男の料理教室
今年の3月のことである。
町から月に一度配られてくる『広報函南』に『男の料理教室生徒募集』を見つけて応募してみた。
電話で良いというので掛けてみると、「応募者がずいぶんと多くなり抽選になります」との返事。
半分は冷やかし気分だから、「外れてもまあいいや」と思い、それでも抽選日には朝から気になって電話を待つ。
夕方になっても一向に連絡がない。
待ちきれなくて翌朝、こちらから役場に電話をかけてみると、「当選です、連絡が遅くなって申し訳ありません」とのこと。
当選とはいうのが、正確に言うと今回初めての人を優先して、残りの人だけ抽選となったそうだ。
30名募集のところに、52名の応募。
うち31名が初めての人、定員枠を5名広げて、4名だけが抽選。
役場の担当者にとっては、昨年までとだいぶ様子が違うらしい。まさに想定外の出来事。
老齢化の波は着々と押し寄せてきているのである、というのは皮相的すぎる。
地方ではずっと前から少子老齢化は始っているのである。担当者が知らないはずがない。
違ってきたのは、「年寄りが元気でヒマを持て余している」ということであろうか。
いやもう少しプラス発想的に言い換えよう。
だいたい「年寄り」という言葉がそぐわない。
「最近の年金生活者は、元気でいつまでも好奇心旺盛である」と。
『男の料理』はずいぶん昔から、週刊誌の巻末グラビア等に取り上げられてきて、もうすっかりおなじみであるが、それらはいわゆる趣味としての『料理』であり、ちょうどラジコンで飛行機を飛ばしたり、温室で蘭の栽培をするのと同じ扱いである。
しかしながら、わが町函南ではそんなノンキなことに予算を使っている訳ではなく、あくまでも町民の健康維持のための企画であるからして、主催は「函南町健康づくり課」である。
さっそくエプロンを買わなければ、と近くの店に行くが、ちょうど「母の日」特集でたくさんぶら下がっているが、3軒回っても気に入ったものは見つからない。
このへんが田舎の辛いところ、と諦めてパソコンの前へ。
ネットでいくつか探してみると、あるある、ピンからキリまで。
キリに近いところで、それでもベネトンブランドのデニムのエプロン1,050円、送料500円也。
当日はまるで梅雨を思わせる空の下、会場の「保健福祉センター」に向かう。
受付で1年間10回分の会費(5,000円)を払い、名札と資料を受取って席を探す。
会場にはすでにたくさんのオジサンたちが座っているが、顔見知りは一人もいない。
だいたい同じか、ちょっと年上の人ばかりのようだ。
ウイークデイの午前中、集まって来れるのは『サンデー毎日組』に決まっている。
定刻になり、役場の「健康づくり課」の課長さんからの挨拶。
ついで食生活改善推進協議会会長、料理教室担当者、そして講師の栄養士さん、すべて女性である。
雇用機会均等法の徹底は役所から着々と進んでいる。
挨拶、オリエンテーション、いずれもテンポ良く進行。
いよいよ講師の栄養士さんによる講義開始。
元気で明るく歯切れのいい話し方で、なかなかの好印象。
「包丁を持ったことがない方~?」
「は~い」 7割位が手を挙げる。
「だいじょうぶですよ、とにかく慣れることですよ」
という次第で、今日の課題と手順が、資料に基づいて説明される。
第1回の本日は、まずは料理の基本、ということでダシの取り方。
昆布と鰹節でダシを取り、そのダシを使っておかずを調理し、そのあと試食。
1)スナップエンドウと豚肉のみそ汁
2)厚揚げのツナ味噌はさみ焼き
3)エビ団子とほうれん草のとろみ煮
4)イチゴのコンポート 寒天フルフル寄せ
(総カロリー700 Kcal、塩分 4.5 g と記載されている)
デザートまでついて立派なものです。
一通りの説明が終わったところで、約1時間経過。
この後、名簿の順番で7名ずつのグループ分けが発表され、いよいよ調理室に移動して実習開始。
7名のメンバーはもちろん初対面、挨拶もそこそこに4つの料理の担当を2名ずつ、デザートは1名に決める。
このへんは、能率とチームワークを錦の御旗にして突っ走ってきた、元企業戦士たちであるから早い早い。
各グループには「食生活改善推進協議会」の(こちらも元)オネエサンが2名ずつ付いてサポートしてくれる。
先ほど説明のあった料理のレシピはすべて4人前。
ところが実際の調理は、10人前を作ることになっている。
食材はすべて、事前に準備されて調理台の上に並べられている。
10人用のレシピ片手に、鍋だ、ボールだ、ザルだ、包丁だと調理台の周りは大混雑。
ガスコンロは2口、シンクは1つ。
5台の調理台の周りはオジサンとオネエサンたちで立錐の余地もない。
私の担当はエビ団子。
相棒のSさんと、まずは爪楊枝を使ってエビの背わた取りに挑戦。
10人前だからドンブリに山盛りになっている。
こりゃたいへんだ、貧乏くじを引いたかな~。
途中からは助っ人も加わって、どうにか完了。
これをまな板の上に広げて、両手を使って包丁で細かくミンチに。
あまり細かくしすぎると、エビのプリプリ感がなくなるからほどほどに。
危なっかしい様子を見兼ねて、オネエサンが実演してくれる。
ついで長ネギのみじん切り、輪切りにしておいてから細かくすればいいと始めたが、もっといい方法を教えられた。
まず長いほうに包丁を入れておいてから直角に切ったほうがずっと能率がいい。ウ~ン、ナルホド。
以下、それぞれの工程にちょっとした手法やコツや流儀がある。
さらに、味付けはまさに人それぞれであろう。
ふと、嫁姑問題に思い当たる。
育った文化の違う二人が台所で過ごすとは、なんとたいへんなことか。
男なら、さしずめ転勤で違う職場に配属された時か。
私は次男坊で、わが家は核家族だったから、実感はないが、兄貴一家は、いや~、なかなかたいへんだったろうな~。
開始からちょうど90分、11時半にはすべてのグループで調理終了。初回にかかわらずあまりに手際がいいので、役場の担当者たちは一様に驚いている。
だから~、最近の年金生活者は違うんだって!
