【甘露雨響宴】 The idle ultimate weapon

かんろあめひびきわたるうたげ 長編涅槃活劇[100禁]

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2024年01月01日


ALLION【381】ホールでヴァイオリン

2010-05-17 | 4-1 ALLION




 ALLION【381】 


旅行準備をしているエヴァにアンリからラギ。

『きっとそう言うと思ってエヴァのドレスも用意してた!』

「なっ...本当?私、ドレスは現地調達のつもりで、」

『僕のプレゼントを受けとって』

「アンリ...ありがとう」

アリオンの奏でるヴァイオリンの優しい音色が聞こえて来た。

どこかで聞いたことのあるフレーズ...誰の何ていう曲だった?






エヴァはホールでヴァイオリンを弾いてるアリオンに寄った。

気づいたアリオンがヴァイオリンをやめて振り向いた。

「やだっ。やめないで?」

「軽く練習、イーギンに要請された。タダで弾けって」

「あふ...綺麗な曲ね。結婚式にぴったり。イーギンの注文?」

「いや僕の趣味。少し前の女性歌手の。彼女は祝福の歌を8曲...
 作ってる。どれも天界からの声のような魂の歌というか天使が
 歌うような...よく結婚式や寺院で使われている...祝祭に」

「痛みのないシベコンのよう。荘厳で幻想的...音の数珠が綺麗
 それをひとりで弾いてるアリオンが凄いんだけど...誰なの?」

「ペルセフォネ」

「え」

「知ってる?ペルセフォネはメジャーに一瞬出て来て、直ぐに山荘
 で活動...こういう曲は都会に居ては描けないね。神の御霊の近く
 に居て融けないと」

「あ...そ うね」

「そう言えば『モザルト・ウィルス』はペルセフォネインスパイア
 で作ったとベルールが言ってた。それで中学時代に深海と神界に
 音を求めたそう。それを聴いて、僕たちから離れた意味が解った
 あの家に居たら...古典とお金、名声や賞賛、業界..しか...なかった
 分かり合える家族がなかった」

「アリオンはそういうのどうでもよくて 自分の世界 だった」

「え、酷いなあ...改心したよ」

「しなくていいわよ。そうやって緩いからどこでも自由なのよ」

「クリスティーナ... 」

「そんなアリオンが好きって言ってるのよ?褒めてるの!ベルール
 はペルセフォネのような...自分が手にしたかったもの手に入れた
 から帰って来た...そっ、言われてみれば.『モザルト・ウィルス』
 の曲は神聖...今度はアリオンと融合しちゃう日が来るのね」

「 ...ベルールから何か聴いたの?」

「世話がかかるやつだから見捨てられないって」

「はは...同じ年なのに僕はいまでも小さい弟だ」

「弾いて?ペルセフォネの曲。ビアノ伴奏
 ここにベルールがいないのが残念だけど」

「今は君がする」

「私はピアノのどこがラかもわかりません!だから座ってる」

アリオンは笑いながらペルセフォネの曲を奏で始めた。

エヴァとアリオンの屋敷の中と外―馨しい甘露雨が舞う。



ALLION 【完】






ALLIONもくじ CHRISTINA【1】につづく。




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ALLION【380】清涼融和

2010-05-17 | 4-1 ALLION




 ALLION【380】 


「トスはクリスティーナに御礼したくてうずうずしていて困ったら
 頼ってくれと連絡してくる。それ困るから今コレ、トスだけには
 別れの挨拶をしておかないと心配して捜される」

「俺がこっちに今は来るなとクリスティーナに連絡した
 それはクリスティーナがそんな状態とかじゃなくて、」

「ダンタリオン、いいんだ...僕が救いを求めてた... 」

「アリオンを信じてるから誰にでも男女構わず世話焼く。そういう
 コだ。リッツも同じ。クリスティーナはアリオンしか見ていない
 いちいち疑うな」

「 ...。」

「俺だってダンタリオンだって油断するなよ?ははっ
 隙あらばクリスティーナを奪いたい男は山ほどいる」

「 ...男色でもか?あ、『シシィ』目当て」

「可愛いからに決まってる。あのコを横に置いていたら毎日楽しい
 や、そんな程度ではない、あのコを手に入れたら『クワロフス』
 全てを牛耳れる。魅力的だ」

「その嘘はもういい。サファイアたちがそんな風とは思えない
 他の男は違うだろうが...だから『シシィ』を隠す...そうだな」

「あっ戻って来たっ。言うなよ?アリオン、フツウにしてろっ」

「そうは行くか」

「あいた...こいつ、早速裏切り者」

「仕置き喰らうのは俺たち、アリオンひとり幸せ。けっ」






扉が開いて滑るようにエヴァがアリオンの隣に座って来た。

「お待たせっ」

ダンタリオンは後ろふたりのことは無視して車を出した。

「いなかった...と言うか、本人いなくてトスの彼女が居たの
 『キエーラ』のこと話し込んじゃって...待たせてごめんね」

「そうか。しかし、シェリーのようにばったりとか」

「もうこんな服装しないわ?アリオンの妻ひとつ」

クリスティーナ...愛してる。

アリオンはエヴァを抱き寄せ―心傷めて力いっぱい抱き締めた。






アリオンの突然の2ヶ月休暇要請にティムもジオルグも驚いた。

しかし、アリオンと一緒に『ACERO』社長室に現れたベルールが僕と交換。と横から言った。

それにアリオンが驚いてベルールを抱き締めた。

『Ambra Ciocco』のプロデュースとミーホを引き受け、アリオンの2ヶ月休暇のために発生するチケットの払い戻しや会場やスポンサーの違約金等の損額は自分が稼ぐ。とベルールが啖呵を切った。

何故そこまで?お前が僕に頭上がらないようにするためだ。

ベルールがそう言う顔をしてアリオンを見た。

が、こんなことしてもアリオンには通じねえか。感謝も何も、疎いヤツだし。と思ってベルールは自嘲した。

アリオンは感激して言葉詰まらせてベルールを抱いて震えた。

幼少の頃からベルールがピアノ伴奏―ヴァイオリンを弾いた。

ベルールが大好きだった。ずっと一緒だと思ってた。

突然自分の前からいなくなった。けど、戻ってきた。

これ以上のことはない。

アリオンに抱かれながらベルールは過去を思い出した。

もしかして...またこいつは僕が戻ってくると信じてた...?

僕がこいつが待ってると信じた。

逃げたかったのはサ・ナールの身分ではなくこいつからだった。

こいつのとろい純粋が残酷過ぎて...愛おし過ぎて...怖かった。

今でも僕は僕でお前はお前らしい...それは変わらない。

大人になって今ここでやっと僕は...目が覚めたようだ。

お前がお前だから僕はお前が好きで―囚われたままだった。

お前は僕を1度も否定しなかった...。

参ったよ...ありがとう。






ALLIONもくじ ALLION【381】につづく。




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ALLION【379】俺は喋りたいっ

2010-05-17 | 4-1 ALLION




 ALLION【379】 


アリオンはエヴァのトランクを提げてアパートの廊下を歩きながらまだ僕に...ここを出た先の話は話せない?と訊いた。

エヴァは反射的に、え。と言ってアリオンの顔を見上げた。

「あ...さっきは話を合わせてくれてありがとう...話すわ?でも
 アリオンが逃げられないとき話す。旅行の海賊船の中とか」

アリオンは笑った。

「僕が逃げ出したくなる?」

「うふふ。違うわ?日常だと話途中で所要が出て来ちゃう。電話が
 掛かってきたり使用人に声掛けられたり。ふたりきり永遠の時間
 と思えるときがいいわ?2ヶ月も一緒なんてステキ過ぎる!」

