山口童話 

山口弘信作成の童話です。

野良犬ボロ

2024-02-22 22:45:19 | 童話

 

令和6年2月21日富山新聞掲載

 

     野良犬ボロ  

 野良犬が村の無人の神社の床下に住んでいました。

 子供たちが、この神社の境内で三角ベースの野球をしていると、いつも顔を出しています。この犬の毛がボロボロになっていることからボロと呼んでいます。神社のまわりが雑木林です。ボールがそこに飛び込むと、ボロが走ってひろってきてくれます。

 秋になりました。山のアケビがちょうど食べごろです。

 村の人々がさわいでいます。

「トクさんとこの、ハナちゃんが山で行方不明になって、いまだにどこに行っちゃたのか、わからないのだって」

「ハナちゃんは、昨日、パパとママとお兄ちゃんと四人でフカダニへ、アケビ取りにいったんですって」

「アケビ取りに夢中になっていたため、ハナちゃんがいなくなったことに気づかなかったらしいよ」

「ハナちゃんは、三歳だから、そんなに遠くには、行っていないと思うよ」と、村の人々が言っています。

 警察や消防団や村びとたちが総出でハナちゃんをさがしました。しかし、ハナちゃんは見つかりません。行方不明になってから三日がたちました。

「ボロにさがしてもらえば、どうかなあ」と、子供の一人が提案しました。

「あんなボロ犬に、さがせるわけないじゃないか」と、大人たちが賛成しません。しかし、一人の子どもがボロを連れてきて言いました。

「ハナちゃんが、三日前から、山で行方不明になって、みんな困っているんだ。さがしてちょうだいね」

 ボロは、一匹でフカダニにやってきて、オオカミのように遠ぼえをしました。

「ウォーオーオ、ウォーオーオ、だれか女の子をしらないかー」

 子づれのイノシシが現れました。

「ウォッ、ウオッ、ウオッ、私たちの巣の中にいますよ」と、言いました。

 ボロはさっそく、イノシシとともに巣に向かいました。そこにハナちゃんがいました。ボロは背中にハナちゃんを乗せて、みんなのいる村に帰ってきました。

「このボロ犬がハナちゃんを隠していたんだな」と、一人の村人が言いました。そして、おなかを足でけりつけました。

「キャン、キャン」と、ボロは悲鳴をあげながら神社の床下に逃げ込みました。その様子を見ていた新聞記者が、ハナちゃんに今までどうしていたの、ときいています。ハナちゃんは、イノシシのことや、ボロがむかえに来てくれたことを話しました。

 ボロは、新聞記事になり、ボロを飼いたいという人もたくさんいました。ボロは年をとっていたことと、腹をけられたことで、亡くなってしまいました。

 ボロの生前に、ボロのために使ってほしい、というお金が多く寄せられました。そのお金で、神社の境内に、ボロの銅像がつくられ、子供たちによって、毎年、慰霊祭が行われています。


てづくりえほん 白ヘビの恩返し

2024-02-02 10:05:00 | 童話

 

 

 

 

 

てづくりえほん 白ヘビの恩返し やまぐちどうわ⑥を作成しました。


真冬の動物村

2023-07-28 00:27:17 | 童話

和5年7月27日 富山新聞掲載

 

 腹ペコのウサギさんが、もうエサをさがしに行く力もありません。このままでは死んでしまいそうです。

 近くに住んでいるリスさんは、秋に集めていた木の実をたくさん持っています。

「少し、木の実を分けていただけませんか、おなかがへって死にそうなのです」と、ウサギさんがリスさんに言いました。

 リスさんは、聞こえないふりをしています。

 今は、山にたくさん雪が積もっています。真冬です。

 リスさんのとなりにイノシシ君が住んでいます。うさぎさんの話をきいていました。

「ボクは 何も持っていないけれど、雪の下になっている木の根っこなら、ほってきてあげるけど食べるかい?」と、イノシシ君がウサギさんにききました。

「お願いします。なんでもいいのです」

 イノシシ君は、腹まで雪につかりながら、 根っこをほりに出かけました。

 かれたイタドリが雪の上に頭を出していました。

「よし、これの根っこをほってみよう」と、ひとりごとを言いました。鼻と前足とキバで ほりだしました。その根っこのなかに真っ白なガの幼虫が、十ぴきも入っていました。それらの古い根っこにまじって、ピンク色のやわらかい根っこが、春になったらめを出すじゅんびをしていました。

