今日の本紹介

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

本紹介51「君がいる時はいつも雨」

2021-02-06 17:27:00 | 日記
孝広は幼いころに事故で両親を亡くし、叔父夫婦のもとに身を寄せている。夏休みが始まり、寂しさを紛らわせようと大好きな野球に打ち込むのだが、そこへ謎の男の子が現れた。必ず雨とともに姿を見せる彼はいったい何者なのか?そしてやってきた本当の目的は?やんちゃな性格に振り回されながらも、孝広は少しずつ変わってゆくのだが…。出会うはずのなかった2人の切ない夏休みが始まる。

「雨」というものがこの物語の根幹となっている。新海誠監督作「言の葉の庭」は私も大好きな作品であるが、それと似た構図で嬉しかったことを覚えている。
私はよく、人と人は見えない何かで繋がっていると思うことがある。自分の意思とは無関係に、同じ人と一緒になったり、接点が生まれたりする。それは先程の「見えない何か」、具体的に言えば、因のようなものが作用しているのだと思っている。
この物語の兄弟は、本来なら出会うはずはないが、亡くなった両親の強い想いと血縁という因が、不可能という垣根を容易に超越したのではないだろうか。
この物語は、他三作品、同時間軸として出版されている。またの機会にそれぞれ紹介していきたい。
『【文庫】 君がいる時はいつも雨 (文芸社文庫)』の感想

真摯な想いは時間や場所の垣根を越えてなんらかの形で人に届くようになっている。私はそう信じている。それを証明してくれた話。この兄弟は出会うべくして出会ったのである。

#ブクログ




本紹介50「ベイビーメール」

2021-02-01 02:19:00 | 日記
「私の赤ちゃん、大切に育ててあげて」。抉られた腹部にへその緒だけを残した女性の変死体が次々と発見された。高校教師の雅斗は、親友の恋人が犠牲になったことから調査を始め、被害者全員が死亡前に、赤ん坊の泣き声が聞こえるメールを受信していたことを知る。“ベイビーメール”という題名のそれは、恋人である朱美のもとにも届いていて…!?雅斗は恋人の命を救うことができるのか―山田悠介初期の傑作都市型ホラー!

最後のシーンは誰もが鳥肌を立てるだろう。生命の象徴である子供達に命を損なわれることほど酷なものはない。
感想にも書いたことだけど、生命の誕生とは、ある種の不可解さが伴うと思う。人の思考が決して及ぶことのない領域があると思う。その概念をオカルトに置き換えて展開した著者の発想は素晴らしいと思う。
子供という存在は、人の運命を大きく左右する力があると思う。
この一言に尽きる。

『@ベイビーメール (角川文庫)』の感想

生命の誕生とは、色々な意味で不可解さが伴うのだと思った。
子供という存在は、人の運命を大きく左右する力があると思う。

#ブクログ




本紹介49「悪意の手記」

2021-01-31 02:54:00 | 日記
至に至る病に冒されたものの、奇跡的に一命を取り留めた男。生きる意味を見出せず全ての生を憎悪し、その悪意に飲み込まれ、ついに親友を殺害してしまう。だが人殺しでありながらもそれを苦悩しない人間の屑として生きることを決意する―。人はなぜ人を殺してはいけないのか。罪を犯した人間に再生は許されるのか。若き芥川賞・大江健三郎賞受賞作家が究極のテーマに向き合った問題作。

人を殺すということの本質と殺した人間がどうなってしまうのかという長い歴史の中で幾度となく考察されてきた究極的テーマに挑んだ著者の意欲作。
虚無が生み出す悪意、そしてそれによって狂う万物の事象は限りなく忠実に再現されているように思う。まるで人を殺したかのような錯覚人間陥る。
なぜ作者は人を殺したことがないにもかかわらずこのような哲学が理解できるのだろうか。
死を意識して、初めて生きている実感が湧く。死は生の反対にあるのではなく、生の隣にあるもの。どちらかが希薄になった時、もう一方も比例して希薄となる。
だからこそ、生を謳歌している我々は、死を同じように意識しなければいけないと思った。そうしなければ、いつ何時主人公のように虚無に包まれてしまうか分からないのだ。
死とは何か。人を殺すということはどういうことか。人を殺した人間に再生は許されるのか。
皆さんもこれを読み、一度究極のテーマと向き合ってほしい。

悪意の手記 (新潮文庫)』の感想

人を殺すということはどういうことか。人を殺した人間はどうなってしまうのか。その本質が余すことなく書かれている。どういう訳か、ここでの事象、つまり人間を殺害した人間の陥る精神状態や症状は、他のあらゆる作品に共通している。
全てがリアルで中村文則作品で一二を争う不朽の名作。

#ブクログ




本紹介48「ユートピア」

2021-01-26 00:40:00 | 日記

太平洋を望む美しい景観の港町・鼻崎町。先祖代々からの住人と新たな入居者が混在するその町で生まれ育った久美香は、幼稚園の頃に交通事故に遭い、小学生になっても車椅子生活を送っている。一方、陶芸家のすみれは、久美香を広告塔に車椅子利用者を支援するブランドの立ち上げを思いつく。出だしは上々だったが、ある噂がネット上で流れ、徐々に歯車が狂い始め―。緊迫の心理ミステリー。


感想にも書いたことだけど、現状に満足し、精一杯生きている人間は、ユートピアなどないことを重々知っている。

これは、この作品に限ったことじゃないが、現状を必死かつ満足に生きている人間は過去の栄光に縋ったりはしない。逆に過去の栄光(武勇伝)ばかり語る人間は、現状に満足していないか、怠惰な生き方をしているのであると私は思う。

比較論では決して幸福にはなれないことを教えてくれる一冊。


   『ユートピア (集英社文庫)』の感想

「地に足付けて生きている人間は、この世界にユートピアなどないことを知っている」
この作中の言葉が世界観と筆者の主張全てであると感じた。
ちっぽけなマウントの取り合いほど見苦しいものはないと教えてくれた。

#ブクログ




本紹介47「送り火」

2021-01-25 00:48:00 | 日記
第159回芥川賞受賞作。単行本未収録の2篇を加えて、待望の文庫化。 

春休み、東京から東北の山間の町に引っ越した、中学3年生の少年・歩。 
通うことになった中学校は、クラスの人数も少なく、翌年には統合される予定。クラスの中心で花札を使い物事を決める晃、いつも負けてみんなに飲み物を買ってくる稔。転校を繰り返してきた歩は、この小さな集団に自分はなじんでいる、と信じていた。 

夏休み、歩は晃から、河へ火を流す地元の習わしに誘われる。しかし、約束の場所にいたのは数人のクラスメートと、見知らぬ作業着の男だった――。少年たちは、暴力の果てに何を見たのか――。 

「圧倒的な文章力がある」「完成度の高い作品」と高く評価された芥川賞受賞作。 

都会はよく世知辛いと言われるが、田舎には田舎特有の恐ろしさがあることを教えてくれる一冊。
町の住人のほとんどが顔見知りであるということは、時にどういうジレンマを生み出すのか。同調圧力の根源が問われる。
この物語の登場人物達(主人公以外)は、田舎の雰囲気しか知らずに育っているため、前述の恐怖を恐怖と感じておらず、(というか知らず)知らず知らずの内に理不尽を受容してしまっているが、多くの人間がこれを読んで、環境が生み出す潮流を客観的に感じとってもらいたい。
『送り火』の感想

閉鎖的な田舎では、そこで馴染めないものはただただ理不尽を受け入れるしかない、村八分になったら死活問題であるということを如実に教えてくれる作品。

#ブクログ