082:弾 行方祐美

弾奏に震へて止まぬ弦となり響けるばかり朝の外は

081:シェフ 行方祐美

シェフチェンコの『吟遊詩人』を開く日はいつも曇天　今気づきたり

080:夜 行方祐美

間夜を長く重ねて眠りゐつさくらが過ぎてつつじが咲いて

079:第 行方祐美

雨の夜を書きなづむとき思ひ出づ『江次第抄』ふと背より

078:指紋 行方祐美

おほ空に残さむか指紋桃の花さくらの花になほまた花水木

077:対 行方祐美

対馬音をしらざるままに過ぎきたりわれはひろらに楠の下

076:スーパー 行方祐美

試験管の傾度にこだはり持ちゐつつ背に触れよスーパーバイザー

075:微 行方祐美

微香あるゆふぐれの雨に晒すなり傘といふもの正に無防備

074:あとがき 行方祐美

晴天のあとがきとして降る雨かひと日のわれを部屋に籠もらせ

073:弁 行方祐美

代弁者ゐるやうに棚引く鯉のぼり縫ひ目なき天は四月に深い