キロスキスタはしゅっとした文字だね

キロスキスタはしゅっとした文字だねです。

水を得た魚のむなしさ

2017-07-27 16:39:53 | 日記
眼鏡をかけたオタクっぽい男で、まだ20代である。

「この仕事が終わったら、○○を××して」「あそこのは、この人たちに○○の指示を出してやって」と責任者に指示を受けると、得意気に私たちに指示を出した。

この男も口のききかたを知らず、ため口でああして、こうして、と言うので気分のいいものではない。

こういうところで水を得た魚になるのは、世間で友達ができないタイプか、他人の上に立って偉そうにふるまいたいタイプなのだろう。

次々と新しい日雇いが入ってくる世界に身をおいて先輩面をしたいのだ。だが、A運送にいた古い日雇いたちは、彼よりも年齢が上のせいか、そのむなしさに気づいていた。

日雇いは人生のエアーポケットに落ちたようなものだ。

そこから這い上がったら、その穴にはもうだれも用がない。多くの人にとって、ここは通過点でしかないのだ。だが、やりつづけると決めた者は、穴と知りつつ、生きていく。

会社のいいなりとなり、いつのまにか、自尊心は奪われていく。この若いオタク男は、「他人に命令する」おもしろさを楽しんでいる最中で、落とし穴にいることさえ、気づいていない。

仕事は7時におわった。更衣室で8500円をうけとり、私は帰りのバスに乗った。



共感し合える立場

2017-07-24 19:05:32 | 日記
だまっていても失礼だと思ったので、私も自分の事情を話し、本業にもどるのでそろそろ終わりになるだろう、と話すと気楽に話せるようになったようだった。

おたがい事情があってここで仕事をしているが、本業とはちがうのだ、という自負が自分のプライドを支えている。

「まあ、ホイホイサービスは、いろいろ事情のある人が登録するようですね……」
「だからむこうも手荒く使えるってわけですか」

「ええ、足元みてきますよね」

「どんな会社なんですか、ホイホイサービスは?」
「さあ、よく知りませんけど、X大学の柔道部の人脈でつくったとか、聞きましたよ」

がっしりした男が会社の制服を着ていたのを思い出した。

休憩後にまわされた青果のほうは常温だった。ジャンパーからとたんに汗が吹き出す。急いで半袖になった。

このエリアはトラックがすぐ近くに見えているので、夜が明けていくのがわかった。明け方に突然、女の声がしたので振り返ると、女性ドライバーが荷物を積みにきていた。

何時間も男だけで仕事をしていると、声だけでも女性の存在は気が安まるものだと知った。

古い日雇いらしい、若い男がいた。彼は青いつなぎの責任者にときおり部分的に監督を任された。とはいっても、名前を覚えてもらえるほどの関係でもないらしい。



家庭の事情

2017-07-21 14:22:34 | 日記
親しいのか、年下らしい日雇いが声をかけている。

「だいじょうぶですか?」
「うん。ここで仕事してるとさあ、風邪が治らないんだよね」

彼はマスクをしながら苦笑した。私は待ち合わせのときに知り合った男と話した。彼は自分の名前を山下と名乗った。

「山下さんはよくここに入るんですか?」
「いえ、1週間に2日くらいです。私、ふだんはほかの運送会社の倉庫で働いてるんですけど、最近、子どもが生まれまして、仕事しなくちゃならなくなっちゃったんです」

山下はうれしそうに話した。

「そうですか、それはおめでとうございます」
「ありがとうございます」

この仕事の掛け持ちはさぞたいへんだろう、と思ったが、それほど疲労がたまっているようにも見えない。

無理しない程度に働いているのだろう。山下は実直そうな男だが、こうした人物とも、たぶんひと晩限りで会えなくなるだろう。そういえば、初日に出会った田中はどうしているだろう。

「やっぱり倉庫の仕事なんかは、直接A運送みたいなところで登録してやったほうが待遇はいいんでしょ?」
「ええ、もちろんそうです。でも、私の場合は勤務時間がある程度決まってまして、それ以上できないんでしかたなくこっちに来てるんです」
「そうですか」