 それらの根っこをくわえて、みんなのいる動物村に帰ってきました。

 ウサギさんは、ピンクの根っこをもらい、 とっても元気が出ました。その様子を遠くで見ていたタヌキ君が、根っこの幼虫を食べてみたくなりました。

 イノシシ君がつかれて眠りこんでいる間に 幼虫をこっそりと持ってゆきました。

 目を覚ましたイノシシ君は、幼虫がなくなっていることに気がつきました。

「ごめんなさい。幼虫をだまって持って行ったのは、ぼくです。また、イタドリの根っこをとりに行くときには、いっしょにつれていってください。おわびにいっしょけんめいに はたらきます」と、タヌキ君があやまりにきました。

「あぁ、わかったよ。ウサギさんもさそって いっしょに行きましょう」

 三びきが、いっしょに行く日を楽しみにしてワイワイとお話をしています。

リスさんも根っこほりに参加したくなりました。

「すみません、根っこほりに私もつれていってもらえませんか」と、たのみました。

「あぁ、いこういこう」と、イノシシ君が返事しました。みんなそろって、根っこほりに行くことになりました。リスさんは、たくわえてあった木の実を、みんなのおやつとして、持ってゆきました。

「イタドリの根っこは、ケガをした時の痛み止めにもなりますよ」リスさんが、言いました。きびしい冬でも、みんなで協力すれば、楽しくすごせることが分かり、みんなルンルン気分です。


幸せな老夫婦

2023-04-27 08:22:20 | 童話

令和5年4月27日、富山新聞掲載

 

幸せな老夫婦

 

