皆さんはザ・レジデンツなるバンドというか4人組をご存知だろうか?
まあ知っていてもいなくてもどうでもいいのだけれども、ここまで異常かつ異形な連中はかつて自分の知る限り見た事がないので、少し。言わせてくんろ。
ザ・レジデンツは1972年に初自費製作2枚組みEP「サンタ・ドッグ」を発表してから、なんと恐ろしい事に現在に至るまでまだ活動を続けているそうである。そのEPにしても、発表したといっても知人・友人に配られただけだったそうだが、なぜかニクソン大統領やフランクザッパにも送りつけられたという噂があるらしい。
で、もっと恐ろしいのが未だに素顔、国籍、性別、年齢が明かされた事はないそうである。たまにジャケットに謎の人の顔が映っている時があるが、それらはまったく別人の顔だそうである。
左は翌年に出た彼らの最初のアルバム。タイトルは「ミート・ザ・レジデンツ」。......
「ミート・ザ・ビートルズ」ではないか。
ビートルズのジャケットを悪意たっぷりにパロディするというのはこれより以前にもフランク・ザッパの「ウィー・アー・オンリー・イン・イット・フォー・ザ・マネー」
(画像右。サージェント・ペパーズのジャケットをそっくり真似て、ビートルズメンバーの代わりに女装したザッパとマザーズ・オブ・インベンションの面々が立っている。で、アルバム題が「俺たちは金の為にだけやってる」)
があったわけだけども、なんだかレジデンツのは全体的にヒドく、ポールの顔写真の上に書かれたウルトラマンのダダみてーなイタズラ書きなんか特に、いったい何の意味や意図があってこんなことをしたのか全く意味不明なのがとても不快感を掻き立ててくれる優秀なジャケットである。
ザッパのを見たときも凄いと思ったが、あれはまだ人間的な匂いを放っていたから楽しめた。こちらは確かにザッパを踏まえたのではないかとも思えるが、初アルバムでやってしまっていることといい、ただ単に実際の本人達のジャケットにイタズラ書きしただけの適当さといい、おまけに名前までパロっており、もはや可笑しいのか気持ちが悪いのかわからず返答に困ってしまう感すらあり、流石というほかない。
実際当時は彼らの中身はビートルズ本人なのではという噂もあったという。
しかしあからさまなジャケのパクリは当然ながらシリーズ化するような事もなく、これのみである。
んでザ・レジデンツの名前の由来なんですが、70年頃にレジデンツが録りためたテープをキャプテン・ビーフハートの作品に関っていた人物に送った所、気に入られず返送されることになった。そのテープには誰一人のメンバーの名前も書いてなかったので、仕方なしに「居住者たち(The Residents)」と宛名を書いたのがその由来だそうで。
とってもキュート!
その後ザ・レジデンツはこのようなタキシード・トップハット・目玉マスクのいでたちでジャケットに載ったりライブを(活動年数からすれば だいぶ 少ないけど)行うようになる。この4人揃った変態的な姿は、俺なんかはいまだにザ・レジデンツを思い浮かべる時にまず浮かんでしまうほど強烈な印象がある。
余談だけど。今でも外部アーティストの参加はたまにあるようだが、初期には「スネイクフィンガー」と呼ばれる外注の名物ギタリストが参加している。
その人どんな人、かというとレジデンツのメンバーがたまたま彼のギター演奏を観たところ、まるで指が蛇のように動いたように見えたのでメンバーが彼をスネイクフィンガーと呼び出したらしい。もう故人となっているが、一応こないだレコード屋でソロアルバムを目にした。
ザ・レジデンツによるローリング・ストーンズの「サティスファクション」のカバー等でそのギターが聴ける。どんなギターかというと、うーん、その曲を聴く限りでは確かに蛇が不協和音をなぞるように身を進ませるような感じのギターである。
ちなみに80年代半ばにレジデンツの1人の目玉マスクが熱狂的ファンに盗難されたらしく、それからはその盗まれた人だけガイコツの仮面を被るようになった。それからそのボーカルの人は「スカル」と呼ばれるようになったようである。
このように。
