6月7日2

2007年06月07日 | Weblog

コムスン処分 介護制度を食いものにするな (毎日新聞)
 介護の現場に驚きと困惑が広がっている。訪問介護最大手の「コムスン」が全国の施設設置で不正申請していたことがわかった。厚生労働省は同社に対し今後4年半、施設開設や更新を認めない処分を下した。

 大手の「ニチイ学館」や「ジャパンケアサービス」もすでに水増し請求などで東京都から業務改善命令を受けている。今回の処分でコムスンは介護事業所が5分の1に減るため経営にも影響が出そうだ。強引に顧客を集め、行政の警告を無視してきた経営姿勢がしっぺ返しを受けたのは当然の結果といえる。

 2年前の介護保険制度改正で、全国展開する介護事業者のどこか1カ所の施設でも不正があれば、すべての施設について監査を受ける仕組みが導入された。全国監査で他の施設に不正が見つかれば連動して処分される。厚労省は今回、初めてこの条項を適用した。

 介護現場には、利益至上企業が席巻するとまじめに取り組んでいる業者がはじき出される、という危機感が広がっていた。介護関係者の中には「一時的に混乱するにせよ、長い目で見たら悪い部位が全身に転移する前に切り取る措置は、介護保険制度を維持する上でいい」という見方すら出ている。

 問題は、同社の介護サービスを受けていた6万人とも言われる要介護高齢者への支援体制だ。介護の空白が生じるのは厳に避けなければならない。代替の事業者がカバーしてサービスを受け持つなど、官民一体で万全の態勢を整える必要がある。

 一つ心配なのは、これまで担当していた介護ヘルパーが交代すると、お年寄りが慣れるまで時間がかかる点だ。行き届いた配慮を望みたい。

 高齢社会を迎え、2000年の介護保険制度導入とともに、介護ビジネスは急成長した。数兆円の市場は、医療のような専門性を必要としないためさまざまな企業が参入した。コムスンも人材派遣業「グッドウィル・グループ」が出資して設立された。

 現在、介護認定を受けた439万人のうち介護サービスを利用している人は354万人。介護の総費用は7・4兆円(07年度予算)に膨らんでいる。2025年の高齢者人口はピークの3500万人にのぼると推計されている。

 パイの広がる介護現場に民間活力を導入してはみたものの、サービスの質や専門性の向上をそっちのけにして需要の掘り起こしに専念する事業者は後を絶たない。全国展開する事業所の新規指定を受ける際、勤務実態のない職員数を水増しして申請したり、本来なら介護保険の対象にならないサービスにも介護報酬を過大請求する。そのツケは結局、税金や保険料に回ってくる。

 介護業界にはビジネスモデルが確立していない。金もうけ主義がなじまない介護ビジネス市場に、悪貨が良貨を駆逐するような事態が起きるなら、未然に不正の抜け道をふさぐ介護保険制度の見直しも必要になってくる。


G8サミット 温暖化防止へ実質的前進を (毎日新聞)
 1年前には考えられなかった盛り上がりである。ドイツのハイリゲンダムで始まった主要国首脳会議(サミット)では、地球温暖化問題が最重要テーマとして注目を集めている。

 ひとつの背景には、国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)が今春公表した第4次報告書がある。

 地球温暖化の影響はすでにあちこちに表れている。このまま手をこまねいていると、水不足や洪水、生態系の破壊など、地球全体に悪影響が及ぶ。人類が直面する危機を、報告書はこれまでになくはっきりと描き出した。

 こうした分析と予測を前に、世界の動向は変化してきている。

 世界一の排出国である米国のブッシュ大統領は5月末、「08年末までに地球規模の長期的な排出削減目標を定める」との提案を発表した。今秋、中国やインドも含む主要排出国15カ国を集めた会議を米国で開くという。先進国に温室効果ガスの削減を義務付けた京都議定書から離脱し、批判を浴びてきたことを思うと、それなりの方向転換だ。

 具体的な数値目標設定には慎重で、どのような削減目標を策定するのかははっきりしない。それでも、温暖化対策に米国の参加が不可欠であることは間違いない。

 世界第2位の排出国である中国も、温暖化対策を盛り込んだ初の国家計画をまとめるなど、京都議定書以降(ポスト京都)の枠組み作りに積極的に参加する意向を示している。ただ、先進国と同様の削減義務を負うことに反対する姿勢は崩していない。

 サミットに求められているのは、消極的態度を変化させてきている米中印など大量排出国の参加を確保しつつ、実効性のある温暖化対策に向け前進することだ。

 欧州連合(EU)は50年までに90年比で世界の排出量を半減させるという目標で一致している。サミットの議長国であるドイツのメルケル首相はサミットの共同宣言にも明確な数値目標を盛り込みたい意向を示していたが、米国の反発が予想される。

 その点、日本の安倍晋三首相が提案する「世界の排出量を50年までに現状より半減させる」という目標は、あいまいさが残るだけに、米中の参加を促す点では効果があるかもしれない。