 山奥の集落に、とってもびんぼうな老夫婦がすんでいました。

 びんぼうでありながら、二人はいつも幸せいっぱいで、いつもニコニコしています。食事は山でとれるクリやカキやキノコや竹の子などです。

 集落のほかの家族は、町に引っ越してゆき、残っているのは二人だけです。

 冬になりました。ふぶきの夜のことです。

「すみません。道にまよい困っています。ひとばん泊めてもらえませんか」という声がきこえました。

 戸を開けると、和服姿の娘さんが、びしょぬれになって、ふるえています。

「びしょぬれじゃないですか。早く中に入っていろりのそばで、あたたまってくださいね」おじいさんが言いました。

「おなかも、すいているでしょうから、クリのおかゆでも食べますか」おばあさんが言いました。

「はい、お願いします」娘さんが答えました。

 つぎの日も、ふぶきがやむことなく続いています。洋服を着た青年がびしょぬれになってやってきました。

「私も、家の中に入れてくださいませんか」とたのみました。

「いいとも、いいとも。中に入ってください」おじいさんが言いました。

びしょぬれのカラスもやってきました。

「娘さんは、キツネだよ、青年はタヌキだよ、私も中に入れてください」と言いました。

「カラスが変なことを言っているよ」と、おじいさんが言いました。

「ごめんなさい、カラスさんの言う通りです」と娘さんと青年は、それぞれキツネとタヌキにもどりました。そして、春になるまで、この家にいました。

動物たちがいなくなった晩のことです。老夫婦が同じ夢を見ました。

「私は、千年前にこの地方で戦いに敗れた侍の守り神です。その時に滝つぼの中に投げ入れられました。どうか、私を助け出してください」というものでした。

 老夫婦は、さっそく滝つぼに向かいました。滝つぼのなかをよく見ると、キラリと光るものが見えました。おじいさんがもぐって、それをとってきました。

「ううむ、りっぱな観音様じゃな、じんだはんのいるふもとの駐在所に届けましょ」と言って、二人で届けに行きました。

「観音様を引き渡しますから、とりに来てください」と、半年後に警察から、連絡がありました。自宅近くの道路わきに、小さなお堂をつくり、安置しました。

らんぼうもののイノシシやクマまでが、その観音様をおがみにきました。真っ白なヘビがそのお堂に住みつき、どろぼうの被害にあわないようにしています。

 動物たちが、観音様におそなえした、木の実などを持って老夫婦の家に立ち寄るようになりました。観音様と老夫婦を中心にした、なかよし平和村になりました。

 


ユウタと、カワウソ

2022-08-11 07:38:18 | 童話

令和4年8月11日富山新聞掲載

 ある いなかの 川のそばに おじいさんと おばあさんと まごが 住んでいました。

 まごは 名まえを ユウタといいます。三才です。母おやは 子供をあずけて とうきょうへ はたらきに 行っています。父おやは びょうきで なくなりました。

 おじいさんと おばあさんの せいかつは 年金ぐらしで そんなに ゆうふくではありませんでした。

 ユウタは いつも 一人で かわらで あそんでいました。

 その川に カワウソの かぞくが すんでいました。カワウソの子供は三びき いました。三びきは ユウタと なかよくなり いっしょに あそんでいました。

 おやのカワウソは 子供たちを ただ 見まもっていました。

おじいさんたちは カワウソがいることを しっていました。しかし、ユウタと友だちになって あそんでいることは しりませんでした。

「むこうまで かけっこだ。」と、ユウタが言うと、みんなが いっせいに 走り出します。

「こんどは すもうだ。」

「おしくらまんじゅうだ。」

「さかだちだ。」

「ねそべって ごろごろきょうそうだ。」と。一日中、あそんでいました。

 ときどき、おやのカワウソが、ユウタに コイやナマズやウナギを 家への おみやげに もたせてくれました。

「カワウソが、おみやげをくれたよ。」と、ユウタが言いました。

「カワウソは、人を だますからね。」というのが おばあちゃんの 口ぐせ でした。しかし、コイのさしみも ナマズやウナギのカバヤキも すごくおいしい ごちそうでした。

 いつものように、 ユウタとカワウソの子供たちが あそんでいるとき 村のえらい人が ちかくのみちを 通りかかりました。そして ビックリしました。

「日本に いなくなったはずのカワウソが 子供とあそんでいる。」のを 見たのです。

しゃしんを とりました。全国のしんぶんに そのしゃしんが のりました。テレビきょくの人たちも やってきました。

しかし、カワウソの かぞくは そのすがたを かくしてしまいました。ユウタは ひとりぼっちで かわらで遊んでいます。

ゆうめいな かがくしゃの先生方が きました。カワウソを つかまえて ほごする そうです。けんきゅうも します。

ユウタは かがくしゃの先生方に「あみで つかまえるのは やめて。」と、ないて たのみました。

「だいじょうぶ だから なかないで。」と、いいながら さがすのを やめません。

 カワウソは ふたたび 人間のまえに すがたを あらわすことは ありませんでした。

しかし、ユウタが しょうがっこうに入学する日のことです。あさ げんかんの 前に コイが おいてありました。 


いたずらムジナ

2022-04-28 06:30:18 | 童話

令和4年4月28日富山新聞掲載                                                 

 人々が、歩いて たびをしていた時代のお話です。

 ある山みちが 上りから下りになるところに、いっけんの茶店がありました。

 この茶店の近くに、いたずらもののムジナが住んでいました。そのムジナは、人間に変身して、たびびとを だまして、よろこんでいました。

 ある日の夕方です。旅をしている若者が 茶店の近くまで来ると、きものすがたの女性が 近寄ってきて言いました。

「いい温せんがありますよ。たびのつかれなおしに、ひとふろどうですか」

「そうだね、じゃあ お願いします」

「ご案内しますから、どうぞ、ついてきてください」

「こちらです。ゆっくりと入ってくださいませ」

「うん、なかなかいい湯だな、ごくらくごくらく」と、若者が言っているうちに、ねむくなって ねてしまいました。次の日の朝になり、別のたびびとが、この若者を見つけました。

