『自由席』
…が好きだ。
あまり使わない言葉だが、響きが好きだ。何より『自由』という言葉が好きなのだと思う。
休日。
そんなに早くない時間に目覚め、ゆっくりと着替える。昨夜のうちに準備していた靴下には穴が空いていた。毎日しっかり働いている証拠かと過大解釈すると、とても救われた気がする。
靴下なんて高価でなく買える。
携帯電話の充電を確認し顔を洗う。
前売り乗車券をリュックに入れて、ゆったりめにマフラーを巻いた。
ローカル線では座らず、少し祈りながらドアの側に立つ。アチラ側よりコチラ側の方が、より良い景色でありますようにと。
それは乗り継いだ後でも同じ祈りだが。
乗り慣れない新幹線の自由席で、構内売店のハキハキとした店員さんから貰ったおしぼりで手を拭く。そこで同時購入したおにぎりとサンドイッチを楽しむ為に。
降車駅まではまだ時間がある。
新幹線にはあまり乗った事が無い。必要が無い人生だったからだ。
今度新幹線に乗る事があるなら、次回からは一番前か一番後ろに座りたいと思う。そこなら降車して改札口へ向かう、ホームを歩く人から見えないからだ。
せっかくの自由席で『自由』を壊されたくない。
車内からの景色は、数分で山と海に変わる。車内アナウンスからは耳なれない駅名が聞こえる。
地名を聞いた時、頭の中の世界地図が、その場所を赤いランプで知らせてくれないと気持ちが悪い。後で地図を検索するに違いない。
どんな事でも、知っていて損にならない事なら、なるべく頭に一度は入れておきたい。例えそのうち忘れてしまうとしても。
でも、そんな事は今はどうでもいい。
今日は週末、良い天気。
自分だけの『自由』時間だ。