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渡辺淳一氏

久し振りに、我が家の被災以外に、このブログに残したい話題が、出てきた。医者であり、作家でもあった「渡辺淳一」氏が、4月30日に、逝去されていたとマスコミが一斉に伝えた。病名は「前立腺がん」。まだ、80歳だったとか。私から見れば、まだお若い。あんなにお元気で活動的、精力的だったのにという思いである。心からお悔やみ申し上げたい。

「本居宣長」の時代から、「お医者様で文学者」と言う人は多い。特に、近代に入ってからは、森鴎外とか斉藤茂吉、その息子の北杜夫など特に有名だ。渡辺氏は「毀誉褒貶」の差が著しい点でも、世上を賑わした。実は、私なども、最初の頃は、「この作家は、ただものではない」と言う敬意の念を持っていた。経歴とか、発言が広く知られるに及んで、何か、少し可笑しい人ではないかと、考えるようになった。

    

年甲斐もなく「性愛」について語り過ぎると言う感じなのだ。例の大評判になった「失楽園」は、映画やテレビで、映像化された。男性も女性も、通常の感覚を突き破った物語は、確かに話題性には富んでいただろうが、世間の顰蹙も買ったのだ。勿論、私も読んだし、テレビも見た。しかし、余り良い印象は持っていない。

だから、逆に、渡辺氏が、こう言う傾向で世間を賑わすことには、寧ろ「お気の毒な」と言う気持ちだった。この作家は、本当は、優しく、細やかな神経をお持ちの人物なのに、と言うわけだ。私は、全く渡辺氏を知らない時に、「公園通りの午後」と言う文庫本を手にした。なかの「少女の死」を読んだ時の感動は強烈だった。重病で入院していた少女は、診察する医師に「私は死なないよね」と繰り返し念を押し、「退院したら、こうしたい、ああしたい」と夢を語り続ける話だった。死ぬ病気を分かっている医師は、「死なせない、必ず治す」と励まし続ける。しかし、少女は死に、遺体が運び去られたベッドには、小さな窪みが残っていた、と言う話だ。

実際、渡辺氏は、こうした情景をよく目にしたに違いない。将来を夢見ながら、この世を去っていかねばならない若い人への深い同情が読み取れる。当時、病気入院していた娘と重なった部分があったのかも知れない。お医者さんへの敬意は、深くなった。お医者さんが、医業、治療だけでなく、広く病気の実態、入院の患者の気持ち、家族の思いなどを作品化してくれたら、どんなにか心慰むことだろう。そう言う点から、私は医師や看護師の書いた作品をよく読むようになった。渡辺氏の小説では、その後も「麻酔」を扱った作品を読んだりしたが題名は忘れた。

渡辺氏の作品は、たくさん読んだ気がするが、特に強く覚えているのは「与謝野晶子」を扱った「君も雛罌粟(コクリコ)、我も雛罌粟」と言う伝記小説だ。情熱の歌人、与謝野晶子は、歌の師である与謝野鉄幹に恋をし、妻の座を本妻から奪う。その一連の恋心を『乱れ髪』という歌集に著して、夫鉄幹以上の好評を博した。鉄幹がフランスに留学した際には、夫を慕って、自身も遥遥フランスまで出鰍ッている。現在と違って「フランスへ行きたしと思へどフランスは余りに遠し」と歌われた時代だ。晶子は、シベリヤ経由の鉄道で旅したはずである。

何日か経過して、フランスのパリに立った晶子は「ああ皐月 フランスの野は 火の色す 君も雛罌粟、我も雛罌粟』と詠んだ。フランスのマルセイユ港から帰国の途につくまでの4か月間、与謝野夫婦は、イギリス、ベルギー、ドイツ、オーストリア、オランダなどを訪れた。この間のことを、私は、渡辺氏の伝記小説から学んだのだ。渡辺淳一氏は、単なる「性愛」賛美者ではなく、純粋に男女間の恋愛を扱う作者だったと信じたい。

コメント一覧

shuttle
おとめさん

「鈍感」なのは、余り歓迎されないことです。ピリピリし過ぎるのは、神経質人間で嫌われますが、鈍感人間も「ドンな奴」と嫌がられます。しかし、嫌でも年を取ると、鈍感になりますよね。
おとめおばさん
渡辺氏の本は沢山読みました
感動した本、そして途中でやめてしまった本
色々です
「鈍感」と渡辺氏とはかけ離れている感じもしましたが
「鈍感」でこれからも生きていきたいなと思いました
shuttle
youshowさん

私も、現在活躍中の作家の殆どを知りません。ただ、渡辺氏は、私と同世代であり、始めのうちは、熱心な読者でした。最近、世間に媚びたような発言や作品が多かったように感じていました。
ゆーしょ
http://youshowhm.exblog.jp/
こんにちは。
渡部淳一って名前を初めて新聞で知りましたし、
「失楽園」という小説もまったく知りませんでした。
先生の文を読んで「渡辺淳一氏」のことが少し分かりました。
古い日本文学は結構読んでいるのですがね。
shuttle
わいわいさん

人間は、余り神経質なのは、確かに健康上にも良くないでしょうね。渡辺氏の「鈍感力」と言う本が、よく売れたそうです。わいわいさんもその講演をお聞きになったのですね。私も、「高齢」で鈍感になっています。
わいわい
何年か前の船旅の折に、渡辺氏の講演を初めて聴きました。

「鈍感なのは生きていくうえで、強い力になる」
「ひりひりと傷つき易い、鋭く敏感なものより、
たいていのことではへこたれない、鈍く逞しいものこそ、
現代を生き抜く力であり、知恵でもある」

良い意味の「鈍感力」を持つように勧めるお話が印象的で、
未だに記憶に残っています。



shuttle
秋桜さん

人様のコメントは嬉しいですが、炎上は困りますね。アクセス数が増えるだけなら結構です。多くの人に読まれるのは、それだけの価値があるからでしょう。今日の「二人でお茶を」も拝見しました。この件に就いて書いておられますね。
秋桜
http://d.hatena.ne.jp/mursakisikibu/
渡辺淳一氏の訃報は、今朝知りました。
80歳・・・まだお若いですね。
わたしも彼の初期のころの作品をたくさん読んで感動ひとしおの思いがあります。

心からお悔やみ申し上げたいです。

奇しくも、昨日からわがブログが大変
アクセスが集中し、いったいなにが?と
思っていましたら過去記事に日経のわたしの
履歴書を書いていました。
それに検索で訪問者が増えたようなのです。
驚きました・・・
今もアクセス・・・続いています。
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