「もし、ウンコとオシッコを ひりょうにするため ためている こえだめの中で何をしているのですか」

「ええっ! ここは、こえだめですか」この声をききつけて、茶店のおじいさんが 出てきて言いました。

「よく、このこえだめに入る人がいるのですよ。この近くに、たちの良くないムジナがいてね、たびびとを だますのですよ。早く上がって、からだをあらわなきゃ、くさくてたまらんですよ」

若者は、茶店で からだをあらい、ながしました。

「腹の立つムジナめ、なんとか しかえしをする方法は、ないものですかね」

「みなさん、そう言われるのですが、あきらめています」

 そんな話をしているところに、昨日のきものすがたの女性が イノシシにおそわれ 血まみれになって、走ってきました。そして こえだめに落ちてしまいました。こえだめの中でムジナにもどっています。ケガのため こえだめから上がれません。このままでは、おぼれて死んでしまいます。

 若者が こえだめに入り ムジナを助け出しました。茶店に運び、きれいにあらい、お酒で傷口を しょうどくしました。ムジナは いしきを失い、ねむりつづけています。

次の日の朝になって 目をさましました。

 それまで 若者はムジナに つきそっていました。若者は言いました。

「もう人間をだますのは やめなさい」

 「はい、すみませんでした。これまでのことは おゆるしください。今後は 悪さは ぜったいにしません」

ムジナは、心をいれかえました。茶店の近くに、温せんが わき出ているのを 見つけ、たびびとのため ろてんぶろを つくりました。人間にやさしいムジナになっていました。


やまぐちどうわ➂  じぞうさまへのぬれぎぬ

2022-03-26 21:43:30 | 童話

てづくりえほん

やまぐちどうわ➂ じぞうさまへのぬれぎぬ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


やまぐちどうわ② キツネのお医者さん 

2022-03-16 03:52:35 | 童話

 やまぐちどうわ② キツネのお医者さん の 

てづくりえほんをつくりました。

 

 


やまぐちどうわ①

2022-02-26 13:53:38 | 童話




 

 てづくりえほん を作成しました。


ヨモギ色のネコ

2021-09-23 19:49:23 | 童話

令和3年9月23日 富山新聞掲載

 

 

とやま童話      ヨモギ色のネコ 

                                                             絵と文・山口弘信(富山市)

   

                     

 

令和3年9月23日 富山新聞掲載

 

 

    ヨモギ色のネコ

 

 ネコが「ウォー、ウォー」と必死でさけんでいます。

 このネコは、まだ目も開いていないときに、通学の道ばたに すてられていたのを 児童がひろって 学校に持ち込んできたものです。

 校内放送で「めずらしい、ヨモギ色の子ネコが すてられていました。どなたか。飼ってくださる方はいませんか」と呼びかけましたが、 希望者はいません。仕方なく、持ち込んだ児童の担任が、家に連れ帰りました。

 担任の家には、小学生の男の子がいて、「ぼく この子ネコを育てるよ」と言って ブルブルふるえている子ネコを、ふところに入れ、顔だけ出して あたためていました。夜ねる時も、ふところに入れ、抱いていました。

