しまうまハイツの日々騒然

特別な人間でもないけれど、意外と破天荒な日々を送ることもある。そんな人間が何てことない日々を吐き出します

フィラディナストーリー第1話

2020-11-15 20:25:26 | フィラディナストーリー:物語
『いつもの朝』

いつもと変わらない朝だった。
少女は静かに眠っていた。
その眠っている顔を照らす様に窓から光が射し込む。
それは徐々に広がっていき少女が眠る部屋も照らした。
かすかながら鳥のさえずりも聞こえてくる。
世間一般的に朝と呼ばれる時間帯。

 「うーん…。」

起きようとしているのか、照らす光に不快感を示しているのか区別が付きがたい言葉を少女は発した。
光から逃げるように少し寝返りをうつも、あまり意味はない。少女の自室は午前中の日当たりは抜群だ。
眉間に皺をよせて不快感を露わにしつつも目は開かない、開けない。開けたくない。
それでも今日も起きなければならない。明日も、明後日も。
少女は学生なのだ。

 「寝たいよー…。」

その後も、うーとかあーとか意味がないことを呟きながら少女はのっそりと起き上がった。
目を薄っすらと開き周りを見渡す。少女は視力が良くはない、視界はぼやけている。よって特に意味はない。
狭くもなく広くもない自分の住まいを半目でなぞる。いつもと変わらない我が部屋。当たり前ではあるが。
ふと時計に目をやると起きる時間が普段より少し遅かった。少女は口を尖らせ、時計を睨み付ける。
睨み付けても何も変わらない。それでも少女の性質から不満の出てしまうことは仕方のない事だった。
少女は時計から目を逸らし、緩慢な動作でいつものようにベッドの隣にある小さな棚の上に手を伸ばした。
しかしその手は空振りをした。

 「あれ?」

いつものようにここに置いてあるものがない。思わず声をあげる。
今日はなんだか上手く事が運ばないなぁと少女は思いつつ、名残惜しそうにベッドから離れてそれを探し始めた。
部屋の中を歩きながら昨夜の事を思い出す。

 「昨日の夜は…授業が終わってから食堂でレオナと夕飯食べて、それで一緒に寮に戻ってきて、自分の部屋入って…。」

ぶつぶつと独り言をつぶやきながら記憶を探る。食堂の時は確か友人であるレオナとそれの話になったのだ。
だからあの時はあった。だとすると。

 「やっぱり部屋のどこかにある!」

うん!と少女は満足げな顔をするが何も進展していない。
ただでさえ今日はいつもより遅い起床だったのだ。時間は刻々と過ぎてゆく。

 「わっ、時間が…!!」

探す過程で時計をチラリと見ると、想像以上に時間が経っていた。思わず顔が引きつる。
いつもは時間に余裕を持って事を進める少女にとってはかなりの失態である。
紫の長い髪を揺らしながら少女はふと何かを思い出した。

 「そういえば昨日机に向かって勉強してたような。」

なんでだろうとまでは時間がもったいないので考えないことにして、徐々に覚醒しつつある脳と自分の記憶を頼りに机まで急ぎ足で向かった。もしかすると机に何らかの手がかりがあるかもしれない。

 「あったぁ!!」

ぱぁっと誰に見せるわけでもなく少女は満面の笑みを浮かべて、愛用の眼鏡を手に取り装着した。
勉強し終えた後にそのまま机の上に置いてしまったのだろう。眼鏡には少し埃が付着していた。
その後自分がまだパジャマ姿だったのを思い出し、慌てて眼鏡を一旦はずして制服に着替えた。
ふと疑問が浮かび動作を止める。

 「…何で私勉強なんかしていたんだっけ?」

眼鏡を見つけて落ち着いてきたのか、冷静に考えてみる。そして、ふとカレンダーの本日の予定に目を移した。

-テスト-

その単語を目にした途端、その単語が持つ特有の緊張感が張り詰めた。
そういえば今日はテストであった。少し前から勉強もしていたはずである。

 「今日の為に勉強していたのに、朝忘れる?ふつー…。」

これはもう結果が見えているんじゃなかろうかとため息を吐いた。
少女はその後鏡に向かい身だしなみを整えた。ちゃんと眼鏡もしている。
学校指定の制服に身を包み、仕上げとばかりに帽子を被った。
部屋を出る準備も終わった。本日初めて息をするかのように深呼吸をした。

 「さっきは色んな事が重なっちゃったけど、今日もつつがなく過ごせますように。」

いつものように鏡に向かって、今日の決意のような願い事のような事を言う。
周囲から見たら滑稽に映るだろうが少女は真剣そのものだ。
なぜだか今日はこの後色々なことが普段通りにならないような気がする。
そうしたらきっとまた慌ててしまって、落ち着かない朝が落ち着かない1日に広がってしまうだろう。

少女は変わらない毎日を愛していた。
その為ならなんだってするとも心の中では思っていた
しかし何をしようとしなくても、気が付かないうちに日々は変わっている事には考えが至っていなかった。

 「トローチ、迎えに来たよー。」
 「あっ、レオナ?ちょっと待ってね!」

いつものようにドア越しに声がした。少女はドアの方へ向き返事をする。
いつの間にか友人でもあるレオナが迎えに来る時間になっていたようだ。
鏡の前から離れて、鞄を取りドアへと向かう。

 「(明日は早く起きないとなぁ。)」

この変な感じはきっと朝がいつも通りでなかったからに違いない。
今日はなんだか自分の行動のひとつひとつがむず痒く感じるのだ。
深く考えすぎなんだ、とトローチと呼ばれた少女は無理やり笑みを作った。
これから友人に会うのだし、先程まで忘れていたが今日はテストなのである。

 「レオナおはよ。」

トローチはドアを開けて部屋の前に立っていたレオナに笑顔を向けた。

 「ん、おはよ。」

レオナはそんな考えを知ってか知らずかいつものようにあいさつを返した。
そう、今までも彼女の一日はこうやって始まってきた。
 
「(そしてきっとこれからも。)」

トローチはそう願い、レオナと雑談しながら朝食を食べに食堂へ向かった。
しかしその願いもいつもは考えもしない願いであることをまだトローチは自覚していなかった。

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祝第1話!
新しく書き直したというよりも、元の物を修正した形になります。
しばらくはこのやり方が続くと思います。
ちなみに私は本を読むことは好きですが、文章を書く力には全く自信はありません。
恥ずかしながら日本語が正しく使われていない箇所もあるかと思います…精進精進。

ここまで読んでくださってありがとうございました。第2話はテストのお話です。
まだ冒険には出ません。