太り気味の娘が、
山形食パンに似た白い帽子をかぶって、
白い上っ張りを着て、
ふっくらした丸顔を
肉付きのいい肩の上に
首なしのままのっけている。
よく見ると、
白一色のシャツの襟の付近には
草色の一本の線が首飾りのように入っている。
パンの陳列台の間に
客は一人もいない。
パン屋の娘は、
テーブルの上に両手をついて
その両手の上にふくよかな顎を載せて、
伝票の束を一枚一枚捲りながら見ている。
僕はその絵に描いたような、
いかにも典型的なパン屋の娘といったような姿を
盗み見ながら、
何か安心できるような、楽しいような、
愉快なような、幸福なような、
誰かに語ってみたいような、
一つの思い出としてずっと残しておきたいような、
そうざらには生じない感覚に包まれた。
長い人生の中の短い1ページ。
あるいは、
短い人生の中においても、長く残しておきたい1ページ。
見知らぬ君に乾杯。
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