 ウンチやおしっこは、自分の力では できないので、ティッシュをしめらせて お腹をしげきして だしました。

 やがて自分で歩けるようになると「ウンチとおしっこは、ここでするのですよ」と、ネコ砂の入ったトイレを教えると「ミャーン」と返事しました。名前はムーンです。

 半年がたち すっかり お姉さんらしくなりました。

 男の子が、学校へ行くときは げんかんまで 毎日見送りです。学校から帰ると げんかんまでお出迎えです。

 次の年、ムーンは 二日間 家を空けました。やがて ムーンのお腹がふくらみだし 赤ちゃんのいることが分かりました。

 ダンボール箱に、やわらかい布をしき 部屋のすみに置き「ムーンや、赤ちゃんは この中で産んでちょうだい」と先生が言いました。

 それから間もなく、ムーンはその中で五匹の赤ちゃんを産み、お乳をあたえていました。子ネコが少し成長し 箱から出ると、口にくわえて箱に連れもどしています。

 子ネコが よちよち歩きができるようになると 天気の良い日には五匹を連れて、外でお散歩です。

 ある日曜日のことです。ムーンと五匹の子ネコが「ウォー ウォー」と いっせいになき始めました。

 ムーンは、子ネコを空き地に連れ出しました。子ネコをそのままにして すぐに家に引き返し、男の子のズボンのすそにかみつき 出口に向かって引っ張りました。先生も空き地についてゆきました。

 その時「ゴォー」という ぶきみな音とともに 地面がゆれだし 大きな地震が来ました。

 周りの家のほとんどが、つぶれ 死者やケガ人が多数出ています。ムーンの住む家もペチャンコにつぶれました。しかし、家族にケガは ありませんでした。

 その夜 家族は ひなん所にムーンたちといっしょにいました。

「お母さん、ムーンは地震が来ることを分かっていたんだね。」

「ほんとだね、私もあんたも ムーンのおかげで命拾いしたわね。ムーンほんとうにありがとうね。」

 


クマと、りょうし

2020-10-08 07:48:31 | 童話

令和2年10月8日 富山新聞掲載 

 

クマと、りょうし

 

 りょうしの五平さんが、春の早い時期に、クマをもとめて、山おくに行きました。

 そこで、とうみんから めざめた親子のクマを見つけました。

 その親グマに、クマうちじゅうで ねらいを定め、引金を引くと、見事に親グマの頭に命中し、親グマはひっくり返りました。

 五平さんは、その親グマに ちかよったとき、そのそばに子グマが、「クィーン、クィーン」となきながら、よりそっていました。

子グマを 家につれて帰りました。

 名前をクロと 名づけました。こなミルクを ほにゅうビンで飲ませ、夜には五平さんのフトンに入れて、いっしょに ねました。

 五平さんは、ときどき、クロとじゃれて遊びました。すもうをして、わざとひっくり返り、「つよいなー、クロはつよい、つよい」と言っています。

それから、三年くらいたつと、五平さんが本気になっても、かんたんには クロに勝つことができなくなりました。さらに 二年くらいたった時には、五平さんの手には負えないくらいに強くなっていました。

クロを森に返そうと考えました。トラックの荷台に乗せ、山おくまで行きました。

そこで、クロに「もう、お前といっしょにいることはできない。これからは、山でひとりで くらしなさい。人間に近づいてはダメですよ。もう行きなさい。」と言いました。

しかし、クロはその場所を動こうとはしません。

五平さんは、用意してきた、バク竹をクロの前に放り投げました。バン、バン、バンという音に おどろいて、クロは やぶの中に にげて行きました。

五平さんは、そのすきに、トラックで引き返し、ちょっと、とまって後ろを見ると、クロがやぶから出てきて、五平さんのトラックを見送っていました。

クロと別れて、数年が たちました。

五平さんは、いつものように山へ りょうに出かけました。

山の中を歩いていると、とつぜん 大きなクマと出会いました。じゅうをかまえる よゆうはありません。

そのクマが、立ち上がって、五平さんに おそいかかろうとしています。

その時、ふいに別のクマが そのクマに体当たりしました。大きなクマは、横にふっとび、そのまま やぶの中に にげてしまいました。

五平さんを助けたクマは、クロでした。五平さんを おぼえていたのです。

「クロ、ありがとう、助かったよ、元気だったかい。」と五平さんが声をかけると、クロもうれしそうに、五平さんにじゃれつきました。

それを別のりょうしが見て、五平さんがクマに おそわれていると かんちがいして、クロをうちました。五平さんは、クロの頭をだきかかえました。クロはそのまま、目をとじ、息を引き取りました。