「そうだけど...何だよ、怖いなあ?」

「過ぎたわ?思い出話、話せる時が来たことが嬉しい」

「クリスティーナ.うん...それからさっきはごめん。ここに住んでる
 ベルールを見て初めて会ったときの..君に重なって..実はベルール
 に親近感を抱いて本気で僕を捨ててベルールを頼ったかと疑った
 ベルールも既婚者と判って部屋に入れる、なんて...僕の知らない
 ところで君とベルールが...とか.ごめん。そのときの君の気持ちを
 考えるなら僕が君でもベルールでもそうしただろう... 」

「やだあっ。それでもいいもん!アリオンが横にいるんだから
 そんなの気にしてない。疑ったこと話してくれたこと嬉しい」

エヴァはアリオンに抱き付いた。






アパート外で待っていたサファイアとダンタリオンに守られながらエヴァとアリオンは難事なくラルゴ街を離れた。

暫く歩いて隣町の駐車場に停めた車に乗り―ホッとした。

ニュースや人の話で危険、そしてベルールにあそこまで言われたらサファイアとダンタリオンがいてくれても―緊張する。

あれはベルールの、二度と近寄るなよ。の脅しだったのだろう。

それでもそれが事実だろうことは街の暗い雰囲気から解る。






程なく―繁華街レクに近い高層住宅の立ち並ぶ街。

宝石屋の経理正社員は年収もいいと見える。

停車して―運転していたダンタリオンが、ついた。と言い、エヴァが、直ぐ戻る。と言って車から出て行った。

途端アリオンが助手席のサファイアの椅子の背を蹴った。

ドン!と身体に響いてびっくりしたサファイアが振り向いて、いつからそんなお行儀悪くなったんだ?と笑った。

「惚けるな。今言う。トスとクリスティーナに何があった」

「アリオン、」

ダンタリオンも驚いて後部座席のアリオンに振り向いた。

「僕に言いたいからさっきあんなこと言ったのだろ?」

「参った...随分変わったな?まあ、かわらいでかだが」

「勿体ぶらず!クリスティーナが戻ってくる」

「クリスティーナに口止めされてる。おい、勘違いするな?
 誰でも善行ほど隠していたい。俺は凄く喋りたい。分れっ」

「何を?...感謝されて困ると言うことか...さっきのは」

「そうだ...俺が喋ったことはクリスティーナに言うな?もしお前が
 知ったとクリスティーナに言ったら、ふたり破局の場 工作す」

「これもサファイアの工作じゃないか。既に嵌ってる」

「あはは!」

「おい、サファイア、」

「びびんな。ダンタリオン。クリスティーナは拷問しねえよ」

「そうだが... 」

「幾らこいつが猛省してるっつっても俺は喋りたいんだっ」

「それは分るが、」

「おいっ、言い難いことは十分わかった。早く言え!」

「クリスティーナが公演旅行に再び行くと言ったとき、それ仕事が
 忙しくて行けなくなったと言ったが トスが緊急で重体になった
 明日の仕事代わってくれと連絡してきてゼルダを連れて行ったら
 重篤。動脈だ心臓言ったがよくわからんが放っといたら死んでた
 くらいはわかる。入院は勘弁と言うしマリアに身寄りがないから
 クリスティーナが昼をトスの仕事の代打、夜は泊まり込みで看病
 3日目にやっとトスの恋人が来て解放された。その夜にベルール
 のアパート。以上っ!」

アリオンは一瞬蒼白になって意識が遠退き掛けた。






ALLIONもくじ ALLION【380】につづく。




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ALLION【378】傲慢野郎の兄弟

2010-05-17 | 4-1 ALLION




 ALLION【378】 


「あ...説明するわ。駐車場でリッツが車のキーを落として困ってた
 ベルールと捜していたら、以前、私を誘拐した海賊がベルールと
 リッツを捕まえて私にユリウスに会わせろって言って、電話して
 ユリウスが来て解放された。リッツは自分は結婚詐欺師でカモの
 アパートだからここに来ただけで私たちと関わったら警察関わる
 からご免っていなくなって、私もベルールと別れて家に戻った」

「 ...怖くなかったのか?」

「怖いも何も...以前に会ってたから。ベルールに怖い思い
 をさせたのは私。それで迷惑掛けちゃいけないと思って」

「それ本気?ここに住んでるんだからそんなのないのに」

「だったら何で捕まってクリスティーナを助けなかった?」

「バカめ。お前はそんなんだから頑張ってそんな汚い服装をしても
 サの匂いバレバレなんだよ。BG..なかったらここでは一発で食わ
 れる。身包剥されて襲われ薬漬けにされて死ぬまで甚振られる」

「え... 」

「甘く見てたんだな?はは、まだ言おうか?捜索願を出してもこの
 街訊ねたって知らぬ存ぜぬ。死体は死体処理で食ってるヤツラに
 喜ばれる。裕福な顔して足を踏み入れた方が悪いノって掟がある
 捕まったり絡まれたら最初は腕力弱いフリして様子を見るんだよ
 で、隙見て全力逃亡!そのつもりで様子見しててクリスティーナ
 は破落戸と話し合い出す。怖がらないから温和しくしてた」

「怪我なく助かったの。リッツもそれは心得てたみたい」

「 ...またユリウスか」

「それ誰?クリスティーナの何なの?」

「ユリウスと結婚させられるところだったの。私はアリオンが好き
 ユリウスはマフィア。私にはそういう人や事が付纏うの。そこに
 居たリッツをユリウスが探し出して私のBGに勝手につけたの」

ベルールが、そんなこと出来るヤツだったのか。と感心した。

「その話は解った。ベルールが家に戻れば、ここに二度と用はない
 訊きたいんだが、僕の妻と知って近寄ったなら解る。しかしそれ
 を知らず近寄ったのはどうしてだ?」

「はあ?単なる挨拶だ、俺は客ひとりひとりに挨拶して回る。お前
 とは違う、ライブハウスの安ギャラで明日をも知れぬ身。だがな
 俺はここから出ないぞ?オヤジにもそう言った。ここは、オヤジ
 でも簡単に近寄れない場所だからな。安全だ」

「そうか。だが『ライオネル』には僕もジオルグも近寄れる」

「 ...譜面を出せと言いに来たのか」

「譜面だけじゃない。契約に出て来いと言いに来た」

「お前の用事はクリスティーナのトランクだけだ」

「ジオルグの息子だからじゃない『モザルト・ウィルス』版権を」

「俺の曲を?馬鹿げてる『ACERO』からデビューはねえ」

「デビューじゃない。プロデュース。俺が降りる」

「はあ?お前がヴァイオリン一本にしたいからか?」

「『モザルト・ウィルス』は続ければいい。依頼企画がある。僕は
 家に居る時間を増やしたい。お前は安心して、ここに住み続ける
 だろうが、どこか..音楽会社に声が掛っても『ACERO』が契約を
 潰す。自分の許に戻るよう.追い詰める...他社にお前の才能を渡す
 と思うか?見つけたんだ。手を引くわけがない」

