ジェシルは自分のオフィスに戻り、ホログラフで容疑者三人の全身像を、デスクの上に映し出す。二フィートほどの静止した立ち姿の像が回転している。
「東西マフィアと女教主様……か」
ジェシルは呟くと革張椅子に座り、回転する三つの像と部長のオフィスから持って来たファイルとを見比べている。
「うちのファイルって、いっつも通り一遍よね!」ジェシルは吐き捨てるように言うとファイルをデスクに放り出し、回転する像を消した。「身長や体重や出身地なんて分かったってどうなるって言うのよ! 経歴を知ったからってなんの役に立つのよ! 結局は自分で調べなきゃなんないんだわ!」
ジェシルは立ち上がり、クロークへ向かう。外出をするので着替えるのだ。宇宙パトロ-ル女性捜査官用のド派手な真紅のコンバットスーツまがいのごつごつした制服では、逮捕の出動か警邏巡回か交通整理かと思われて誰もが逃げてしまうからだ。
クロークで制服を脱ぎ、その重さと締め付けから解放されたジェシルは、ほっと一息ついた。
「本当、この制服は身体に悪いわ! いくら上申しても改善されないし!」
ぶつぶつ文句を言いながら、ジェシルは淡いピンク色のスラックスにスーツ、中は白いブラウスに着替えた。ジェシルは同じ若い世代が率先してきている肌の露出の多い姿は、ジェシル自身好みではなかった。その事で何か言われても「わたしは古い女だから」と返して気にもしない。しかし、ぴったりしたスラックスとスーツはジェシルのプロポーションを逆に強調し、露出の多い服装よりも男たちの目を引いた。
ジェシルは宇宙パトロール本部の超高層ビルを出て、客待ちをしているロボ・タクシーに乗り込む。
「モーレル地区まで」ジェシルは言った。「そこのハーディの店の近くで良いわ」
「モーレル地区のハーディの店…… そこはあなたのような若い女性が一人で行くには危険です」ロボ・タクシーが忠告する。「お酒を飲むなら、ヘンリー通りのラインズの店が安心安全です」
「さりげなく広告を入れないで、言われた場所へ行って」ジェシルはスーツの内ポケットから捜査官の身分章を取り出し、カメラ・アイに押しつけるようにして提示した。「言う通りにしないと、公務執行妨害で破壊するわよ」
十五分後、ジェシルはモーレル地区でロボ・タクシーを降りた。一癖ありそうな連中が無遠慮にジェシルを見る。ジェシルは一向に気にも留めず、所々ネオンサインの切れた看板を、幾つか留め具が紛失し斜めにしたまま掲げたハーディの店へ入って行った。
店は薄汚いこの地区に相応しい薄汚いバーだった。独特の酸えた臭いに混じる安酒の強烈な臭気。朦々とした安煙草の煙。互いを判別させまいとしているような薄暗い照明。殆ど聞き取れないほど小さく鳴っている音楽。
脛に傷ある者達の憩いの場であると同時に、宇宙パトロール捜査官達の裏の情報源でもある。
ジェシルは、触ってこようとする酔っぱらい共を殴り飛ばしながら店内を見回す。ジェシルに気付いたらしい一人が手を振っている。ジェシルが良く利用するニケ人のロールだった。ジェシルは酔っぱらい共を掻き分けて近づく。
つづく
「東西マフィアと女教主様……か」
ジェシルは呟くと革張椅子に座り、回転する三つの像と部長のオフィスから持って来たファイルとを見比べている。
「うちのファイルって、いっつも通り一遍よね!」ジェシルは吐き捨てるように言うとファイルをデスクに放り出し、回転する像を消した。「身長や体重や出身地なんて分かったってどうなるって言うのよ! 経歴を知ったからってなんの役に立つのよ! 結局は自分で調べなきゃなんないんだわ!」
ジェシルは立ち上がり、クロークへ向かう。外出をするので着替えるのだ。宇宙パトロ-ル女性捜査官用のド派手な真紅のコンバットスーツまがいのごつごつした制服では、逮捕の出動か警邏巡回か交通整理かと思われて誰もが逃げてしまうからだ。
クロークで制服を脱ぎ、その重さと締め付けから解放されたジェシルは、ほっと一息ついた。
「本当、この制服は身体に悪いわ! いくら上申しても改善されないし!」
ぶつぶつ文句を言いながら、ジェシルは淡いピンク色のスラックスにスーツ、中は白いブラウスに着替えた。ジェシルは同じ若い世代が率先してきている肌の露出の多い姿は、ジェシル自身好みではなかった。その事で何か言われても「わたしは古い女だから」と返して気にもしない。しかし、ぴったりしたスラックスとスーツはジェシルのプロポーションを逆に強調し、露出の多い服装よりも男たちの目を引いた。
ジェシルは宇宙パトロール本部の超高層ビルを出て、客待ちをしているロボ・タクシーに乗り込む。
「モーレル地区まで」ジェシルは言った。「そこのハーディの店の近くで良いわ」
「モーレル地区のハーディの店…… そこはあなたのような若い女性が一人で行くには危険です」ロボ・タクシーが忠告する。「お酒を飲むなら、ヘンリー通りのラインズの店が安心安全です」
「さりげなく広告を入れないで、言われた場所へ行って」ジェシルはスーツの内ポケットから捜査官の身分章を取り出し、カメラ・アイに押しつけるようにして提示した。「言う通りにしないと、公務執行妨害で破壊するわよ」
十五分後、ジェシルはモーレル地区でロボ・タクシーを降りた。一癖ありそうな連中が無遠慮にジェシルを見る。ジェシルは一向に気にも留めず、所々ネオンサインの切れた看板を、幾つか留め具が紛失し斜めにしたまま掲げたハーディの店へ入って行った。
店は薄汚いこの地区に相応しい薄汚いバーだった。独特の酸えた臭いに混じる安酒の強烈な臭気。朦々とした安煙草の煙。互いを判別させまいとしているような薄暗い照明。殆ど聞き取れないほど小さく鳴っている音楽。
脛に傷ある者達の憩いの場であると同時に、宇宙パトロール捜査官達の裏の情報源でもある。
ジェシルは、触ってこようとする酔っぱらい共を殴り飛ばしながら店内を見回す。ジェシルに気付いたらしい一人が手を振っている。ジェシルが良く利用するニケ人のロールだった。ジェシルは酔っぱらい共を掻き分けて近づく。
つづく
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