その横に、子グマが「クィーン、クィーン。」とないていました。


大酒のみの花よめさん

2020-07-30 06:58:40 | 童話

令和2年7月30日 富山新聞掲載

 

 

大酒のみの花よめさん

 

 

 氷見市内のある大地主の家に、石川県の能登の大しょう屋からおよめさんが来ました。

 大地主の家は、戦国時代から何十代もつづいてきた旧家でした。

 自動車もない明治時代のことです。

およめさんは真っ白の花よめいしょうに角かくしをして、馬に横すわりで乗っています。馬の胸には 赤いつながつけられ、それにスズがついています。歩くとシャンシャンシャンと音がします。

よめ入り道具は十台の大八車に乗せられています。おおぜいの人足たちは そろいのはっぴを着て、にぎやかに歌を歌いながら 大八車をひいています。

およめさんの一行は、山をこえ、一日がかりで大地主の家に、とうちゃくしました。

夕方から大地主の家で、お祝いのえんかいが始まりました。

村じゅうの家々から、人々が集まり、広い大地主の家も満員です。

およめさんを正面中央にすわらせ、歌やおどりを交えて、夜をとおしての酒もりです。

およめさんは、お酒をすすめられるままに、ぎょうぎよく飲んでいる すなおな人と思われていました。

花むこさんは、これまで一度も花よめさんと会ったことはありません。今日、はじめて自分のよめさんを見ることができるのです。

 しかし、およめさんは角かくしを、深くかむっているため、ほとんどその顔は分かりませんでした。

 およめさんも、どの人が自分の夫になる人なのか、えんかい中には分かりませんでした。

 朝方になると、村の人びとが少しずつ、帰り始めました。

 およめさんについてきた人足の方々は、遠い山道を歩いてきたことと、お酒を飲んだことが重なり、よいつぶれて、ねむりこんでいます。

 えんかいが終わり、その家に最後まで残っていたのが、むこさんでした。

 それ以後、よめさんとむこさんは、朝、昼、夕食のときに、かかさず酒を飲んでいました。

年月がけいかし、大地主の家は むこさんとよめさんの時代となりました。

よめさんは、かたときもお酒のビンを はなさないで持ち歩くようになりました。

 お人よしのむこさんと大酒のみのよめさんは、周囲の人々に「あの田んぼをゆずってくれ、この山林を分けてくれ。」と言われ、分け与えました。

 ざいさんは、ほとんどなくなりました。

「このままでは、自分のために、伝統のある大地主の家が、つぶれてしまう、どうしたらよいか。」と、よめさんは なやみました。

思いついたのは、庭にわき出ている水を使って、おいしいお酒を造ることでした。

「あなた、もっとおいしいお酒をつくりたいの、いいかしら。」

「ああ、好きにしていいよ。」

酒を飲むのを忘れて、おいしいお酒造りに、打ち込みました。

そのかいあって、できたお酒は 誰が飲んでもおいしいものでした。大地主の家は、造り酒屋として、大いに栄えていきました。


猟師とイルカ

2020-03-02 02:30:31 | 童話

令和2年2月27日 富山新聞掲載

 

 

猟師とイルカ

 