講義室はテーブルが5つの島に並べ変えられている。
お一人様150グラムのご飯は、オネエサンたちが大釜で炊いてくれていた。
盛りつけをした料理を運んで、グループごとに試食開始。
やはり自分の作ったエビ団子が一番気になる。
メンバーから、「こりゃ旨い、上品ないい味だ」と嬉しい感想。
デザートもレモンの酸味が利いていて、なかなかのもの。
参加者が35名も居るから、本気で自己紹介を始めると、とても1時間では終わらない。
その点は担当者殿もきっと苦い経験があるのだろう。
「今回は、地区名と名前だけ。次回から毎回、詳しい自己紹介の時間を取りますから」と念押しして始めるが、それでもしゃべりたいのが数人、オイオイ。
この後、ビデオを見ながら、食後の軽い体操、これにはちょっとビックリ!
そして食器の後片付けと調理室の整頓、清掃。
「来月もぜひおいでくださいね~」との声に送られて、外に出てみると雨が降り出していた。
帰宅してから年間予定を見直してみると、6月は「小アジの南蛮漬け」
駿河湾のヨットセーリングで、アジを釣ることがあるが、干物以外の楽しみが出来そうで、待ち遠しい。
今年の3月のことである。
町から月に一度配られてくる『広報函南』に『男の料理教室生徒募集』を見つけて応募してみた。
電話で良いというので掛けてみると、「応募者がずいぶんと多くなり抽選になります」との返事。
半分は冷やかし気分だから、「外れてもまあいいや」と思い、それでも抽選日には朝から気になって電話を待つ。
夕方になっても一向に連絡がない。
待ちきれなくて翌朝、こちらから役場に電話をかけてみると、「当選です、連絡が遅くなって申し訳ありません」とのこと。
当選とはいうのが、正確に言うと今回初めての人を優先して、残りの人だけ抽選となったそうだ。
30名募集のところに、52名の応募。
うち31名が初めての人、定員枠を5名広げて、4名だけが抽選。
役場の担当者にとっては、昨年までとだいぶ様子が違うらしい。まさに想定外の出来事。
老齢化の波は着々と押し寄せてきているのである、というのは皮相的すぎる。
地方ではずっと前から少子老齢化は始っているのである。担当者が知らないはずがない。
違ってきたのは、「年寄りが元気でヒマを持て余している」ということであろうか。
いやもう少しプラス発想的に言い換えよう。
だいたい「年寄り」という言葉がそぐわない。
「最近の年金生活者は、元気でいつまでも好奇心旺盛である」と。
『男の料理』はずいぶん昔から、週刊誌の巻末グラビア等に取り上げられてきて、もうすっかりおなじみであるが、それらはいわゆる趣味としての『料理』であり、ちょうどラジコンで飛行機を飛ばしたり、温室で蘭の栽培をするのと同じ扱いである。
しかしながら、わが町函南ではそんなノンキなことに予算を使っている訳ではなく、あくまでも町民の健康維持のための企画であるからして、主催は「函南町健康づくり課」である。
さっそくエプロンを買わなければ、と近くの店に行くが、ちょうど「母の日」特集でたくさんぶら下がっているが、3軒回っても気に入ったものは見つからない。
このへんが田舎の辛いところ、と諦めてパソコンの前へ。
ネットでいくつか探してみると、あるある、ピンからキリまで。
キリに近いところで、それでもベネトンブランドのデニムのエプロン1,050円、送料500円也。
当日はまるで梅雨を思わせる空の下、会場の「保健福祉センター」に向かう。
受付で1年間10回分の会費(5,000円)を払い、名札と資料を受取って席を探す。
会場にはすでにたくさんのオジサンたちが座っているが、顔見知りは一人もいない。
だいたい同じか、ちょっと年上の人ばかりのようだ。
ウイークデイの午前中、集まって来れるのは『サンデー毎日組』に決まっている。
定刻になり、役場の「健康づくり課」の課長さんからの挨拶。
ついで食生活改善推進協議会会長、料理教室担当者、そして講師の栄養士さん、すべて女性である。
雇用機会均等法の徹底は役所から着々と進んでいる。
挨拶、オリエンテーション、いずれもテンポ良く進行。
いよいよ講師の栄養士さんによる講義開始。
