さかなの眼

眼からうろこが落ちる「さかなの眼」です。

「裏返しの地図」

2005-03-08 | Weblog
 正確な人工衛星で見れば島で成り立っているインドネシアの島の
数は2000以上、日本も3000以上の島で成り立っていると知
らなかった。かたや大した測量器械もない時代の、例えば江戸市中
絵図とかの類の地図を見ているともっと面白い。距離も正確でない
から絵図は歪曲され、極端に言うとデフォルメされたかたちとなっ
て表現されている。現代の衛星でつくる精密な正確な測量地図と違
って作者の思い入れが現実の距離感とか家のかたちとかと異なり、
感情表現がそのまま現れている。目印として強調される建物が大き
くなっていたり太鼓橋が妙にリアルに細かく描かれていたりする。
今のミニコミタウン情報の鳥瞰イラストマップも同じような表現が
とられている。距離感のない子供に幼稚園までの地図を描かせれば
実際の味気ない地図と違った途中の公園、遊び場、玩具屋など子供
の感情と思い入れがこもって浮き上がってくる。そして普段何気な
しに見慣れた地図から読み取る世界は生活感覚までもいつの間にか
変えていく。

 「裏日本の先進」と言う題で文章をを書いたら、金沢に一時期住
んだことのある友人から金沢の人たちは「裏日本」と言う言葉は使
わない、使っても「日本海側」。なるほどそう、住んでいる地域を
中心に考えれば「表」も「裏」もない。日本列島を縦断する山並み
を境にして「川の流れ」が変わっているだけなのである。せいぜい
朝陽が昇る太平洋側と夕陽が沈む日本海側の区別をする事ぐらいが
正しい。生活している人にとって見れば生活している場が中心であ
り、もう少し言えば「表」なのである。金沢の人たちが向いている
世界は京都の「雅の世界」との自負もある。金沢の人でなくても日
本海側の人たちには「裏日本」の感覚はない。一番離れていても太
平洋側の関東地方の最北に住んでいる人間の何気ない発想、言葉使
いだった。醸成された意識下の感覚は澱となる。地図の上から見た
政治、経済の論理からでてくる市町村合併論議の難しさはこんなと
ころにもある。見慣れた日本地図の全体のかたちから見過ごしてし
まう生活のかたち、考え方がある。

 日本は世界中から「極東」と言われているのに、日本人が目にす
る世界地図はいつも日本が真ん中にある。外国での地図は日本の位
置は本当に言葉どおり「極東」にある。ところが日本人が見慣れた
世界地図は日本が世界の「中心」、外国の人が見慣れている日本は
世界の「端」、お互いの意識が底流で擦れ違うのもこんなところに
あることも見過ごせない。四国と本州を結んだ本四連絡架橋も四国
の人たちにとっては本州と陸続きで一体になる悲願の大プロジェク
トの橋だった。それでも物流は一体になっても意識はなかなか変わ
らない。日本地図を見ると四国はいつも本州の下にある。地図の上
では本州に従属した地図を小さい時から四国の人は見続けている。
壁に貼った日本地図をさかさまに、「裏返し」に張ってみれば四国
が上になる。「地図ひとつで四国人の意識が変わっていく」とは四
国に住んだ事のある後輩の面白い発想だった。

 誰が決めたか、建築の地図、平面図。学校で教わっても設計事務
所で教わっても図面の上が「北」。もちろん方位を図面に書き落と
しても手前が「南」で紙の上が「北」である。日本地図もいつも上
が「北」だから簡単に「裏返しの地図」を壁に張るわけにはいかな
い。図面も地図も誰が見ても分かりやすい約束事として「北」が上。
ともに基本が間取りと均等平面格子の延長上の説明図。「南」が中
心の間取りから抜け切れないし、今の地図から読み取る情報は無機
的な距離感と事実だけかも知れない。デフォルメされた有機的な地
図は見ていて楽しい、見慣れた日本地図の配置も積み重ねられて記
憶されていくとそのことが当たり前の感覚が培われていく。そもそ
も建築の平面図はそこで生活する人のかたちをつくっていくものだ
から、いつも図面の上が「北」で手前が「南」の考えから離れて、
図面はぐるぐる回しながら設計に取り掛かるのも面白い。「北」の
鋭い光も冷たい風もいい、「西」日の黄色い光も良ければ「東」か
ら昇る朝陽の光も勿論いい、陽が昇って暮れていく24時間が人間
を中心にした生活である。常識と思っていた約束事も「裏返し」て
見てみると別の隠れていた世界が拡がってくる。


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
地図への思い (五代裕作)
2005-03-09 16:15:12
 かつて歴史の授業で,江戸時代に当時の測量技術で伊能忠敬の描いた日本地図が科学技術の粋を結集した人工衛星による写真と酷似していることに驚いた経験をしたことがある人は少なくないと思う。趣味として私は地図に惹かれたことはない。詳細な名前は忘れたが「行基図」と呼ばれる古い日本地図のコピ

ーが神保町の古本屋に売っていたのを買ったことがあるがこれがなかなか面白い。大体の形はあっているがなんというかその適当さ加減がいい味を出しているのである。地図はその時代の国土観を反映しているという。確かに都の辺りは結構正確に描かれているが,辺境に行くほどなんというかいい加減になっていたりする。そんなことを赤瀬川原平氏が書いていたように記憶している。高校時代,地図に異常に入れ込んでいる友達がいて将来は国土地理院に就職すると鼻息を荒くしていたが彼は今どうしているのだろうか。
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都市のイメージ (さかなの眼)
2005-03-09 18:19:06
ケビンリンチの「都市のイメージ」と言う本は地図の話、デフォルメされた地図の話が書かれてありました。都市の仕組みを地図から組み立てていく話です。
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Unknown (Johnny)
2005-03-10 14:32:59
3月15日~18日に、群馬県庁県民ホールにて、「伊能図「関東地区」歩いて作った日本地図」と題した展示会・講習会が開催されます。



詳しくは、群馬県測量設計業協会のホームページをご覧下さい。入場無料です。



主催:群馬県測量設計業協会

共催:国土交通省国土地理院
返信する
Unknown (Johnny)
2005-03-11 11:24:25
群馬県測量設計業協会のホームページです。

http://www.gunsokkyo.or.jp/
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