「 ...ちくったのはお前だ」

「クリスティーナに声を掛けるからだ。自分から開いた運」

「閉じたと言ってくれ。馬鹿らしい」

「何故そう拒む?ジオルグと確執あったのなら忘れろよ」

「忘れろ...な。そうだな。お前も忘れてるし」

「僕も?...何を?」

「こっちの話だ。なあ、クリスティーナ」

突然振られたクリスティーナはどきっとした。

「またクリスティーナと何を、」

「あははっ!うろたえるな。クリスティーナに振ったらお前の
 気が逸れる。それだけだ。クリスティーナに振っただけだ!」

「ベルール... 」

「考えるよ...返事はオヤジに言いに行く」

「わかった。しかし、僕は来週末から
 2ヶ月クリスティーナと旅行に行く」

「2ヶ月も?!そんなこと...出来るのか?」

「だからベルールが必要。自分のことは
 どうでもそのプロデュースがあるんだ」

「ちぇえ~自分の幸せのために緊急借り出し」

「そうだ。だが、僕の仕事だったそれをお前以外の誰に譲れる」

「 ...相変わらず傲慢野郎だ」

「乗ったらお前も傲慢だ。その方がいい仕事してくれる」

「 ...わかったよ」

「返事は今週中」

「勝手に決めるな」






ALLIONもくじ ALLION【379】につづく。




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ALLION【377】ラルゴ街へ

2010-05-17 | 4-1 ALLION




 ALLION【377】 


「挨拶だけはしとこうと思って...一瞬だから車で待ってて?」

「トスか...あいつは挨拶しとかないと確かに後々面倒だな。ライラ
 に友好的だったから心配されて捜索の的になってもね。その格好
 でトランクひっ提げてマリアを出ると言う?ははっ」

「そうそれ...よい機会」

アリオンが話について行けず、同僚じゃなくて?と訊いた。

「ただの同僚だから心配してくれるんだよ。性格も優しい。だから
 挨拶。クリスティーナにそんな親切は逆に困った となるから」

今頃出て来た知らなかった事実。

アリオンは訝しい顔をして、そんなに親密?と訊いた。

「こっちが親密じゃなくても向こうがこっちを心配するんだ
 バイトの設定が、ひとりで放浪してる女の子 だったから」

「サファイア、それアリオン勘違いしそっ。アリオンも一緒に来て
 欲しいの。でもトスはヴァイオリニスト・アリオンを知っている
 から...仕事で随分お世話になったからこのまま消えられないって
 ずっと気にしてたの」

「 ...そうか。わかった。帰りでいいんだね?」

「行っていなかったらそれでいいわ。扉にメモ張り付けとく」

エヴァは、メモは用意してるの。と言ってアリオンに見せた。

メモは、元気になりました。ディノウヴォウの実家に戻ります。色々お世話になりました。楽しかった。ありがとう。だけだった。

それを見たアリオンはさっき一瞬沸いた懸念が消えた。

「ごめん...何かあったのかと疑った」

「いいの。サファイアが悪いっ!行きましょう?」

サファイアが『クワロフス』から借りた汚れた服を着たアリオンとエヴァが仲良く抱き合って歩いて行く。

同じく汚れた作業服のサファイアは、ふんっ!と言った。

そして、ダンタリオンを呼んでふたりを追った。

サファイアは トスの看病をしていた期間、アリオンの公演旅行に行けなかったエヴァ をアリオンに話したかった。

それをエヴァに阻止されて気分悪い。






アパートの玄関を開けて、よく来た!と歓迎してエヴァとアリオンの変装を見たベルールは唖然として、そして、噴出す。

「笑うなよ。執事が喧しいんだ」

照れ臭そうに言ったアリオンの肩をベルールが抱いて更に笑う。

「な?そんなに有名になっちゃプライベートで散歩も出来ない」

「ベルールがこんなところに住んでるからだ、何だってラルゴ」

「メンバーにも教えてないんだよ。俺をきちんと隠してくれる
 からに決まってる。お前もオヤジも俺を見つけられなかった」

「こんな場所によくクリスティーナを呼べたな」

「俺はクリスティーナは従者連れとばかり...今回もBGナシ?
 幾ら変装しても、危なくね?タクシーでここまで来たのか」

「いや、部屋の外にいる」

「そうか。だな、でないとこの前みたいな
 ことになる。この前は知り合いだったが」

「この前みたいな?」

「ああ?...クリスティーナは喋ってないの?逃避行の道中の話
 と言っても俺もその後は知らないが...直ぐに家に戻ったの?」

エヴァはお茶を出そうとキッチンにいたが、振られて苦笑。

コンサートの夜、家に戻る前の夜に来たことは口止めしたが、他は放置していた。

それ以外は全部話せる。けれど、何から話せば?と迷う。

けど、ベルールにまで言うことはない。

「うん、戻ったわ?ここに居させて貰って気が済んだの」

アリオンは ここを出た後は家に帰ってから訊く。として、この前みたいって何?と訊いた。

ベルールが、クリスティーナをプールに連れて行こうと思って駐車場に行ったら結婚詐欺師が居て。と言って笑い出した。

アリオンが、リッツのこと?とエヴァに訊いた。

「そう。そこで知り合ったの。でも、ユリウスが絡んだのは」

ベルールが、ユリウス?と訊いた。

「あのときの金髪の男よ」

アリオンが、ベルールもユリウスと会った?と訊いた。

「アリオンは結婚詐欺師と金髪男を知ってるんだ?何で?」

アリオンは、ふうん。と言って目でエヴァに解説を要求した。






ALLIONもくじ ALLION【378】につづく。




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ALLION【376】2231年7月

2010-05-17 | 4-1 ALLION




 ALLION【376】 


―2231年7月

エヴァは結婚式を挙げるつもりは毛頭なかった。

理由は、お金の無駄 それイッコだったが、アリオンとその根まで幸せだと毎日滔々沁みるよう感じるに従って迷う。

迷った挙句、イーギンが9月に式を挙げると聞いていたエヴァは、それ!と提案した。

今までは関係が落ち着かなかったためにそれを言えず、さりとて、エヴァが公に『シシィ』を隠すなら 相手は一般人 と公表を考えて何時切り出そうかと思っていたアリオンにそれは朗報。

「いいえ、違うの。イーギンたちは派手にやる、私たちそこに参列
 つまりザーイン星で!イーギンの結婚式の後 ふたりきりでっ!
 私たちの結婚式は誰を呼ぶかややこし過ぎるもの。けどアリオン
 のお兄さんは呼ぶの。ご挨拶よ」

アリオンは感激し過ぎて言葉なかった―エヴァを見詰めた。

「あ...皆に祝福されるシーンを人生に残したいとか思ってる?」

アリオンは覇気高く話すエヴァが可愛くて仕方なくて笑う。

「いや?僕は君だけが欲しい。君の方がそう思ってないかと」

「思うわけないでしょっ思ってたらあんな生活してない
 でもね、アリオンとのそういうシーンは...残したいっ」

アリオンはエヴァを抱き寄せてキスをする。

「僕もだ...けどザーイン星まで本来なら片道で10年...この前は
 クリスティーナ遣って1ヵ月だった?それでも間に合わない」

「十分よ!2ヶ月あるもの。問題はアリオンのスケジュール」

「平気だよ。止められたら首にどうぞってジオルグを脅す。それは
 君がいなかったときヴァイオリンがとても邪魔だと思えた。悪夢
 の根源に思えて...君がいれば僕は何でも出来る、だから脅しと
 言うより本気」

「カレフが泣くわね?ティムもジオルグも会社の皆に追われる」

「逃亡ならクリスティーナがいれば安心だ。往復2ヶ月以上行き先
 を言わないで自由なんて逃亡に見えるね。けど本気で海賊船?」

「勿論よ!嬉しいっ2ヶ月旅行、ふたりきりで!」

「クリスティーナ、嬉しい。あ...ベルールの家を教えて?」

エヴァは一瞬驚いたが、トランク!と言った。

「そうだよ。行かなくっちゃと思ってて...ごめん」

「大したもの入ってないしアリオン忙しいもの私が取りに」

「ベルールの居場所は知っておきたい。一緒に行く?」

「どこ行くの?」

リビングでいちゃついていたふたりの脇を通り掛ったサファイアが白けた無機質なトーンで訊いた。

「サファイア、今ね、結婚式のこと」

「聞こえたから知ってる。どこ行くのか聞こえなかった」

「ラルゴ街のベルールのとこ」

ラルゴ?!と言ってアリオンが驚いた。

「私も驚いたわ。何この人、サなのに私の真似?!て」

「あっはは、笑えねえ!」

「サファイアも知ってるのか?」

「まさか?でもラルゴなら俺も付いて行く。クリスティーナはよく
 てもアリオンに何かあったら大変だ。重ねてダンタリオンも行く
 それにそんな服装じゃダメ。わかってるよね?ラルゴだから。で
 いつ行くの?」