 波うちぎわに、傷を負ったイルカが、打ち上げられています。

 漁師のタモキチさんが、朝早く海辺に行きました。そこに、背中をイルカ漁に使用されるモリによって、大きく切りさかれたイルカが横たわっていました。

 漁師が近寄ってもピクリともしません。

 漁師は、今日はイルカが手に入った、しめしめと思って喜んでいました。

 イルカの肉は、珍しいから高く売れる。ひさしぶりに酒を飲めるな、とニコニコ顔です。

 イルカを荷車に乗せ、自宅へ運んでいると、「助けてください、お願いします。」という小さな声がかすかに聞こえました。

 漁師があたりを見回しましたが、ほかの人はいません。

 もしかしたら、イルカがしゃべったのかと思い、耳をイルカに近づけました。すると、泣きそうな小さい声で「助けてください。」と言いました。

 漁師はびっくりして、どうしたらよいかわかりません。とにかく、家に急いで帰り、傷口を白い布できつく巻いて、血が流れでないようにしました。

 身体には、ムシロをかぶせ、かんそうを防ぐため,時々、水をかけました。

口から水を与えました。少しのみました。

 数日たつと、チョットだけ元気になったので、小魚を与えると、食べてしまいました。

 漁師は、イルカをイルチャンと名付けました。水をあげるときや、小魚を与えるときに名前を呼びながら、与えていました。

 家の中を、胸ヒレを使って、はい回れるくらいに回復したので、海にもどすことにしました。

 来たときと同じく、荷車に乗せて運びました。

 海辺につくと、漁師がイルチャンに言いました「もう人間に近づかないほうがよいよ。私だって、お前を肉として、売ってしまおうとしていたのですよ。また、モリを投げられて人間に捕まってしまいますからね。」

「タモキチさん、助けてくれてありがとうございました。ほかの人には近づきませんが、タモキチさんには、ときどき会いたいです。」イルチャンはそう言うと、海に入ってゆき、大きくジャンプして、空中で三回転をしました。後ろを何回もふりかえりながら、沖の方に消えてゆきました。

 次の日、タモキチさんが、いつものように朝早く、海辺に行くと、イルチャンが大喜びでジャンプして迎えてくれました。

 その後は、タモキチさんのアミに、イルチャンが魚を追い込み、大漁の日が続きました。

 しばらくすると、イルチャンに子供が生まれ家族が出来ました。家族みんなで人間の漁に協力をしています。

 この海辺では、イルカを捕まえたり、いじめたりする人は誰もいなくなりました。

タモキチさんとイルチャンとの共同の漁法が、時代が経過して、令和の時代になっても、イルチャンの子孫のイルカたちによって受けつがれています。


命の森

2019-08-08 10:52:52 | 童話

令和元年8月8日 富山新聞掲載

  

 山奥の村に、高速道路ができました。山を切り開いて、ゴルフ場やホテルやレジャーランドを作る計画がもちあがっています。村の人々は、村が発展すると言って、大喜びです。誰も森がせまくなり、森の動物たちの食べものがなくなり、動物たちが迷惑することを考えませんでした。

森に住んでいる、サル、キツネ、タヌキ、イノシシ、クマ、シカ、カモシカ、ウサギなどの動物たちは、どうしたらよいか、輪になって話し合いました。その真ん中に、千年以上も昔からこの森を見守ってきた、藤の花の精がいました。この精は、薄紫の着物を着て、人間の姿をしています。動物たちにとっては、お母さんのような存在です。

 藤の花の精が言いました「人間たちが、人間の遊び場所として、私たちの大切な命の森を、うばい取り、こわそうとしています。どうしたら、この森を守ることができるか考えましょう。」

 イノシシが「工事に来た人を、私のこのキバで、追い回して、工事のできないようにします。」

 クマは「おれは、クマパンチをおみまいするよ。」

「それでは、本当の解決にはなりません。もっと良い方法がないでしょうか。」藤の花の精が言いました。

「キツネさんとタヌキ君にお願いがあります。人間に変身し、工事の準備をしている人たちに、工事のとりやめをお願いしてもらえませんか。」とサルが言いました。

「そうですね。私も行きます。」と藤の花の精が言い、キツネとタヌキとともに工事の準備小屋に行きました。「工事をとりやめにしてほしい。」とお願いしました。しかし、工事の人達は、聞く耳を持っていません。