 ただし、具体性に欠ける提案で理念を示すだけでは、削減の実効性に疑問が残る。他国の理解を得ることも、ポスト京都の主導権を握ることもできない。サミットでは、どういう道筋で実際に削減に結びつけるかを、適切な場面で具体的に語る必要がある。それが来年の北海道洞爺湖サミットに向けた前進につながるはずだ。

 削減のための具体的な道筋をつけることは、国内対策でも欠かせない。今週まとまった環境白書は省エネをはじめとする環境関連技術の重要性を説いているが、技術を広げていくためには具体的な政策がいる。ポスト京都の主導権を握るには、京都議定書の約束を守る意気込みも不可欠だ。


公務員改革法案 今国会成立に全力あげよ (産経新聞)
 天下り規制の強化策などを柱とする公務員制度改革関連法案が衆院内閣委員会で自民、公明両党などの賛成多数で可決された。きょうにも衆院本会議を通過し、11日には参院送付の見通しである。

 しかし、法案の今国会成立については、依然微妙だという。23日の会期末を控え、参院では十分な審議時間がないことを理由に野党が審議未了による廃案を目指しているほか、公務員の根強い抵抗などを背景に与党の一部にも成立に消極姿勢が見られるためだ。

 天下りによる官の不正行為は、緑資源機構など相次ぐ談合事件でも国民の厳しい指弾を浴びている。安倍晋三首相も、天下り規制の強化は喫緊の課題だとし、法案の成立を最優先課題のひとつに掲げてきた経緯がある。

 首相には、重ねて強い指導力を発揮し、ぜひとも今国会での成立を期してもらいたい。必要ならば、会期の延長も躊躇(ちゅうちょ)すべきではない。なにより現内閣で公務員制度改革に明確な道筋をつける覚悟が必要である。

 法案では、平成20年中に国家公務員の再就職斡旋(あっせん)を一元化する「官民人材交流センター」(新人材バンク)が内閣府に設置され、その後3年以内に省庁ごとの斡旋は全面的に禁止されることになっている。

 現職職員の求職活動はもちろん、OBが出身官庁に契約や処分などで就職先に有利となるよう口利きする行為も禁止される。違反行為には内閣府に新設する「再就職監視委員会」が目を光らせ、違反者には最高3年の懲役刑を含む厳しい処罰が科せられる。

 自民党内には当初、参院に送付して廃案となるより、衆院段階で継続審議の手続きを取るべきだとする意見が根強かった。与党が法案成立を強行すれば、国会の混乱から野党を利する結果となり、参院選にも影響しかねないと恐れてのことのようである。

 しかし、今回の法案は、天下り規制をはじめとする公務員制度の抜本改革に向けた第一歩となるべきものだ。ここに来ての審議未了は、改革に対する国会そのものの意欲後退と国民の目には映らざるをえない。

 廃案は参院選に大きな影響をもたらすというのであれば、それは与党だけでなく、野党にとっても大きな痛手となるのではなかろうか。


予算編成 債務圧縮へ財政の規律を (産経新聞)
 財政制度等審議会の来年度予算編成に向けた建議(意見書)が、国の債務残高を国内総生産(GDP)比で圧縮する必要性を強く打ち出した。税の自然増収による歳出・歳入一体改革の緩みを戒めると同時に、財政再建本来のあり方を示したものといえる。

 日本の財政は国債残高がGDPを上回り、地方を合わせた債務残高もGDP比148%と先進国で突出して悪化している。高齢化の急進展による歳出圧力を考えると、財政は間違いなく破綻(はたん)に向かうとみてよいだろう。

 昨年の「骨太方針」は2011年度の基礎的財政収支黒字化を目指し、歳出面では相応の削減策を示したが、増税が伴う歳入面は具体論を避けた。債務残高GDP比の引き下げも2010年代半ばからとするにとどまった。

 先に示された今年の骨太方針の素案もその表現の域を出ず、焦点である税制抜本改革の議論も秋以降に先送りしたままだ。それどころか、公共事業の具体的削減幅の見送りや地方対策で参院選を意識して緩みが出ている。

 建議はこうした緩みに警鐘を鳴らし、それを防ぐ手法の一つとして長期財政推計の導入を求めている。これは高齢化など人口動態予測を基に50年以上先まで推計するもので、ほとんどの主要先進国が実施している。

 とりわけ、欧州連合(EU)は長期的財政安定のための収支改善幅と改革先送りコストを推計、英国ではこれに中期目標をからませて強い財政規律を働かせている。日本も早急にこうした手法の導入を検討すべきだろう。

 建議は各歳出分野についても昨年の骨太方針の実行を強く求めているが、注目したいのは地方の税収格差問題だ。格差是正は従来のように地方交付税で国に頼るのではなく、ドイツなどを参考にあくまで自治体間の水平的な財政調整で行うべきだとしている。

 すでに地方の基礎的財政収支は黒字化しているし、東京など大都市に大幅な財政余剰が生じていることを考えれば当然だ。これ以上、国の財政を棄損しては取り返しがつかなくなる。

 たとえ、基礎的財政収支で政府目標が達成されても、高齢化が財政を再悪化させるのは確実だ。近くまとまる骨太方針では、財政規律を回復し債務残高圧縮に筋道をつけてほしい。