☆シリアス小説100タイトル★第71話:2人目
(第1話は04年7月1日にあります)
あなたが1人目だとでも思っていたの?
終電1本前に乗って、この駅で一緒に降りるのは2人目。
この夜道を早足で手もつながずに行くのは2人目。
私の住むマンションの狭い階段を彼が先、私が後の一列になって上るのは2人目。
玄関でごめんうちクーラーないの、と宣言しておくのは2人目。
私が手探りで電気を点ける前に、リビングの段差でつまづくのは2人目。
「いってぇ……」と涙ぐむ真似をするのは2人目。
バスを使っている間、私がティーパックでお茶の用意をしてあげるのは2人目。
ヒマワリ柄のお客用バスタオルで体を拭くのは2人目。
扇風機の音の後ろ、濡れて常より黒く長くなった髪に欲望するのは2人目。
「熱いお茶? こんな熱帯夜に飲めないよ」と呆れられるのは2人目。
「冷ましておくからいいの」とよくかきまぜながら答えるのは2人目。
だって喉が渇いたのならわたしを飲めばいいでしょう?
そう思うのも、なにもかも2人目。
あなたは2人目の男。
なにをしても、なにをされても、1人目が消えない。消せない。
どうしたらこの記憶を削除できる。
汗の味も、皮膚の感触も、声も、身体の重みまでも。
全然違う人のはずなのに、これも、それも、全部覚えている。
私は、初めてのこの男をすでに知っている。
違う人だと思っていたけど、本当は全部あなただったんだろうか。
あなたがいなくなってから、
このベッドの上に数え切れないほど男を連れて来たけれど、
あなたたちはみんな「2人目」。
3人目、4人目、10人目になることはない。
全て、あなたから「2人目」の男。
さっきの、お茶さ、もう、冷めたか、な。
と私の耳元で途切れとぎれに発音するのは2人目。
お茶でいいのね? と尋ねて確かめるのは2人目。
生ぬるいお茶を口に含んで、飲ませてあげるのは2人目。
喉を鳴らして最後の一滴まで吸い取るのは2人目。
ふう、とため息を吐いた後に、激しく咳き込み、悶え苦しむのは2人目。
あなたは2人目の男。
2つ目の、死体。
next →→→ 第72話 ああ
(第1話は04年7月1日にあります)
あなたが1人目だとでも思っていたの?
終電1本前に乗って、この駅で一緒に降りるのは2人目。
この夜道を早足で手もつながずに行くのは2人目。
私の住むマンションの狭い階段を彼が先、私が後の一列になって上るのは2人目。
玄関でごめんうちクーラーないの、と宣言しておくのは2人目。
私が手探りで電気を点ける前に、リビングの段差でつまづくのは2人目。
「いってぇ……」と涙ぐむ真似をするのは2人目。
バスを使っている間、私がティーパックでお茶の用意をしてあげるのは2人目。
ヒマワリ柄のお客用バスタオルで体を拭くのは2人目。
扇風機の音の後ろ、濡れて常より黒く長くなった髪に欲望するのは2人目。
「熱いお茶? こんな熱帯夜に飲めないよ」と呆れられるのは2人目。
「冷ましておくからいいの」とよくかきまぜながら答えるのは2人目。
だって喉が渇いたのならわたしを飲めばいいでしょう?
そう思うのも、なにもかも2人目。
あなたは2人目の男。
なにをしても、なにをされても、1人目が消えない。消せない。
どうしたらこの記憶を削除できる。
汗の味も、皮膚の感触も、声も、身体の重みまでも。
全然違う人のはずなのに、これも、それも、全部覚えている。
私は、初めてのこの男をすでに知っている。
違う人だと思っていたけど、本当は全部あなただったんだろうか。
あなたがいなくなってから、
このベッドの上に数え切れないほど男を連れて来たけれど、
あなたたちはみんな「2人目」。
3人目、4人目、10人目になることはない。
全て、あなたから「2人目」の男。
さっきの、お茶さ、もう、冷めたか、な。
と私の耳元で途切れとぎれに発音するのは2人目。
お茶でいいのね? と尋ねて確かめるのは2人目。
生ぬるいお茶を口に含んで、飲ませてあげるのは2人目。
喉を鳴らして最後の一滴まで吸い取るのは2人目。
ふう、とため息を吐いた後に、激しく咳き込み、悶え苦しむのは2人目。
あなたは2人目の男。
2つ目の、死体。
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ね、一途でしょ。いい女でしょ。
まあ一途の対象はけして一人目の男ではなく、
「自分の恋心」なんですけどもね。