ー注意事項ー
① 現役を離れて数年経った今、忘れかけた記憶を呼び戻して書いてあること
② 数値、名称等は、ほぼ近いにしろ正確ではないこと
③ 訴えたいことは、分かりやすいように多少誇張して書く場合があること
④ あくまでも私感であること
「***601 Runway36 Line up Wait」
先行機のジャンボが離陸したので管制官から”滑走路に入り待機せよ”との指示が来た。
着陸態勢の飛行機が近づいてこないかどうかを確かめながら、「ファイナル クリア、ランウェイ クリア」とコーパイと声を出し合って滑走路に入っていく。
ブレーキを外してスラストレバーを自機が動き出す程度に進めてゆっくりと滑走路に入っていった。
離陸許可が来るのを待ちつつセンターラインにアラインしようとノーズステアリング(前輪操作)を右に切っている時に離陸許可が来た。
「***601 Wind 050/19 Clear for Takeoff Contact Deperture after Airborne」
「Roger ***601 Cleared for Takeoff」
とコーパイは管制官に離陸許可をRead Back(応答)した。
私はランウェイセンターラインに機軸を合わせブレーキを踏むこと無く
「TAKEOFF(離陸)」
とコールしスラストレバーに付いている”TO/GA”スイッチを押した。
MODE Annunciator(モード表示)に”TO/GA"が表示されたのを確認して2人共お互いに「トガー」とコールした。
スラストレバーが自動的に立ち上がってきてエンジン回転が唸りながら上がってくる。
そのまま放っといても離陸推力に合うようにオートスロットルが自動的に調節してくれるが、合っているのかチェックする意味でも
「Set Takeoff Thrust」
とコールした。
コーパイは、ほとんど合わす必要のないThrust Leverに手を添えて所望の離陸推力に合っていることを確認する。
そして、エンジン計器のモニター業務に専念する。
右横風20ktも吹いている状況では風の息である突風は更に強く30kt位は吹く。
横風の場合はランウェイセンターラインのキープ(保持)が難しくなるが、ずらすことなく真っ直ぐに離陸滑走しなければならない。
右にエルロンを当てて、左方向舵を踏み込み風にあおられないようにする。
中心線上には夜間の照明施設としてセンターラインライトが設置されている。
センターラインライトは若干盛り上がっているので、前輪がセンターラインライトを踏みつけてガタガタと機体を振動させないように、2つあるタイヤの間に挟み込むように方向舵でコントロールする。
正面から吹く風とか弱い風の場合には方向保持は難しくはないが、今日のように横風が強い時には困難だ。
現役の役職で知ったことではあるが、多くのパイロットは困難な時にこそすばらしい力を発揮するのを見てきた。
前方滑走路を見て、スピード計を見て、エンジン計器もチラッとは見るがエンジンモニターはコーパイに任せてある。
コーパイはエンジン計器をモニターしながらフライト計器もモニターしなければならない。
スピードが上がってきて、
「80 (エイティー)」
と、コーパイからコールがあった。
自分のスピード計も”80kt”あることをチェックして、お互いのスピード計に誤差がないことを確認した。
離陸続行問題なし!