ラルゴ街はマリアの中、犯罪者の巣窟 と言われる街。
殺傷事件多発で治安行届かない。陽の当らない住宅地。
快楽堕落で生きる人の屯、浮浪者も路上に付いている。

そんな所にひとりで行った!?と思うも、原因は自分 と収めた。






翌日の夕方。

自分の部屋から出て来たエヴァを見てアリオンとサファイアは、何でそれ?と言った。

エヴァは『キエーラ』に出勤していたときの格好。

ノーメイクに眼鏡を掛けて髪は後ろひとつに纏め―ジーンズとTシャツはこんなこともあろうかと洗濯せずに取っておいたと言わんばかりの汚い服装。

どこでそんな服を?と質問したアリオンに、古着屋は役に立つ。と言って続ける。

「帰りにちょっと寄りたいところがあるの」

「眼鏡までするなんて『キエーラ』の誰かと会うの?」

訊いたのはサファイア。






ALLIONもくじ ALLION【377】につづく。




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ALLION【375】ヴァイオリンなんか知らない

2010-05-17 | 4-1 ALLION




 ALLION【375】 


「自分ひとりの栄光なんて歓喜しない。頑張った出来ました はい
 終わり。頑張ったら誰かが喜んでくれるから頑張る?アリオンは
 そうじゃない、そんなところにいない」

自分を見て了承してくれてるエヴァの愛の思いの丈が―アリオンに流れ込んで来る。

「 ...僕の歓喜の中に一緒にいてくれる」

「取り込まれてあげる。アリオンが嫌がっても」

再び抱きしめて来るアリオンにエヴァは共鳴して笑った。

「 ...何でそんなことを」

「今年130歳。今になったけど見えたの。今になっごめんなさい」

アリオンはエヴァの顔を見てまた笑った。

「僕を愛してないかもしれないという気持ちは」

「そんなこと言ったの私?言ってないわ?」

アリオンは今までの色々なことが頭に流れ込んできて、その中でも一層寂しさとその反対が押し寄せてきて途端目を潤ませた。

「! ...アリオン、いるわよ、ここに」

アリオンはエヴァにしがみつくように抱いた。

力いっぱい抱き寄せて、その首に顔を埋めた。

「アリオン。自分が一流のフィドラーという地位に体重預けてその
 力量を大切するそれを魅せるに意味を置く、そんな程度の人なら
 幾らでもいる...それがナールのプロとか一流とかのフツウ。それ
 はそれで素晴らしい。それは彼らの精一杯。私は 人はその程度
 で終わりじゃないと思ってるの。それ以上の人じゃないと好きに
 なってない。ヴァイオリンじゃなくても。会社員でも経営者でも
 バイトでも自分の地位に...そう、自分はこういう者ですって人に
 自分を言うとき、フィドラーですって言わない人が好き」

「クリスティーナ... 」

「それがその人の全てではないのに、貴方の武器は何?僕の武器は
 って関係、そんなものでは、相手のこと判らないのに判ったもの
 として自分も相手にそれを楯に相手からの賞賛を欲しがる。そう
 いうの寂しいの。私」

「 ...うん」

「アリオンはヴァイオリンを スルコト として表面の賞賛は多く
 得て来たけど、それで幸福と自分を自分で騙せないでしょ?他の
 人たちのように。そんな人たちは実の詰まった数多くの愛を取り
 逃がしてる、のに、そのせいで余計寂しいのに、賞賛の量を幸せ
 の秤にするしかなくて幸のフリ。私はアリオンからヴァイオリン
 を取り払ってた。私はアリオンのヴァイオリンなんか知らない」

「 ...それは」

「そう言う私はアリオンから干される?」

「何でそんなに僕のことを知って...!厭だ干さない、頼むから」

幼少からのアリオンの渇きをエヴァの言葉が潤す。

アリオンは自分でそこに迫って自ら足を取られた。

心の底からエヴァを手放したくない その懇願はエヴァに届く。

エヴァは自分を愛しく抱き締めて来るアリオンに色香を感じた。

けれど今は...。

甘い蜂蜜は毎日ではない方が甘く感じる。

私を繋ぎとめているのは アリオンだわ?

私の方が...それを恐れてるのに。

エヴァはアリオンに抱きついた。

返事を聞きたがるアリオンにエヴァはその胸でこっそり囁いた。






エヴァが自分の許に戻って来たことで自信をつけたのか、疑わしいことを即払拭したがったのか、アリオンは朝食のテーブルについてからエヴァに、ユリウスは?リッツは?『キエーラ』は?と矢継早に訊いて来る。

アリオンを全面的に 私が愛する と決めたエヴァは正直。

「 ...なら『シシィ』以外の外界と完全に縁を切った?」

「そう。私が悪かったの。アリオンに安心してたのは私だから
 あ、その話はよしましょ?またアリオンがガタガタ言い出す」

「あっはは。酷いなあ、僕だっ」

「いいからっ!でね、それでも『シシィ』で実体晒す気はないから
 『シシィ』社長は今までと変わらずパーティーくらい。サもルも
 友だち作って遊ぶ気ないから毎日家に居て夫の帰りを待つ奥さん
 ...もっとアリオンと居たい」

