前節までは、現在進行形で進んでいる研究戦略について述べました。これらに加えて、将来を見据えた次なる戦略が必要だと私は考えています。前述しましたが、アルツハイマー病モデルマウスをAβで免疫すると抗Aβ抗体が産生され、Aβ蓄積が抑制されることが報告されました。現在も臨床試験されているAβワクチンは、この結果に基づいたものです。しかし、最初の第二相臨床試験では、被験者の5パーセントが髄膜炎を発症し、患者さんが死亡したケースがあったため、治療は取り止めになりました。現在、より安全なワクチン療法の開発と治療が検討されています。
このワクチン療法が与えたインパクトと失望は、アルツハイマー病研究に警鐘を強く鳴らしたのだと私は解釈しています。マウスモデルで成功したことをいきなりヒトに応用したことは性急でした。よりヒトに近い動物モデル、すなわち、霊長類モデルが必要です。遺伝子改変霊長類作製に関する研究は、国内外で進んでいます。とくにコモンマーモセットは、高等霊長類でありながら、体重は300~400グラムと計量である上、約一年で成熟し、メスは年間四~六匹を出産することから有望な候補だとされています。
ただし、一年や二年で成果が得られる研究データではありませんから、長期的視野のもとに地道な努力を続ける必要があると思います。日本では、厚生労働省の研究において遺伝子改変霊長類に関する研究がすでに始められています。また、今後、組織を超えた共同研究が展開すれば素晴らしいことです。