ブロードコム・ヴイエムウェアが本格始動--大企業のオンプレ回帰に照準様記事抜粋<VMware by Broadcomは米国時間8月26~28日、米国ラスベガスで年次イベント「VMware Explore 2024」を開催している。メインとなる会期2日目の基調講演では、Broadcom プレジデント 最高経営責任者(CEO)のHock Tan氏が登壇し、企業の方向性がオンプレミスやプライベートクラウドにあると宣言。製品・サービスを大規模に再編し、「VMware Cloud Foundation 9」(VCF9)や「VMware Tanzu Platform 10」などを発表した。 今回のVMware Exploreは、2023年11月のBroadcomによるVMware買収完了後初の年次イベントになる。基調講演の冒頭でTan氏は、「多くの皆さんから『製品をより良くしてほしい』『より使いやすくしてほしい』と言われてきた。われわれを求める皆さんを集めたい」と切り出し、「10年前に多くの経営層がパブリッククラウドの将来性にほれ込んだ。しかし、コスト(Cost)、複雑性(Complex)、コンプライアンス(Compliance)の3つの“C”に直面して、今ではPTSD(心的外傷後ストレス障害)を抱えている」と指摘した。 企業のクラウド利用の拡大に応じてコストが増大し続け、同時にシステム環境も複雑化する一方となり、コンプライアンスの観点でも法規制など厳しい領域では、小規模で複雑な環境ほど高いコストを伴うとする。 他方で、生成AIのブームを契機にデータのセキュリティやプライバシーとそれらの保護や統制の確保が必須とされ、AIアプリケーションの実行や大規模言語モデル(LLM)の開発などにおける電力消費やコストの増大も課題となり始めた。 こうした現状を踏まえてTan氏は、企業がこれらの問題や課題の解決策をオンプレミス/プライベートクラウドに求めていると説き、企業の83%がパブリッククラウドからオンプレミスへの回帰を検討しているという「Barclay CIO Survey 2024」のデータなどを示した。Tans氏の見立ては、企業がオンプレミス/プライベートクラウドを中核として、俊敏性や拡張性などパブリッククラウド特徴を適材適所で組み合わせていくという。 Tans氏は、オンプレミス/プライベートクラウドにおいて、VMwareが「vSphere」や「vSAN」「NSX」といった仮想化技術でITインフラの集約・統合に貢献し、Tanzu Platformによるモダンアプリケーションの効率的な運用管理、セキュリティ対策や事業継続、さらには2023年の同イベントで発表したAI基盤「VMware Private AI Foundation with NVIDIA」に至るまで、企業のIT環境の進化と最適化を支援してきたと実績を強調して見せた。 また、BroadcomがVMwareの買収において「簡素化」「イノベーションへの投資の強化」「エコシステムの拡充」の3つ約束を果たすとも述べた。例えば、簡素化では、買収以前に8500以上あったSKUを大きくパッケージ化してVCF中心の体系に変更し、それに伴う機能の統合や性能、連携などの強化と顧客が容易に展開できるようにすることがイノベーションへの投資の強化になるとする。最後にTans氏は、「非常に重要なことはわれわれがパートナーや顧客とのエコシステムを強化するために投資を行っていくことである。顧客の成功はわれわれの成功を意味する」とアピールした。
全ての中核となるVCF 続いて登壇したVCF部門 製品担当バイスプレジデントのPaul Turner氏は、Tan氏が示した企業のオンプレミス/プライベートクラウドへの“回帰”において、サイロ化した旧態依然のアーキテクチャーでは、技術面だけでなく、セキュリティや運用管理、ワークフロー、プロセスなども足かせとなってコストの増大を招き、企業がビジネスで求めるアジリティー(俊敏さ)も獲得できないといった問題を生じさせると指摘した。 そこでBroadcomとなってからは、コンピュート、ストレージ、ネットワークなど領域ごとにも分かれていた製品群をVCFに統合。Turner氏は「われわれは全ての部門も統合するとても大規模な取り組みをした。VCFは、単なるテクノロジーオペレーターではなく、顧客のビジネスにクラウドの体験を提供するための戦略的な選択肢であり、コンピュート、ストレージ、ネットワーク、自動化、運用の全てを1つに統合したプラットフォームだ」と説明した。 VCFは、これまでもITインフラに必要なあらゆる機能を持つ統合型製品として提供されていたが、大規模環境を対象にしていた。Broadcomは、以前のような領域ごとの製品展開では顧客の多種多様なニーズに対応できても、サイロ化している伝統的なアーキテクチャーのITインフラが抱える問題の解決は難しいと判断。VCFを全ての製品・サービスの中核に位置付け、領域ごとに分かれた製品・サービスをパッケージにした。 Turner氏は、新たなVCFを中心とするスタックでは、自動化を柱にアプリケーションのビルドやデプロイ、運用を支えるインフラレイヤー、Kubernetesなどモダンアプリケーションの稼働を担うプラットフォームレイヤー、そしてプライベートなAI環境や災害復旧(DR)対策、高度なセキュリティなどユーザーが必要とするワークロードの機能を“カタログ”から選んで実行するアドバンストサービスレイヤーで構成されると説明した。 Broadcom体制でのVCFは、Amazon Web Services、Microsoft「Azure」、Google Cloudのクラウドハイパースケーラー、マネージドサービスを提供する300以上のクラウドサービスプロバイダー(CSP)、ハードウェアなどと組み合わせて提供するOEM、1万4000社以上のディストリビューター/リセーラーの各パートナー経由で提供され、顧客が各種環境において同じライセンスでVCFを利用できるポータビリティーなどを備えるとした。OEMでは富士通、日立製作所、NECの国内3社が引き続きパートナーとなっている。 新たに発表されたVCF 9は、バージョン番号が現行の5.2から一気に増えたが、これはvSphere 8のメージャーバージョンアップという建付けになったことによるという。プライベートクラウド環境の導入や統合化された運用管理、リソース管理、セキュリティ/コンプライアンス、テナント管理(VMware Cloud Directorの統合)、自動修復などの新たな機能を備えるほか、中核機能としても、NVMeを使用してAI実行やリアルタイム分析の際に最適なメモリーの割り当てを実施しコストを節減する「Advanced Memory Tiering for NVMe」などを加えた。 Broadcomは、「Private Cloud Maturity Model」という顧客のプライベートクラウドに対する成熟度に応じて段階的にVCFを導入していけるようにするという
