これまででどうやら価格が変化すると消費量も変化するらしいことはうかがい知れましたね。その5ではこの点について、図1-5を使って詳細にみていきましょう。
いま、肉の価格がKg当たり5000円から8000円に上昇したとします(米の価格は不変)。このとき、予算制約線の横軸の最大値は、20Kg(B)から12.5Kg(B’)に変化し、予算制約線がABからAB’に変わることになります。
肉の価格が上昇した結果、均衡点はこれまでの原理にしたがってEからE’に変化します。
結果として、肉の消費量は12Kgから7Kgに減少します。これで、価格が上がれば消費量は減るということを論理的に説明できたことになります。
また、図1-5から明らかなように米の価格は変わらなかったにもかかわらず、米の消費量が変化しています(100Kgから110Kgへの増加)。これは、表1-1からは予想できなかったことであります。
肉の価格の上昇が米の消費量を変える道筋としては相反する影響をもつ2通りが考えられます。1つは、肉の価格が上がれば、実質的に所得が減るのであって、結果として米の消費を減らすようにはたらくというものが挙げられます。もう1つは、肉の価格だけが上がったのですから、米の価格が相対的に下がり、肉の消費から米の消費にウェイトを移すというものです。図1-5の例は後者の影響力の方が強かったことになります。
図1-補3で、初期の均衡点はE0にあります。そして肉の価格が上がった結果、予算制約線がABからAB’に変わり、新しい均衡点E1になります。E1は無差別曲線u0よりも満足度が低い無差別曲線u1上にあります。次に無差別曲線u1に接していて、しかも初期の予算制約線ABと平行なYY’を引いてみます。YY’は、肉の価格上昇によって起こった満足の低下(無差別曲線のu0からu1への変化)が所得の低下だけによって起こったとしたときの予算制約線にあたります。その意味で、そのときのE0からE’1への変化を所得効果と呼びます。実際には、肉の価格上昇が起こったときの均衡点はE1であります。そして、E0からE1への変化は、肉の価格上昇による実質的な所得の減少であると、相対的に肉の価格が上がったことによってもたらされたものと考えられます。したがって、所得効果で説明できない残りの部分であるE’1からE1への変化は相対的に肉の価格が上がったことによる変化だと解釈できます。これを代替効果と呼びます。これで、肉の価格が上がったときの均衡点の変化(E0からE1への変化)を所得効果(E0からE’1への変化)と代替効果(E’1からE1への変化)に分離できたことになります。
価格変化の消費に対する影響については図1-5の(イ)に別の形で表現できます。(ア)では肉の価格が上がったときの過程を描写しています。この価格変化を(イ)の縦軸にもってきます。すなわち、(ア)での肉の価格上昇は(イ)の縦軸の5000円から8000円への価格変化に対応していることになります。このとき、(ア)では肉の消費量が12Kgから7Kgに減るのですが、その変化をそのまま点線を延ばして(イ)の横軸へ移し替えます。そして、(イ)の価格に対応する消費量をあらわすF及びF’を結んだ曲線を描くことができます。これでAさんちの肉の需要曲線が導けたことになります。
ここで、需要曲線は一定に留まっているわけではなく、変化します。原因として大きいのは、所得の変化であります。すでに、図1-4で、所得が増えれば(10万円から15万円)、米や肉に対する需要量が増えることを説明しました。このとき、肉に対する消費は12Kgから20Kgに増えました。これを図1-6で表現すれば、肉の価格が5000円で変わらない状態で、予算が増えたことによって、需要量が12Kg(F)から20Kg(G)へと増加することに対応しています。同じように、価格が8000円であったとき、所得が増えたことによって需要量が7Kg(F’)から14Kg(G’)に増加するものとします。このとき、GとG’を結んだ新しい需要曲線D’を描くことができます。このように、所得が増えることによって、需要曲線は右にシフトします。
更に、消費需要を決めるもう1つの要素として好みがあるのですから、好みをあらわす無差別曲線の形が変化すれば、当然需要曲線を変えてしまうということは既に皆さんは理解できている筈なのです。図1-5(ア)の上で、無差別曲線の形を変化させることで、確かめてみて頂きたい。