〇 失敗しない無線LAN製品の選び方のポイントは、細かい仕様もきちんと確認することだ。
同じ規格に準拠した製品でも有線LANと違って、最大通信速度や対応する機能が異なる場合があるからだ。ここでは、無線LAN製品を選ぶ際に欠かせない、チェックすべき点を順番に見ていこう。
パッケージに書かれた「Wi-Fi 6」「IEEE 802.11ax」、規格はどっち?
近年は無線LANのことを「Wi-Fi(ワイファイ)」と呼ぶ。無線LAN製品の相互接続性を認証する「Wi-Fi Alliance(ワイファイアライアンス)」という団体が認めた製品が通常「Wi-Fi」と呼ばれる。
製品のパッケージを見ると、準拠する規格として「Wi-Fi 6」や「IEEE 802.11ax」と表記が見つかる。2022年時点で主流である両規格は同じもので、正式な規格名がIEEE 802.11axで、Wi-Fi 6はWi-Fi Allianceが定めたIEEE 802.11axの愛称である。IEEE 802.11axを略した「11ax」「ax」をパッケージに記載している場合もある。
Wi-Fi 6の「6」は、Wi-Fi規格の6世代目を示す。同様に、従来規格のIEEE 802.11acは「Wi-Fi 5」、IEEE 802.11nは「Wi-Fi 4」という愛称を使うように定められている。
無線LAN製品はアクセスポイント(AP)と端末の両方が同じ規格に対応していないとその規格で通信できない。ただ、新しい規格の製品は古い規格にも対応している。主流のWi-Fi 6対応製品と旧規格のWi-Fi 5対応製品との価格差は小さいので、あえてWi-Fi 5対応製品を積極的選ぶ必要はない。
最新の「Wi-Fi 6E」は買いか?
Wi-Fi 6の拡張規格である「Wi-Fi 6E」対応製品が2022年9月に登場している。拡張規格といっても、Wi-Fi 6Eの正式な規格名はIEEE 802.11axでWi-Fi 6と変わらない。
Wi-Fi 6EはIEEE 802.11axで定義されていた周波数帯のうち、6GHz帯も利用できるようになった製品を指す。Wi-Fi 6は従来の無線LAN製品で使われていた2.4GHz帯と5GHz帯にしか対応しない。
国内では、総務省が2022年9月2日に電波法を改正する省令を出し、無線LANで6GHz帯を使えるようになった。6GHz帯は2.4GHz帯や5GHz帯よりも利用できるチャンネルが多く、複数のチャンネルを束ねて通信の高速化を図るチャンネルボンディングがしやすい利点がある。
Wi-Fi 6Eに対応したAP機能を持つ無線LANルーターが発売されたばかりだが、Wi-Fi 6Eに対応したパソコンやスマートフォンがないと6GHz帯の通信はできない。Wi-Fi 6E対応の端末を持っていなければ、登場したばかりで価格が高くなっているWi-Fi 6E対応の無線LANルーターをあせって買う必要はない。
最大通信速度は周波数帯とセットで確認。
冒頭で説明したように、無線LAN製品は機器によって最大通信速度が異なる。無線LANルーターやパソコンを購入するときは、規格だけでなく最大通信速度も確認しておきたい。
無線LANルーターの場合、その最高速度は製品特長やパッケージなどに大きく記載されている。2.4GHz帯と5GHz帯の双方の速度が記載されているが、高速な5GHz帯の速度を重視する。一部の製品は、2.4GHz帯と5GHz帯の最高速度を加算し、速度の数値を大きく表記することがある。その場合も、仕様には2.4GHz帯と5GHz帯の速度が記載されているので、その5GHz帯の速度を確認すればよい。
現在売っているほとんどのWi-Fi 6対応パソコンの場合、大半が米Intel(インテル)の拡張ボードを搭載している。その最高速度は、5GHz帯で2.4Gbps(2402Mbps)だ。Wi-Fi 6対応の無線LANルーターを購入するときは、それと同じかそれ以上の最大速度を持つWi-Fiルーターを選ぶと、性能を十分に発揮できる。スマートフォンやタブレットなどは、5GHz帯の最高速度が1.2Gbpsの製品が多い。もしスマホだけを接続するのであれば、最高速度が1.2Gbpsで安価な無線LANルーターを選ぶ手もありだろう。
