よろず戯言

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迷子スズメ

2017-06-27 23:19:43 | 日記・エッセイ・コラム

先週の土曜日のこと。

仕事場にあるビニールハウスの一角で、ピョコピョコ動く黒い物体をみつける。

何だろう?

そう思って近づいてみたら、ちっちゃなスズメだった。

巣立ちしたばかりのヒナ鳥みたく、完全に換羽しておらず、

羽のところどころは、まだ綿毛のような羽が残っていて、全体的に丸っこくてかわいらしい。

どうやらまだ飛べないようで、羽ばたいても数十センチ飛び上がるだけ。

 

羽や体に外傷は見当たらない。

もしかして・・・まだ巣立ちしてなくて、巣から落っこちた?

ピョコピョコ飛び跳ねて逃げ惑う、スズメの子。

外は朝からどしゃぶりの雨。

梅雨入りして三週間ほど、まとまった雨が降らず、やっと降ったかと思えばこの豪雨だ。

ピチュピチュ泣いて逃げ惑うけれど、もし巣から落っこちたのなら、

このままここに置いといても死んでしまうかもしれない・・・。

それに野良ネコが多いし、カラスも多いし、ヘビだって居る。

天敵だらけのこの場所で、放置されちゃ確実に死ぬ・・・。

そう思って、スズメの子を捕まえて連れ帰った。

 

手で抱くと、ドクンドクン脈打って震えているのが判る。

恐怖におびえているのか、雨に濡れて寒がっているのか?

キッチンペーパーで体を拭いて、飼育容器に入れる。

水やエサを与えようと、ネットで調べる。

子どもの頃、スズメのヒナを保護したとき、自分なりに考えて、

虫を捕まえて与えたり、ごはん粒やパンを水に浸したものを与えたりした。

今はネットがある。

何を与えどう世話をするのが最善かすぐに調べられる。

 

 

ネットで調べて衝撃の事実を知る。

このスズメ・・・保護してはいけなかった・・・。

スズメの場合、“巣立ち=飛ぶ”ではなく、うまく飛べないうちから親に連れられて巣立つそうで、

親に見守れながら、ピョンピョン跳ねまわり、そのうち飛べるようになるのだという。

羽がほぼ生えそろった状態のこの子を見る限り、巣立ち直前、もしくは巣立ちしたヒナ鳥のようだ。

豪雨で親鳥とはぐれてしまい、仕方なくビニールハウスに避難していたのかもしれない。

 

親鳥とはぐれてしまったヒナ鳥は、必死に泣いて居場所を知らせる。

親鳥もまた、我が子の鳴き声を聞き分けられるようで、

その呼ぶ声を聞いて、はぐれたヒナ鳥を探し当てるのだという。

確かに、飼育容器に入れてそっとしておくと、

「チュン・・!」「チュン・・!」と、等間隔でずっと泣き続ける。

これこそ、はぐれてしまった親鳥を呼んでいる鳴き声なんじゃなかろうか。

 

しかし・・・保護してしまったものはしょうがない。

職場は遠いし、これから持って戻って、また同じ場所に放つのもなんだかなあ。

とりあえず今夜と明日、世話をして、明後日また職場へと持って行って、同じ場所で放つか・・・。

餌は、夜だったので、さすがに虫を捕まえには行けず。

黒砂糖を水で溶いたものに熱帯魚用の餌を混ぜて与えてみた。

ピンセットにつまんで与えてみたら、ちょこちょこついばんでくれた。

弱っている感じもないし、餌も食べてくれたし、今夜は大丈夫だろう。

そう思い、部屋を暗くしたら、いつしか丸まって眠った。

眠ってる姿も、それはそれは可愛らしいものだった。

 

 

翌朝、日曜日。

「チュン・・!」「チュン・・!」

あの親鳥を呼んでいるであろう鳴き声が、外から聞こえてくる。

「朝からずっと泣きよったき、外に出してやったばい。」

洗濯物を干しながら、お母んが言う。

体内時計がしっかりしている野鳥、朝が来るとともに起きて、また泣き始めたようだ。

バタタタタタ・・・カタカタッ!

ときおり羽ばたいて、飼育容器にぶつかる音がする。

う~ん・・・フタを開けて逃がしてやるべきか・・・。

しかし親鳥居ずして、この子が育つとも思えない。 

でも、もしかしたら単独でも、もうちょいで飛べるようになるかもしれない。

 

そうこうしていたら、ヒナ鳥の鳴き声に呼応して、

少し遠くから、スズメの鳴き声が聞こえてきた。

ヒナ鳥の鳴き声に比べて若干低い、成鳥の声だ。

見ると、はす向かいのお宅の屋根の上に、二羽のスズメ。

ヒナ鳥の鳴き声に返事するかのように鳴いている。

あの二羽はつがいかしら?

これはもしかしたら、里親になってくれるやも?

だんだん近寄ってくる二羽のスズメ、とうとううちの敷地に入ってきて、倉庫の上にとまった。

ヒナ鳥が入っている飼育容器とは、もう数メートル。

なかのヒナ鳥も激しく反応して、羽ばたきが激しくなる。

 

 

そこで、飼育容器のフタを取り払い、

室外機の上から、より高い、お母んの車の上に乗せてみた。

自分が外に出たことにより、近づいてきていた二羽のスズメは逃げてしまったが、

ヒナ鳥は飼育容器から飛び出して、そのへりに止まって鳴き始めた。

逃げたものの、その鳴き声に反応して、やはり遠くで返事する二羽のスズメ。

しばらく観察していると、ヒナ鳥が車から落っこちた。

雨で濡れていた車のボディ、爪がかけられず、そのままツルっと落っこちた。

 

しかし、地面で必死に鳴くヒナ鳥。

しばらくすると、二羽のスズメが降り立った。

とうとう三羽が一緒になった!

ふだんかわいいと思うスズメも、丸っこくてモフモフしたヒナ鳥と比較すると、すごくシャープで精悍に見える。

降り立った二羽は、ヒナ鳥を誘い出すかのように先導し、庭の外へと跳ねて行った。

ついて行くわけにもいかず、ここからは三羽の鳴き声だけで居場所を察知する。

庭から隣の空き地へ向かったのは確認できた。

そして、どんどん鳴き声は小さくなっていき、

およそ一時間後、すっかり三羽の鳴き声は聞こえなくなった。

あるいは、今あちこちから聞こえている、

多くの鳥のさえずりのなかに紛れてしまったのかもしれない。

 

今回の場合、保護しないで、そのままにしておくか、

巣をみつけて、そこへ戻してあげるのがベターらしい。

野鳥の保護というのは安易にやるべきではないというのを知った。 

巣から落っこちて、そこで一生を終えてしまうのもまた、自然の摂理なのだと。

人が保護して育てても、野生で生きてゆく力が備わらず、けっきょく自然淘汰されてしまうのだ。

 

あの迷子ちゃん、二羽の成鳥に促され、無事飛び立てることができたろうか?

巣立ちしてしばらくは、親鳥に連れられてエサの捕獲なんかも習得し、やがて自立できるようになるらしい。

もし、けっきょく二羽の成鳥に見捨てられて、天敵にやられてしまったとか、餓死してしまったとか、

そういった理由で死んでしまっていたとしたら無念でならない。

無事に餌獲りの特訓でもやっててくれ・・・と願うのだった。

 

 



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