「それは」

期待爛々の瞳で見詰めてくるアリオンにエヴァがくすっと笑う。

「会社まで付いていかないわ?公演旅行やコンサートは行く」

「本当に?!...嬉しい」

アリオンは横に座っているエヴァを抱き締めた。






ALLIONもくじ ALLION【376】につづく。




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ALLION【374】祝い分かち合う

2010-05-17 | 4-1 ALLION




 ALLION【374】 


自分の部屋に戻ると入口の小さい間接照明を点けて読み掛けだった雑誌を探した。

探し出してそれを手に真っ暗な部屋の奥に進み、ベッドの足元の方にあるスタンドを点けてベッドに腰掛けた。

灯の下、布団の上に横になった―布団の中に違和感を感じた。

「!」

枕元に手を伸ばしてライトを点け、バッ!と布団を剥いだ。

「クリスティーナっ?!」

いつものパジャマでアリオンに後ろ向きに熟睡中のエヴァ。

突然布団剥がされて―寒さ感じて、叫ばれ揺らされて跳ね起きた。

「あっ...やだ...寝てた... 」

エヴァはアリオンの姿を確認するとまた横になった。

アリオンは心臓が止まるかと思うほど嬉しかったが、エヴァがどういうつもりなのかがわからなくて戸惑った。

「 ...クリスティーナ...どうして」

エヴァはくるっとこちらを向いて布団を抱きかかえて笑った。

「遅いっ何してたの」

「え」

「私、今夜はアリオン追っかけしてた。コンサート観たわ?
 先回りして驚かそうと思ってたのに寝ちゃった、もうっ!」

アリオンは総身全霊、力が抜けていく。

ベッド脇から体がずれて、ずれながら両手でベッドに縋って終には床にへたり込むように座り込んだ。

「やだ、そんなにっ!」

途端アリオンが倒れたように見えたエヴァは、沈み行くアリオンの両腕を両手で掴んだ。

そのとき、エヴァを見たアリオンの顔が何とも困ったようで照れているようで情けないようで、今にも泣き出しそうで―嬉しくなってドキリとした。

アリオン...。

本当にアリオンは何かを堪えて目が潤んでる。

耐えられなくなったのか、俯いて下を向いた。

水の玉を滴らせる黒髪がエヴァの手に触れた。

エヴァはアリオンの着ていたローブのフードを頭に被せて、濡れてる!とタオル生地でぐしゃっと拭いた。

心臓の鼓動が信じられないほど高揚して胸が熱くて痛い。

それが収まるよう、アリオンはじっとしていた。

長くは待って貰えずアリオンの両腕はエヴァに引っ張られた。

「重いっ、そんなとこ座ってないでこっちに来て!」

反射的に体上げてアリオンはベッドにエヴァの体を倒し込んだ。

エヴァはそれを嬉しがって抱き返す。

直ぐに自分を制御する自意識も何もかもが飛んで行った。

肌に触れるクリスティーナの香が心地いい。






翌朝―アリオンが目を覚ましたとき、エヴァが笑った。

クリスティーナ...これは現実なんだ...。

夕べの歓喜から続いて明るくなった部屋の朝日の中。

夢ではないかと疑うが、安心が先に来て再び抱いた。

「 ...時間切れだと言われる前に訊いた。もう行かないで」

「今しかないならこんなに愛してくれる?」

「クリスティーナ、違う、毎日思う。愛してる」

「アリオン...ね、F1で命懸けのレースして優勝しました
 ヴァイオリンだとそれしかイメージしないから違う譬」

「 ...うん」

「表彰台に上がって優勝祝われる自分も嬉しい。チーム全体嬉しい
 ファンも嬉しい。皆で最高よ?けど、優勝した自分の歓喜と同じ
 くらい歓喜の人はいない。誰も、そこまでの歓喜は、わからない
 それはとても寂しい。けど、そこ気づかない優勝者は多い。人に
 祝われ世界中から脚光浴びて、今生これ以上ないと言うほど凄く
 嬉しいと思う。アリオンはそんなものは求めていない」

「 ...クリスティーナ」

「優勝しても成功得ても面白くないわ?私が横にいないと!」

アリオンは笑って―エヴァを抱き締めた。






ALLIONもくじ ALLION【375】につづく。




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ALLION【373】貴方こそ

2010-05-17 | 4-1 ALLION




 ALLION【373】 


「それで?他に何したの?」

「身が切れる思いだよ、何もしてない」

「それで耐えられなくて避けたのね?中学頃から」

「 ...横に居られないよ、神々しくて」

「そう言っとく。泣いて喜ぶわきっと」

「やめてくれよ、知らなくていい記憶はそのままに」

「うん、それを言ったら精霊も消えそうだから言わない。そうじゃ
 なくてベルールがアリオンを避けていた謎。アリオンに深い謎」

「あ.......うん」

もしかして、ベルールのソレはアンリの言ってた話と同じ?

エヴァは思い当たって少し微笑ましかった。

しかし、笑が零れた奥底で寂しさに泣く少年の声がした。

ヴァイオリン少年は大人たちに完全に取り囲まれていた。

力抜いて蓋して考えることから逃れるしか出来なかった。

寂しさの共鳴はアリオンを縛り付ける。

今更ながらゼレンカとの流れがわかる。

アリオン自身が依るとこないじゃない。

ギーガ...1年以上は辛いって...そんなもんじゃなかった。

...参ったわ。

貴方こそ私が幸せになってと願った子供だったなんて...!






その夜、アリオンはコンサートを終えて―自宅。

始終アリオンについているダンタリオンが玄関先でアリオンを降ろして運転席に乗ったまま、もう寝るのか?と訊いた。

「いや、何か?」

「腹減ってないか?作るけど。パーティーなしで戻ったから」

「ありがとう。うんいいよ、寝てくれ。お疲れさま」

「いやいや、アリオンこそ!すばらしかった!」

アリオンはダンタリオンに照れ臭そうに笑って、おやすみ。と交わして車庫に向う自分の車を見送った。

「おかえり。アリオン」

サファイアが玄関先に迎えに出ていた。

「サファイア...ただいま」

「家に着いた途端、元気ないね?」

「 ...あるわけないだろ。誰も居ないのに」

「俺がいる」

アリオンは偉そうに言ったサファイアに笑った。

アリオンにとってヴァイオリンはモードが違う。

演奏はアリオンに何があろうとアリオンの精神を蝕まない。

家に戻って灯いっぱいの玄関ホールに入ってもサファイアに明るく迎えられてもダンタリオンに嬉しい言葉を声掛けれても―クリスティーナはいない。

あれから毎日がそうだった。






サファイアとリビングに入ってスーツの上着を渡し、そして、おやすみ。と言ってアリオンはバスルームに行った。

シャワーを浴びて裸にバスローブを羽織ったまま自分の部屋に入ったが、今日もまた空気の沈んだ世界。

何とも侘しい。

ひとつため息をついて―Uターンして部屋を出た。

キッチンに行って冷蔵庫からビールを出した。

キッチンの椅子に座り込んでグラスに注いでビールを飲む。

黒髪も足もまだシャワーの水滴に濡れていた。

さっきまでのコンサート会場の華やかな賑わいの記憶が静寂の中に蘇ってきて―耳に痛い。

君がいたら力出し切った栄華を一緒に沸いて祝えた。

控室だって一緒だった.......僕が悪い。

こんな日は寝つきが悪い。






ALLIONもくじ ALLION【374】につづく。




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ALLION【372】アリオンに宿る精霊

2010-05-17 | 4-1 ALLION




 ALLION【372】 


「ここにアリオンはいないけど、アリオンにお祝い」

ベルールはビールのカクテルを作ってエヴァに渡して言った。

「ふふ、アリオン、おめでとう!」

「明らかに違うアリオン、何か超越?君と結婚したからか」

「ふふ。だといいわね」

「何?他人事みたい。旦那なのに...より戻ったんだろ?」

「そうだけど...ベルールだって自分の描きたい人生描くため
 わざわざ家出 でしょう?そして、成功してる。ステキよ」

「俺は実際どうなりたいとかないからなあ...サは厭だってだけで...
 アリオンはヴァイオリンと音楽以外何もしない?一緒に暮らして
 そんなアリオンが好きなのか、クリスティーナも令嬢だし」

「何が言いたいの?」

「僕は食事ひとつ作れないヤツどうよって思うから」

「ね、アリオンを非難し出したらそれだけでは済まないわ?」

「はは、言うねえ」

「ベルールはアリオンと本当の兄弟みたい
 に仲良かったんでしょ?どうだったの?」

「それは.......僕はアリオンを置き去りにしたから」

「それ何?何か告白?」

「そう。アリオンは記憶ないから俺が話す」

「記憶がない?」

「アリオンは俺を慕ってて俺も可愛いがってた。でもオヤジは
 アリオンだけ特別に扱う。ヴァイオリンのために必死で養子」

「え、養子...?」

「オヤジは大金積んだ。アリオンの親に。アリオンは知らないのか
 どうか、この話はしたことないけど。や、多分、知ったから家を
 出たんだと思う。クリスティーナにも過去は封印したいのかな」

「 ...封印?」

「オヤジの家を出て以後は僕と同じで誰も寄せ付けない。それで僕
 とアリオンが助け合わないのも難、僕はアリオンに嫉妬羨望した
 ままだからね?助けるなんて...僕の方が、小さいときから救われ
 たいと願っていたのだから」