VCFの上で動くサービス群 VMware by Broadcomが示すプライベートクラウドでは、VCFをプラットフォームとして、その上でAIやモダンアプリケーション、高度なセキュリティ対策といった各種サービスをカタログから選択して実行するような構成となっている。 プロダクトマネジメントディレクターのValentina Alaria氏は、これからの企業がプライベートクラウドを利用していく上で、プラットフォームエンジニアリングのチームとアプリケーションのチームが連携しながら、セキュリティやコンプライアンスを担保してパブリッククラウドのオートスケーリングのような使い勝手の機能を具備した環境でモダンなアプリケーションやさまざまなサービスを迅速に展開できるようしていくと説いた。 新たに発表したTanzu Platform 10では、KubernetesおよびCloud Foundryに基づいて、一貫したガバナンスとコンプライアンス、モダンアプリケーション実行を可能にするとし、アプリケーションからプラットフォームまでの広い範囲を可視化するオブザーバビリティ(可観測性)や、Javaフレームワーク「Spring」のアプリケーションにおけるコンプライアンス監査やポリシーの実施、脆弱(ぜいじゃく)性修正パッチの自動適用といったセキュリティ強化などを備える。 また、AIで大規模アプリケーションなどの開発や運用、最適化を図る「Tanzu AI Solutions」も組み込む。VCFとの連携も強化され、シンプルなコマンドラインインターフェース(CLI)からKubernetesクラスターを容易に展開することなども実現した。 Tanzu Platform 10やVCF 9の連携の中では、ロードバランサーの「Avi Load Balancer」と、アプリケーション保護での分散ファイアウォール、侵入検知/防御(IDS/IPS)機能を持つ「vDefend」の統合強化が図られた。ここでもAIを活用して、ネットワークにおける高度な脅威分析や検知、対応を効率的に支援できるようにしている
エッジ環境とAI基盤の進化 分散コンピューティング領域の「Software-Defined Edge」では、エッジAIへの対応とSD-WAN環境のセキュリティ強化を図った。エッジAIは、店舗などデータの発生源(データポイント)に近い場所で、カメラ映像分析などのAIを実行する概念になり、特に小売・流通や製造などの業界で関心が高まっているという。 Software-Defined Edge部門ジェネラルマネージャーのSanjay Uppal氏は、多拠点インフラ向けの「VMware Edge Compute Stack」では、エッジAIへの対応としてエッジAIアプリやLLMおよび小規模言語モデル(SLM)などのマルチモーダルなAIワークロードを一貫性あるポリシーで効率的に管理する「VMware Edge Cloud Orchestrator」の追加などを説明。ここではパートナーエコシステムの本格展開も始めており、NTTデータが認定パートナーの1つとして発表された。 また、広域分散環境向けの「VeloCloud SD-WAN」では、Symantecとして提供してきたクラウドセキュリティのセキュアウェブゲートウェイ(SWG)やデータ損失防止(DLP)機能をPoint of Presence(PoP)レベルで統合した初のリリースとなる「VeloCloud SASE, Secured by Symantec」を挙げた。エッジのPoPにおいて高い処理能力と高度な安全性を両立させることができるとしている。 Tanzu Platform 10やSoftware-Defined EdgeなどがVCF上に組み合わせて利用するアドバンストサービスになり、カタログとして高度化セキュリティ、データサービス、災害対策、コンテナー環境の運用、エッジオーケストレーション、ロードバランサー、ワークロード自動化、プライベートAIといったカテゴリーをそろえている
基調講演の最後には、AIおよびアドバンストサービス担当グローバルヘッドのChris Wolf氏が、2023年に発表したVMware Private AI Foundation with NVIDIAを含むプライベートAIのアップデートを説明した。 VMware Private AI Foundation with NVIDIAは、VCFとNVIDIAのGPUやソフトウェアスタックで構成され、企業や組織がデータのセキュリティやプライバシーを担保しながらLLM開発やAIアプリケーションを実行するための基盤になる。2024年5月に一般提供が開始され、Wolf氏は「製造や医療など機密性の高い情報を扱う分野で活用され、セキュリティとガバナンス、プライバシーを確保しつつAIの複雑なアプリケーションの迅速な展開とコストの節減、運用管理の収集を可能にする」と話した。 今回は、同ソリューションのエコシステムがさらに拡大。新たにIntelの「Gaudi 2 AI Accelerators」をサポートしたほか、システムサービスでTabnine、Codeium、World Wide Technology、OEMで富士通、Supermicro、日立ヴァンタラ、エフサステクノロジーズが参加している。 また、新機能となる「Model Store」も発表した。Model Storeでは、LLMへのセキュリティやコンプライアンスの適用、LLMへのアクセス制御、無許可のLLMから自社環境への接続の遮断など安全性を向上できるとする。ほかにも仮想GPUの管理やGPUの高可用性構成、チャットボット作成といった機能が追加された。 AIのネットワーク接続では、主要なハイパースケーラー7社のうち6社がイーサネットに対応済みで、Broadcomが強みとする性能とコストに優れたイーサネットの利用が進みつつあるという。
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