帰ってみんなに相談しました。また、サルが「町にある、自然を守る会に相談してみたら、どうでしょう。」と言いました。

藤の花の精たちが自然を守る会に、相談しました。自然を守る会の方々が、村を発展させながら森を残す方法を考えました。その計画を、工事の人たちに、話してくださり、工事の人たちも分かってくれました。

ゴルフ場とレジャーランドの代わりに、森の中に遊歩道がつくられました。大きなホテルに替わって、季節の山菜を提供する民宿がつくられました。

遊歩道のふちには、栗の木や、グミの木、山ぶどうの木などがあります。また、ワラビやゼンマイなどの山菜やキノコも沢山あります。誰もが自由にとってよいのです。

動物たちとお話ししたり、遊んだりもできるのです。クマと相撲をとっている人もいます。

民宿では、とってきた山ぶどうで、山ぶどうジュースを作っている人もいます。

とってきたキノコについて、食用にできるもの、食べてはいけない毒キノコを村の老人に、教えてもらっている人もいます。

春には、森いっぱいに藤の花が咲きほこり、村は大にぎわいです。


鳥たちの会ぎ

2018-11-27 07:48:08 | 童話

平成30年11月27日  富山新聞掲載

 

 気象えいせい打ち上げのため、カウントダウンが始まっています。

 そのとき、ロケットの上にハトがとまりました。

 ロケットの発しゃを、みまもっていた人たちは、ちょっとビックリしました。

しかし、ロケットはそのまま発しゃされました。

 ハトは、ロケットにしがみついています。

しかし、ずいぶん上空に上ったところで、力がつきてロケットからすべり落ちてしまいました。

 ハトは、そのままほかの鳥が待っている、鳥達の会ぎ場に飛んで帰りました。

「いやー、すごいスピードのため、そのまましがみついて、うちゅうまで行くことは無理です」

 鳥の会ぎの議長であるワシが「そうか、無理だったか、人間がロケットで、うちゅうにいろんなものを打ち上げています。それらの残がいやゴミがうちゅうに、ただよっていると聞いたので、ハト君に様子を見てきてもらうつもりだったが」と言いました。

 ツルが「私が、うちゅうまで飛んで行き、見てきましょう。そしてゴミを見つけたら、ロープでしばり、力持ちのダチョウさんに引っ張ってもらいましょう」

 ツルがうちゅうを目指して飛び立ちました。しかし、うちゅうは遠くて、ツルはつかれはてて、それ以上飛べなくなりました。

 オウムが「うちゅうをよごしているのは人間だから、どうしたらよいか人間に直接きいてみましょうか」と言いました。

 ワシが言いました。「人間の中にも空を飛んでいる人たちがいるから、鳥の会議に入ってもらうことにしましょう。オウム君、飛行機のパイロットの人に伝えてもらえるかな」「分かった」

パイロットの人が言いました「鳥たちと話し合いができるとは、うれしいね」

「うちゅうがゴミでよごれるのを心配しているのだ。どうしたらよいと思うか」とワシが言いました。

「自分たちは、大空を飛び回っているけれど、、うちゅうには行かないのです。そのため、うちゅうのことを相談されても、どうしようもありません。うちゅう飛行士の人を、しょうかいします」

ワシがうちゅう飛行士に言いました「君も、鳥の会議のメンバーだ、うちゅうのゴミをどうしたらよいかね」

「うちゅうステーションでゴミを回収します。そうだ、鳥さんの代表といっしょに、うちゅうに行きましょう。そして、うちゅうのことを鳥さんたちにも知ってもらいましょう」

ウグイスが、うちゅうステーションに連れて行ってもらいました。

「ホーホケキョ」と、うちゅうからの生放送に参加しています。

鳥の会議に人間が参加することで、鳥たちが人間を信らいするようになりました。