アルバム10曲めは「紫のタンゴ」です。KIINA.の歌唱はこちら↓
歌詞は歌ネットより。
作詞は湯川れい子先生、作曲は杉本眞人先生です。
今回のアルバムのコンセプトはKIINA.の説明によると「演歌の真髄を感じるアルバム」だったそうですが、そうだとすると「紫のタンゴ」だけが12曲の中で異質感は否めません。
それでも「今、この時期に」どうしてもこの曲を世に問いたいという強い思いがKIINA.にあったのでしょう。
「自分は湯川先生と出会えたことで、気持ちが自然になったんです」「湯川先生から"自分らしく生きなさい""あなたが好きな歌を歌っていけばいいのよ"と言ってもらった言葉が自分の背中を押してくれたんです」
素の自分とファンに求められる「氷川きよし像」との乖離、歌いたい沢山の歌と「演歌のプリンス」であり続けることの矛盾…張り裂けそうな思いを湯川先生はすべて受けとめて「あなたはあなたらしく」と言ってくださった。
世界中の多くのスターの、スターであるが故の苦しみを見てこられた湯川先生だからこそ、心から発することの出来た助言であり、「紫のタンゴ」はKIINA.へ向けられたエールだったと言えるのでしょう。
KIINA.が本来の自分のアイデンティティーを素直に表に出し始めたことで離れていったファンの中に、二つのタイプがあったと私は思っています。
ひとつは「それは私の好きなきよしくんと違うわね」と静かに離れ、新たな推しを探しに行った人たち。
もうひとつはKIINA.の変化を裏切りと捉えて許さなかった人たちです。中には湯川先生を「きよしくんをそそのかした」と口を極めて攻撃した方もいました。
その方にとっては、KIINA.は幾つになっても世間慣れのしていない危なっかしい男の子で、彼が吐露し始めた自分の悩み苦しみは単なる中二病のようなものとしか思えなかったのでしょう。
「カスタマーハラスメント」が社会問題化されるようになって、かつて三波春夫さんがおっしゃられた「お客様は神様です」という言葉が、世間からはご本人の意思とは違う方向で捉えられ、言葉が独り歩きしてしまっていたことが新聞などで取り上げられるようになりました。
KIINA,は長い間、「ファンの皆さまが求める氷川きよしに」と口にしてきました。
もしかすると、その発言の背景には、三波さん以来歌謡界・演歌界に根づいていた「お客様は神様であるべき」という空気があったのかもしれません。
私は「10万人いたら10万の、100万人いたら100万の"きよしくん像"があるのに?誰の求める"きよしくん像"に応えるの?それって、最大公約数になるだけで、結局は誰も満足させられないのでは?」とずっと疑問に思っていましたので、KIINA.が率直に本来の自分の姿を出し始めたことが、私自身の心の重しも取れたように嬉しかったのです。
私に言わせれば、「本来の自分の姿なんか表に出さないで、ファンに求められるものを提供するのがプロでしょう?」というKIINA.への批判は、カスタマーハラスメント以外の何ものでもありません。そんな要求をする人をファンとは呼びません。
心を持っているから、歌手は歌が歌えるのです。
湯川先生がKIINA.のすべてを大きなお心で受けとめて肯定してくださらなかったら、KIINA.は歌を続けられなかったかもしれません。
こうして1年8か月のお休みを経てまた戻ってきてくれたのも、先生の励ましあってのことと、「紫のタンゴ」を聴きながらしみじみと深く感謝しているのです。