吹く風ネット

忘れている

 昨日が休みであったことを忘れている。
 簡単な熟語や横文字言葉を、つい言い違える。例えば『雰囲気』は『ふいんき』と言い、『シミュレーション』を『シュミレーション』と言う。
 せっかくつかんだブログのネタを忘れている。
 人の名前がとっさに出てこない。
 隣に住んでいる人の顔がよくわからない。昨日会話した人の顔も忘れている。きっとかつて好きだった人と、街で出会ってもわからないはずだ。
『りっしゅん』と『りっしゅう』を言い間違える。『しゅんぶん』と『しゅうぶん』を言い間違える。わかっているのに五月三日を、なぜか『文化の日』と言ってしまう。
 昔覚えた寿限無が出てこない。完璧だった般若心経もつっかえる。
「今朝何を食べましたか?」と、いつ聞かれてもいいように、毎日パンを食べている。
 今朝見た夢を忘れている。そういえば昼間の悩みも忘れている。

 忘れるということは特別なことではない。だけどこうやって、いちいち挙げてみると、自分がいかに酷い状況であることがわかる。この積み重ねを人は『ボケ』と呼ぶ。
「おまえ本当に大丈夫か?」と真顔で自分に問いかける。いちおう「大丈夫だ」と答えておく。だけど次の瞬間、何が大丈夫なのかを、すっかり忘れてしまっている。

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