一羽の鳩

　若い頃、ある観光地に行った時、しつこくたかってくる一羽の鳩にキレてしまい、追い回したことがある。
　当然鳩は逃げるわけだが、なぜか飛ぼうとしない。人を馬鹿にしたように、走って逃げ回るのだ。

　きっと鳩は、人間を餌をくれる便利な動物だと思い込み、警戒心を抱かなくなっているのだろう。
　野生の生き物は、優しくすればするほど思い込みが強くなり、そのうち人を怖れなくなる。
　実はこの思い込みが彼らにとって、一番危険なことなのだ。

　しかし残念ながら、そのことを理解出来る知能が彼らには備わっていない。
　その昔ある僧は、頻繁にやって来る子鹿に、そのことを棒で叩いて教え込んだという。