Wi-Fi 6対応を選べば最新のWPA3に対応。
Wi-Fi 6対応製品はすべて、無線LANのセキュリティー機能であるWPA3に対応する。1つ前のWPA2も広く使われているが、2017年に第三者がデータを傍聴できる脆弱性が発見されてしまった。その脆弱性を悪用できる条件はかなり限られているため、今のところ大きな心配はないが、この脆弱性を解消したWPA3のほうが安心だ。
WPA3の使い勝手は、従来のWPA2と全く同じだ。ただし、無線LANルーターで暗号化をWPA3に設定しても、WPA3に対応したパソコンやスマホといった子機がないと接続できない。またWi-Fi 6対応無線LANルーターはWPA3とWPA2を併用できるモードも備えており、WPA3とWPA2の共存はしやすい。
ハンドステアリングやビームフォーミングにも注目。
無線LANルーターのパッケージで、バンドステアリングやビームフォーミング、MU-MIMOという単語を目にする。これらにも注目しよう。
バンドステアリングは、周囲の電波状況を判断し状況に応じて5GHz帯から2.4GHz帯、またはその逆を切り替える機能だ。相互に切り替える機種もあれば一方通行の機種もあり、実装方法は機種によって異なる。バンドステアリングは接続台数が多い環境や、電波干渉が多い場所での利用で効果を発揮しやすい。
ビームフォーミングは電波の波形を調節し、特定の位置における電波の信号強度を引き上げて通信できる仕組み。通信速度が向上し、遠距離で通信の安定が期待できる。無線LANルーターは端末の位置を把握しており、端末が動いても利用できる。
MU-MIMOは、複数台に向けて通信を送信する仕組み。従来の無線LANの場合、複数の端末と通信するときは通信をいちいち切り替える必要があり、端末の台数が増えれば増えるほど速度が低下した。MU-MIMOは、ビームフォーミングを使い電波干渉が起きないよう複数の端末に向け、位相をずらしてデータを送信するため、速度低下が起こりにくい。無線LANルーターだけでなく端末の対応も必要になるが、最新の端末であれば対応している製品は多い。MU-MIMOはWi-Fi 5は下りのみ利用できたが、Wi-Fi 6からダウンロードだけでなくアップロードでも活用できるようになった。また、利用できる台数も最大8台に拡張されている。製品では「8 x 8 MU-MIMO」などと記載される。
有線LANポートの確認を忘れずに。
有線LANは長い間、最高速度が1Gbpsのギガビットイーサネットが使われている。ギガビットイーサネットには複数の規格があり、そのうちパソコンで使われるのが1000BASE-Tという規格だ。パソコンの仕様では1000BASE-Tと記載することが多い。ギガビットイーサネット以前は、10メガビットイーサネット(10BASE-T)やFast Ethernet(100BASE-TX)が利用されており、ギガビットイーサネットの有線LAN端子はそれらとも互換性があるため、「1000BASE-T/100BASE-TX/10BASE-T」などと記載される。RJ-45は、LAN端子のコネクターの形状を表す。「RJ」はRegistered Jackの意味で「登録された端子」を意味し、「45」はLAN端子として使われる8ピンのモジュラージャック式コネクターを示す。
最近は、ギガビットイーサネットより高速な10ギガビットイーサネットやマルチギガビットイーサネットなども登場している。10ギガビットイーサネットはその名の通り、10Gbpsが最高速度だ。パソコンで使われるのは「10GBASE-T」という規格。マルチギガビットイーサネットは、最高速度が5Gbpsの5GBASE-Tと、同2.5Gbpsの2.5GBASE-Tの2種類ある。従来の有線LAN端子と互換性を持つが、最高速度を発揮するには、接続した双方が同じ規格に対応する必要がある。