つらつら日暮らし

『吹塵録』に見える江戸時代の仏教寺院数について

これは、有名な事績なのだろうか?

一 諸国寺数五十四万千九百八十九ヶ寺
    「享保十九年甲寅五月改」、『吹塵録』巻下・第三十二冊「社寺之部」


この『吹塵録』だが、勝海舟による編集で、江戸幕府の財政経済に関する史料集となっている。かなり大部で、全体では35冊となっている。編集の経緯は、明治20年(1887)に、当時の大蔵大臣・松方正義が依頼し、しかも、政府が費用負担することで、勝海舟が明治維新前から収集した史料が元になって、幕府の公文や法令、私記・談話・随筆などを集めて採用史料に考証を加えたものとされる。

この内、幕府勘定所の史料から、各時代の人口・財政収支・貨幣鋳造高・金銀産出高・貿易輸入高などが明らかになっていることが、貴重だといえよう。そして、その内、「社寺之部」から幕府が把握していた寺院数を示してみたのだが、数字的には他の年代のも出ている。ところで、上記一節の場合は、その典拠などが書かれていない。一方で、典拠が書かれている事例もあるのだが、それがかなり変わっているというか、現代的な感覚だと、不思議な印象を得るので、読んでみたい。

総員四拾六万九千九百三拾四ヶ寺
    寛政年間取調国内寺数、典拠は同上


あれ?八万ヶ寺くらい減ってない?と思っていたら、この指摘、かなり微妙な印象を得た。ただし、「寺院の数に及ては別に大冊子あり、其詳細を知らむと欲せば附て見るべし」(同上)とあって、勝海舟はその「大冊子」を見て、寺院数を把握したようである。では、その具体的な内容は何だったのか?と思ったら、以下の一節を見出した。

摂州四天王寺は聖徳太子建立に而仏法最初の寺たる事は普く世人の知れる所なり、先年諸堂修復の助力として日本国中の諸宗の寺院に寄進の事あり、其節の寺数を左に記す、
    天王寺勧化に付取調諸宗寺数、典拠は同上


うん?これは?どうやら、大阪の四天王寺の諸堂修復について、諸宗派の寺院に費用負担を依頼したらしく、その際に報告された数が、先の通りだったようである。もう少し詳細を見ておきたい。

寛政十二〈庚申〉年正月より一ヶ月銭三文づつ十七ヶ年の間、天王寺へ差し出すべき旨、寺社奉行より諸宗へ申渡せらる
    同上


寛政12年(1800)から、17ヶ年に及んで各宗派の寺院から諸堂修復費用を集めたことを意味している。ところで、これはあくまでも「諸堂修復」であって、「諸堂再建」では無い。ところが、この事業を進めていく最中、享和元年(1801)12月に落雷で同寺伽藍の多くが焼失したとされる。その影響があったと思われるのが、以下の一節である。

天王寺焼失再建勧化願、文化二〈丑〉年十二月御書付、同五〈辰〉年迄勧化御免
    同上


文化2年(1805)から、天王寺再建のための勧化が認められたというのである(引用はしないが、他にも「京都大仏」再建の勧化の記事もあった。「京都大仏」とは、豊臣秀吉が建立した方広寺の大仏のことであり、『吹塵録』の記事は第3代目大仏が寛政10年[1798]に落雷で焼失した一件を指すか)。よって、先に挙げた「諸堂修復」はあくまでも、文字通り採るべきなのだろう。そして、協力寺院の数が「469,934ヵ寺(ただし、勝海舟は467,934ヵ寺だったとも指摘する)」だったというのである。そうなると、これがそのまま、正確な寺院数だと言って良いのだろうか?微妙である。これについて、拙僧自身は曹洞宗の寺院数くらいしか知らないが、黄檗宗を抜いた禅宗について、「一万百ヶ寺」と表記されているが、曹洞宗だけでもこの倍くらいはあったはずである。

そう思っていたら、勝海舟自身が、以下の指摘をしていた。

諸宗寺数はいづれも好事家の私記に出て十分に信を措き難し
    同上


まぁ、この記録だけでは、分からないということになるのだろう。実は、拙僧が個人的に所持している『年代記』という写本があって、天保5年(1835)9月に、現在の愛知県清須市内に在住していた武田源三という人が書いたものだが、その中にもやはり、「大坂天王寺伽藍修復」に因んだ、国内の寺院数について記載があった。その数は、「458,554ヵ寺」で、『吹塵録』とは相違する。おそらく、この武田源三という人も、勝海舟にいわせれば「好事家」の一人なのだろう。

その上で、勝は、先に挙げた54万ヵ寺超という数を、どこからか出してみたのだろうか?どうも、締まらない記事で申し訳ないが、結論は出せなかった。

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