心理カウンセラーの眼!

孤立無援の・・君よ、眼をこらして見よ!

戦争を問うシモーヌ・ヴェイユと現代日本

2010-08-16 17:40:09 | 現代日本および世界
こんにちは、テツせんです。
お盆が過ぎてもあいかわらずのこのうだる暑さには、さすがに参りますねー。
みなさんは、いかがお過ごしでしょうか?

さて、昨日は日本の終戦の日といわれています。
帝国日本は完膚なきまでの敗北を喫したわけですがね。
前々回からその帝国日本の指導部について書き記してきましたが、
おなじ頃、ヨーロッパではナチス・ドイツが台頭し、そして敗北していったわけです。
そこにはなにか似通った時代性を感じざるをえないわけで、
そのドイツについて、若き哲学の徒であったシモーヌ・ヴェイユがするどく分析した航跡を、
「甦るヴェイユ」として光をあてた吉本隆明氏の著述からあたりをつけてみたいとおもいます。

- 1932年、二十三歳でフランス高等中学哲学教師だったシモーヌ・ヴェイユは、
第一次大戦で敗戦し、失業者が巷にあふれるドイツをおとずれている。
フランスでは騒然としたドイツの政情がつたえられていたが、
ベルリンに来てみると、あたりは一見平穏そうな光景に映ると両親あての手紙に書いている。
それでもヴェイユの分析は、来るべきドイツの、ナチスの動静をたしかに把握している。

『 - ナチスが音頭をとっている国家労働奉仕制度は、自発的な形をとっていても、
これは失業者の収容所みたいなもので、ヒトラーが政権をとれば強制的なものになるにちがいない。

- ナチスは共産党を非合法化し、その最良の部分を抹殺しようとして、赤色テロの脅威を書きたてている。
一方労働者の組織は相互不信と非難におちいっていて、ナチスの意思はゆっくりとすすんでいる。

- ナチスの思想は驚くほどの伝播力をもっている。とくに共産党のなかに。
ナショナリズム、排外主義について、とうに民衆と左翼反動はナチスの土俵にはいってしまっている。』
(吉本隆明著「 甦るヴェイユ」より要約抜粋)

また吉本氏はヴェイユの分析にこうもつけくわえて言う。
「 昔もいまみたいにいい加減だった日本の識者たちは、
向日的できびきびした表情をしたドイツ青年たちの集団や、そのあとのヒトラーユーゲントをみて、
すぐに幻惑され、日本にも輸入して模倣の集団をつくろうとしたものだ。・・
だが青年のほうも社会の風潮に方向がなければそれほどつよくない。
正義と健康と建設の名目をつきつけられれば、ひとたまりもなくそこへなだれこんでいく。
ドイツの青年もそんな岐路に立っていた。・・」

ヴェイユのナチス分析は、
「昭和の困窮」をみかねた青年将校らのテロリズムを逆手にとって、
「ナショナリズムの昂揚」をかかげて、国民の不満を、支持に反転することに成功し
まんまと自らの政治的破綻・滅亡をまぬがれ、
帝国を指導する地位を不動のものにし、
帝国主義戦争に向かう日本の指導部と、相似たものがちょうど半分だけあることがうかがえる。

「ヒトラーの率いるナチスは、戦勝国の資本主義の圧迫で、こんなに苦しい目にあっているのだと、
ドイツ民衆の感情にあわせて国家主義的な宣伝をひろめていた。
またその一方ではドイツの資本家の大部分がユダヤ人で、
かれらはドイツ国家が失墜するかどうかより利益が大事だとかんがえている。
このようなユダヤ資本家の横暴なエゴイズムに統制を加えるべきだと信じこませ、
資本主義とドイツ民族を対立項のように煽りたてた。

ヴェイユがみたところでは、ナチズムはまとまった思想体系をもっているわけではなく、
どこを向いてもいいことずくめの宣伝をやって、両立できそうもない矛盾があっても、
一向に動じない雑炊のような政治運動とおもわれた。
しかしそれにもかかわらず、ナチスはドイツの民衆や労働者の現実感情をひきつける力は、
他のどの党派よりももっていたのだ。」・・・

また、「ナチスの宣伝している、労働者に少しずつの土地を所有させ、
また資本家が過度に彼らを抑圧すれば、国家の力で制圧し、
労働者や農民を資本家から保護してくれるといった歯切れのいい口約束を、
そんなことができるはずがないと論理立てた説明を聞くには、
ドイツの民衆は疲弊しきっていて、その場限りの感情の解放であってもよかったのだ。・・・
・・・そこにナチスは食い込んでいったのだ。」 と吉本氏は明晰に分析する。

「ドイツのそれぞれの家族は失業者をかかえていても、
職に着いているものがひとりでもあると、手当てを支給されない。
居づらくなった若い失業者は、放浪や物乞いにはしるか、
失業者の強制収容所であるナチスの勤労奉仕隊に入るよりほかに仕方がない。・・・
そんなになっているのに人びとは行動しないで無気力に待機している」
と、ヴェイユはいらだつように指摘している。・・・

このときの、ドイツ民衆に染みわたる《 倦怠 》という現実解離の「鬱症状」は、
すでに免疫力たる理性的な思考力を喪失し、
全体主義が突出しうる、心身の不全をかかえていたことをしめしている。・・・

そしてヴェイユは分析のおわりに、「戦争」についてみごとに正しいとらえ方をしめしている。

「 戦争が防衛的であるか攻撃的であるか、帝国主義的であるか民族戦争であるか、
あるいは革命戦争であるかは問題にならない。
すべて戦争は帰するところおなじだ。

戦争についての大きな間違い、とくにすべての社会主義者が犯している間違いは、
戦争は国内政治の延長線にあるいちばん残虐なことなのに、
国家間におこる行き違いが極端になったものだと考えている点にある。」・・・

帝国日本の指導部もそれに同伴した識者たちも、また前衛を名乗った党派も、
ことごとくドイツのすべての党派とおなじように、
戦争の本質を見抜けなかったし、
戦争をとめることもまた、しようとしなかったに等しかった。・・・

そして二十一世紀の今の社会状況も、
いつでも全体主義が突出しうるところに立っている。

民衆は心身の不全をかかえているし、
政権指導部の混迷は、
そのなかの大半が民衆にさしだす哲学をはじめから欠如していることから起こっている。
この隙をついて、
『 見知った悪魔 』たるファシズムやナショナリズムが衣裳換えした姿で威勢よく登場する!

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2 コメント

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講演行わないのですか (ゆきぼ)
2010-08-20 11:17:22
こんにちは、
時々訪問のユキボーです。
テツさんは講演をしないのですか?
お願いするとしたら
大阪市内でどうすればいいのかな?
返信する
講演や談話会について! (テツせん)
2010-08-21 10:52:57
読者の方から、講演についてのご質問をいただいています。
「どうすればいいか?」という手続きのことをふくめて、
お答え申しあげます。

はじめにというか、これにつきるわけですが、
「参加される方が何を求めて来られるのか?」
講演(および質疑応答)のテーマをできるだけしぼっていただくこと。
心理カウンセリングについてなのか、
ブログの中のカテゴリーのどれについてなのか
ということを提示していただきたいとおもいます。

あとのことは手続きのことがらですから、
どこであっても、調整できるかとぞんじます。

担当者の方の住所、氏名、連絡先を表記されて、
counseling@porsonet.com までお申し込みください。
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