Rural Pulmonologist

読んだ論文のまとめなど

アナフィラキシーへステロイド

2015-10-14 23:07:25 | 救急

アナフィラキシーで使う薬と言えば?

と聞くと、研修医の先生からは良く、ステロイド!と返ってくる。
そうだね、ステロイドは使うけれど、一番大事なのはアドレナリンだよ。
これを使うのはABCDの患者さんだよね、などと話をしてアナフィラキシーの臨床は進んでいく。

Ann Emerg Med. 2015 Oct;66(4):381-9. doi: 10.1016/j.annemergmed.2015.03.003. Epub 2015 Mar 25.
Emergency Department Corticosteroid Use for Allergy or Anaphylaxis Is Not Associated With Decreased Relapses.
Grunau BE, et al.

ステロイドは使用に対するエビデンスは欠如しているにも関わらず、アレルギー反応で救急外来に搬送された患者のセカンドアタック予防目的で使用される。
2都市の救急外来に5年間で来院したアレルギー関連患者を調べ、アナフィラキシーとアレルギー反応に分類した。プライマリアウトカムはステロイド使用の可否に関わらず、アレルギー関連で7日以内に救急外来を再受診する事ととした。セカンダリアウトカムは臨床的に重要な2相性の反応と死亡とした。
473人のアナフィラキシーを含む2701人が救急外来に搬送された。48%はステロイドが投与された。救急外来の際受診はステロイド使用群で5.8%、ステロイド非使用群で6.7%(OR 0.91)であり、NNTは176であった。死亡はなかった。
結論として、アレルギーやアナフィラキシーで救急外来を受診した患者に対してステロイドを投与する事は7日以内の追加治療と関係性は乏しい。

基本的に、Sampson分類でGrade4以上の患者では2ndアタックに対する対応が必要とされており、監視目的での入院が推奨される。
最も重要な治療はアドレナリンであり、アドレナリンの投与が遅れると死亡率が上がる事は報告されています。ただ、アドレナリンを投与する、しないのRCTは倫理的に組むことが出来ず、明確なエビデンスではありません。

では、ステロイドはどうか。
J Allergy Clin Immunol Pract. 2014 May-Jun;2(3):281-7
この論文では541人のアナフィラキシーのうち、21人に2ndアタックが起こり、2ndアタックのなかった群の85%はステロイド投与を受けており、2ndアタックを起こした群の100%がステロイド投与を受けていた、となっている。
Ann Allergy Asthma Immunol. 2007 Jan;98(1):64-9.
この論文では20例の2ndアタックを起こした症例を検討しており、2ndアタックを起こさなかった群の55%がステロイド投与を受けていた一方で2ndアタックを起こした群では35%しかステロイド投与を受けていなかった、としている。

ステロイド投与は有効と信じている人たちと無効と信じている人たちの戦いのようになっている。

今後もステロイド投与をするかどうか。
短期投与なんで、副作用もそんなにある訳ではないけれど。。。

入院患者の解熱

2015-10-10 10:21:17 | 救急
Young P, et al
Acetaminophen for Fever in Critically Ill Patients with Suspected Infection.
N Engl J Med 2015, October 5

Abstract
背景
アセトアミノフェンは感染症が疑われたICU患者の発熱に対する一般的な治療であるが、その効果は不明である。

方法
発熱(体温≧38℃)かつ感染症あるいはその疑いのあるICU患者700例をICU退室、解熱、抗菌薬治療中止あるいは死亡となるまで、6時間ごとにアセトアミノフェン1g(未だ使ったことがないけれど、アセリオなんでしょうね)静脈内投与を受ける群とプラセボ群に無作為に割り付け。主要評価項目は、28日目までのICU free days(生存かつ集中治療の必要性がない日数)。

結果
28日時点でICU free daysはアセトアミノフェン群とプラセボ群とで有意差なし、アセトアミノフェン群で23日間 VS プラセボ群で22日間 であった。
アセトアミノフェン群で345例中55例、プラセボ群で344例中16.6%が90日までに死亡した(RR 0.96; 95%CI 0.66-1.39; p=0.84)。

