥図でよく描かれる玉苔まで。芸が細かい。

他にも籠と紅葉、神輿を担ぐ人々の賑やかな様子、など四季折々でした。

 

展示のクライマックスは、「松樹尾長鳥図大小鍔・大小縁頭」。全てセットで揃っており、豪華絢爛Max。どちらの大名家のものなのかしら、いったいおいくらほどするのかしら、と思ったり。

オナガドリ、もう一羽と呼応してた。

松の葉にツタが絡まり豪華で繊細。

初代政常のような余白の美は、すでにどこかに行ってしまって、とにかく濃密。

輸出用の華やかで超絶な薩摩焼の器を思い出した。これも政美がおかかえだったという薩摩藩の発注だったのでしょうか?

 

見終わってみれば、刀の小さなスペースに、こんなにも花鳥図が展開されているとは、ただただ感嘆。制約の中だからこそ、ぎゅっと濃縮された美しさが光るのかしら。

武具の装飾ですが、江戸後期、文化の円熟期であり、長い太平の世であったから、意匠のほうに突っ走ることもできたのでしょうか。

楽しい時間でした。

 

余談1:チケットを買うときに、受付のかたが「企画展ですので、今回は新しいものしか展示してないのですが、よろしいですか?」と。新しいものだと帰ってしまわれる方もいらっしゃるので確認しているそうです。江戸時代のもので新しいとは、素人の私はびっくり。

余談2:研究所に併設の小さな博物館ですので、貸し切り状態かなとおもっていたら、混むほどではありませんが、ひきも切らず。大半が欧米系の人。

海外で有名なのかなと、トリップアドバイザーの書き込みを見てみると、欧米系からかなりなコメント数。ただ、(ざっくりな訳ですが)「期待するとがっかりするよ」「狭いよ」「よほど好きならいいかも」的なコメントが多く。そんななか「Samurai Museamのほうがいいよ」というコメントがいくつか。サムライミュージアムを知らなかったのですが、こちらは外国からの旅行者にたいへん高評価。http://www.samuraimuseum.jp/場所も歌舞伎町にあり、鎧兜や姫衣装で写真も撮れたり。展示品の文化的価値はわかりませんが、海外の観光客の方には喜ばれているようです。

 

こちらの刀剣博物館はこの企画展でもって閉館し、両国公会堂の跡地に移転するのだそうです。北斎ミュージアムもまもなく開館、オリンピックも控え、どのようなものになるのかな。

 



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