冷気との戦い

2017-07-18 15:33:46 | 日記
ホイホイサービスでは珍しく、まともな気づかいのできる人間だった。

私は食品の小分け作業に加わった。商品がパックでひとまとめ、あるいは箱単位で台車に積まれている。

それらを商品につけられた番号どおりに、各店舗の番号のついた台車に分けていく作業である。缶コーヒー、真空パックのジュース、乳酸菌飲料、ヨーグルト、海苔などだ。

牛乳、紙パックのジュース、弁当、サンドイッチのある場所はいたみやすいせいか、もっと強冷の冷蔵庫になっていた。ここに長くいると、体が芯から冷えてきた。

床の冷気が、靴の底からじんわりと体を冷やしていく。靴下も真冬の厚手のものが必要だ。

たしかに仕事はきつくないが、ここは冷気との戦いだ。男たちは真冬の服装で黙々と作業を続けている。

青いつなぎの責任者は、ときおりマスクの下で咳をしていた。長くこの仕事を続けていて、体をこわさないのだろうか。彼はどんなふうに休日を過ごすのだろう。

休憩時間は午前12時から1時間である。ハードな仕事でないせいか、A運送のように泥のように仮眠をとる男はごく少数で、ほとんどの者がテレビをながめる余裕があった。

談笑する者もおり、A運送とは雰囲気がまるでちがう。青いつなぎの責任者が、また咳をしていた。



冷蔵人間たち

2017-07-14 13:24:10 | 日記
そこには更衣室があり、彼らは黙々と着替えをはじめた。50歳くらいの男が、バスのなかで飲み終えた缶コーヒーを捨てにゴミ箱に向かった。

彼は片足を引いていた。ここで働くのは、その「足の状態」と関係があるのだろうか。私はその男に聞いてみた。

「すみません、上着持ってこなかったんですけど、どこかにあまってるジャンパーがないでしょうか?」
「お、ここにあるよ、これ。これならいいよ」

彼は近くのロッカーの上に丸めてある薄汚いジャンパーを手にとって、渡してくれた。

「でも、だれが着たかわからないし、臭いがうつるぜ」
「いいです。助かります。ありがとうございます」

ジャンパーに腕を通すと、汗やタバコの臭気でむっとした。帰りの電車では、となりの乗客にいやな顔をされるだろう。ほかの者がやっているように、私も首に自分のタオルをまき、寒気が入ってこないように準備を整えた。

責任者はパーマをかけた30前後の男だった。ホイホイサービスの社名が入った、防寒用の青いつなぎを着ている。

いつもここで働いているのだろうか。青白い顔でマスクをしていた。彼は十数人の日雇いたちを、てきぱきと数人単位のグループに分けて、持ち場につかせた。

20~30くらいまでの男には『彼』とよびかけ、30代後半の私くらいの年齢から上の人間には『あなた』とよびかけて区別していた。





建物すべてが巨大な冷蔵庫

2017-07-11 18:27:22 | 日記
はてなダイアリーでやっていた日雇い日記の続編をこちらではじめます。


マイクロバスがMの前の路肩に到着した。

「あ、あれです」

彼にうながされて私が乗りこもうとしたときだった。突然、50前後の男、30代くらいの男が6人ほど、あたりの物陰から飛び出してきてバスに駆け込んできた。

一瞬、私は自分がどこかへ拉致されるのかと思ったほどだった。

さっきまでは私たち2人だけかと思ったのに、彼らはいったいどこに潜んでいたのだろう。彼らが姿を隠さなければならない理由はなんなのだろう。

世間に日雇いの姿を見られたくないのか。それとも、隠れなければならない事情でもあるのか。バスは扇島方面にむかっていく。

海沿いに石油コンビナートが巨大な影絵となって突っ立っている。高い煙突のうえに炎だけが揺れている様子は、黒い蛇がチョロチョロ舌だけを見せている不気味さがある。

明かりの消えた倉庫街の一角にあるAスーパーのセンターにつくと、日雇いたちはロビーで名前を記入してなかに入っていった。

私も真似してなかに入ったとたん、半袖の体に震えがきた。建物すべてが巨大な冷蔵庫になっていた。これではさっきの男が言ったトレーナーどころか、もっと厚手の服が必要だ。

ほかの男たちについていくと、自分の荷物をもったまま、ベルトコンベアーの横を通り、奥へ進んでいく。



脊髄は脳の続きと考えると…

2017-07-07 18:44:20 | 日記
脊髄っていうのは「脳の続き」という定義なんですね。

脊椎動物のもつ神経幹で、脊椎の脊髄腔の中を通り、全身に枝を出しています。脳と脊髄を合わせて中枢神経系と称されます。そう意識すると、背骨って大事にしなくてはと思います。

背骨がゆがむ原因は、冷え過ぎや悪い姿勢、長時間のOA作業、運動不足、睡眠不足などで、これによって神経の働きが妨げられるんですね。

で、頭痛、肩こり、腕のしびれや痛み、背中の痛み、腰痛…もういっぱいいろんなことが起きてしまうわけです。

だから、昼間酷使した体の疲れは眠って癒しましょうということで、寝具メーカーはやっきになってマットレスの効能を述べるわけですね。

人間の体は頭部・胸部・骨盤という3つのブロックを、頸椎と腰椎が結んでいます。寝た時はそれぞれ別々の重さとなって重力が働くので、やわらかいマットレスに寝たら比重の重い背とお尻の部分が沈んで、お腹の出たW字型になってしまって体が圧迫されてしまうのだとか。

中国のある長寿村では竹をイカダのように組んだベットを使っているそうです。

日本でも畳はもともと寝具でしたから、その上にいろいろ敷くことはないんですね。でも、畳で昼寝するとけっこう起きたときに身体がカチカチになってますね(笑)。