結論
感染症疑いによる発熱の治療のためのアセトアミノフェンの早期導入はICU-free daysに影響を与えない。

内訳をみると、ほぼ100%が敗血症であり、重症敗血症、敗血症性ショックも多数いる。
年齢も若い!と言うほどではなく、57歳±17歳前後となっており、そんなものかな、と言う印象。
APCHEIIは少し低め?平均20以下。

FACE studyと言う日本と韓国での観察研究では解熱薬での死亡率増多はNSAIDsでOR 2.7程度、アセトアミノフェンでもOR 2.1程度と上昇知ることが指摘されてきた。現在、FACE IIが進んでおり、結果が待ち遠しい。

今回のこの論文の結果はどうとらえるべきなのだろうか。
・アセトアミノフェンを使用する事は予後を悪化させない
・解熱をさせても予後は悪化しない
・発熱していても予後は変わらない

解熱が治療の一部になるような、呼吸仕事量の増大や頭部外傷などの頭蓋内圧亢進は解熱が治療の一部になる。

どんな薬でも副作用があり、予後を改善させない薬をわざわざ使用するのは。。。とも思うが。
なかなか、解熱薬Freeで!とは断言しにくいか。

面白い論文があった。
治療増刊号 2006年に、田坂先生が書かれたものである。

その中で、ミシガン大学関連の CS Mott Children’s hospitalのホームページの訳が掲載されていた。それをそのまま引用。

発熱に関する、良くある誤解 (噂~ 迷信 )と真実
1.迷信:発熱は有害である
真実:発熱は体の免疫システムを活性化する。発熱は生体の防御メカニズムの 1つである。発熱は、体が感染症と戦っている証であり、必要な子供にとっては、のぞましい反応である。以下に発熱の定義と意味を記載した。
37.8~39℃ 微熱 有益レベル。このレンジに保つように試みる。
39~40℃ 中等度の発熱。有益レベル
40℃以上 高熱。不快であるが有害ではない
40.6℃以上 高熱。細菌感染症のリスク大
42℃以上 重篤な高熱。発熱自体が有害である可能性がある

2.迷信:発熱は脳障害を来す。 40度以上の発熱は危険である。
真実:感染に伴う発熱で脳障害を来すことはない。 42度を超えると脳障害の可能性が出始める。このような過高熱は高温環境以外には生じにくい。

3.迷信:誰にも熱性けいれんは生じうる。発熱がそのきっかけである。
真実:熱性けいれんの素因をもつ小児は 4%である。

4.迷信:熱性けいれんは有害である。
真実:痙攣を見ていることは幾分怖いが、通常 5分以内にとまる。恒久的な障害を残すことはなく、発達障害、学習障害、てんかんへの移行が高いわけではない。

5.迷信:すべてのは発熱は解熱薬で下げるべきである。
真実:発熱は苦痛を伴う時にのみ解熱を図る。通常、 39~39.6℃以上の場合である。

6.迷信:治療をしないと熱は上がり続ける
真実:誤りである。脳の体温調節中枢が調整するので、感染症に伴う発熱は 40.6℃から41.1 ℃で止まる。

7.迷信:発熱は治療により平熱に復さなければならない。
真実:治療により 1.1~1.7℃下がれば良い。

8.迷信:高熱が続く (人為的に解熱ができない )ことは、重症疾患を意味する。
真実:ウイルス性疾患でも細菌感染でも、解熱薬に反応しない発熱を生じることはある。解熱薬に対する反応性は重症度と無関係である。

9.迷信:熱が高いほど重症である
真実:熱の高さと重症度は必ずしも相関しない。顔色などの見た目の悪さがより重症度を反映するものである。

10.迷信:正確な体温が最も大切である
真実:熱の高さよりも見た目や全身状態が重要である

11.迷信: 37.1~37.8℃は微熱である
真実:体温には日内変動があり、午後から夕方にかけて高くなる。微熱とは、 37.8~39度をいう

如何でしょうか。
非常に明確な返答ですよね。
もちろん、小児科であり、成人に全て合わせる事はできないですが、目安にはなるのではないでしょうか。