現在マトモにザ・レジデンツを聴こうとしたら、ボンバ・レコードから発売されているCDを聴くのが一番手っ取り早い。運が良ければ買えることもある。それにはザ・レジデンツ公式履歴書なるものがあり、そこにはこんな文がまず掲げられている。
人に関して決して忘れがたいもの、それはその人の性別であると言われている。
ザ・レジデンツに性別はない。
次に印象的なのは顔である。
ザ・レジデンツに顔はない。
3番目に印象に残るのは性格である。
ザ・レジデンツには性格はない。
ここまで長期に渡り徹底された主義もそうざらにはない。私生活とアートを完全に分離させるという主義であるわけで、「ザ・レジデンツ」として活動する際には出来る限り人間的部分を排除させているようだ。
それでも公式履歴書とやらには、メンバーの1人が元プロテスタントの牧師、1人がシャム双生児の父親、1人が鉄道モデルの世界トップクラスのコレクターであるらしい等の記載がある。あの~・・・・。
ザ・レジデンツは「音楽ビデオ」というおなじみの手法を生み出したグループと呼ばれており、82年には2本のザ・レジデンツによる映像作品がニューヨーク近代美術館に永久保存されることとなった。ウソくさいが何気にマジらしい。
実際MTV開始直後などはまだ流す映像もなかったため、レジデンツの映像がよく流れていた、という記述もどっかで目にした。って、マジかい。
CD媒体への移行期に作られた作品が「ゴッド・イン・スリー・パーソンズ」という作品で、湯浅学氏の説明によると
「両性具有のシャム双生児の姉妹とその2人を同時に愛するサディストでマゾヒストでホモセクシャルでもあるカウボーイの性と愛と心身の多面的相剋を描いた」
…長尺ラブ・ストーリー作品だそうです。
「ゴッド・イン・3・パーソンズ」ジャケット
なんとなくジャケットにもその意味不明なまでに不穏なアルバム内容が表れていますね。こんなん作ってインカ帝国。
これに限らず、ザ・レジデンツのアルバムは全体に架空のストーリーないしは主題を持たせた作品が多いようです。
1分間の曲を40曲収録した「ザ・コマーシャル・アルバム」、
地底人の物語の「モール3部作(3枚のアルバムにまたがっている)」
単純に名前通りの「アメリカ作曲家シリーズ」等々。
実は廃盤も含めると結構な作品数です。まあ活動期間を考えりゃ妥当か。
またそのレパートリーにはさっきも挙げたようにカヴァー曲が多いようです。そのたいがいは原型がすぐ解らないほどに壊されていたりする。
なんだか色んな方面の曲がカヴァーには選ばれてて、これまたワケわかんないんですが、中でも「第3ロックン帝国」という題の、当時のロック曲をカヴァーしたアルバムがあるようなので、いつか入手したいです。
こんなに書いててアレですが、自分はまだ1stの「ミート・ザ・レジデンツ」とベスト盤の「ザ・レジデンツのあゆみ」しか持っとりません。残念。御茶ノ水のユニオンにこないだ結構あったんだけど、まだあるだろうか。あんとき無理して買いこんどきゃよかった。もうCDにまわす金が…その…。
では最後に、こいつらは一体どんな音楽をやってるんだ、ということなんですが、恐らくほとんど「一定の音楽の方向性」を持っていません。
「ワケが解らない」の一語に尽きます。
なんだか非常に不安になる感じの曲もあれば、けっこうダンサンブルな曲もあるようです。ビートルズの曲を切り貼りしただけの曲もあります(何の機材もない時代に!)。だから、そんなん作ってインカ帝国。
ただ、こんなこと言うのもすげぇ偉そうなんで気が引けますが、ワリと耳を鍛えた人が聴くのをお勧めします。って誰がこんな説明で興味持つかよ、とは思うけど。
前衛的って言って良いなら「かなり」前衛的な部類に含まれると思うので、その点はお気をつけて。
そうっすね、なんかしら変なのでも聴いて慣れとくのがいいかな、と。
そういや、こないだ小石川図書館の協力によりキャプテン・ビーフハートを初めて聴いたんですが、なぜレジデンツがビーフハートを敬愛しているか解った気がします。
Live At Leedsは御察しの通りデラックスエヂソン。
で、とてーもカッコいい。