吹く風ネット

怪我の話 前編

 昭和56年のことだった。当時は車ではなく、バスと国鉄を乗り継ぎ、仕事に行っていた。

 現在は駅の横にバスターミナルができ、そこから駅のデッキまでは、エスカレーターやエレベーターで行けるようになっているが、当時バス停と駅の間にはチンチン電車の線路があり、バスを降りて駅に行くためには、歩道橋を利用して、その線路を越えなければならなかった。
 歩道橋を上って下りて、さらに20メートルほど行って駅の入口に着く。そこから改札を抜け、また階段を上り下りして、ようやくホームに出たのだ。つまり階段を二度上り下りしなければならないわけだ。

 9月のある日、ぼくはいつものようにバスから降りて、黒崎駅に向かった。
 相変わらずの渋滞である。バスが着いたのは、電車発車の2分前だった。そこからダッシュだ。

 いつものように、歩道橋の階段を駆け上がり、下りようとした。その時だった。なぜか足がもつれてしまい、歩道橋の手すりに頭をぶつけてしまった。かなり痛かった。しかし、時間がない。ぼくは体勢を整え、走って駅に向かった。

 改札を抜け、駅の階段を駆け上がった時、無情にも電車は発車してしまった。
「あーあ、遅刻やん。どうしよう?」
 しかし、考えても他に手段はない。しかたなく次の電車を待つことにした。

 電車を待っているとき、先程ぶつけた頭が痛いのに気がついた。電車に乗り遅れたことで忘れていたのだ。
「きっとたんこぶが出来てるだろうな」と、頭に手を持っていこうとした。その瞬間、首筋がヒヤッとした。
「どうしたんだろう?」と触ってみると、なんと手に血がべっとりとついているではないか。
「頭ぶつけた時に切ったのかなあ?でも頭の傷は大げさだから、すぐに治るだろう」と、ぼくは気にしないことにした。

 数分後に電車が来た。席は充分に開いていたが、ぼくは座らずに立っていた。もし首筋の血を人に見られたら、救急車で病院に運ばれてしまうと思ったからだ。

 そんな状況でも「これで遅刻の言い訳ができる」と喜んでいる自分がいた。さらに「これで笑いが取れるなあ」などと馬鹿なことを考えていた。

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