つらつら日暮らし

「六和敬」一考

六和敬」という考え方がある。

六和敬とは、身同、口同、意同、戒同、施同、見同なり。是れを六同と謂う。等しく仏法を修して、諸もろの慢争を離るる。故に和敬と名づけ、亦た質直心と名づく。
    『法門名義集』「功徳品法門名義第三」


以上の通り、「六和敬」とは、身口意の三業と、戒行・布施行・見解が、集団に於いて一致していることをいう。そのように等しく仏法を修行すると、様々な慢や争いを離れるからこそ、これを「和敬」と名づけるのである。そして、「和敬」の結果、「質直心(正直な心)」を起こさせるともしているのである。これを更に詳しく述べる文献もある。

  六和敬
肇云く、慈心を以て身業を起こす。慈心を以て口業を起こす。慈心を以て意業を起こす。若し重養を得れば、人に与えて之を共にす。持戒清浄なり。漏尽慧を修す。若し此の六法を行ずれば、則ち衆和順し、乖諍有ること無し。
    『釈氏要覧』巻3「入衆」項


『法門名義集』では、ただ「身同」のように、「同」の一字で全てを表現しようとしていたが、ここでは、「慈心」という心の働きを踏まえて、身口意の三業を機能させることをいう。更に、布施とは他者との共有であるし、後は持戒と智慧の話はその通りである。よって、慈心という働きを考えねばならないが、平等を担保する心の働きでもある。

 復た次に、阿難、六種和敬法有り。汝等、諦聴して、理の如く作意し、善の如く念を記せ、今、汝の為に説く。何等をか六と為すや。
 所謂、其の身業、慈を行じて事を和す。常に仏所に於いて梵行を浄修し、諸もろの正法に於いて尊重し礼敬して、理の如く修行す、苾芻衆に於いて和合共住す、此れを身業和敬法と名づく。
 復た語業に於いては、慈を出して語を和す、諸もろの違諍無し、此れを語業和敬法と名づく。
 復た意業に於いては、慈を起こして意を和し、違背する所無し、此れを意業和敬法と名づく。
 又復た、若し法利及び世の利養を得れば悉く受くる所を同じくし、或る時に鉢を持ちて次第に乞を行じ、得る所の飲食等の物有るに随いて、衆に白して知らしめ、衆に与えて同じく受けて私に隠用すること勿れ。若しくは衆の同じく知る者は即ち梵行を同じくす、此れを利和敬法と名づく。
 又復た、戒に於いて破らず断たず、戒力堅固にして垢を離れ清浄にし已んぬ、時を知り、処を知り、普ねく衆と平等にして、応に施主の飲食の供養を受けるべし。是の如き浄戒、同一に修する所、同じく了知する所、同じく梵行を修す、此れを戒和敬法と名づく。
 又復た、若しくは聖智を見て出離の道を趣証し、乃至、苦辺の際を尽くす、是の如き相に於いて実の如く見已りて、同一の作す所、同じく了知する所、同じく梵行を修す、此れを見和敬法と名づく。
 是の如き等を名づけて六和敬法と為す。
    『息諍因縁経』


この経典は、安居中に僧侶同士が揉めたときに、世尊が示した争いを離れるための方法である。よって、「諍いを息める因縁の経」というタイトルが付いているのである。そして、この経典の末尾に「六和敬」が示されているのである。先に挙げた、中国でのまとめの文献に比べて、詳しく書かれていることが分かる。

この経典で、争いが起きた原因というのは、仏道以外の教えを信じていた者が沙門となりたくて僧団に入ってこようとしたのだが、自分だけが、自分の法を知っていると主張し、周囲の者達と合わせようとしなかったとされている。そのため、世尊は最終的に「六和敬」を説いて、独り善がりに修行を行うのではなく、常に他者とともに、まさに「利他」の精神を基本に修行を行うべきだというのが、「六和敬」になるのである。

なお、上記の中で問題になりそうなのは「利和敬」だと思う。特に、乞食や布施に頼る原始僧団の中では、常に、食料が豊富だとは限らなかったはずである。そうなると、独占や所由の欲求が出て来てしまうのが人情であろうけれども、そこに至っても、「利和敬」の考えを持てるかどうかが重要である。

それから、個人的には、上記の中で「戒和敬」に注目したい。戒の実践とは、どこか自分本位なところがある。ところが、「戒和敬」では浄戒を、他の修行僧達と、同一に護持していくのである。ただし、難しいのは、戒には守り方があって、どうしても持戒・破戒という考えが混入されていく。そうなると、先に挙げた諍いの元のように、自分だけが正しいという観念にとらわれていく。そのとらわれを脱しつつ、全員で「戒和敬」を達成していくための方法は、どのようにして達成されるのだろうか?

これは、既に実践出来ている者と、これから実践の完成を目指す者との理想が一致する必要があると思われる。ただ、この辺は更に勉強していきたいと思う。

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