「 ...やんちゃね?何したの?」

「だから置き去り。バカンスでスワニー島に行ったとき
 別荘の裏山にふたりで行って...俺だけ帰ってきたんだ」

「子供は酷ね...でも、助けに行ったんでしょ」

え...ああ...それもまた酷い仕打ちだよ。

そのまま人買にでもさらわれてしまえって思ったけど夜になりそうな黄昏時になって怖くなった俺は探しに行った。大人たちはその日はパーティーで夜まで帰って来ないし、大変なことになる前にってやっぱり怖くなって。

見つけたとき、アリオンは、俺と逸れてからずっと俺がアリオンを探してたと思って大泣きで大感謝された。猛省した。

それ以来、アリオンには勝てねえ と観念した。

翌日7歳のアリオンは今夜と同じ演目公演。

それを...今夜の演奏中 思い出してた。

「そう...7歳?」

「アリオンにはフツウのことだ。翌日は華麗だと大人たち皆が言う
 俺はアリオンは選ばれた子で、置き去りにされた山の中で神様に
 会ったんだろうってことにして事件も罪も封印した」

「 ...。」

「アリオンはすっかり憶えていないよ、この話」

「 ...憶えている」

「クリスティーナ?」

「うふふ、きっと憶えていないけど憶えてる。記憶じゃなくて感覚
 それで勿論ベルールがそんなことしたなんて思ってなくて精霊と
 融合 みたいなイメージの中にいて... 」

「あ.......本当に」

「精霊...そうよ、人じゃない気がした」

「クリスティーナと結婚して幸せだからだ」

「寂しいからよ」

「え」

「寂しいと人は意識が遠退く。それで神と融合するから」

「あはは、芸術家の妻らしい。そういうのわかって
 喧嘩だった?アリオンに何かしたの?今夜までに」

「あはは、いいえ?」

「そう?...でも、クリスティーナ、この話は
 別に僕を庇ってくれとは言ってない、ただ」

「ベルール、それも上昇だったのよ、アリオンの。アリオン
 も本気でベルールに感謝した。7歳でナマイキもいいとこ」

「クリスティーナ... 」






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ALLION【371】予想なくベルール

2010-05-17 | 4-1 ALLION




 ALLION【371】 


外に出ても言い合ったが、リッツは諦め、サジする場所を探そう、それともメシ食って帰る?と言った。

そのとき、クリスティーナ?と声を掛けられた。

振り向くとタキシードを着たベルール。

ベルールがここにいる不思議はないが、予期していなかった。

しかし、ベルールの方がずっと驚いていた。

「クリスティーナ、足をどうしたんだ?それにどうして
 控室じゃなくてここに?それに、、、一緒に居る彼は」

あ...そうだった。ベルールはリッツを知ってる。

「話すと長いわ?今夜はほら大盛況だから控室は行かない!」

ベルールは、そう。と返しながら訝しくリッツを見ている。

「彼はリッツ、って知ってるわね?アリオンも知ってるの
 あの後ちょっと縁があって、それで今夜は私と同伴なの」

「先日はどうも、その節は... 」

リッツは爽やかに笑ってベルールに握手を求めた。

ベルールは納得行かないながらも紳士らしくそれに応えた。

「お気づきの通り、クリスティーナは今足を負傷中...だから
 アリオンに代って俺が同伴です。アリオンのステージだし」

ふざけられているのか真面目に応えられているのか、リッツを理解しかねてベルールは笑えない。

「車?そっちは駐車場じゃない。タクシー
 は簡単に捕まらない。家まで俺が送ろう」

感激したリッツをエヴァは睨んだ。

「あ、じゃあ私ベルールの部屋に行っていい?」

エヴァを止めたいリッツを制してエヴァは続けた。

「リッツは用があって今別れるところだったの、ほら、アリオンは
 忙しくって、トランクをまだ取りに行ってないから。私が行くわ
 ベルールが用事あるなら遠慮するけど」

ベルールは満更でもない顔をした。

「僕は構わないよ、けど、リッツは、」

「リッツは迎えが来るの、ツレが」

リッツは何も言えなくなって従うしかなかった。が
エヴァをベルールから少し遠ざけて、小声で言った。

『わかったよっけど二度とベルールの部屋に泊まるな?
 んでちゃんとしっかり家に送って貰え。わかったな?』

『ベルールの部屋には泊まらない』

リッツはベルールにエヴァを渡して―ふたりの前から消えた。

「クリスティーナ、大丈夫?車まで歩ける?」

エヴァは、平気よ。と言って笑って人並みに歩き出す。

「 ...今夜のアリオンにはかなりやられたね」

「ふふ。そうね」

「 ...その...アリオンと結婚なんて驚いた」

「ね、彼は有名人、自由に出来なくて」

「君も相当な地位の人だけど?」

「一般には有名じゃないわ」

「そう、僕もそれがイヤだった」

「まだジオルグは着てないの?」

「電話があった。君のお蔭かアリオンのお蔭か
 それだけで済ませてくれた、一度家に行った」

「雪解けしたのね?よかった」

「 ...まあ、複雑だけど」

「みんな、上昇してるのよ。その場に止まらず」

「 ...上昇...その足も?結婚詐欺師も?」

「うん、ふふ。そうよ?何でも!」






まだ家に帰る気なんかなかったからああ言うしかなかった。

けど、本当にトランク持って帰ったら...アリオンが取りに来て私が持って帰ったってわかったら...。

タキシードのベルールのサらしからぬ量販車に乗っている間中、迷って、やっぱり途中で蒸けよう!と思ったが、既にラルゴ街。

ラルゴ街をドレスで歩けば目立つ―クレソンの目に入った。

どうしよ。と迷っている間に次予定も定まってないからベルールの部屋―観念した。






ALLIONもくじ ALLION【372】につづく。




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ALLION【370】余韻の中

2010-05-17 | 4-1 ALLION




 ALLION【370】 


これは...アリオンじゃない。

てかナニこの透明っ!と拍手せず顔を見合わせた。

拍手鳴り止まず、誰一人も席を立たない。

エヴァもリッツも彷彿としていた。

暫くして再びアリオンがステージに出て会場は怒涛喝采。

今夜のアリオンはトークをしないでにこやかに笑う。

体力も精神も使い果たしただろうに、その余裕は洒落のつもりか、カプリースNO.24―違う...会場の期待に応えたんだわ。

コンチェルトの後に味わう難曲カプリースがどこか甘く香る。

そして、アンコールの小曲を数曲披露すると―緞帳が下りた。

会場席の照明がぱあっと点いて―客は追い出される。

エヴァとリッツも彷彿続いて―話も出来ずにロビーに出た。






芋洗状態のロビーでは手を繋いでいないとお互い迷子になる。

リッツがエヴァの手を引いてロビー隅から裏口に続く廊下に入る―スタッフの往来多かったが、ロビーよりマシで人に揉まれる労から避難出来た。

「言葉にならないけど...今夜のアリオン」

「 ...うん」

「な、あんな、曲じゃないもの、や、何と言う?人の意識からかけ
 離れたパガニーニがこれでもかって聖域を目指したそういう世界
 譜面どおりは巧いだ。巧いってのは巧いそれだけだ。コンクール
 数々賞掻っ攫ってヴァイオリニストになったら芸術もテクも最高
 に素晴らしい巧い。今のは巧い素晴らしいじゃない...バカ領域」

