鳥無き里の蝙蝠☆改

独り言書いてまーす

【考察】Bias & Misdirection ~進化心理学と目標への動機付け~

2017-03-01 14:48:32 | 考察

世界的TCGであるMTG(マジック・ザ・ギャザリング)には『誤った指図』というカードがある。知らない人は軽く流してくれて結構だが、一応説明すると、プレイされた呪文の対象を別の対象に変更する、というカードである。そのカードがどうしたかといえば、日本語のカードでは「誤った指図」で英語版だと「misdirection」というカード名である。


さて本題。

つい先ほど、一流ゲーマーについて考察している際に、ストリートファイターで言わずと知れた梅原大吾のスタンスについて調べ考えていた。

>>他人から「ウメハラの良さはここ」と言われると、それをことごとく否定し、指摘されたプレイは極力捨てるようにしてきた。そもそも勝負の本質は、その人の好みやスタイルとは関係のないところにある。勝つために最善の行動を探ること。それこそが重要なのであって、趣味嗜好は瑣末で個人的な願望に過ぎない。<<
※『勝ち続ける意志力 / 梅原大吾』P.56より抜粋

今回執筆したいのは、色を塗った「好み」について。進化心理学の観点から言えば、母性や味覚というのは、生存を最適化するために発達してきたものである。過去の記事で何度か書いていると思うが、人間が甘いものを食べたいと思うメカニズムは、「甘い→食べたい」ではなく、「食べたい→甘い」となっている。

誤 気持ちいいからセックスがしたい。
正 セックスがしたいから気持ちいい。

誤 甘いから食べたい。
正 食べたいから甘い。

@ダニエル・デネット 「かわいさ、セクシーさ、甘さ、おかしさ」よりhttps://www.youtube.com/watch?v=soPLDOhwAHE


@↑このブログで文字起こしした記事


それがどうしたかといえば、ゲームに限らずスポーツでも食べ物でも普段の趣味趣好にも通じていて、それが正しい時と誤っている時があるということについて書いていきたい。

梅原大吾は、プレイスタイルに対する好き嫌いを排除した。彼には彼なりの好みのプレイスタイルがあるはずだが、それを排除することによって「強さ」を求めるうえで極めて効率化することに成功した。格ゲーに限らずFPSにおける銃火器や兵科の種類への好き嫌いも同じである。

人間の体は、必要なものを欲するようにできている。しかし中毒や依存によってはその"必要"を間違えることもある。濃厚豚骨ラーメン、ニコチン、カフェイン、セックスなどなど。健康体であれば、妊婦が酸味や甘味を求めるように、随時不足している栄養素を求める思考になるのが自然である。

格ゲーでのプレイスタイルの好き嫌いについても、「このスタイルが正しいんだ!」という感情が強化され続けた結果、好き嫌いにまで発展したのだと考える。ピーマンが嫌いな子供が、「ピーマンは体に良いので、我慢して食べるのが正しい」と教えられ続けた結果、大きくなってからは食べられるようになってその苦味に気持ち良さを感じるのと同じである。

ピーマンの例は単純で間違えようがないが、格ゲーのように複雑な理論が根ざしているような分野では一筋縄ではいかない。俺はストリートファイターをそこまで極めていないので憶測で語るが、自分が負けた原因を明らかにしていく際に、1・ボタンの操作精度、2・コンボの組み立てが甘い、3・キャラの相性、4・訓練の不足など、と言ったように材料が多く、さらには負けた直後の精神的負荷(ストレス)がある状況では、「人の心は易きに流れる」と言うように自分にとってストレスの小さい「好きなやりかた」に落ち着いてしまうことがある。

肉体や体質は遺伝だが、人の性格というのは後天的に構築されていく。長い年月の中で得てきた経験が今の自分の性格を形作っている。未だにピーマンやトマトを嫌う人も、待ちガイル一辺倒な人も、芋砂でキルレ至上主義の人も、長い人生の中でそうした好き嫌いを形成、それらの快感回路を強化し続けてきたに過ぎない。

梅原大吾の強さの秘訣は、誤った快感回路にメスを入れたことが一つだと思う。そう、Misdirectionである。俺のブログでは再三書いてきたことだが、人間の快楽システム(あるいは報酬メカニズム)は、みんなが思っているほどしっかりしているものではないのだ。明らかに健康を害し寿命を縮め精神を乱すような食べ物や飲み物への欲求を、馬鹿の一つ覚えのように強化し続けてしまう。それは本来生存のために必要なことであったが、飽食である現代においてはその多くが誤って作動している。タイトルのmisdirection(誤った指図)の主体は、他でもない我々の本能である。