この辺りの加速はすごいので、直ぐに離陸決定速度である”V-one”がくる。
「V-one」 (ブイワン)
のコールがあったが、自機の全てが正常なので離陸中止はない。
直ぐに、
「ROTATE」(引き起こせ)
のコールがあった。
私はWing-Level(機体の水平状態)を保ちつつ操縦桿に力を加えて引き起こした。
横風の場合は突風にあおられやすいので、飛行機が地上から離れて空中に浮かぶ境目の操縦は特に気をつけなければならない。
あおられることなくウィングレベルになるように3蛇をコントロールして引き起こす。
急ぐこと無く、スローになること無く1秒間に3°のPitch Up(機種上げ)のレイト(割合)で15°までスムースに引き起こす。
機種がゆっくりと上がってきて主車輪が滑走路から離れていく浮遊感覚を感じとる。
機械的に操作するのではなく、感覚を研ぎ澄まして全体的な自機の状況を体で受け止める感性を大事にする。
(他社で搭載燃料量を少なく入力したために、Rotation速度を低く設定してしまい飛行機が浮いてこないまま引き起こしを機械的に継続したためにTAILをこすった事例がある)
浮き上がってくる頃に
「V-two」 (V1以降にエンジン不作動になった場合の保持すべき速度)
のコールがあった。
通常通りの離陸を継続し、
「Positive Rate、Gear Up」
浮き上がっているので、当たり前に正の上昇率になってはいるが、正の上昇率を確認していることをコールして車輪を上げる指示をする。
コーパイは「ラージャー」と言い、ギアレバーのダウン・ディテントを外すためにレバーを手前に引きながらアップする。
ギアレバーはカチッと今度はアップ・ディテントに収まった。
3000psiの高圧のハイドロオイル(作動油)が複雑な配管を通って重たい車輪を上げるググーというような音が聞こえる。
上がりきったら、車輪が降りている時に点灯している3つのグリーンライトが消えるので
「Up No Light」
とコーパイはコールした。
最も神経が張り詰めるPhase(過程)をこなしたがやれやれと感じる余裕など無い。
飛行機はグングンと高度を上げていく。
直ぐに400フィートになるので
「L NAV](エルナブ)
(Lateral navigation):水平方向の航法指示)
と私はコールして"L NAV"のスイッチを入れるようにオーダーした。
Mode Annunciator(モード表示)が”L NAV"モードになったことを確認してオーム返しに
「L NAV」とコールする。
"L NAV"が機能すると、後はフライトディレクター(航法指示器)の指示に従って操縦すれば、事前に設定したルート(出発経路・航空路及び侵入経路)を正確に飛行することができる。
「Contact Departure」 (出発管制所にコンタクトせよ)
コーパイは
「Okinawa Departure ***601 Airborne NAHA」 (那覇空港を離陸した)
Departure Controlから
「***601 Turn Left 210 Cancel 1000 restriction Climb Maintain 6000 due to Traffic」 (機首方位を210°に向けて一旦6000フィートまで上昇せよ、他の飛行機がいる)
那覇空港は嘉手納飛行場との関係で出発方式では離陸したら1000フィートで抑えられる。
今日は7000フィートに他の飛行機が飛んでいるだけのようで1000フィートの制限はキャンセルされて6000フィートで抑えられた。
すでに”ALT Capture”して1000フィートレベルオフしているので、
「
CMD A」 (Command A:コマンドA オートパイロットを入れる)
HDG SELノブを210°に回して、1000フィートにセットされているALT SELを6000フィートにセットした。
(オートパイロットが入っているとキャプテンがセットするが、オートパイロットが入ってない場合はコーパイがセットする)
「LVL CHG」 (Flight Level change)
「
V NAV」 (Vertical Navigation:垂直方向の航法指示)
を入れ、フッと一呼吸して一息ついた。
この先は自分の意志をオートパイロットという第3のパイロットにオーダーすることになる。
うまく使ってあげるととてもいい働きをするパイロットの強い味方である。
天気が良い日は「
Left Side Clear」とコールしてヘディングをセットするが、今日は雲高が低くすでに雲の中に入っていたのでコールする必要はない、
徐々に加速してスピードが210ktを超えると
「
FLAP 1」 (高揚力装置であるフラップを”1”のディテントにせよ)
230ktを超えると
「
FLAP UP 0」 (フラップを上げて0ディテントにせよ)
ギアもフラップも上がりクリーンな状態になった。
正に、”水を得た魚のごとく”飛行機本来の状態に戻り、性能をフルに発揮できグングンと上昇していく。
空気を得た飛行機と言おうか、空を得た飛行機とでも形容できる。
飛行機が飛行機らしく最も安定した状態だ。
この辺りのジェット推力の凄さを実感したのは、プロップ機であるYS11から移行した時だった。
(上昇率がYS11は500フィート~1000フィートなのに対して、ジェットは3000フィート~4000フィート)
その圧倒的なパワーを実感できるのは非力なYSを経験したからに他ならない。
しかし、YSはYSなりにしっかりと作られた純国産機であり、今思えば非力さが可愛く思える今日この頃だ。
整備の話によると、沖縄は塩害が多いがYSの機体は塩害にもびくともしない頑丈な作りだと話していた。
1500フィートを超えているので離陸フェーズは終わったことになる。