「バカね。あはは」

「で、何で今回パガニーニ選曲だっと思う?これは
 アリオンが希望した、今はこれしか出来ないって」

「え」

「いや違う。アリオンにしてみたらそんな言い方だけど
 気持ちは、今なら、これが本当に弾けるってことかと」

「 ...何ヨそれ」

「無心だよ、いや違う、空だ。生そのものそれが要るから
 パガニーニは、曲なんかじゃなくて音楽そのものだから」

「アリオンは本当のところはヴァイオリンに関して生活の何も
 影響を受けないわ?だから私だって安心して逃げ出せた... 」

「俺は違うと思う。エヴァの放蕩を
 アリオンは光星(攻勢)に変えた」

「それは私関係なくいつも」

「のな、クルーじゃないんだからいくら天稟神童天才だと言われて
 きた言われるアリオンでもナールだ、今の演奏っ。あそこまでの
 空なんか届くか」

「リッツ... 」

「俺が言いたいのはここまで昇ったアリオンを見て、俺から言われ
 なくても、がーんって着てるくせにまだ放置?何で今俺といる?
 控室行けよ」

「ばばあの付き添いがそんなに厭?」

「何だその意地?張り詰めた弦がぶちきれるまで?」

「わかってるならギリギリの極限まで付き合えば?」

「お前なあ、目一杯極限だと思うけど...今のアリオンの演奏」

「わたし、撓みの加減のいいアリオン、はじめて見た」

「クリスティーナ、」

「そのアリオンを温めたいの。今はまだ」

「 ...そう。自虐にしか見えないけど」

「黙って?折角の余韻が台無し」

「はいはい。そんなのクリスティーナには十分だ」

「帰りましょう?」

「えっ、帰んの?」

「そうよ、リッツの部屋に!」

「 ...わかんねえオンナだな」

「いいの、私はディノウヴォウにいることになってるし」

「戻ってきたで済むだ」

「何時までも喧しいうるさい。行くわよ」

リッツはすたすた歩き出したエヴァを観て、いつの間にそんな義足の使い手になった...早えっ!と言いながら後を追った。






ALLIONもくじ ALLION【371】につづく。




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ALLION【369】6月の終わり

2010-05-17 | 4-1 ALLION




 ALLION【369】 


6月も終わろうとする頃―エヴァは地上に降りた。

船長室ではクリア機能があったせいで気づかなかった。

不自由してなかったつもりだったが、義足では体を動かすのもヘンに力が入って酷使されて筋肉痛。

体の痛みに丁寧に向き合って揉み解すエヴァをリッツが見かねて、毎晩マッサージ師。

「 ...ったいっ!」

「だったら足治すかクリア機使う」

エヴァを伏せて背中を擦り解しながらリッツが笑う。

「家にいて家事しただけで毎日筋肉痛なんて阿呆だ」

「彼の地、シベリアからの全身の緊張で」

「御託はいいぞ?過去の話じゃない」

「 ...うう...もっと優しくしてっ!」

「筋肉痛見せられないわ?とか何とか
 理由にして戻らないつもりかエヴァ」

「何ヨそれ、」

「こういうことってアリオンにして貰うべき
 ために足治さずクリア機使わない。ステキ」

「そんなことじゃな、いっ、痛いってっ!」

「こんなに優しく触ってるのに痛いなんて重傷だよ
 いっぺんクリアする?これじゃあ本当にばばあだ」

「いいの。フツウ肉体ならフツウに自己治癒する」

「そう...けどそれ何のための努力?つか、意地?」

「船の中での私のログ、全部知ってるんでしょ?」

「だから訊いてる。地上に降りたらここじゃなくてあっちに
 行くと思ってた。しかも数日経ってる。いつまで俺といる」

「悪かったわね?嫁に行かない妹で」

「マリアでは妹じゃない。で、今夜は俺とデート行こ」

「はあ?...ばばあとデート?」

「ああ。この老体ではひとりでは行かせられない」

「リッツ... 」

その夜はマリアでアリオンのオケ・コンサート。

エヴァはひとりで行くつもりだったが、それも迷っていた。

チケットは買ってないし控室を訊ねるのも戸惑う。

今、リッツがエヴァにそのチケットを渡した。

「今夜はパガニーニのヴァイオリンコンチェルトだ
 アリオンじゃなくても俺は行くよ。難曲は楽しい」

「リッツも、」

「船長と付き合い長いせいで芸術も仕込まれた。結婚詐欺師
 にはうってつけ必需アイテム。クラッシックとか絵画とか」

「あはは!」






午後、エヴァはタキシードのリッツにエスコートされて、マリアで一番大きなコンサートホールに足を運んだ。

このホールで古典演目の客層は殆どサ―多くの人を呼んでいた。

今のアリオンはクラッシックに留まらずメジャーになって公演旅行も遑ないほど著名ではスケジュールに詰められたリサイタルも即完売満員の上にゲスト依頼も増える。

そんな忙殺の中の大きなコンサート。

アリオンと暮らしながら、ヴァイオリニストの生活を未だ知らないエヴァは、一体いつヴァイオリンを弾いてコンサートに備えてる?と首を傾げてしまう。

まあ、アリオンにとってはどんな曲もちょうちょを弾くようなものだから練習ゼロでも完璧なのね。ということにした。

古典に無知、本当はクラッシックや音楽興味ないと言う客層はただアリオン・シャイアを見たいだけだが、そうではない客層サは派手に人気広まったアリオンに厳しい目で評価しようと今までと変わらず素晴らしい演奏の期待半分いい演奏など出来ないだろう半分。

アリオンは彼らの素晴らしい演奏という期待をいい意味で裏切った―今までにそんな演奏を味わったことがない。

アリオンが奏者ではなく音楽そのものに見紛う。

演奏が終了して、それのわかった人たちは感激ため息する中、言葉も意識も失って拍手すら忘れた。

湧き上がる拍手の中で我に返って一斉に喝采が起こった。

会場席の一等からアリオンを見ていたエヴァもリッツも感激すら遠退くほどアリオンに惹き込まれていた。






ALLIONもくじ ALLION【370】につづく。




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ALLION【368】ただ居ることは難しいね

2010-05-17 | 4-1 ALLION




 ALLION【368】 


船長はエヴァのその果てない底ない視野に掴みを得ない。

僕たちクルーもだ。不安になる、自分を見てくれてるか。

「え...?」

「僕たち動くからエヴァは僕たちを見ていて欲しい...と」

「私が動いたら全体が壊れてしまう?」

「そう思うのもいいかも。絶対的に求めるのは動のための源だから
 尤も女はそんなことは知ったこっちゃない。それでいい。けれど
 知ってて欲しい。知らないとまたこんがらがる」

アンリはエヴァに優しく笑った。

「女性はそこに居るだけ でいいんだよ
 男が動く。居てくれるから動けるんだ」

「アンリ... 」

「女性はみんなそうだ。バカなこと許してくれて笑ってくれるから
 喜んで明るく華やいでくれるために男は頑張る。それで華蔵の手
 にかかって破産したりね?男はそれを恨んだりしない。横に居て
 くれるだけで幸せだったから」

「『ライオネル』もまた... 」

「『ライオネル』はナールの性産業とは違うよ。龍香と客は人生を
 共に愉しむ。そういうことの通じないナールは客にしない。でも
 ナールだから高額価格の契約」

「スワニー島みたいね?あれもギーガとラキスが咬んでる」

男に愛されて男を満たし男に安心注いで満ちた女は有り余る時間が出来る。時間が出来ると雅が生まれる。それは愛になる。

そしてはじめて心から家事が出来るようになる。料理や掃除、声掛けて相手を気遣い労う誠。それから子育て...安心から来るもの。

男は家事を女にして欲しいなんて思ってない。男がする!華に汗などナンセンス!家事は女が愛されることから出来る思いやり。男は自分を見てくれてる綺麗な華を相手に見る。華は尽くす。上昇ばかりで果てない家庭の愛。豊かな心の子供が育まれる。