酸味の強い梅干しや苦味の強い梅干しを好むよう自分の報酬回路を再配線するのは、現代を生きる人間にとって必要なことである。飽食と安定した治安のある現代の地球上において「好きなことをする」というのはとても耳障りの良い言葉ではあるが、果たしてこのままでいいのだろうかと、今一度疑問に思うべきなのかもしれない。


はてさて。

しかし好き嫌い=個性という方程式が一般的だというのもまた事実である。好きにしろ嫌いにしろそれを強化していくことが、いつでも成果を阻むことだとは限らない。それは主に芸術の世界に現れるものかと推測する。なぜなら感性の振れ幅が物を言う世界だからである。とはいえ、じゃあ自制心が不要かと言えばそうではない気がするので悪しからず。

好き嫌いを排除、つまり個性を捨ててひたすら「強さ」に貪欲であることは"楽しい"のだろうか?

こだわりや愛着というのは、競争の世界とは程遠いものである。梅原大吾も言っているように結局のところ「自己満足」に過ぎないのだろうか。

とあるオンラインMMOでは、自分の操作するキャラクターの体格や声や衣装を極めて自分の好みに選択できるものがある。クリエイト勢と呼ばれているのだが、つまりは"見た目"のために尽力する者達のことである。彼らはゲーム内でのプレイを極めるでもなく、ひたすら衣装などのためにせっせと作業をする。個人的な感想では、それはまるで現実世界でに労働とあまり大差がないようにも思う。というのも、ダンジョン内で拾ったアイテムを集めて市場に売り出し、それらを相場によって安くしたり高くしたり、高く売れるものを探して高難度のダンジョンを巡ったりしているからだ。ゲーム内でいうドロップアイテムと市場は、現実世界でいうところのオークションだったり農産物に当てはめることができ、高難度というのは高給バイトだったり資格の必要な職業ということになる。

オフタイムである休日だというのになぜ彼らは、ゲーム内で擬似労働(?)というか擬似商売(?)をしているのだろうか。まあそれはおそらく、血と汗の結晶である衣装で着飾った自慢のキャラを晒して承認欲求なり美的感覚をみたしたいのだろうとは思うのだが、それはひとたびゲーム機から離れたら一銭の価値にもならない。現実では冴えないデブでチビでブスで汗臭い人は、ゲーム内という仮想空間で、充足できなかった欲求各々を満たそうとしている。先ほども言ったようにそれは競争とは程遠く、究極的に好き嫌いで自己満足な領域である。今回の執筆テーマに些か強引だが沿うのであれば、それらもmisdirectionだと言える。なぜならゲーム内という仮想空間内で、価値が限定されたゲーム内通貨だったりアイテムは、現実世界の市場で売買することができないからである。これが現実の自動車だったり衣服であったりフィギュアであれば、知人に譲渡するなりネットマーケットで売りに出すなりしてまたお金に還元することができる可能性があるが、ひとたび課金という行為によって仮想側に落とされた金銭が現実世界のお金に還元される可能性はゼロである。(厳密に言えばゲーム内で稼いだゲーム内通貨を現実のお金に還元するゲーム(RMT)も存在する)

仮に、彼らが満たしたい欲求が承認欲求だとはっきりわかるのであれば、努力の矛先を正すのが健全だとも言える。チビは改善が難しいかもしれないが、デブであれば痩せる努力を、ブスであれば清潔感や髪型や眉でどうにかできる部分もあるはずだ。人見知りだったりコミュ障だったりしても、それを克服するために接客バイトを始める猛者も今時珍しくない。とはいえ、自分もそこそこのゲーマーなのでゲームの世界にどっぷり浸かりたい気持ちを全否定するつもりはない。現実逃避のツールとしても、現実世界では叶わないような娯楽を擬似体験するためのツールとしても、やはりゲームをプレイするメリットは計り知れないからだ。さらに言えば、現代では"シェア"が流行である。些細な話題や出来事に限らず、強敵を討伐したりチームの勝利といったような"目的の共有"である。昔のゲームと言えば、ほとんどが一人で画面にかじりついていて、多くてもせいぜい二人対戦といったところだが、マルチプレイが当たり前の今では、チームでの共闘やサバイバルが珍しくない。

おっと。話題が逸れ始めた。そしてそろそろ時間なので中途半端だがこのへんでまとめることにする。

とにもかくにも俺が言いたいのは、報酬回路を見直すべきで、自分の好き嫌いは正しくない可能性があるということ。自分の掲げている目標や人生の充実にとって、今の配線で良いのか悪いのか。梅原大吾氏が強さを求めるために好き嫌いを排除したように、自分も排除するべき好き嫌いを持っている可能性を考えさせられたので執筆に至りました。

おーわりっ。
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