元気で明るく歯切れのいい話し方で、なかなかの好印象。
「包丁を持ったことがない方~?」
「は~い」 7割位が手を挙げる。
「だいじょうぶですよ、とにかく慣れることですよ」
という次第で、今日の課題と手順が、資料に基づいて説明される。
第1回の本日は、まずは料理の基本、ということでダシの取り方。
昆布と鰹節でダシを取り、そのダシを使っておかずを調理し、そのあと試食。
1)スナップエンドウと豚肉のみそ汁
2)厚揚げのツナ味噌はさみ焼き
3)エビ団子とほうれん草のとろみ煮
4)イチゴのコンポート 寒天フルフル寄せ
(総カロリー700 Kcal、塩分 4.5 g と記載されている)
デザートまでついて立派なものです。
一通りの説明が終わったところで、約1時間経過。
この後、名簿の順番で7名ずつのグループ分けが発表され、いよいよ調理室に移動して実習開始。
7名のメンバーはもちろん初対面、挨拶もそこそこに4つの料理の担当を2名ずつ、デザートは1名に決める。
このへんは、能率とチームワークを錦の御旗にして突っ走ってきた、元企業戦士たちであるから早い早い。
各グループには「食生活改善推進協議会」の(こちらも元)オネエサンが2名ずつ付いてサポートしてくれる。
先ほど説明のあった料理のレシピはすべて4人前。
ところが実際の調理は、10人前を作ることになっている。
食材はすべて、事前に準備されて調理台の上に並べられている。
10人用のレシピ片手に、鍋だ、ボールだ、ザルだ、包丁だと調理台の周りは大混雑。
ガスコンロは2口、シンクは1つ。
5台の調理台の周りはオジサンとオネエサンたちで立錐の余地もない。
私の担当はエビ団子。
相棒のSさんと、まずは爪楊枝を使ってエビの背わた取りに挑戦。
10人前だからドンブリに山盛りになっている。
こりゃたいへんだ、貧乏くじを引いたかな~。
途中からは助っ人も加わって、どうにか完了。
これをまな板の上に広げて、両手を使って包丁で細かくミンチに。
あまり細かくしすぎると、エビのプリプリ感がなくなるからほどほどに。
危なっかしい様子を見兼ねて、オネエサンが実演してくれる。
ついで長ネギのみじん切り、輪切りにしておいてから細かくすればいいと始めたが、もっといい方法を教えられた。
まず長いほうに包丁を入れておいてから直角に切ったほうがずっと能率がいい。ウ~ン、ナルホド。
以下、それぞれの工程にちょっとした手法やコツや流儀がある。
さらに、味付けはまさに人それぞれであろう。
ふと、嫁姑問題に思い当たる。
育った文化の違う二人が台所で過ごすとは、なんとたいへんなことか。
男なら、さしずめ転勤で違う職場に配属された時か。
私は次男坊で、わが家は核家族だったから、実感はないが、兄貴一家は、いや~、なかなかたいへんだったろうな~。
開始からちょうど90分、11時半にはすべてのグループで調理終了。初回にかかわらずあまりに手際がいいので、役場の担当者たちは一様に驚いている。
だから~、最近の年金生活者は違うんだって!
講義室はテーブルが5つの島に並べ変えられている。
お一人様150グラムのご飯は、オネエサンたちが大釜で炊いてくれていた。
盛りつけをした料理を運んで、グループごとに試食開始。
やはり自分の作ったエビ団子が一番気になる。
メンバーから、「こりゃ旨い、上品ないい味だ」と嬉しい感想。
デザートもレモンの酸味が利いていて、なかなかのもの。
参加者が35名も居るから、本気で自己紹介を始めると、とても1時間では終わらない。
その点は担当者殿もきっと苦い経験があるのだろう。
「今回は、地区名と名前だけ。次回から毎回、詳しい自己紹介の時間を取りますから」と念押しして始めるが、それでもしゃべりたいのが数人、オイオイ。
この後、ビデオを見ながら、食後の軽い体操、これにはちょっとビックリ!
そして食器の後片付けと調理室の整頓、清掃。
「来月もぜひおいでくださいね~」との声に送られて、外に出てみると雨が降り出していた。
帰宅してから年間予定を見直してみると、6月は「小アジの南蛮漬け」
駿河湾のヨットセーリングで、アジを釣ることがあるが、干物以外の楽しみが出来そうで、待ち遠しい。