そんな家庭のどこに不満や愚痴文句、トラブルが起こるだろう。

イッコの家庭からそれが広がって世界中が愛の関係になる。
困っている人がいたら、それは我が子であり、パートナー。
愛し守り励ます。全世界が家族。大地も天空もどこも誰も。

人はその根源にいつか気付く。清い循環はもう直ぐ来る。

「祈る...。」

「祈る、空想、イメージ が 動くこと だ。それがナールの世を
 清潔な方向に変えるエネルギーであり、本当の勇気であり、勇者
 エヴァはここにただ居る...居ることはとても難しいね」

アンリは笑う。

僕たちは365日24時間その世界を祈ってる。表で動くことと言えばテーブルにお茶の入ったカップがあって、それが何かの拍子にテーブルに零れたから布で拭いて片付けて元に戻しているだけ。

3つのヒントしか仕掛けていない。統一と適材適所と星間感覚。

統一と適材適所は傾いたカップを元に戻すこと、星間感覚はテーブルを拭いた布、綺麗なテーブルに戻す...片付けるのはこれから。

ナールがいつまでも手放さない趣味は?

「 ...諍い」

それが苦手で嫌いなら省くよね。

ひとり残らず、自分の仕出かしたオトシマエは自分でつけるべき。

いやなら気付けばいい。いやだっていうことに。

気付いた人たちは諍いを手放して愛を叡智るラキス。

みんな目が見えないまま。とても簡単なことなのに。

でもね、エヴァ。その前に、エヴァが僕たちを見て?

「 ...安心出来ないって?」

「アリオンだって」

「 ...うん」

「嬉しいとか感謝するとか、アリオンに蔑ろ過ぎ」

「 ...アンリ」

「ほら、そういうのって自分よりも大きく遠大で尊敬したり憧れて
 それがやっと手に届いた時に発生する素敵な気持ちだろ?比べて
 っていうのもまた違うけど、その人に届きたいとか自分の存在に
 気付いて欲しいとか相手の人生に割り込みたいとか、それ叶った
 とき...エヴァ、求めてないもんそれ」

「あ― 」

「可愛くないよ。無粋で即物的だけだったら」

「え...ショック。待ってよ、整理するから!」

「エヴァが何をどうしようと何も間違ってない」

「 ...え...腹立つ」

「あはは!」

その間、エヴァはリツコのウエディングドレスを離さなかった。
イーギンとリツコの幸せな映像が ずっとエヴァを包んでいた。

その中にアンリが滑るように入って来た。
エヴァの中にあった最後の砦が壊された。

色々理由連ねても会っていたいし触れていたい。






ALLIONもくじ ALLION【369】につづく。




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ALLION【367】中和、中庸、和合

2010-05-17 | 4-1 ALLION




 ALLION【367】 


アンリの部屋ではアンリがエヴァに訊く。

「エヴァ、何で害虫?どうしたの?」

エヴァはウエディングドレスを手にうっとりしてそんな話は他人事だったが、そうね、どうしたのかしら。と話し出した。

「今はギーガが横に居ても、愛されても、嬉しくないの
 正直言うと...アリオンもなのよ。どうして?か判る?」

「え.......どうしてって...僕に訊く?」

「わかるでしょ?どうしたら落ち着けるのかわからないの」

「そうだなあ...エヴァはエマと似てるのかな...当時のエマと」

「エマと?それ凄っく嬉しいんだけど?」

「似てるのは...欲しいと思ってない、や、欲しい.と思っていたけど
 いつの間にか手の内にあって、今手に入った、になったけど既に
 手の内にあったこと知っているから、嬉しいという感情にピンと
 来てないというか...そこに起こる嬉しい気持ち、表面嗜好の沸騰
 のことね?その沸点を迎えないまま消化不良。嬉しいと思うはず
 なのに、そうならない自分がおかしい?と思ってしまう。時間が
 流れれば、物質なら風化して消え行く、人は死に行く、感情なら
 変化を伴って幾度もあらゆるカタチ変化繰り返す...エヴァはそれ
 を知っていてそこに執着を見ず、くっ付いても削ぎ落とし剥取る
 まで知ってる。傍にあるものの時間と共に流れ行く様それをその
 まま自我介入なく放置。を知ってる」

「むう」

「だからこんなに長い間、100年ひとりで居れたんだ。けど.船長も
 イーギンも...僕たち皆に見守られてることも了承の上だ。それは
 ひとりで居ること出来るための信頼と安心のことだよ」

「アリオンとも、」

「うん、解るよ、そこで困ってるんだね?でも、僕たち
 はエヴァのそれをわかるけど、アリオンはわからない」

「 ...んんっ」

「確かに恋人が横に居てもひとりの男性に愛されても自分が相手を
 どんなに愛しても、地上...世界がこのままでは完全な幸せを感じ
 ない。それは解る。自分ひとり幸せで嬉しくてもちっとも嬉しく
 ない。自分の存在が嘘に見える」

「共鳴できる友だちいなくて寂しい」

「アリオンには理解不能。けど、エヴァは相手の望みを叶えること
 が出来る。無償で だよっ。自分が寂しい判んない と思う前に
 アリオンと満たされる関係になりなよ。エヴァが満たすんだ」

「え゛え゛え...判ってるわよそれ...でもぅ... 」

僕は船長に出会って それを知った。
自分を捨てて船長の全てを甘受した。

だから、その寂しさは知ってる。

所詮、男なんてどう転んでも女の前方収穫能力には敵わないけど。

女は遊び心なく無粋だけど、男は女がそれだからこそ、そんな女に守られて伸び伸び邁進出来て―そうして陰陽、男女、天地、白黒...生命は正しく清く澱みなく循環する。

(過去の地球、アシュケナージがそれが崩壊するよう男女
 平等洗脳してたから地球も人も滅茶苦茶になってたけど)

【真夜中の騎士】の主がエヴァなのはよくわかる。

「 ...。」

「エヴァは揺れてない。だから困ってる?ふふ。今までナール圏に
 居て今ここで揺れないで済む突然の実感を船長に感じてちょっと
 不具合を感じてるだけだ。それから...船長を愛してるというより
 船長にむかつく」

「 ...クルー皆にも腹立つ」

でも、船長の視界よりエヴァの方がずっと果てなしだって。

船長は、いや、男なんて個人埋没多い。

だから、男は数が要るんだ。女王ひとりに働き蜂は無数って。
男の器はよく見れば狭い。ママの視界範囲で遊んでるような。

女はもともと遠大だし見守る平和が好きだから、そうでないことは気にも留めないししない。

男たちは、自分見て!とママに言う、自分はおっきいサイズ
と言いたがる。大きければママの視野に無理矢理入れるから。
そしてある日、月に行くとか何とか大きいことを現実と思う。

ママは...女は、バカらしい と一笑。

何故そんなバカなことをして嬉しいのかわからない。平和で安心してる方が好きだから。絶対的安心を知ってるし確実に持ってるから。女=安心。外せない。

そんなことして何になる?ママに見て欲しいから て言えない。

男と女はお互いにハテナのままだ。

それでいいんだよ。本来当たり前の関係。

女が男の真似をするからおかしくなったしその逆も。
性が違うとは極致同士でバランスを取るということ。

昼夜、プラスとマイナスのバランス、その中和、中庸、和合。
この世に有である極致同士のバランスを自分から崩せばそれ
イッコ崩れただけであっという間に世界中何もかも破綻する。

極致の何が良い悪いじゃなくて認め合えれば和。

認め合うことが地上のナールにない。






ALLIONもくじ ALLION【368】につづく。




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